第一話
あの日、ぼくは友だちとかくれんぼをしていた。
それも、普通のかくれんぼじゃないかくれんぼ。
普通のかくれんぼは、じゃんけんで負けたやつがおにになって十だったり、百だったり数える。
その間に、みんなはてんでバラバラに隠れる。
数え終わったおには『もういいかい?』と声をかけて、隠れたみんなが『もういいよ』とこたえる。
この声がゲームスタートの合図で、隠れている全員が見つかったらそこでゲームは終わり。
次のおにを決めるじゃんけんをして、帰らなきゃならない時間が来るまで遊び続けるんだ。
でも、ぼくたちのかくれんぼはちょっと違う。
じゃんけんと隠れるまでにゆっくり十かぞえるのは一緒だけど、おにになるのは一番勝った人。
そしておにがかくれて、他のみんなでさがすのがルールなんだ。
だけど、すっごく見つかりにくいところに隠れたらずっと見つからないから、ゲームは終わらない。
それはそれでつまらないから、おに以外の誰かひとりがタイマーを持って、三分間隠れ通したらおにの勝ちとしてゲーム終了。
次のゲームでも隠れる権利を獲得というやつ。
ただし、おにが勝った回に使った隠れ場所は、その日は使用禁止。
あと、アラームが聞こえる範囲内にしか隠れてはいけないというルールもある。
だからおにとして隠れ通すのは、けっこう大変なんだ。
だって、そうでしょう?
一対一なら隠れられても、探す人が五人とかになったらあっという間に探されてしまう。
このルールになったのは、前にふつうのかくれんぼしてた時に、じゃんけん弱い子がずっとおにのまんまで、おまけにみんなを探しきれなくて。
とうとう泣き出して、先生に「いじわるされた」って言いつけたからなんだ。
ぼくたちだって、その子がおにのときはできるだけ見つけやすいところにかくれるんだよ?
見えやすいようにかくれてても、前を素通りしちゃうんだから、やってられないよ。
そこで考えたのが、このルール。
みんなで探すから、その子が見つけられなくても誰かが見つけるし。
見つかりやすいのがあたりまえだから、あっという間に見つかっても『仕方ないや』で終わっちゃう。
いつの間にかぼくたちの間では、これが当たり前のかくれんぼになった。
いちばん最初はシンプルに“おにさがし”って言って“かくれんぼ”とは区別して遊んでたんだけど、いつの間にか“かくれんぼ”といえばこっちを指すようになったんだ。
そして、あの日。
久しぶりにおにになれたぼくは、前から気になっていた隠れ場所に隠れた。
運よく誰にも見つからずにアラーム音が聞こえたから『やっりぃ!ぼくの勝ち!』と言いながら隠れ場所を出ようとした時に、キラッと光るものが目の端に入ったんだ。
目の端に入った光るもの。
ちょっと気になったけど、とりあえずは外に出た。
アラーム聞こえたらすぐに出て行かないとずるしたって言われるからね。
「やったね、今回はぼくの勝ち」
「すげえな。悠斗いったいどこに隠れてたんだよ?あっちのほうから出てきたよな?」そういってぼくのうしろを指さした。
「そうだよ。あそこの滑り台のとこ」
ぼくはかくれていた遊具を答えた。
「え~?おれ、あそこも探したんだぜ?」
「あそこね、ぼくくらい小さかったら隠れられるとこがあるんだよ。今度見てみてよ。あ、でも蓮みたいに大きかったら入れないかも」
「うるせ!ちび|悠斗。ま、いいけどさ」
「すげえな。悠斗の勝ちか~」
「ひさしぶりじゃない?勝ちが出たの」
そう言いながら智生と隆之介が近寄ってきた。
「うん。めちゃくちゃ久しぶりに勝てた感じ」ぼくは答えた。
「どうする?もう一回やる?」蓮が言った。
「やろうぜ」
「もちろん」
智生と隆之介も同意する。
もちろんぼくもやる気満々。
「うん、やろう!でも、その前にちょっと待っててくれる?」
「どうしたの?」隆之介が聞いてきた。
「さっきさ、隠れてたとこから出ようとしたら、何か光るものが見えたんだ。今日はもうあそこかくれられないから、なにがあるのか見てこようと思って」
「あ、じゃあおれたちも一緒に行くよ。隠れてた場所も見たいし」と蓮が言った。
ぼくたちは滑り台の前に集まった。
金属製のそれではない、背の高さよりずっと高いすりばちをひっくりかえしたような形で、すべる部分が一ヶ所と反対側に一ヶ所の合計二ヶ所、そして階段が一か所。
すべる部分以外のところは半円分は丸っこい石がいっぱいうめ込んであって、手と足をつかってよじのぼれるようになっている。
階段がある半円分は打ちっぱなしのコンクリートのまま。
地面に接しているところには穴があって、すべる部分と交差するようにトンネルが作ってあった。
そのトンネルは、てっぺんにあいてる穴と鉄のはしごで行き来ができるようになっている、そんな遊具だった。
「じゃあ、取ってくる」
そういってぼくはトンネルをよつんばいになって進み、まんなかからてっぺんにむかうはしごをのぼった。
そうして隠れてた場所にはいった。
(えっと、たしかアラーム聞こえて出ようとしたときだから。あ、あった)
光るものは隠れてた穴の入口近くに落ちていた。
いつからあったのかは知らないけれど。
何かはわからないまま、ぼくは丸い形をしたそれを拾って、ズボンのお尻のポケットに押し込んだ。
「おーい悠斗。見つかったか?」
「あったよ蓮。今から出て行く」
「って、お前、どこに隠れてるんだよ?トンネルは智生と隆りゅうが見てて、おれがてっぺんの穴からのぞいてるんだけど、お前どこにいるんだよ?」
「ここだけど」ぼくはひょいと顔を出してあげた。
「うわあ」連は大声を出した。
相当びっくりしたらしい。