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4話 ミーティングと傍観

「ミーティングね。私、聞かないから」

「おい」


 私はベンチに横になって目を閉じる。


「終わったら教えてね」

「やめろ、昔はもっとあったろ、協調性」

「え、痛い痛い痛い」


 私は響木(ひびき)に耳を引っ張られて仕方なく政府の人のところまで行く。


「では説明を」

「許さない許さない許さない」

「はじめ」

「勝手に認定しやがって勝手に認定しやがって」

「ますけど、何ですか、そこのあなた」

「すみません、ウチの子が」

「キュル?」


 普通に失礼だなウチの弟子は。


「それで、今回のクエストですが最下層で発見されたボスの討伐になります。難易度推定はAです」


 それ、S級二人もいる?


「MVPには特別報酬を与えますので、頑張ってください」



 そして、政府の人は説明を始めた。


 どうやら、そのボスに挑んで帰って来た者はいないらしく、敵はおそらくインセクト系統だという。

 というのも、ダンジョンの道中の敵はほぼ虫だから。

 配信するライバー達は、必ず閲覧注意をすることを注意された。


 ただ、インセクト系統は弱いものが多い。

 確かに、強いものもいる。カマキリ、蜂、蟻、なんかは強い。

 つまり、これのどれかがボスだろうとのことだった。


 近接武器が輝くわけね。

 私は必要ないので帰って良いだろう。


「よくねーよ」


 響木は私にライターを渡す。


「虫は火に弱いから、これで火矢でも飛ばしてくれ」

「キュー」

「確かに、リヴァドラムの運動にちょうどいいかも」

「キュルー」


 私はそう言ってライターを受け取る。

 よし、じゃあ頑張って行ってみよー。




「うわぁああ!!」

「きゃぁああ!!」

「くっそ! これじゃただのゴキじゃねぇか!」

「生配信なのにぃいいい!!」


 私はモンスターに阿鼻叫喚する冒険者達を眺めていた。

 ジャイアントトーチという、巨大なGである。

 弱いけど、人類最大の脅威とも言えよう。蟻とか蜂ほど強くないけどね。


「戦わないのか?」

「えー、だってGだし………」

「確かに、最終戦力って雰囲気だけどな、俺ら」

「キュルルル…………」


 リヴァドラムも怖がっているのだ。戦えるわけがない。


「よし、みんな頑張ってー!」

「おい」


   ☆☆☆


 公式クエストを観戦していた観覧者達は不満を募らせていた。

 “最後の一人”である工藤優希(くどうゆうき)が全く戦おうとしないのだ。

 S級冒険者の出る幕ではないのは理解できるが、苦戦する冒険者を助けようとするそぶりすら見せない。

 本来なら、支援に入る響木奏(ひびきかなで)も一切動こうとしていないのだ。


「どうなってんだよ?」

「どういう人なのか、よくわからない………」


 トレンドにはすでに、“戦わないの?”、“モンスター喧嘩売れ”、“怠惰な勇者”がランクインしていた。


 そんな中、ようやく優希が動き出した。


『倒すのが遅い! 行け、響木、体当たり!』


 響木は小声で優希に何かを告げると、【アイテムボックス】からマスケット銃を取り出した。

 ただのマスケットではない。あの“ダンジョン”から持ち出された、世界最高級の武器の一つ。



 歓声が上がる。

 たった一撃で、虫のモンスターが駆逐された。


 そして。



《工藤さんw?》《戦わないの?》《え、え、え、》

《ガッカリした。コイツ、やっぱり雑魚か?》

《本当は【念動力】じゃなくて【必中】だったんでしょ》

《自分を強く見せるために【念動力】って言ったんだろ》



 そんなことを知るよしもなく、優希はダンジョン攻略を傍観し続けていた。

 理由は簡単。


   ☆☆☆


「ねぇ、お腹空いたー」

「キュルルー」

「は?」


 時間はすでに十二時である。

 冒険者達が手こずったせいで、かなり予定が遅れていた。しかし、問題はそこではない。


「非常食は?」

「あれ不味い」

「じゃあ、俺のい」

「不味いから要らない」


 私はご飯を持って来ていない。

 3食は温かいものをと決めているのだ。


「よし、現地調達するかー」

「おい、ここでするな。皆んなアイツらほどノリ良くねーから」


 昔はご飯は現地調達で、私や中国人の美雨(メイユイ)、それから響木が担当していた。

 つまり、ここには料理担当が揃っている。


「大丈夫! 道具はちゃんと【アイテムボックス】に入ってるでしょ“荷物持ち”!」

「その二つ名、トラウマだからやめて?」



 私は周りを見回して立ち止まる。

 リヴァドラムも殺る気だが、オーバーキルで黒焦げになるのでやめてもらおう。


 現れたのは、ブラックラット。

 疫病を持つ、ヤバい奴。

 ただし、リヴァドラムの前では無意味!


