第十話
次の日、ぼくは約束通り昼ご飯のあとでおばあちゃんの家に行った。
「おばあちゃ……みやさーん。来たよー。おじゃましまーす」
「はい、いらっしゃい。じゃあ、さっそくだけど始めようかね」
おばあちゃんの言葉に促されて台所に入ると、食卓の上には湯呑がひとつ置いてあった。
中を見ると赤いちいさな粒が十個くらい入っていた。
「この赤いのがクコの実なの?」
「そうよ。実を熱湯にいれてふやけたら飲み頃らしいけど。飲むならまだしも中につけるからね,熱すぎても悪いから先に作っておいたのよ」
「ありがとう。じゃあ、入れてみるね」
そうして僕はポケットに入れていた玉を取りだした。
「天狗さん?今からクコの実のお茶の中にいれるよ。もしも熱かったら教えてね」
【そうか。世話をかけるの】
それを聞いて、ぼくは玉を湯呑の中にそっと入れた。
「どのくらい入れていたらいいのかな?」
「さあねえ。さすがにそういう情報は見つけられなかったからわからないけれど……まずは三十分くらいで様子をみてみようか」
「わかった。じゃあ、待ってる間本を読んでてもいい?」
「いいわよ」
「わぁい。あ、そうだ。あのね、ぼくの友だちのお母さんなんだけど、天然石とかアロマとかが趣味なんだって。だから今度浄化?に使えるものを聞いておいてくれるって」
「へえ、そうなの。それは心強いわ。というかお友達に玉とか天狗の話したの?」
「うん。遊んでるときに見つけたものだったから、玉のことはみんな知ってたもん。天狗さんの話をしても驚かなかったし。むしろ手助けするってノリノリになってる」
「それは頼もしいわ。さて、待ってる間少し片づけでもしてこようかな。悠斗は読書タイムね」
そう言っておばあちゃんはキッチンタイマーを三十分にセットしてキッチンから出て行った。
ぼくはおばあちゃんの本棚から雑学本を取りだして、リビングのソファに座って読むことにした。
動物の生態について書いてある本。
ひとつの動物につき見開き一ページだから読みやすいんだ。
ピピ……ピピ……ピピ……
アラームが鳴ったので、ぼくは本を置いてキッチンに行った。
おばあちゃんはもう戻っていて、食卓の椅子に座っていた。
「どうだろう?効果はあったのかな?」
「さあねえ。とりあえず取りだして水気をふいてあげたら?」と言ってキッチンペーパーを渡してくれた。
ぼくは湯呑の中から玉を取りだして、そっと水気をふいた。
「天狗さん、気分はどう?」
【ふむ。入る前に比べると、いくぶんか精気が戻ったような気はするが】
「そうなんだ。おばあちゃん、あのね天狗さん、お茶に入る前よりはせいきがもどった気がするって言ってる」
「そうなの。滋養強壮によいというのもまんざらうそじゃなかったのね」
「じようきょうそうって?」
「さすがの悠斗もまだ知らないかな。滋養強壮剤の滋養は、食べ物とかから取った栄養素を体に必要な栄養に変え、その栄養を体の全身に届けることでね、強壮とはその結果、体の弱っているところを強くする働きのことよ」
おばあちゃんが説明してくれた。
「ただ、いわゆる特効薬ではないから、今日いちにちですぐ効くということはないの。毎日毎日続けることが大事よ」
「毎日か。さすがに毎日おばあちゃんちに通うと、ママが変に思うよね。どうしよう」
「うちに来なくても、悠斗が自分の家でやったらいいんじゃない?湯のみくらいあるでしょう。クコの実は私が買っておいてあげるわ」
「湯のみはあるけど。でも、ぼくにできるかな?」
「できるかな?じゃなくて、やるの。天狗さんの手助けするって決めたんでしょう?」
そう。
助けてあげたいって思った。
みんなとも一緒に助けようって約束してるし。
「うん。がんばってみる」
「その調子。やりかたは簡単だから。湯のみに、この実を五個か六個いれてお湯を入れるの。熱いから用心しなさいよ。ああ、小さめのマグカップだったら持ち手がついてて熱くないかもね。そしてしばらくおいて触れるくらいの温度まで下がったら今日みたいにつけてあげるの」
「つけたあとのお湯はどうするの?ママに何か言われないかな?」
「そうねえ。気づかれないうちににカップを洗って片づけるか、私とやった実験を続けてるとでも言っておきなさい。ふつうだったらお茶として飲めるものだけど、浄化に使ったものだからね、飲まない方がいいと思うわ」
「うん、わかった。ありがとう」
それからの数日、ぼくはおばあちゃんに言われたとおり、毎日学校から帰ったらまずクコ茶を作り、ある程度冷めたら玉をひたすという作業を続けた。
最初はママも『何してるの?』と聞いてきたけど『おばあちゃんとやった実験を続けてる』って言ったら、それからはなにも言わなくなった。
クコ茶にひたしたあと天狗さんに話しかけると、どうやら少しずつだけど精が戻ってきている感じがすると言ってくれた。
どのくらい戻ってるかはわからないけれど、なんだかぼくも嬉しくなった。
それでも、まだ玉そのものが少しだけくすんでいる感じは残っていて、天狗さんもまだすっきりしていないって言ってて。
そのくすみが取れてしまったら、もっと力が戻るのかな?なんて考えたりもした。
そして週末の金曜日。
学校に行ったら隆之介が話しかけてきた。
「悠斗、おはよ。アレあのあとどうなってる?」
「おはよ、隆。アレは、おばあちゃんに教わったことを続けてるけど」
別に決めたわけではないけれど、玉のことはなんとなくぼくたち四人だけの秘密みたいになっていたから、学校ではその話はしていなかったんだけど……それなのにわざわざ聞くってことは。
「あ、もしかして」
「うん。昨日かあさんが出張から帰ってきたから、聞いてみたんだ。そしたら『じゃあ、試してみたら?』って教えてくれたことがあるんだ。今日、学校が終わってから渡したいんだけど、いっしょにウチに来てくれるかな」




