51話 星の見える丘
「私、帰っていい?」
「駄目です」
「いや、駄目だろ」
「駄目ですよ」
全方位バッシングくらいました。
レイヴィスの言っていた星の見えるいい場所とは、なんと“Japan077”。
そう、ダンジョンである。
しかも、未だにボスが倒されていないダンジョンらしく、政府から大規模レイドのお達しがあった。
配信をしようとダンジョンに来て数時間後に、わらわらと冒険者が現れた時はさすがに驚いたものだ。
「はじめまーす」
《久しぶりだ》《琴音ちゃんもA級かぁ》《なんか新しい人いね?》《見たことなーい》
「クエストって、E級参加できるの?」
「コネ使えば」
「コネ使え」
「コネならなんとかなりそう」
「お前らふざけるのも大概にしろ」
《前より毒増してるw》《何があった》《工藤優希翻弄されとるw》《最強パーティーかも》《E級いんのヤバい》
私はため息をついて、ダンジョンの入り口を見る。
何故か、誰も私達に近づいて来ないし。
「“Japan077”のボスって?」
「流星群」
「流星群です」
流星群?
なんじゃそれは。
「あら、オルトじゃないですか?」
ようやくこちらに声をかけて来る人が現れたか。
「グルルル…………」
リヴァドラムが唸り声を上げた。
オルトが手でリヴァドラムを制した。
ダンジョンには似合わない黒いドレスと皮のブーツ。お嬢様がいかにもしてそうな髪型。
しかし、隙がない。
今まで会った冒険者の誰よりも、隙がないのだ。
「どこから入る?」
「脇腹はやめとけ」
「正面からすかね……」
オルトとゼールものってくれた。琴音が呆れ顔でこちらを見ている。
対して、当の本人はニコニコ顔を崩さない。
見た感じ、私達よりも年下だしな。
すると、彼女のポケットからするすると小動物が現れた。よく見慣れた、カーバンクルだ。
「え、エルゥラ?」
「キュ」
「よっ」という感じで手を挙げられた。
どっかで見たぞー。エルゥラと一緒にいる人ー。
《アル様》《アル様が優希さんとw》《早く会話しよ》
「アル、さま……」
「そう呼ばれてますね」
その声は………!
「アルマッティさん………!?」
《まさかのさん付けで草》《何があったww》《その人、あんたをS級にした人だよ》《アル様が元凶よ》
アルマッティさんが、私をS級に?
「なんか、言いたいことあります?」
「ないです!」
「ダンジョン攻略、一緒に頑張りましょうね」
「イエッサー!!」
オルトが呆れたように琴音に何か耳打ちした。
すると、思い切り叩かれていた。何言ったの?
「アルマッティのことは呼び捨てでいいんですよ? 年下だし」
「そうですよ。優希さんが年上です」
「あ、そっか」
オルトと琴音が私を持ち上げようとして来る。
一周目の弊害がここにきて出てしまった。
そして、納得顔のゼールが憎たらしい。
「あ、ゼールも一緒でいい?」
「はい。大丈夫です」
オッケーいただき!
「アルマッティさんの武器は?」
見た感じ何も持ってない。
しかし、リヴァドラムの視線からなんとなく察している。
「内緒です」
「内緒かー」
《完全に忠犬になり下がったww》《アル様すげえ》《オルトの特殊さがわかる》《カリスマの塊や》
「アルマッティ、コイツに何したの?」
多分、この人一周目の最後に大暴れしてんだよ。
アルスに最後に会えたのって、この人追いかけ回してたからでしょ?
「わたくし、生身でボス4体倒せるので」
「それ、関係あるの?」
あるよ!
生身だよ! マジの生身だよ!?
はっ!! コイツはもっとヤバい奴だった!!
「生身って………なんだろう」
「いや、わかりますよ、うん」
「あの二人はちょっと………全身筋肉ですよ、多分」
《オルトだけならまだしも、アル様も筋肉ダルマ扱いされてんの笑う》《仲良くなってね?》《めっちゃいい》
「さてと、もう一つ聞きたいことあるんだけど!」
「はい」
「ここに寝てる人だれーーー!!!」
《www》《笑う》《草》《wwww》《草》
怠そうな顔で漫画を読んでいる冒険者がいた。
こんなとこに来んなよなー。
「デッドクラックだよ」
あーはいはい、私のことガキ呼ばわりしたあの。
「……………あ、美人じゃん? 俺と寝る?」
「リヴァドラム!」
威力の弱いブレスを放ってもらった。
成敗完了!!
