9話 ダンジョン配信のススメ
琴音は私を見つけると手を振って近づいて来た。
「今日はよろしくお願いします」
「うむ」
「キュウ」
琴音の近くには撮影用のドローンが浮いており、私達を撮影している。
最新鋭のドローンは自動で攻撃を回避したりしてくれるらしい。
「じゃ、行こう」
「はい」
「今回入るのは、“Japan001”と呼ばれるダンジョンです」
「何、その頭痛くなりそうな名前」
「ダンジョンに名前をつけてたら管理が面倒になりますよね? 各国で何番目に出現したか、その順番でダンジョン名が決まります」
「じゃ、あの“ダンジョン”は?」
「一応、“First001”って呼ばれてますけど………」
「何も知らないの?」みたいな顔でこっちを見ないで欲しい。
もしかして、世界の常識か何かですか?
「でも、番号で振り分けたら難易度がわからないんじゃ?」
「どのダンジョンがどれくらいの難易度か、なんて攻略庁のホームページに載ってるじゃないですか」
琴音はため息をついた。
「優希さんは、本当にS級冒険者ですか?」
「勝手に任命された何も知らない新米冒険者よ」
私は【ヴィクトリム】の鞘をそっと撫でる。
「そんな立派な剣を持ってるのに?」
「本来は、私のものじゃないわ」
そう。これは、彼に託された物だ。
本来ならば、私よりもずっと強い、それこそ本当の勇者みたいな人が持っているはずだった。
「………そうですか」
何かを察したのか、琴音はそれだけ言うとダンジョンの入り口を見た。
どうやらダンジョンの入り口には必ず攻略庁の受付があるみたいだ。
さすがに人が足りないから、一般のアルバイトが仕事をしている。
「さ、行きましょう」
琴音はさっさと受付に冒険者カードを見せると中に入る。私もそれにならって冒険者カードを見せた。
「え、工藤………?」
「そうよ。偽物だって思うわけ?」
「い、いえ! マジかよ! 握手してください!」
「い、いいけど?」
「マジかぁ今日は手は洗わない!」とか叫んでる受付のアルバイト少年を冷めた目で見て私はダンジョンの中に入った。
「いいですか? 配信ということは、ライブをやるということ。つまり、生放送ですね」
「ほうほう」
「キュッキュッ」
何か私に一から説明してくれるみたい。
確かに、お試し配信だし一から教えて何としてでもあちらに引き込みたいはずだろうし。
「えっと、コレをこうして」
琴音はARマシンを取り付ける。
私も事前に渡されていたARマシンを取り付けた。
大学でも使ってるとこ多いけど、変なところでアナログだからな、ウチのとこは。
今時の人ならARマシンくらい持ってるけど……。私はお金が無いから買えなかったんだよね。
「後でお金渡すね」
「はい」
琴音は当然のように頷く。
本当にこの子は適応力が高い。私の扱い方が響木に似て来た。
「それで、配信のコメント欄とかスキルのクールタイムを見れたりします。今時冒険者には必須アイテムですよ」
「………昔の冒険者は勘と勘と勘と観測者が」
「凄いですね、観測者の人!」
“観測者”レタンティオ・シェーファーはとにかく数学の得意な眼鏡坊主である。
今はアメリカのハーバード大学に通っているらしい。
ダンジョン研究室に在籍してるらしいけど………。
「まあ、レタンティオは数字しか見えてないし、この世界も1と0でできてるんじゃない?」
《コンピュータの世界になっとるww》《てか、レタンティオってハーバード大学のS級冒険者やん》《やっぱ本物だ》
などのコメントをいただきました。
「てか、偽物扱いされてたの?」
「まあ、レタンティオさんに比べたらあまりにも威厳に欠けますよね」
「ふん、あんなもやし小僧に威厳なんてないわよ。大体アイツ、最初のボス戦で……」
《レタンティオ
五万スパチャ:頼むセンパイ、それだけは黒いからやめてぇえええええ!!!!!》
コメント欄、ご本人登場により荒れる。
てか、時差もあるのによく観てたな。
「ネットで予告したんですよ。もしかしたら、S級冒険者はみんな観てたりして」
「よし、みんなの前だしドーンと黒いのを放出しますか」
《アナスタシア
五万スパチャ:撃ち抜くわよ〜?》
