〘二十三話〙ミーア、ちょっとやばい打開策を実行してしまう
「スヴェン隊長、やっぱりあの扱いはあんまりです。いつになったら出してもらえるんですか?」
アンヌがあの幼子の扱いに何度目かの抗議に訪れた。
「繰り返しになるがアンヌ。あれはどう見ても人ではあり得ぬ。呼吸もせず、心臓も動いていない。であるのに腐りもせず、それどころか負傷箇所が治ってきている。ある意味アンデッドにも似た特質を持つ怪しげな存在を、今まで同様の扱いにしておく訳にはいかぬ。少なくとも無害であると確証が得られるまでは隔離室に放り込んでおくのが妥当だ」
あの隔離室は中級魔法士レベルの魔法攻撃ならば無効にできるほどの封魔結界を張らせているし、土魔法士のマッドウォールジェネレートを使わねば出入りすら出来ない。
だがそうは言っても、あの詰め所で放ってみせた魔法を使われれば、その結界も破り得るので更に手を打ってある。
幼子の胸には魔力制御と集中を妨害する制魔陣を直接刻み込んである。あくまで暫定的な処置だが、あれ一つで上級一位の魔法士でさえ基礎四元魔法を使うのが精一杯となる。
「そんな、ミーアちゃん……、まだあんなに小さい子なのに」
まだ納得せぬか。
まったく……、聞き分けのない。
「しばらく面倒を見ていたのだから情が移ってしまったのだろうが、妥協はできない。今更あれを野放しにしておくことはあまりに危険。あきらめろ」
執務机の前に陣取り、中々立ち去ろうとしないアンヌに出ていけと手を振る。
それでも出ていこうとしないアンヌであったが、俺の横で控えていたヨアンもさすがに見かねたのだろう、半ば無理やり送り出すことでようやく静かになった。
「やれやれ……」
ここのところ頭の痛い問題ばかり続く。
壊滅したソルヴェ村の廃村処理。新たな監視砦の建設推進。ソルヴェ村のみならず、昨今増えてきたワイバーンなど大型魔獣の襲来……。
「止めがアンデッド幼女ときた」
あの幼子がまさに死んだように眠り、目覚めぬまま三日目を迎えた。
あそこに置いたままでは埒が明かぬため、監視砦に連れてきてそのまま隔離室に放り込んだわけだが、こう何度も押しかけられてはおちおち執務も出来ん。
ひとまず領都よりアンデッドに詳しい魔法士をよこしてもらうとしよう。
今後の処置はその魔法士の意見を踏まえたうえでのことになる。それまではいかにアンヌの願いとて、叶えるわけにはいかぬ。
「アンデッド……なのだろうか? 青白い肌をしているとはいえ、肌艶はよい。見目も悪くはなく、一見するとアンデッドにはとても見えないが……しかし。ああ、わからん! もう俺は知らん。あとは領都で能書きを垂れることが得意な奴らに丸投げさせてもら……、っと、な、なんだ?」
突如、ズズンと腹の底に響くかのような、重苦しい衝撃と音が伝わってきた。
それに続き、地震と言ってもおかしくない激しい揺れが執務室を襲い、不気味な軋み音と共に砂礫がパラパラと落ちてくる。おいおい、堅牢な石造りの監視砦がこれほど揺さぶられるなど……、いったい何が起こった?
いや、よい、わかっている。発生元など、考えるまでもない。
あの幼子の所に決まっている。
「今度はいったい何をした? ヨアンいるな? 付いてこい」
俺はヨアンを従え、衝撃の発生源へと急ぎ向かった。
***
うーん、まずはこの魔法陣じみた幾何学模様をどうにか消さないとだめですよねぇ。
相変わらずのパンイチのまま、私は胸にくっきりと刻まれている忌々しい幾何学模様を見下ろします。
先ほどから魔法を使ってみようとあれこれ色々やってみましたが、何というか魔力が集約できないのです。えっとですねぇ、魔法を行使するための魔力が集まらない、というか集めようとしても胸の模様から出るうざったいノイズに邪魔されて全然集められない感じなのです。
ただ、簡単な魔法、アンヌが桶に水を出してた程度のものならなんとかいけました。
きっと魔力を集める必要がほとんどない、最小限の魔力で行使可能な魔法なんでしょう。
とりあえずは助かります。
これでお尻とか洗えますからね。
あ、いや、もちろん美幼女ミーアちゃんはそれを必要とするような行為はしませんけどね!
今は。
ほ、ほんとですよ?
それにミーアボディは一日一回、スライムパックでばっちり美肌です!
