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スライムになった私が拾った体を使って好きに生きる話  作者: あやちん
<四章> Crossworld ―『異』世界からの帰還―

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〘八十七話〙ドナドナミーアの警察視点

 連絡が取れない社員の家に行ったが、不審な点が多く、確認してもらえないかと通報があったのが三日前。

 最寄りの交番から警官が確認に行ったところで問題が明るみに出ることとなった。


 問題となったのは郊外の少し寂れた地域にある一戸建てに一人で住む、『香住風太(かすみふうた)』という男についてだ。

 その男は三日ほど会社を無断欠勤しており、電話をかけても出ないことから会社の総務の人間が自宅まで確認に行く話となったそうだ。翌日になってもやはり出社しないことから、実際に訪れることとなり、インターフォンを鳴らすも返事はなし。念のためドアの施錠を確認したところ鍵がかかっておらず、それならば直接声をかけようと玄関に足を踏み入れたところでかすかな異臭に気づき、怖くなった訪問者が交番へ連絡したというのがきっかけである。


 通報を受け交番の巡査が現地へと(おもむ)き、最悪の事態を(なか)ば想定しつつ室内に入ったものの、予想外なことに主である香住氏の姿は確認出来なかった。

 

 ただし、その痕跡は氏が就寝の際に使っていたと思われる布団に色濃く残っていた。


 不快感をいやでも催す人型をした痕跡として。


 異臭の発生源はもちろんその人型の痕跡であり、事件性があるとしてすぐさま俺たちの部署へと話が回ってきて、俺が現場に行くことになったわけだ。

 その臭いは仕事柄、幾度となく経験したことがあるものだが、俺だって本当ならそんな事態は御免こうむりたい。だがそうも言ってられないのがこの商売。仕方ないとはいえ因果なものである。


 まぁ今回の場合、なぜか仏さんが存在していないおかげで鼻が曲がるような強烈な臭いではないので、その点では助かっている。


 捜査は他殺、自殺などいくつもの推測を基に進められることとなるが、一般人の捜査ということもあり数ある事件の一つとして粛々と進められることになるはずだった。



 だが一日経ったところで、さっそく進展があった。


 そこにあったはずの遺体がない。それは事件の可能性を疑うとても大きな不審点だったわけだが、不審なことが他にも出てきたのだ。

 すでに死んでいたはずの害者の口座から預金が引き出され、クレジットカードからもキャッシングにより現金が引き出されていたのだ。通報日の前日のことだったが、幸いなことに防犯カメラにその様子はきっちりと収められており、通常なら事件解決の一助になるのは間違いないわけなのだが、その映っていた存在が少々というかかなり問題だった。


 映っていたのは年端もいかぬ少女。

 いや少女というのもはばかられるぐらい小さな女の子だったのだから。


 年の頃はどう見ても十歳にも満たないように見えた。

 ATMの画面をなんとか覗き込みながら使う女の子の姿は小学生の低学年にしか見えず、身長も百三十センチあるかどうかというところだろう。


 容姿も特徴的だ。


 一番目を引くのが髪の毛で、淡い紫色をした長い髪を無造作に腰元まで垂らしている。こんな色の髪なんて見たことないぞ。これは脱色なり、染めたりしているのか、はたまたカツラでもかぶっているのだろうか?

 顔つきは日本人っぽくはなく、小さいながら北欧系かと思えるほど整っていて目の色はカメラではよくわからないが赤っぽく見えるがちょっとわからんな。


 着ていた服もあまり見ないもので、ヨーロッパとかの民族衣装を彷彿(ほうふつ)とさせる、古びた若草色のワンピースを着ていて、履いていた靴もかなり年季の入ったくるぶしより少し上ほどの編み上げブーツで、小さな女の子が履くにしてはかなり野暮ったく、実用本位で可愛さのかけらもないものだった。


 総じて言えばとても可愛らしい女の子であり、そのATMがあった店舗でも愛らしい姿をしたその女児はかなり目を引いていたらしく、多数の目撃証言を得ることが出来た。小さな女の子が一人で出歩いている姿に心配した人も多く、証言の中で、女の子の左足が義足であることを気に掛ける声も数多くあった。


 この子供はいったい何者なのか?


 暗証番号を何も見ず間違うこともなく入力し、普通に引き出していることから、香住(かすみ)氏の娘や(めい)という線が一番に浮かんでくるが、家族や親類縁者が居ないということは既に確認済であり、したがってこの女児の正体は不明なままだ。

 近辺にこれくらいの女の子の捜索願いが出ていることもなく、行方不明者のリストの中にもそれらしき女児は上がってこない。


 その女の子が犯行当事者という線も、考えたくはないものの、無くはない。

 が、遺体をどこにやったのだということや、そもそもびくびくしたり、こそこそした様子も全くなく、ごく普通に歩き回っているあたり、何ともちぐはぐで混乱してしまう。


 しかもそんな女児の足取りは店舗を出てすぐ、突如として消えてしまった。あれほど人目を引いていた女児であるにもかかわらずだ。

 その中で唯一目撃証言を得られたのは同じ日の午後で、害者の家からも、例の店舗からもそれほど離れていない公園でのみ。聞き込みをしていた部下はその足で確認に出向いたが当然のごとく、その足跡はつかめなかった。


 お手上げである。


 三日ほど経ち、この先どう捜査を進めるかと頭を悩ませていたところで、あっさりとその悩みが解決される報告が上がってきた。


 (くだん)の女児を発見したというのだ。


「ネットカフェに引き(こも)っているだぁ?」


 なんだそれは!

