〘一話〙気付いたら知らない湖に居たし、なんなら人じゃなかった
ハーメルンで投稿していたお話をなろうでも改稿して投稿していきます。
唐突で申し訳ないのですが、私は日本のごくごく普通、どこのご家庭にでもある、ありきたりな電化製品を作ってる会社で設計に携わる仕事をしていた特に目立つところもなかった中年サラリーマンでした。
ちょっとくどかったですかね。
で、何を自分語りなんかしてるかというとですね。
そのですね。
どうやら私。
人間やめちゃってるみたいなんです。
深夜近くに会社から帰ってきて、コンビニで買った弁当を食べ、シャワーをさっと浴び、日課のスマホゲーのデイリーなんかをこなしつつ、いつも見てる動画サイトを流し見て、いつものように気を失うように眠ったまでは記憶にあるのですが……。
ふと気が付いたらこうなってました。
なんか、びろろ~~んとどこまでも広がっていけるような……、けれど、あまり広がったらそのうち薄まって消えて無くなるんじゃないの? って思いたくなるくらい際限なく広がることができるもの。
どこまでも拡大できてしまうような、ある意味すごい感覚を得ることもできる。
でもたかがドロぷにねば~とした、それだけのもの。
そんな存在である私が居るのは、どうやらすごく冷たそうな湖のようなんですが。
いやね、冷たいというのはそう感じてるのではなくあくまで状況判断なわけなんですが。
具体的には雪で真っ白だとか、氷がはってるようだ……とかそういうね。
あんまり温度とか環境とか気にならない感じなんですよね、はい。
おい、結局どんなものなんだよって話なんですが。
ありていに、わかりやすく言えば。
アメーバ?
粘菌?
いや、もっとわかりやすくぶっちゃけてしまえば『スライム』っぽいものになってるみたいなんです。ほら、ゲームや小説なんかで出てくるアレです。
どこに頭があるの? とか、手とか胴とか足はどこ?
なんて、そういうのはもう考えるだけ無意味なほどにドロドロぷにぷに、ねば~っとしたような、不定形のあんなやつです。
そんな存在にいつの間にかなっていました。
そもそも、私はいつの間に死んでしまったのでしょうか?
こんなことをグダグダとスライムっぽい体のどこで考えてるのかなんて、ごくごく普通でぼっちコミュ障ぎみだった私には究明のしようもないのですが。
ほんとこの体、めだった特徴的なものが何もないんですよねぇ。
何にもないのになんでわかるのか?
って言われそうですが、わかるんだから仕方ないです。
ま、自分なんですしね、そういうものです、はい。
ゲームや小説とかだとスライムといえば核があってそこをつぶせばすぐやっつけられる、とかあるじゃないですか?
なにそんな弱点堂々とさらしてんの! って突っ込みたくなったものですが、私の体にはそんなものすら無いようで……。
いやぁ、ちょっと安心しましたとも。
もちろん目も口も当然ありません。どうやって今のこの感覚を得てるんでしょうね?
ほんとのほんっとに不思議だ、我ながら。
私とずっと言ってますが、私はまぎれもなく男。
冴えないおっさんでしたので。
仕事柄、私というのになじんでましてね、紛らわしいでしょうかね。
それにしてもいったい私はどれくらい、こうしているのでしょうか?
ここってどこなんでしょうか?
もうね、時間の感覚もない……、人でいうところの三大欲求『睡眠欲、食欲、性欲』すらないものですから困ったものです。
ん? いや別に困りもしてないですか。
スライムっぽいものとはいえ、生きている……んだから何某かあるだろ? って感じもするのですが。
この体、寝るって感覚とは無縁で。
起きているのか寝ているのかすら曖昧で、あまりにも茫洋とした感覚でしてね、謎です。
食欲。
生きてるんだから燃料補給は当然しているはずなのですが、どうなってるかさっぱりで。
ごく自然に私であるところのドロドロぷにぷにたちが、周囲、方々から何らかの物を吸い取ったり含み込んで溶かしたりしてるんです!
いったい私は何を取り込んでるんでしょう?
こうやって今も考えている自分の意志というものに関係なく、無意識下でそれが行われているので、食欲って言っていいのかすら疑問が残るところであり、謎です。
性欲なんてもう、説明いらないですね。謎でもなんでもないですね、何もないですしね、はい終了。
子孫繁栄?
はは、分裂する……んですかね?
