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34話 何者

 レイヴィスはカフェでココアを口にした。

 甘さが口に広がり、疲れた心を癒やしてくれる。体も温まり、荒れた心を浄化してくれる。


「美味い」

「それ、美味しいの?」

「うん」


 哀奈(あいな)は残念そうに俯いた。


「生きてた頃に飲んだでしょ」


 哀奈は首を横に振った。

 あまり、裕福な生まれではないのかもしれない。


「いつか、飲めると良いね」

「飲める、かな?」


 レイヴィスは頷く。

 情報屋の言葉が正しいのなら、哀奈が死ぬ前に【ループ】するはずだ。

 そうすれば、哀奈は生き返る。ただし、レイヴィスは哀奈に【記憶保存】を施すつもりはなかった。


 再び“ダンジョン”を攻略すること。仲間を失うこと。そして、自分も死ぬかもしれないこと。

 一度死んだ者は一生、死を克服できはしない。

 憶えていて欲しくない。死んだことも、悲しかった記憶も。たとえ、レイヴィスを忘れたとしても。


「レイヴィスは、好きな人いるの?」


 突然、そんなことを聞いてきた。

 レイヴィスはココアが気管に入って咳き込む。


「どうして」

「私、好きな人いたの」

「へえ。誰?」


 哀奈は俯いた。


「死んじゃった。私と、一緒に」


 オラシルは、もう一人も食べたというのか?

 心優しいはずの天使が、何故そんなことをしたのだろう?


「レオとね、話したの………」


 哀奈は空を見上げる。〈人間街〉の空は、裏町では〈中央街〉に次いで明るい。


「また、会えるかなって。天国で、また………。レオ、一人かなぁ?」

「一人じゃないよ」


 “ダンジョン”で死んだ攻略者と一緒にいるはずだ。


「私のこと、待ってるかな?」

「待ってないよ」


 レイヴィスは哀奈の頭の上に右手を置く。


「ずっと、ここにいなよ。面倒見てあげるからさ」

「………ん。レイヴィス大好き」


 エルフもリッチも、永遠の寿命を持つ。

 もし【ループ】が無ければ、ずっと一緒にいれたはずだ。


「それで、レイヴィスの好きな人は?」


 今まで無言だった宇宙(そら)が話を元に戻してきた。レイヴィスは内心で舌打ちをしつつ答える。


「堕天使共の恋愛事情には詳しいつもりだけど、私はしたことないよ。一方的にされたことはあるけど」

「つまんなーい」

「黙れ」


 哀奈は最近誰かに似て来た気がする。

 うん、気のせいだ。どうせ【ループ】で元に戻るさ。


「ただいま」


 ムルルが戻って来た。


「どうだった?」

「シムラトオルに接触した。あさってに、人間世界で会う」

「人間世界か。面倒な」

「【ミステイク】でも【透明】でも【ハイド】でも使えばいいだろう」


 レイヴィスは目を細める。


「“サバイバー”と、話がしたいんだけどな」

「それよりも前にシムラトオルだ。あの男は【神速】を持つに値する」


 ムルルが目を輝かせていた。


「素晴らしく強いぞ。なぜアレが攻略者ではないのか驚きだな」

「そんなに?」

「断言するさ。生身の肉体でありながら、アレは“サバイバー”よりも強い」


 レイヴィスは考える。

 そのシムラトオルが、二周目でどのような役割を持つのか。


「哀奈」

「何?」

「哀奈は、生き残りたい?」

「…………【ループ】の話?」


 哀奈は真面目な顔になる。


「私は、死んでもいい。もう一度、レイヴィスに会えるなら」

「そっか」


 レイヴィスは微笑む。

 もう、仲間との再会は諦めたのだろうか。仲間が、敵だと理解したから?

