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59話 蜘蛛と悪魔

 私は食料室にてリンゴを頬張っていた蜘蛛型モンスターを見つけて顔を綻ばせた。


「いたいた。イクスタ!」


 イクスタはひょいと顔を上げて、リンゴをさっとイクスタ専用の食べ物籠へ放り投げると私のところへやって来た。

 リヴァドラムが「キュァアア」と何かを説明せるように鳴く。


「………………!」


 了解の意なのかコクコクと頷くと、食料室を出て広間へと向かって行く。私もその後を追った。




「さてと、【意思疎通】」


 レイヴィスが全体にスキルをかけた。

 これで、イクスタの言葉がわかるらしい。


「さてと。イクスタ」

『なに?』

『だめだよ。そのひとつよいよ』


 リヴァドラムがムッとしたように()()()

 私は飲んでいたオレンジジュースを思わず吹き出してしまう。ゼールとロアに睨まれたが、仕方ないだろ。

 私はリヴァドラムを眺める。

 なるほど、想像以上に子供だった。そして、レイヴィスの強さにも気づいている。


「聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

『ええ』

「アルマッティと契約していた悪魔についてなんだけど」


 全員の目がイクスタに向く。イライラしたように、イクスタは目を光らせた。



 イクスタの話はこうだった。



 その悪魔はナイトメアという『憑依型』の悪魔だった。

 力はとても強く、主人との結束は今まで見て来たどの契約よりも強かった。

 更に、『憑依型』にしては珍しく、体外に出て本来の姿になることもできた。偶に、特殊任務として〈吸血街〉へ向かっていたようだ。

 ナイトメアのスキルは主に、吸血鬼と同じだったことから元々〈吸血街〉にいた悪魔なのではないかと予想された。

 吸血鬼が悪魔をペットにしているのは、今に始まったことではない。


 ナイトメアの知能はあまり高くない。

 常にアルマッティの側を離れず、子供のように甘えていた。馬鹿っぽく、イクスタに質問をしてきた。

 しかし、モンスターのことはよく理解しており、どんなモンスターがどんなスキルを使うのかまで知っていた。


 ナイトメアが戦っているのを見たのは、一周目の最後にアルマッティが行った『時間稼ぎ』の時だけだ。

 アルマッティが怪我をした際に、彼女の血液が悪魔のようにうねり、敵を捉えたのを見た。

 辺りに飛び散った血液も、悪魔のスキル範囲内らしく高速で動く鉄球のような頑丈な血液が多くの異形を殺し、4体のボスを葬った。

 しかし、ルシファーには勝てず、ナイトメアとアルマッティは撤退した。



『私はアイツらを逃すために囮になったってわけ』


 イクスタは賢い。

 討伐組合として、ちゃんと役割を果たしていたのだ。


「そのナイトメアっていう悪魔は聞いたことがないな。貴族ではないみたいだ」

『当たり前よ。サブリーダーが付けたそうだし』

「人間が名付けたのに、ボスを4体殺せる強さ?」


 それ言うなら、生身でボスとやり合うオルトは化け物じゃねぇか。

 悪魔については詳しくないから何も言えないなぁ。

 そんなことを考えていると、真顔のアスファと目が合った。


「お父さんも悪魔詳しくない?」

「そんなことない」


 アスファは咳払いをすると、胸を張った。


「悪魔の住む【魔界ノ門】が〈吸血街〉にあることくらいなら知ってるぞ」


 その言葉にレイヴィスがハッと顔を上げた。


「そうか!」

「何かわかった?」

「アスファ。【魔界ノ門】は【天使ノ掟】で開かないように義務付けられてる、そうだよね?」


 アスファは頷いたが、複雑そうな顔で言う。


「だが、〈吸血街〉を牛耳っているのは知っての通り吸血王だ。〈吸血街〉にある五つの【魔界ノ門】のうち三大貴族の一つレイヴンズ家が管理している【黒ノ門】だけが適切に管理されている」


 その回答に、レイヴィスは「ああ」と呟いた。


「だけど、血を司る『憑依型』は【黒ノ門】からしか現れない」

「そうなんだ。天使や人間にもある程度寛容なレイヴンズ家が、そんな裏切り行為を行うとは思えなくてだな」


 そのレイヴンズ家というのは、吸血鬼の中でも話がわかる一族みたい。

 あの吸血王ザザバラに仕えているんだろうけど、そんなんで大丈夫なのかな?


