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〘二話〙拾った体は有効に活用しましょう

 いつものように湖を所在なくユラユラ(ただよ)っていた私。


 一時(いっとき)、あれほど夢中になっていた「生き物を乗っ取って動かしてみよう」遊びはもうやってません。


 飽きました。


 普通に動かせるようになったらですね、なってしまったらですね、なんというかね……、だからどうなの? って――。


 いやぁ、私も若かったです、うん。

 今いくつなのか、まったくもって謎なのですけれどね、あはは。




 そんなある日、水面を漂う私の上に影が落ちました。


 意識を向けてみればそこそこ大型の鳥か何かのようで影もそれなりの大きさです。ま、大きさの基準もよくわからないのですけどね。この辺りで見かける生き物の中で言えば大型。そういうことです。


 おおっ、もう一匹? きました。時折交差するような動きがありますね、何でしょう?


 ああ、争ってる感じですね。

 それに鳥というより竜?


 ちょっと爬虫類っぽい見た目。翼のあるトカゲといった(おもむき)の、いわゆるワイバーンとかいうやつでしょうかね?


 よく群れで見かけるんです、こいつら。

 ふっ、自分の知ってた知識で勝手に名付けました。ファンタジーだなぁ。


 でも、ま、生き物です。争うことだって当然あるでしょう。けれど、かと言って私の上でそういうことをしなくてもいいのになどと愚痴っていたところ、ちょうど私がのべぇっと広がり漂っているその場所に、すごく小さな物体が落っこちてきました!


 いや、その展開はちょっと読めなかったです。


 上空のやつらは落下物にはお構いなし。

 それ奪い合ってたんじゃないの? と思いもしましたけど。


 喧々(けんけん)しながら、時折口からなんか吹き出しながら、どこかへ移動していきました。


 ワイバーン、おつむからっぽですか?

 無責任な!



 いったい何が落ちてきたんでしょう?


 ど~れどれ。



 …………。



 むむっ!



 こ、


 こ、


 これ、は……、





 ひ、人だ~~!




 驚きました!

 びっくりしました!

 たまげました!


 大事なことなんで三度です!



 い、いたんですね、人――。

 とても感慨深いです。



 はっ。


 そんな思いに浸っている場合じゃないのでは?


 ずんずん沈んでいくそれに向かい、慌ててスライム体をぐい~んと伸ばし、くるりと包み込む。

 水中で包んだそれをじっくり観察してみます。


 むむ。


 ああ……、これはだめなやつです。――すでに死んでます。


 まだそんなに時間は経ってなさそうだけど、可哀そうなことに体中いたるところ傷だらけです。これはワイバーンの爪で傷つけられてしまった感じでしょうか。


 まだ年端もいかない子供に見えます。

 んー、男のあれがないし女の子かな?


 いやこの世界の人類のオス・メスの基準を知ってるわけじゃないですけれど、今までいじってきた生き物や、今包み込んでいるこの子の姿を思えばまず間違いないでしょう。


 いやほんと、私が知ってる人間そっくりそのままです!


 どうしてワイバーンに捕まったのかわからないけど、爪でズタボロになった衣服の上からでもわかる、やせ衰えた体を見るにあたり、生前あまりいいことは無かっただろうことは容易に想像できます。


 っていうかですよ、衣服を着てる時点でそれなりの文明や文化的なもの、ある感じですよね!


 どうして相当の長い時間、まったく見ることも無かったんでしょうかね?


 ああ、私が湖に引きこもってどこへも行こうとしなかったせいですね、すまない。


 ちなみに衣服はどこぞの民族衣装? みたいな(おもむき)で、ただの貫頭衣(かんとうい)ではなく、襟や袖がそれなりに仕立ててある様子が(うかが)えます。でもまぁボロには変わりないのですけれど。


 ま、どうでもいいですね。


 そんなことより私はいいことを思いつきました。


 この女の子の体。もらっちゃいましょう!


 ずーっと長い間、この湖に居たけれど、そろそろ(おか)の上に行ってみてもいいかなぁって気もしますし。


 もっと言えば、ぼけーっと漂っているとですね、時折湖から出なきゃいけないって、妙な強迫観念みたいな思いが湧き上がってくることがあるのですよね。


 私、病んでるのでしょうか? スライムなのに。


 なので、やっと見つけた人の体ってこともあるし。

 そもそも死んでるのだし、このままだと魚のエサになっちゃうだけだし。


 もったいないですよね!



 ということで!

 早速、勝手知ったる自分の特技。思う存分使ってみせてあげましょう!