《レオ
五万スパチャ:お前の黒いのも流すからな!》
《美雨
五万スパチャ:日本まで殴りに行くヨ!》
全部外国語だったけど、大体そんなことが書かれていた。日本語に翻訳する時間なかったんだろうな。
冒険者達はみんな子供で、ジャパニーズanime!が好きだったから共通語を日本語にしたがったからな。
第二言語は日本語です。
「な、な、な、」
琴音がぷるぷる震えている。
何が書いてあるのかはわからないだろうが、五万スパチャという事実だけは確かだ。
「ふん、お前たち、免除!」
《アナスタシア:撃ち抜くわよ〜?》
《レオ:よし、金返せ》
《美雨:今度アキバ案内してヨ!》
「レオは実はイケメンでモテてるけど、ほんとはただのオタ」
《レオ
五万スパチャ:やめてぇえええええ!!!!!》
《オタw?》《オタクやろww》《ww》《仲良いな》《草》
「よし」
「よしじゃないですよ!」
琴音はコメント欄を見ている。
「一体、何人が私達を………?」
「どーでもいーでしょ、早く行きましょ」
どうせ、ここのボス倒されてるみたいだし。
「ダンジョン配信のススメを教えてくれるんでしょ?」
「は、はい」
急に緊張してんな。
全く。
「はい」
私はARマシンを琴音から取る。
「こういうの、要らないから。それに頼ってるといざって時に死ぬよ? 勘を磨こう。最後はどうせ運だし」
《レオ:おい、玄人ダンジョン攻略のススメを始めるんじゃないよ》
「うっさいわね」
ご丁寧に日本語になっていやがる。
ちなみに、コメント欄が見れない琴音は首を傾げている。
「ささ、早く行きましょ。配信だとやっぱりドローンを傷つけないようにしないとなの?」
琴音は気を取り直して歩き出す。
「ドローンには自動回避機能があるので気にしなくても大丈夫ですよ。まあ、範囲攻撃に耐性はないですけど」
リヴァドラムはかなり頑張ってじっとしている。
時折ドローンに甘噛みしたり、カメラを意識してポーズをとってるけど、多分大丈夫。
何名かキュン死してるかもしれないけど、私には関係ないことだしね。
ボス部屋前までやって来た。
普通に空っぽのボス部屋を見て帰る、はずだった。
「え、え、え!?」
琴音の驚愕の声に私は険しい顔をソイツに向けた。
無数のスライムが、壁や天井を埋め尽くしていたのだ。
話に聞いていた本来のボスではない。
これは………。
「神の悪戯ね」
「これ……」
琴音も知ってるらしい。
“First001”は本になってるし、全世界で売られてるからね。もちろん、ボスの情報も載ってる。
「倒したはずなんだけどなぁ」
私はコメント欄を見る。
仲間達は沈黙。否、おそらく、日本に来る準備を始めた。
「撤退しましょう」
「え、倒さないんですか? 第一層のボスですよね?」
「本来の強さだとは限らない」
私は【ヴィクトリム】を抜く。
やつらは、動きに敏感に反応する。
逃げるには、一瞬の隙をつかないと駄目だ。
「走って!」
私は【聖剣】を振り下ろす。
壁のスライムが吹っ飛んだ。
琴音は走り出す。
「リヴァドラム!」
「キュイー!」
リヴァドラムも【ブレス】を放つ。
天井のスライムが落下する。
私も急いで走り出した。
これが、本当にあのボスなら、勝負はここから。
ボス部屋の扉を抜けて、それを閉じる時、散ったスライムが一箇所に集まる光景がチラッと見えた。
間違いなく、“ダンジョン”のボスらしい。
「キングスライムが復活してる」
キングスライムは無限に分裂する巨大なスライムだ。
小さな姿のスライムが大量に壁に張り付いているのを見て、逃げ惑う冒険者に酸性の液体を振り撒いた。
死者は七名。
ドロドロに溶けた。
広範囲攻撃持ちが一斉に攻撃して、突破を目論むも合体してしまう。
【聖剣】のクールタイムである十分を目標に粘るも、三名が死亡。
私達は、撤退を余儀なくされた。
「どうして、倒したはずのボスが………」
「どちらにせよ、相談する相手は一人でしょ」
「あ、そっか!」
吸血王ザザバラなら、何か知っててもおかしくない。
明日誕生日なので、よかったらブクマしてください!
(読んでくれるだけで嬉しいけど、一応言ってみよう)