 きっと違う。仲間よりも大切なものを見つけたのだろう。


「私、役に立ちたい。レイヴィスの、役に」


 不安そうに見上げてくる瞳をレイヴィスは真っ直ぐ見返した。


「もし、哀奈が本気で望むなら、どんな夢でも叶うよ」

「ほんと?」

「諦めないで願い続ければ」


 叶わないとわかっていながら願い続ける夢は、儚く脆いものでしかない。そんな夢でも信じ続ける者が、最後に勝利を手にする。


「さて、ムルル。これからどうする?」


 あさってまでには時間がある。


「ちょっといいか?」


 不健康そうな男だった。

 隣には獣の耳と尻尾を持つ亜人と、金髪の女。そして、吸血王ザザバラ。


「久しぶりね、ザザバラ」

「貴様が、アルスの言っていたエルフか?」


 この前の“サバイバー”のことだろう。


「聞きたいことがある」

「その前に名前を聞いても? 私はレイヴィス。リッチの哀奈。スライムの宇宙。ペットのムルルよ」

「ペットって言ったか?」


 男は哀奈を見て目を見開いた。金髪の女も同様に驚きを隠せない様子だった。

 男の顔が歪む。


「貴様! この子をどこで、どうやって!?」

「〈暗所街〉で拾ったの。まさか、死体を改造したなんて考えてる?」


 残念ながら、レイヴィスにはそんな趣味はない。

 アンデットを作れないこともないが、好き好んで死体イジりをするのは“死”の属性持ちだけだろう。

 例えば、目の前のザザバラのような。


「哀奈のこと、知ってるの?」


 男は哀奈の首元の傷跡を見て顔を顰める。


「知ってるさ。オラシルはどこだ?」

「知らない」


 レイヴィスはとぼける。

 嘘ではない。オラシルがどこにいるのかについて詳しく知っているわけではないのだから。


「………俺はヒビキカナデ。こっちはルヴとフランソワだ」

「ヒビキ、カナデ? フランソワ………」


 哀奈は顔を顰める。思い出せないのか。

 もしくは、あまり接点がなかったのだろうか。


 違う。


「ラグナロクも、仕事くらいするのね」

「あ?」


 ヒビキがラグナロクという名前に反応する。


「ラグナロクを、知ってるのか?」

「有名天使でしょ」


 やはり、ラグナロクと“サバイバー”は敵対しているらしい。面白いことを知れた。

 つまり、哀奈をアンデットにしてレイヴィスの元に送り込んだのも、全てラグナロクの計算通りということだ。


「あの腹黒天使とお知り合い?」


 レイヴィスは笑いを堪えて言う。

 ザザバラの態度が急に悪くなった。


「楽しそうだな、お前らは」

「ザザバラだって」


 不機嫌そうに鼻を鳴らすザザバラに哀奈は思わずレイヴィスの後ろに隠れる。


「な、何しに来たの?」

「そりゃ、もちろん」


 ルヴが飛びかかる。

 ムルルが無造作に飛び立った。


「殺しにだよ」

「ムルルルッ!」


 加速する。

 刹那、ルヴを咄嗟に庇ったザザバラの身体が真っ二つに割れた。


「弱い亜人だ。そんなものを庇っていては、オレ達には勝てないぞ」

「どうかな?」


 すぐに再生を始める。

 哀奈は顔を顰めて、ヒビキに舌を出す。


「あっち行って!」


 ヒビキは無言で腰の剣を抜いた。


「そうだな。お前を唆す堕天使共を殺してから、お前もあの世に送ってやるよ!」

「【透明】!」


 哀奈の姿が消える。


「そのまま! 宇宙、人間世界へ!」

「了解」


 宇宙と哀奈が離脱する。

 ルヴが低く唸って飛び出そうとした。


「【ダンジョン】」


 世界が変化する。

 ザザバラが舌打ちした。


「このクソババア………!」

「逃がさないし、追わせない。誰に喧嘩売ってるのか、ちゃんとわかってもらわないと」


 ザザバラが微かに震えた。

 ヒビキはそれを見て舌打ちする。


「レイヴィス、お前は何者だ?」

「英雄だよ。昔々の、お伽噺だけどね」


 レイヴィスのスキル【ダンジョン】は〈人間街〉の一部を文字通りダンジョンへと変化させた。


 一面の青空。

 頭上も、足元も。

 空の青と、雲の白しかない。


 “創造”の属性であるこのスキルは、創造神からしか貰えないスキルである。


「何故お前が、“ダンジョン”を創った神と同じスキルを」

「そんなの簡単だよ。私が、神だ」


 わざとらしくドヤ顔になって人差し指を空に突き出した。ザザバラが舌打ちする。


「テメェ、俺を舐めてんのか?」

「舐めてないよ。そんな変態じゃないからね」

「舐めてんなぁ?」


 レイヴィスはドヤ顔をやめて、ムルルを優しく撫でる。


「私は、ただの英雄。名もない、ただの英雄」


 レイヴィスは何度も同じことを繰り返す。

 彼女は、ただの英雄。スキルを多く持ち、長生きで、少し強いだけの。


「冒険は好きか、少年?」

「大嫌いだ」

「そう。私達、仲良くなれないね」


 それが、始まりの合図だった。

 両陣営が初めて正面衝突することとなる。

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