この湖にも生き物はもちろんいます。
たくさんいます。
食物連鎖だって当然あるようで、微生物や小魚いっぱい、大型の魚もそこそこ、どう猛そうな爬虫類的謎の生き物すらいます。
鳥類の類も居て、浅瀬でエサをついばんでいたり、豪快に空から小魚を掻っ攫っていったりもしています。
でもそういう生き物たちを私も時折ぬめ~っと取り込んで、頂いたりしている訳なので一応食物連鎖の一員と言えるのかもしれません。
なんだかとりとめのないお話が続き申し訳ないのですが、脳と言えるものがない私なのでそこはご勘弁と言わせてもらいましょう。
えーとですね、話をちょっと戻しましょう。
結局ここがどこで、どんな世界で、いつからこうしてるのかなんも全然わかってないということで。
雪がある時ない時。
氷が張ったり融けたり。
そんなことをもう幾度も幾度も繰り返してるのですから相当年数を生きていると思うわけですが。
そもそも一年が何日とも知れない中、普通の日本人のおっさんでしかなかった私には分かる術もないわけですが!
広い湖を漂ってるだけで、そこから出たことすらない私はその周りに広がっているだろう世界なんてわかろうはずもなく、そもここが地球なのか? そうでないのか? そんな根本的なことでさえ分かっていないわけで。
いやね、周りにいる生き物たちや自分自身を顧みれば……ちょっと自分が生きてた日本っぽくはないかな~、なんてことくらいは思ったりもするわけなんですが。
とりあえず人のたぐいは、私の気付ける範囲では見かけたことは無い……はずです。
そーんな変化がなく、なんとも平和な日々を送っていた? スライムっぽい存在な私にしてはめずらしく、ちょっとした好奇心というか知識欲みたいなものが湧きましてね。
あれですよ、やっぱ元人間としては体がちゃんとある生き物、憧れるじゃないですか?
だから試してみたりもしたんですよ。
のっとり。
乗っ取り!
寄生って手もあるのだろうけど自分で動かせないのはつまらないし……。
いや、自分、漂ってるだけじゃんって、セルフ突っ込みしそうですけど、そこはやっぱ、ほら、自分の意志は大事!
実験体は死んじゃったばかりの生き物とか、弱った生き物とか、もろもろ多数。
殺生だめ?
その生き物たちの意思は?
はぁ?
そんなのはスライムっぽい生き物たる私には関係ないし、周りにそんなこと気にしてるやつとかも、もちろんいない。
で、そいつらの中に自分の一部を侵入させて色々やってみたんですよ。
動かせないかなー? と思いましてね。
いや普通無理だろって、元日本人感覚なら突っ込むところなんですが。
なんだか出来る気がしたんですよ、スライムっぽい生き物的意識、本能っていうもので。
ま、細かいことはいいのですよ!
要は、要はですよ、出来ました!
あれですよ、神経とか血管とかまぁ大きく括れば細胞とか、生き物にはあるじゃないですか。ああ、違う世界だとまた別の形態がー、とかはなしで。あったんです。
それに私のスライム的体が同化浸透していくイメージでね。
そうするとあらどうでしょう。動いたんですね、侵入した生き物が。
スライムっぽい……、ぽいぽい面倒ですね。もうスライムでいいですか。
で、そのスライムたる私の一部が中に入ってそれを動かしてる、と同時に外にも存在する私がそれを見てるわけです。
なんとも不思議な感覚、でも違和感はないのですよ。
ゲームの3Dキャラを動かしてる感覚?
一人称と三人称視点が同時に存在してる?
ほんと不思議な感覚です。
これ私、まじすごくね? そう思いましたとも。
でもそこからが大変でしたけどね。
動かせはするんですけど統一した動作をさせるのがまた難しくってですね。
最初、喜び勇んで無軌道に動かせば破裂しちゃったこと数多。
気を抜けば思わぬ所が動いてしまって、あらぬ方向に曲がったり折れたり。単純な生き物のときはまだ良かったのですが、高等生物に対象を変えていくほどに制御は難しいものになっていきましたね。
痛覚とかまで再現していればひどい目をみてたところです。
スライムに痛みなんてものはないですし、切り離されたとしても再度ひっついたら終わりですし。
ある意味無敵!
あ、でもちょっと待ってください。
それがないからわからないとも言えますか? やっぱ物事、痛い目見ないと覚えないですよね、何事も。私も仕事でよく失敗して上司に怒られていたものです。何度言われれば覚えるんだ!ってね。
ん? この例えじゃ学びがないですね、お恥ずかしい。
それからどれだけの時間がたったのかなんて私にはわかりません。
そんなこんなで暇すぎる私は一体、一匹だけとは言わず、複数の実験体を使い、スライムであることをこれ幸い、多元的に色々試行錯誤を繰り返し、ひたすら生き物たちを動かしたり壊したり。
おかげさまをもって、いつしかその生き物になりきって空気を吸うかのように普通に動けるようになっていました。
いやスライムに空気を吸う必要はないんですけれども。
ごほん。
一つ満足できるようになれば次の生き物。
そんな具合にどんどんお代わりを繰り返して暇をつぶし、いつしかそれにも飽きがきてしまうほど時間がたったある日。
長い長いスライム生的に歴史的な出来事が起こりました。