 そのネットカフェの経営者なり店長は何を考えている?


 俺はその報告を聞いて女児のことよりも、まずはそんな女児を寝泊まりさせるネットカフェに憤りを感じてしまった。


「警部のお怒りはごもっともですが、どうやら店側も認識していなかったようでして……、ちょっと話を聞いた店長さんも混乱している様子でして」


 部下の報告を聞いてもいまいち要領を得ない。

 百聞は一見にしかず。ここは行動あるのみだ。


「みんな、早速現場に行くぞ。子供とはいえ窃盗容疑及び、香住氏行方不明、遺体隠蔽(いんぺい)に関する重要参考人でもある。気を抜くなよ!」


『了解!』


 俺の号令に対する部下たちの威勢のいい返事に満足しつつ、準備を整えネットカフェへと出向くこととなったのだった。



***



「知らない間に部屋にいたんです。ほんとです、嘘は言っていません!」


 俺たちはネットカフェに到着後、まずは話を聞くべく若い雇われ店長のいる部屋へと向かったわけだが、聞いた話は予想以上に不可解だった。


 使用する際に必要な会員登録されておらず、当然本人確認も無しだ。そもそもここを利用できるのは成人あるいは学生であり、児童は保護者同伴でなければ入店すらできない。学生にしても夜間の利用は出来ないとのことで、にもかかわらず問題の女児は部屋に居座っていたのだという。


 気付かない間に部屋に居た、会員登録出来るはずもない小さな子供。


 更に不思議なことに、個室の使用者名簿は三日前から空欄のままであり、しかも人気店であるこの店舗の個室が三日も空いたままなど通常では考えられないことだと言う。


 なぜ三日の間、そのことに誰も気付かず、店の中を歩き回っても誰も注意することなく済んでいたのか。


 なぜ今日になってその存在が明らかになったのか?


 店長はそれが少し怖く思えたため、いきなり小さな子供に問いただすことはせず警察に一報を入れたというのがここに至った経緯らしい。


 まぁ、泣きわめかれたり、駄々をこねられたり、急に親が出てきて子供を監禁されたとか騒ぎ出すなど……問題を起こされるのが嫌だったというのもあるんだろうがな。


 ともかくだ。


 店のところどころにある監視カメラのモニターを(のぞ)けば、店の施設である書棚やドリンクバーを利用しに来る客がひっきりなしに行き来している。そんなところに幼い女の子、しかもあのとびきりの容姿をした女児が紛れ込んでいるとなればすぐ話題になるだろうことは容易に想像がつく。


 にもかかわらずそれに誰も気付かずにいた。


「うーん、確かに不可解だ。害者が未だに見つけられないことといい……、あの女児には不可解なことが多すぎる」


 俺は余りのわけのわからなさに頭が痛くなってくる。


「どうしますか?」


 対象が女児ということもあり、同行してもらった女性の部下である茅野(かやの)が問いかけてきた。


 うん、ここでこうやって考えていても(らち)もないことだな。


「確保だ。女児には酷だが暴れられないよう拘束し、速やかに署に戻ることとする。それと外に出る時は周囲の目に注意しろ。年端もいかぬ女児だ、厄介ごとはごめんだからな。細かい話は戻ってからだ、行くぞ!」



 


 それからの流れは滞りなく進んだと言っていいだろう。

 女児が泣きわめくようなことも全くなく、色々騒ぎ暴れられることを想定していた俺たちは女児のその大人しさに拍子抜けしてしまったほどだ。


 拘束衣を着せるまでもなかったなとも思ったが、それは結果論。

 用心は絶対に必要なことだ。


 車から連れ出すときに歩けるかと聞いた時も素直に返事を返してきたことから、幼いながらもこちらの言葉をきっちり理解する分別もあるようだった。


 だから俺もつい、重要参考人ではあるが小学三年生である俺の娘よりもなお小さい、取調室のパイプ椅子に座っている小さくて可愛らしい女の子につい問いかけてしまった。


「何か食うか?」


 と。


 それに返ってきた返事があれだ。

 あんなネタを外国人風の小さな女の子が知ってるものなのか? 偶然か?

 俺と茅野は思わず顔を見合わせ苦笑するしかなかった。


 未だ事件の全容は(よう)として知れないが、この子の将来が悪いものにならなければよいなと思うくらいには、無邪気な様子で出前でとったかつ丼を食べる姿を俺たちに見せていたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 令状もなくいきなり拘束って…って思ったけど、 一応ネットカフェ不法占拠の現行犯か
[一言] そういえば出前のカツ丼、今ならUber Eatsかもしれない?
[気になる点] えっと。 ネタバレでした? 感想のまんまの展開過ぎてあせった [一言] それをカツ丼食べながら読んでる
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