44話 討伐組合のその後
オルトと琴音が出発し、レイヴィス達異形組も、裏町へと旅立った。もう会うことはないだろう。
オルトから後任を任されたアルマッティは、数人の組合員と机を囲んでいた。
一人目、タバコを咥えた髪がボサボサのオッサンだ。
名前は太陽。
もちろん、本名ではない。討伐組合で本名を名乗るのはタブーとされている。
二人目は糸目の青年だ。
名前はナデシコ。
細身だが、無駄のない筋肉と肉体よりも無駄のない性格を持っている、討伐組合の頭脳とも呼べる存在だ。
三人目は眠そうに頬杖をついている青年だ。
名前はデッドクラック。
首にはドクロのネックレス型の魔道具を身につけており、服も黒を基調としている。
年齢はオルトよりも太陽に近いらしい。
四人目は時計を気にする細い蜥蜴型の異形だ。
名前はトディン。
森林蜥蜴人という珍しい種類の蜥蜴人らしい。
茶色い鱗は、確かに森に擬態しやすそうだ。
五人目は小柄なオヤジである。
名前は知らない。皆んなは「親方」と呼んでいた。
彼はオルトが抑えたドワーフの職人の一人で、組合のためだけに武器を作っていた。
今ではドワーフも組合の在り方に賛同し、嬉々として協力してくれている。彼はドワーフの代表だ。
六人目は羊のようなカールした角を持つ美しい人型の異形である。
名前はデザイア。
彼女は悪魔族であり、本来ならこのような人間と天使と神の争いには参加しない立場である。
しかし、遠い昔に人に助けられたことがあるらしく、好意で協力してくれている。
アルマッティを含めたこの七人が、現在の組合の中枢である。
「我々は『好きにしろ』と言われましたが……」
「好きにしろっつってもなぁ」
太陽が呆れた声で呟いた。
デッドクラックがようやく体を起こして頷いた。
「今更何しろってんだ? 強力な戦力、有力な味方、そして、反撃策の確立。しいて言うなら、【ループ】と【反転】の対抗策が俺たちには無いってことか?」
全員が顔を見合わせる。
「確かに、我々に【記憶保存】を施すとはおっしゃりませんでしたよね……?」
まさか、二周目では幸せに生きろということか?
それだけは許せない。ここまで来たんだ。
せめて、最後までお供したい。
ここでの出会いを無駄にしたくない。
皆んな、同じ気持ちだ。
「わたくしが行きます」
全員の顔がアルマッティに向く。
「わたくしが、【記憶保存】を見つけて参ります」
「でも、使えないでしょう?」
デザイアが呟く。
「【スキル結晶】にするか、【記憶保存】を持つ者を仲間にしようかと」
「あてはあんのかい?」
親方が聞いた。
やはり、異形は反対らしい。というよりかは、成功するわけないと思っているのだろう。
「〈暗所街〉に、おそらくは」
オルトが買い取ったという【スキル結晶】は〈暗所街〉にあったそうだ。
そういう【スキル結晶】を溜め込んでいる異形がいてもおかしくはない。
「ボクもお供しますよ」
トディンが手を差し伸べた。
「〈暗所街〉に人間の娘さん一人じゃ危ないでしょう?」
「じゃあ、俺も行こうか」
デッドクラックが気怠そうに言う。
「そこの蜥蜴野郎が人を喰わないように見張ってないとな」
もちろん、冗談である。
彼らの間に人も異形もない。
彼はただ、二人が心配なだけだ。
「残りのメンバーは確認をしておいて欲しいのです」
「確認?」
ナデシコが反芻する。
「【記憶保存】を施すのか、否か。組合員全員に、確認しておいてください」
中には、二度と戦わないと言う者もいるだろう。
それが悪いとは思わない。二周目では、楽に平穏に生きたいと思う者もいるだろう。
そういう者を責める気はない。
「わかったよ、サブリーダー」
ナデシコ達は頷いた。
「それでは、行きましょう」
〈暗所街〉は薄暗い。
お陰で黒いフードでも被っておけば、人と異形の見分けはつかない。
「レイヴィス達は、ここには来ていないのでしょうか?」
「さあね。ボクには古き者の考えはわからない」
トディンはそう呟くと、古びた露店を見回した。
「【スキル結晶】の店はありそうに無いね」
「情報収集するか?」
デッドクラックの一言にアルマッティは頷いた。
集まった情報は二つ。
一つ、【スキル結晶】の店はないこと。
二つ、【スキル結晶】を蓄えているカーバンクルが、この〈暗所街〉のどこかにいること。
「二つ目の情報だけが頼りです」
「だな」
「ですが、この広い〈暗所街〉の中から小さなカーバンクルを見つけるのは至難の技では?」
「向こうから見つけてくれないでしょうか?」
「あっれぇ? 討伐屋さん? こんな所で何をしてるのかな?」
狼の亜人だ。確か、名前はルヴだったか?