「まあ、他の門から【黒ノ門】の悪魔が出てくる可能性もゼロではない。魔界はひと繋がりなわけだし」


 自分を納得させたいのか、アスファがそんなことを言い出した。しかし、レイヴィスは首を横に振ってその可能性を否定した。


「元々名持ちの悪魔ならともかく、無名の悪魔が他の門がある場所まで生きて行けるとは思えない」

『そのあくまって、なわばりでもあるの?』


 リヴァドラムが不思議そうに言った。


『当たり前でしょ、チビドラコ。悪魔には黒、赤、緑、青、黄の5色の派閥があって、その派閥ごとに縄張りが決まってるし、管理してる門も違うの』


 なるほど。

 だから、他の色の悪魔が別の悪魔の門を通る可能性がゼロに近いのか。


『こんなの常識でしょ。ほんと馬鹿ね』

『これからかしこくなるんだ。ちしきはしずくだよ。たまるとうみになるんだ』


 ゼールが「あ」と口を開いた。

 皆んなの視線が、ゼールに集中する。


「………イクスタ。君は、悪魔を馬鹿と言いましたよね。よく質問をしてくるから」

『ええ』

「その悪魔は知識を欲した。僕がフェリルから聞いた悪魔とは印象が違うと思ったんです。悪魔は力にしか興味がないらしいじゃないですか」

「確かに。変な話だね」


 レイヴィスは首を傾げた。

 話をまとめると、アルマッティの悪魔は【黒ノ門】を通って現れた、少し変わった悪魔。

 一番の謎は、天使にも誠実的な態度を取って来たレイヴンズ家が何故【黒ノ門】を開いたのか。


「レイヴンズ家は、敵なんですか?」

「敵だろうと思う」


 アスファはあまり自信がなさそうに言った。


「結局はザザバラの命令が一番だったし。ザザバラが命令したら【黒ノ門】だって開けるだろう」

「だけど、アスファは本気でそうとは思えない」

「ああ。レイヴンズ家の動きはあまりに奇妙だ。まず、ザザバラへの協力を遠回しに拒否している。そして、何かを探しているんだ」


 私たちは顔を顰めた。

 そのレイヴンズ家の目的がわからないことには、どうしようもない。吸血鬼だから、下手に探りを入れることも難しい。


「今の話を聞いて、もしかしたらアルマッティの悪魔を探しているんじゃないかと思ったよ」

『まちのおうさまにはきかないの?』


 リヴァドラムが指を咥えながら、レイヴィスに聞いた。


 「まちのおうさま」とは裏町に点在する〈暗所街〉のような街を治める異形のことだ。

 一番大きな街である〈中央街〉を統べる異形王を筆頭として、〈吸血街〉の吸血王や〈魔虫街〉の蟲王などがいる。

 この〈暗所街〉にも王はいるのだろうけど、見たことはない。

 ちなみに、王を倒したら誰でも王になれるらしい。

 襲名制なのは、異形王のいる〈中央街〉だけみたい。


「連絡が取れない者が多いんだよ。多分、向こうに行ったんだろうね」

「〈暗所街〉は?」

「大丈夫なはずだよ。最初から討伐組合の拠点だったし、今も何も言って来ないでしょ」


 レイヴィスは不安そうにため息をついた。


「でも、気がかりなんだよね」

「何が?」


 レイヴィスの口から漏れたのは、予想外の言葉だった。


「〈暗所街〉の王が、一周目と違う奴みたいでさ。探しても探しても見つからないんだよ。ねえ、〈暗所街〉の王って本当に味方なのかな?」



     ☆☆☆



「ここにいましたか」


 アルマッティは攻略庁にて、事務作業をする人間を見つけた。

 糸部咲撫(いとべさかなで)

 それが、彼の名前である。


「何の御用で?」

「実は………」


 そこで、他の職員の「止まれ!」という荒々しい声が聞こえた。


「やっと見つけたぞ」

「オルト………」


 後ろからへこへこと職員に頭を下げながら進む琴音の姿も見えた。


「聞きたいことが山ほどあるんだよ」

「やめなよ、オルト」


 咲撫が、オルトの手首を掴む。




 そのとき、警報が鳴り響いた。




『緊急事態です!! 庁舎がダンジョン化しました!!』




 職員が冷静にアルマッティを見つめた。



「B級以上の職員は、直ちに攻略を開始! それ以外の者は民間人と共に各フロアにある避難室へ!!」



 アルマッティはしたうちをした。


「舐められたものですね………」

「アルマッティ。オレから離れるな」

「わかっています」


 “二周目のサバイバー”の目的はアルマッティだ。


「わたくしは、相棒を信じます」


 オルトの目が見開かれる。


「死ぬ直前まで、信じます。だから、オルトも信じて欲しい」


 瞳から迷いが消えた。


「見えているものが、全てとは限らない」

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