「リヴァドラム、【浄化】!」

「キュイー!」


 ただのラットになったところで、私はラットを【念動力】で浮かせる。

 ある程度の高さまで持ち上げて、地面に叩きつけた。

 全てのラットが気絶する。


「さてと、食べますか」

「もう何も言わない」


 私は後ろでポカンと立ち尽くす冒険者を見る。


「一緒にどう?」


 皆んな一斉に首を横に振った。

 ブラックラットを使った料理は現代の冒険者向きではないのかもしれない。




 ブラックラットの皮を剥いで、尻尾と頭を落とす。

 それらはリヴァドラムの胃の中に収まるので問題はなし。ポイントは床に落とさないこと。落とすとGが集まってきます。


「響木ー、鍋とコンロと油、あと小麦粉」

「はいよー」


 私は火をつけて捌いたネズミに小麦粉をつける。

 そして、揚げる。良い匂い〜。


「というわけで、ダンジョン飯その一! ブラックラットの唐揚げですっ! 早速試食しまーす」

「キュイー!!」


 私はライバー冒険者のカメラに向かってニコニコしながら言う。

 ちなみに、そのライバーは「やべぇ。ブラックラットを、食う? 死ぬぞ………」と呟いている。


 私は見て見ぬフリをして、唐揚げを口に運ぶ。

 隣の響木とリヴァドラムもそれぞれ唐揚げをとって一口齧った。


「美味しい〜」

「なかなかだな」

「キュルルルゥ♡」


 周りは「やりやがった!」みたいな顔で私達を見ている。

 美味しいのになぁ。


「でも、美雨(メイユイ)のが美味いな」

「それは言うな」


 “料理人”の二つ名を持つ彼女に勝負を挑むのは無謀というものだよ。私はお笑い担当だったし。


「まぁ、一番はやっぱりオークとかミノタウロスとかかなぁ」

「ケンタウロスの刺身も美味かったですよね」

「キュゥ」


 思い出すだけで涎が溢れて来る。

 ここにいないかなぁ。いないよなぁ。




 そんなこんなで、かなり下の階層までやって来た。

 やっぱり遅いな。冒険者弱いし。


「なんか飽きた」

「戦えば?」

「やることないからって勉強する馬鹿がどこにいるの?」

「お前、俺のこと馬鹿にしてんだろ」


 ここにいたらしい。


 それにしても、ボス部屋に全然着かない。もう、帰りたくなってきた。


「この調子じゃ野宿じゃない?」


 冒険者達の足が止まる。

 恐ろしげな目を私に向けて来た。


「ダンジョンで寝るとか正気か?」

「寝ないの? もしかして、徹夜するの?」

「ダンジョン攻略の常識だろうがっ!」

「な、なんだってー!」


 ヤバい、棒読みになってしまった。

 響木が変な目で私を見てくる。


「それじゃ、ダンジョン野宿の基本を教えてあげるわ。私、徹夜とか嫌だし」

「まぁ、俺も賛成かな。今までは合わせてたけど、実際徹夜後にボスに挑みたくないし」


 不安そうに顔を見合わせる冒険者達。


「安心して! リヴァドラムもいるし、私もいるし、いざとなったら響木が生贄になるから!」

「ならねぇよ! ふざけんな!」


   ☆☆☆


 冒険者達がダンジョン内で野宿の準備を始めた。


 これは、前代未聞の出来事であり、徹夜で観戦をする気だった観衆にとっては拍子抜けな出来事でもあった。

 しかし、ダンジョン攻略を中断した後も、スクリーンから目を離す者は誰一人いない。

 これから、ダンジョン内での野宿の仕方を教えてくれる。


 ……そう、最後の英雄が。


 トレンドでは、“野宿”がトレンド入りをしており、皆んながダンジョン野宿に興味津々であった。


 そんなダンジョン野宿の様子を遠巻きに観る者が一人。


 黒いフードから冒険者を思わせる。

 フードの影から覗く瞳は赤く、猛禽類を思わせる。


「ねぇ、お嬢ちゃん、今暇ー」


 少女は舌打ちをする。


「ねぇ」


 少女はすっと顔を上げて、絡んできた男を一瞥した。


「選択肢を上げる。死ぬ? それとも、死ぬ?」

「は」


 男の首が無くなる。

 周囲で悲鳴が上がった。


「私の名前は工藤麗華(くどうれいか)。あの人と違って怒りっぽいから、気をつけて」


 ため息をついて、その場を後にする。

 周囲にいた冒険者達すら、恐怖でその場を動かなかった。ただ、麗華の背中を見つめることしかできなかったのだ。

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