〘四話〙樹海は危険がいっぱい
あのばかでっかい食虫植物に食べられかけて、早十日ほどがすぎ。
はい、私スライム娘はいまだに全裸。相も変わらずまっぱだか。
当然靴すら履いておりません。
羞恥心?
そんなものはスライムにはありませんから。
元日本人? いや、いつの話です? それ。
そもそもここ、人間いません! 見られて困ることなどなーんにもない!
あしからず。
なんて強がり言ってはみたものの。そもそも服がないんですよね、服が。着たくとも!
ま、まぁ服のことは置いておくとしてです。
人はいったいどこにいるのでしょうね?
私のこの体はいったいどこから連れてこられたのやら……です。
別に是が非でも人に会いたいと言うわけでもないのですが、せっかく陸に上がったのだし! やっぱね、興味があることは否定できません!
そんなことを考えながら、小さい女の子のリーチのない足で鬱蒼とした樹海の中をてくてく、ぽちぽち歩く。よくもまぁ全裸のままうろつけるものだとつくづく思うけれど。さてどうしたものでしょう?
一時の浮かれ気分はとっくに醒め、何をすればいいのかなんて皆目見当もつかない。もと日本人、ただの電化製品設計者の生活力の無さをなめんなと言いたい。
正直、道具一つすらない私にやれることなんてこれっぽっちもない。
まぁぶっちゃけ、生きていくだけなら体からスライム体をみょ~んと出し、樹海にいるたくさんの生き物たちから栄養を分けてもらえばいいだけです。スライム体はこの体のどこからだって出せるから超便利。
がばっと包んでちゅるりといただき。とても簡単な作業。
なんでも頂いちゃうよ。
ああでも、気持ち悪いのは除く。む、スライム娘は気持ち悪くなんかないんだからね!
けれどこんなお食事方法、ぜんぜん人間らしくないね。
スライム癖、全く抜けないね。
ところで無意識に栄養とか言って頂いているけど、それっていったい何なのだろうね?
スライムとして当然のように行なっていた行為だけど……、人の体で動くようになったら何気に疑問に思えてきました。
いつか普通の食べ物も食べてみたい……、ふっくらお米のご飯が懐かしい。
などと考えながらぶらぶらしていた矢先、体にがつんと衝撃を受け、そのまま横を向いたかと思えば風になった私。
ああ、またです。
すっごい勢いで樹海の中を滑空するかのように移動させられてる私。幼女、見た目推定八歳くらい。淡い紫色した長い髪が、無茶苦茶な移動でばっさばっさ振り乱されてる女の子。
ああ、あたま揺らされてガクガクするわ~。
樹海を歩くようになってからときたま起きる出来事。
はい、襲われてます、樹海の獣たちに。
……いい加減、どうにかしたいね。
大きな獣。
そいつに銜えられて走りまくられてますね。それでおなか周りから痛み的反応が返ってくるわけですね、納得。
横目でそんなひどいことを現在進行形でやってくれてる奴をにらみつける。
こいつらってやっぱ哺乳類、なんでしょうかね?
湖ではまったく見かけなかった種類だけど、樹海には大小かかわらず、やたらめったらいる。
今、私をさらってくれたのは大きな虎のような姿をしています。しかもこいつは額から長く立派な角を生やし、鋭い歯がずらりと並ぶ大きな口からもまた長い牙が覗いてまして、地球にいた虎より一回り、いや二回りくらいは大きそうな、見るからにやばげな銀色虎。
よし、ラージホーンシルバータイガーと名付けよう!
ま、名前はともかく何とかしないと食べられてしまいます。
「は~な~せ~」
叫んでみた。
気にせず走ってる銀虎。いやラージホーンシルバータイガー。
無視されました。
うーん、仕方ないですね。
銜えられ、絶賛所在なげにプラプラしてる手からにゅるんと出す。あれを。
そして一気にがばりとラージホーンシル……、くそ長いわ、めんどくさい。
銀虎の顔を覆いつくしてやり、更には目から鼻から耳から、そこらじゅうの穴という穴から銀虎の中に一気に浸透させていく。
必殺スライム浸け!
さすがに驚いたのか、走っていた足をとめ、顔にへばりついた異物を前足で必死に剥がそうともがいてます。邪魔な私はぺいとばかりに地べたに放り出されました。
「ふぐぇ」
胸から落ちて変な声が出る。くっそ虎。もっと優しく離せー!
勢いよく放り出されたため、銀虎の中に浸透させたスライム体と切り離されてしまいました。こんなことはスライムとして生まれ変わって長いけど、なにげに初めて!
ここは遠隔操作でひとつ!
むむむぅ……。
――無理でしたっ。
ここまで完全に離されてしまってはどうあがいても連携が取れません。いいとこまでいったのに。
また減った分頑張って増殖しなきゃです。
相変わらず顔をぺしぺしやってる、今となってはお間抜けな銀虎に向かう。切り離されたスライム体はそのうち死滅しちゃうだろうけどまだ頑張ってくれている。君たちの死は無駄にしないよ!
「とりゃ!」
ガウガウ暴れてて近寄りづらいけど、スライム浸透強化の動体視力と身体能力で無難に近づいて、ガタイに似合わず意外と可愛らしい耳の後ろ辺りにがつんと一撃を入れる。相手が大きいので飛び上がっての打撃です。普通なら力があまり入らない体勢。
でもしっかりと脳に衝撃を与えられたようで、びくりとその巨体を震わせたかと思うと、そのまま力が抜けるように地に伏しました。
落ち着いて見れば銀色の体がとても美しい銀虎、ラージホーンシルバータイガー。ちょっと罪悪感。
いいえ、ここは気にしてはだめです。
「――うむうむ。今までで一番のすばらしい獲物。これはいっぱい栄養もらえそうです。こんな立派な角が生えてるのも初めてだし。これが馬ならユニコーンですね」
普通にラージホーンシルバータイガーの寸評などしている私ですが、脇から下腹部にかけて銜えられた跡も生々しく、更にはそこからダラダラ血を流しているわけで。
にもかかわらず、私はそんなことを全く気にすることもないのです。
そういうとこだよ私。まだまだ人としてだめだめの、にわか人間です。
こうして獲物を見ているまた先ほどの思いがぶり返します。
やっぱり栄養を吸収するだけでなく、お肉とか普通に食べてみたいのです。日本で生きてきた、ごく普通の人として。食は生きる上での一番の楽しみだと思うのです、私は!
けれど、火も、道具も、お皿も、お箸も……、ここには何にもありはしないのです。
生で?
いや、それはちょっと……。
ああっ、文明的生活がしたい!(願望)