「すげぇ」
「ヤバすぎ」
「あとで褒める?」
「寝ぼけてた?」
コソコソと後ろで話している。
「さて。今日の作戦は?」
《殺人未遂で逮捕だろww》《デッドクラックだし……》《むしろセクハラで逮捕じゃね?》《デッドクラック…w》
攻略庁の人が資料を片手にやって来た。
「今回は【流星群】討伐への参加ありがとうございます。S級冒険者1名、A級冒険者4名にも来てもらいました」
各地から拍手が挙がる。
《マジでこの視点神》《SA級冒険者視点ww》《他のライバー可哀想》《今回は稼げないな》
「この“Japan077”のボス討伐難易度A+で、今までにも犠牲者が出ています。しかし、異次元フィールド型ダンジョンなので地図は完成しています。ダンジョン侵入の際は必ず死亡同意書にサインをお願いします」
そう言って、攻略庁の人は説明を始める。
流星群というボスは範囲攻撃を得意としているらしい。
しかし、クールタイムがランダムでスキルが把握できていないのだとか。
「オルト、倒せないの?」
「クールタイムの謎はわかるんすけど……」
「姿が未だ未確認なんです」
琴音が呟く。
「もう見つけられる?」
「デッドクラックなら」
よろよろと歩いてなんとか帰ってきた変態男に私は軽蔑の視線を送る。
「じょーだんじゃん」
「もっかいセクハラしたら殺す」
「すんません」
流星群って強いんだ。
「私、星を見にきたのに」
「星は見えますよ」
アルマッティが嬉しそうに言う。
「さ、早く行きましょ」
死亡同意書に本名を書いてダンジョンへのゲートをくぐる。
「うわぁ…………」
見たこともない花が咲く丘の上にいた。
しかし、見るべきは花などではない。
一面の星空。
無数の星々と、それらが生み出した天の川だけがこの世界を照らしている。
「ロマンチック………」
さすがレイヴィス、よくもまあこの場所を知っていたな。
…………………。
私は一旦、配信停止ボタンを押すとオルト達に向き直る。
「ここ、裏町じゃない?」
「あ、そう思った? オレもー」
急に砕けたオルトがそう言って、南を指差した。
明らかに明るい街が見える。そこには行けないそうだ。
ダンジョンの不思議としてしか処理されていないが。
「あれは、〈中央街〉です」
明かりだけしか見えないから、よっぽど遠いところにあるのだろう。
しかし、確かに目を凝らすと城や時計塔が見える。
そして、更に手前には。
「線路もあるし」
魔導列車の通る線路がある。
「中には、乗り込もうとした人やあの街に行こうとした人がいたそうです」
琴音が呟く。
「誰も生きて帰れませんでした」
「【流星群】、倒すべきかな?」
「味方にしよう」
「賛成です。おそらく、エリアボスか、〈中央街〉にいる異形王の守護モンスターかと」
ゼールも頷く。
異形王について、昔、レイヴィスに尋ねたことがある。「私の奴隷だよ」とか言ってたから、多分大丈夫。権力大事。
「ここ動いたら、私多分、エルフになるー」
「僕に任せてください」
ゼールは得意気に「【蜃気楼】」と呟いた。
「幻影系スキルの頂点です。これで大丈夫」
「ありがとう」
私は配信再開ボタンを押した。
「皆さん」
《どうした?》《作戦会議じゃね?》《楽しみ》
「【流星群】は倒しません!」
《は?》《倒しに来たんでしょ》《ひよった?》
「行くぞ!」
私達は迷わず南へと歩みを進める。
流星群の出現場所ははっきりしていない。故に、徘徊型のボスと呼ばれている。
しかし、傾向として線路はもっとも出現頻度が多い。
「流星群って、配信にのったことある?」
「姿未確認って言いましたよね? 映ったのは、流星とライバーの悲鳴だけです」
私はニヤリと笑う。
「天界から引きずり下ろす!」
正月って好きな番組ないからつまんない………けど、そんな雰囲気がちょっといい。