お風呂いらずなのです。
ああ、でもお風呂も入りたい。懐かしいなぁ、日本のお風呂……。
ごほん。
話戻しましょうね。
繰り返しになるけど、幾何学模様の魔法陣もどきをどうやって消すか……なんだけど。
肌に描かれてるのなら新陳代謝をガンガン進めてやってはいかがでしょう?
っていうか言ってる間に、とっととやってみましょう。
ミーアボディに浸透しているスライム細胞さん、出番です。
表皮を次々入れ替えていくのです!
ほいほ~い。
うむうむ、肌をこするとぽろぽろといっぱいでます。
何が? と、疑問に感じてはダメです。乙女にそんなものは出ないのです。
『ミーアのないしょの粉』として売りに出せばマニアに売れるかもしれません。
…………。
消えないんですけれどっ!
ふざけてます。
どんだけ深いところまで刻まれてるんですか、コレ!
ちょっと疲れました。燃料不足です。
む~。
仕方ない。
なんか怖いし、生々しくてグロそうだからいやなんだけど……。
今からやることはとても言葉に出して言えません。
まともにやればす~っごく痛いだろうけど、それは任意でカット出来るので無問題ですね。
でも道具をどうしましょう?
えぐり取るのはさすがに素手ではしんどいですからね。
最小単位の魔力でスパッといける魔法なんてないのかしらん?
ぱっと思いつくのは日本のカマイタチみたいなやつ?
そう、私は恐ろしいことを考えておりますよ。
消せぬなら、削ぎ落としてくれようぞ~。
こわっ!
さて、ものは試しの風系魔法。
風で斬ると言えばやはりこれでしょう?
「カマイタチの鎌、風の斬撃、ウィンドスラッシュ!」
ぐぬぅ……。
少しとはいえ魔力を使うと、ちょっと……というか、かなり胸がざわついて気持ち悪いです。それと共に一瞬キィーンと耳鳴りがしたかと思うと、次の瞬間には胸元で軽くですが違和感を覚えました。
今まさに斬撃が胸のお肉をそぎ落としたのでしょう。
けれど痛みは感じません。
痛覚カットはばっちりのようです。
ちょっと離れたところにサヨナラしたブツが血まみれで転がってます。
み、見ないようにしましょう。
ちなみに魔法の詠唱? というか発動するための言葉ですけど。
こちらの方々、色々詠唱っぽいこと唱えてましたがわからなかったので、自分で適当に見繕って唱えました。その辺の文言は小説や漫画でたくさんネタはあるのでバッチリです。
よく言うじゃないですか、「詠唱なんて飾りです、厨二の人にはそれがわからんのです!」って。
え、言わない?
そうかもしれません。
結局、詠唱なんてものは魔法を系統だって使うための道具、使い方や効果を一元管理するためのツールでしかないと思います。(暴論)
要は私が何をどうしたいのかが肝要。
イメージです!
まじそれだけ。最初の魔法暴発でいやでも理解しました。
ともかくですね、今は幾何学の模様のやろうがどうなったかです。
ちょっと見るの怖いけど、覚悟を決めて見下ろします。
…………。
うなぁ!
血が、血が~!
お肉が、骨が~!
スライム細胞さん、ちょっ、ちょっと、新陳代謝がんばりましょうか!
でも、燃料不足でつらい。
仕方ないので体中からエネルギーを得るしかないです。せっかく健康的な体になってたのに、またやせ細ってしまいそうでつらい。
二時間ほどかけ、玉のような青白お肌になったミーアちゃんです。
問題の魔法陣的幾何学模様もきれいさっぱり無くなって、これでレセプタの魔力操作も大丈夫に違いないです!
お腹すきました、ごはん食べたい。
なのでとっととここから「ばっくれ」たいと思います。
脱ぎ捨てたままのワンピースもしっかり着こみましょう。
痴幼女は一部の人が喜ぶだけです。
で、テストかねて使う魔法はもちろん!
(今回はちゃんと力加減、注意しますから……)
「爆・烈・えくすぷろーーーーーじょん! みにみにっ」
閃光と轟音とともに、一点集中、集約された素晴らしい炎の柱が天井を貫きました。
前回を教訓にしっかり制御したおかげで、目も耳も無事です。よかった。
試運転、大成功!
「わぁお~」
ぶち抜いた天井を見上げれば、夕暮れ時なのか、茜色に染まった空がよーく見えます。
うん、冷たい石の壁や天井と違って心に染み入りますね。
開いた穴の縁から細かい瓦礫がぽろぽろ落ちてきてうざいです。
「これで外に出れますね!」
ということで、私はなんの未練も残さず、さっさとこの場から立ち去るのでした――――。
なんてことはなく。
「あんにゅ~!」
これからも続くはずだったアンヌとのイチャコラがもう出来ないと思うと、寂しくて、悲しくて、未練たっぷりの私なのでした。