“サバイバー”の仲間である。
「ちょうどいいところに」
アルマッティはホルスターから銃を取り出した。
その動作は可憐で、ルヴの動きが止まる。
「ワンちゃん、遊びましょう?」
「ははっ、人間ごときがボクに勝てるとでも?」
☆☆☆
カーバンクルのエルゥラは、物陰から【挑戦者】の様子を伺っていた。
エルゥラはかつて、全知の天使と呼ばれ、“知識の神”の代理人を務めていた。
そんな彼女は特別に、神級スキルの付与を許されている。
幾度となく、エルゥラの前に欲剥き出しの【挑戦者】が現れてはエルゥラに殺されて来た。
今回の【挑戦者】は雰囲気が違う。
あれは人間だ。人間のくせに、全知全能の力を欲しているのだ。
何のために? 知りたい。人間の心が、知りたい。
エルゥラは目を見開いた。
人間が無造作に引き金を引く。
当然、亜人は身を捻って弾丸を交わす………はずだった。
(ドワーフ製の武器? 人間がどうして……?)
弾丸はロックオンした魔力を追う。
ルヴの脇腹に弾丸が命中した。
「その程度かしら?」
「っ! この! ぜってー殺す!」
人間の仲間は黙って見守っている。
それが表すのはつまり、彼女が亜人よりも強いということ。
再び引き金が引かれる。
次は確実に、ルヴの頭を狙って。
「さて、カーバンクルはどこにいるのやら」
もう人間達は死んだルヴを見ることさえしない。
エルゥラは飛び出した。
「チチッ」
頬袋から【スキル結晶】を取り出す。
「え?」
エルゥラは人間の前でお腹を見せる。
言葉を発せない堕天使の精一杯の友好の証だ。
☆☆☆
「というわけで、【記憶保存】をして欲しいのですけど」
「!」
コクコクと目の前のカーバンクルは頷く。
「チンチラとリスを足して二で割ったみたいな生き物だな」
「冬毛はこうなるそうですよ。夏毛は確か、ネズミとリスを足して二で割った見た目のはずです」
「ベースはリスなのか」
「はい」
デッドクラックは納得したのか何も言ってこなくなった。
対するトディンはチンチラがわからないのか、首を傾げている。
「チチッ」
「…………え?」
エルゥラの額の魔石が金色に光った。
「これは、スキルだね」
トディンが驚いたように言う。
「なるほど、おそらく彼女がエルゥラなんだろう」
アルマッティは魔石に手を伸ばす。
「いいんですか? 私で」
つべこべ言うなとでも言いたげに、エルゥラが額を無理矢理アルマッティの手に押し付けた。
光が吸い込まれる。
「あの、一緒に来てくれますか?」
「チチッ!」
エルゥラはアルマッティの肩に乗ると腰を落ち着けた。
「意外と早く見つかったね。とりあえず、“サバイバー”に見つかる前に帰ろう」
組合に戻ると暗い顔をした幹部達が出迎えてくれた。
「聞いてくれましたか?」
「ああ。ほとんどが、【記憶保存】を拒否した」
太陽がタバコに火をつけながら言う。
「なぜ?」
「平和な世界に殺し合いは不要。そういう奴らがほとんどだった」
組合員のほとんどは親家族、友人などを殺された者だ。
二周目ではそういう人達が死ぬことはまずない。幸せな生活をすることができる。
「わかりました。それで、異形は?」
「ドワーフも半分くらいしかいないな」
「他の異形もあまり成果はありません」
親方もデザイアも少し悲しそうに言う。
元々、オルトが脅して入らせたようなものだ。多少の反感はあってもおかしくはない。
「では、合計は?」
「30もいないんじゃないかな」
「そうですか。なら、二周目で作りましょうか」
アルマッティの声に、太陽とナデシコの目が不思議そうにこちらを向いた。
「討伐組合以外の組織を作りましょう。そして、冒険者を統治する。名前はそう、攻略庁」
「政府に介入させるのか?」
「どうせ、ルミナ・シティーやビタミンZはいるんでしょう?」
組合員にはテレビ局の元局長や、有名政治家などもいる。多少の政治的介入は不可能ではない。
二周目の情勢を上手く利用すれば、攻略庁の設立は難しくないだろう。
「できますか?」
「もちろんついて行くよ、サブリーダー」
デッドクラックが親しみを込めて言う。
「俺らだって、馬鹿じゃない。一番頭の良くて強い奴に従うのは当然だ」