 スライム体でボロボロになった女の子の体を包み込み、その小さな体のいたるところからジワリとジワリと浸透していきます。別に口や耳、他にも人に元々空いてる色んな穴とか関係ありません。

 スライム体である私からすれば表皮からで無問題なのです。人体なんて網の目の大きなザルみたいなもので、どこからだって侵入し放題なのですよ、ふふん。


 幸いこの湖はとても冷たいですから死んだ生き物もそう簡単には腐りませんし、のんびりやっても問題はありません。けれど、ま、腐ってきたとしてもなんとかしますけれどね。


 では生き物掌握(しょうあく)の始めの一歩。頭から行きましょう。

 人の体は初めてです。


 脳みその記憶ってどうなるんでしょうかね?


 今まで試した生き物は全然ダメ。記憶と感じられるものはひとっつも認識できませんでした。自分の人間的な何かのせいで認識できないのか。そもそも無理なのか。知りたいものです。


 結論。


 やっぱりダメ。


 この女の子の記憶はひとかけらも認識できなかったです。やはり死んでいてはダメなのでしょうか?


 それなら、生きていたならワンチャン行けるのでしょうか? やばいです、ちょっと確認したくなってきました。


 ――また実験できそうな人を見つけた暁にはぜひ試してみたい!



 記憶以外の掌握は順調に進みました。

 脳みそのあった場所はもう私で満タンです。


 使えない脳みそは私の一部へと変わり、その場所はスライム体(わたし)に置き換わりました。体を構成している細胞には、神経、血管のみならず、()()()()()()()()()も含め、すべてに私を浸透させ、完全掌握を目指しがんばりました。


 骨にまで浸透させるという徹底ぶりの私をほめて!


 ここまでしたのは初めてです。何しろこれから(おか)へと進出するための私の大切なホームです。


 頑張らざるを得ません!


 この体、小さいので私の主観で子供と言いましたが、この世界でだってきっと子供ですよね?

 成人のサイズ感が不明ですのでいったい何歳くらいとみるべきなのか確証が持てませんね。


 日本人的感覚だと七、八歳程度に見受けられます。

 実はこれで成人ってことないですよね? よね?


 さてさて、私のホームであるところの女の子の外見なんですが、ちょっとしたハプニングが。


 肌は色白、顔立ちは痩せてほほがこけてさえいなければ、きっと可愛らしい子に見えることでしょう。目は赤みがかった茶色。髪は伸び放題で背中まで伸びてるばっさばさな赤毛……だったのですが。ですが!


 あろうことか私、スライム体が浸透していくとともに変化してしまいました。


 髪の色は赤毛から人としてどうかと思える淡い紫色になり、目も髪と同じ系統で少し濃い紫色に変わってしまいました。

 ついでに肌も不健康そうな青白い肌になってしまい、なんかちょっと……、微妙です。


 スライム体質? あはは……。



 兎も角(ともかく)


 乗っ取り作戦は無事? 完了です。



 軽く体を動かしてみましょう!


 って、あれ、なんかおかしいな? と思えばまだ水中なのでした。自分に覆われてふよふよしていたので気付くのが遅れました。


 あ、そういえば息もしていません。人として息をしないようでは完璧とはいえません。これからは呼吸するようにしましょう。生命力はスライム体依存なのでそれに意味はありませんが。


 では体を動かすことに慣れるため、ここから泳いで岸まで行ってみましょう、そうしましょう。

 体を覆っていたスライム体を自らに吸収させれば、おのずと湖水が体に直接触れることに。


 つ、冷たい。


 完全掌握で感覚も再現してみたおかげで冷たいが理解できる! しゅごい。


 まぁ理解できるだけでそれでどうってこともないのですけれど。凍死なんてしないし、そもそも凍らないと思いますが。


 いや絶対零度とかに放り込まれたらさすがにどうなるかわかりませんけれども。

 言い出したらきりないね。


 考えてる間にもこのままだと沈んでいくのでさっさと泳ぎましょう。


 ふがふが。


 もごもご。


 がぼぉ!


 す、進まない。水ばっか吸い込んじゃう。


 失敗した。

 私、そういやまともに泳いだことないです。(元男時代含む!)


 いや、足の届くところでバシャバシャ行水やるぶんには大丈夫なんですけどね。うん、こんな行く先も見えない、ゴールのないところを延々泳ぐのなんて無理ゼッタイ。


 私は早々にギブアップし、スライム体を再びずるずる繰り出し、波乗りよろしく上に乗って陸を目指すことにした、した!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 新しい形而上生物発見! [一言] 乗っ取りのイメージは寄生獣的なもので妄想してます。
[一言] いざ陸へ!
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