3話 集合と邂逅
「キュイッキュイ!」
リヴァドラムは上機嫌に私の後ろをついてくる。
駅に着くと、興奮した声やシャッター音、小さな悲鳴やコソコソ話が聞こえて来る。
最近現れたダンジョンにおいて、モンスターは倒すものでありテイムの概念はあまり主流ではない。
法律では、既にテイムしたモンスターは危険はないとされており、公共の場でも連れ歩いて良いということにはなっている。
ドラゴン系統最上位種の一体であるリヴァドラムは、テイム最前線を独走しているようなもの。
こうして公共の場で連れ回しているのが私ではなかったら、まず間違いなく人が食べられている。
「リヴァドラム、人様に迷惑かけないでね」
「キュー!」
私はリヴァドラムを抱っこして電車に乗る。
こういう場所にも、小型のモンスターなら一緒に入れるのだ。
「目的地、遠いね。自力だし、自費だし」
「キュー?」
すると、隣の女子高生達が私に声をかけて来た。
携帯を握って興奮している。
「あの、もしかしてクエスト参加の冒険者さんですか?」
「まあ、そうですけど」
「その子、可愛いですね。触っていいですか?」
「いい?」
「キュ!」
リヴァドラムはヨシヨシされて目を細めている。
女子高生達も黄色い声を上げていた。
「写真撮って投稿していいですか?」
「私の顔を映さないなら。いいよね?」
「キュイ」
おそらくよく理解はしてないだろうが、あとでお菓子でもあげたらいいだろう。
別に、超可愛いだけのただの最凶竜だし。
「ランクは? ネームは?」
「ねーむ?」
私は認定書を思い出す。
確か、十二勇者は絶対本名だった気がする。
「秘密で」
「えぇー!?」
一斉に残念そうに声を上げるJK達。
このノリ慣れないんだよなぁ。
「名もない冒険者に慈悲をくれますか? 誰それ知らないなんて言われるの嫌じゃん?」
「まぁ、確かに」
納得されてしもうた。
ちょっと傷ついたかもしれない。
「武器は? スキルは?」
あ、まだ続くのね、これ。
「今回は弓を、スキルは内緒。一流の冒険者は手の内を明かさないものなの」
十二勇者のほとんどはスキル公開してますけどね。
私の教え子である響木奏を除いて。
「弓? 聞いたことない」
「皆んなは、学校サボってクエスト観戦?」
もう高校密集地帯の駅を過ぎてしまっている。
そうなれば、考えられる可能性は一つ。
「はい! 活躍楽しみにしてます!」
「あはー………ありがとう?」
「キュルー」
リヴァドラムは嬉しそうに、尻尾を揺らした。
女子高生と別れて、クエスト受付まで行った。
グシャグシャの認定書を見せれば、その場でカードを作ってくれるはずだ。
「カード作ってくれます?」
「いいですよ? 認定書は?」
「どうぞ」
受付はリヴァドラムを警戒しながら、グシャグシャの認定書を受け取り、顔を顰めた。
そして、ランクを見て赤くなり、やがて青ざめる。
世はまさに、大百面相時代なのかもしれない。
「工藤優希様。少々お待ちください」
震えた声で受付はそう言うと足早にその場を離れた。
裏の方から奇声が聴こえたのは、気のせいだよね、多分。
しばらくして、受付が戻って来ると無色透明のカードが渡された。
これは、テレビでも見たことがある。
S級冒険者のみが所有する、S級カードだ。
「ほほぅ、綺麗ですなぁー」
「キュルー」
私は受付を見てから微笑む。
「ありがとうございます」
「キュー!」
「いえいえいえ! 仕事ですのでヨッシャー!!!!」
マジでなんなんコイツ。
おかしいだろ。
「じゃ、行こっか」
「キュー」
私はカードを持って、クエスト参加者集合場所へ向かう。
カードを見せると入場できる仕組みで、入場の様子は観覧者達のいる外の大スクリーンに映し出されるみたい。
「入場しまーす」
「はい…………!?!?」
「あのー?」
「だ、だ大丈夫、でっす。ど、どぞー」
何度も見られて恥ずかしい。
そんなに見ないでくれ。外も騒がしいし。
「変だね、リヴァドラム?」
「キュー」
「一番変なのは優希だと思うけど?」
後ろから声がした。
響木はもうついていたみたいだ。
「普通ギリギリには来ないよ? 皆んな、最後の一人はビビって来なかったって馬鹿にしてたし、トレンドにも“最後ビビり乙”があったし」
「よし、リヴァドラム、究極のブレスをファイトいっぱーつ!!」
「やめて差し上げろ」
響木の軽い手刀を喰らって、私はため息をつく。
「早く来たって暇なだけじゃん? そんなことするくらいなら一分でも長く寝ようよー。そう教えたでしょー」
「最近になって、アンタの教えは半分がクソだと気づいて」
チッ。
私と同じダメ人間にする計画がおジャンになってしまっていたとはな。
「はい。約束の弓。これ、そこそこ高いから捨てないでくださいよ?」
「別に私は百均の包丁でも良かったんだけど?」
「政府のクエストに百均の包丁持ち込もうとするんじゃねぇよ」
響木は眉間を押さえて「昔みたいなノリになって来た………」とか言ってる。
「試しに一発撃っていい?」
「あー、あの的になら」
私は的を見る。
近くに人がいるなぁー。
「あのー、邪魔なんでどいてくれますー?」
一斉に視線が集まった。
コワモテのおじさんから、可憐な女の子まで、全員、例外なく。
「お前、誰だ? ネームは? ランクは?」
「ははっ。響木奏に優遇されてテングにでもなったのか?」
カッチーン。
私は弓を引いて容赦なく撃ち込む。
絡んで来た二人の間や、どかなかった冒険者の間をすり抜けて、的のど真ん中を射抜く。
「はじめまして皆さま、S級冒険者、工藤優希と相棒のリヴァドラムですー。喧嘩は買う派なので、返品して欲しいなら今のうちだぞゴラ」
「ヤクザやめろ」
冒険者の反応は二通りあった。
激昂する者と、青褪める者だ。
そして、私に喧嘩を押し売りして来た二人は前者だった。
隣で響木が南無阿弥陀仏を唱えているけど、あとで説教だな、私のことを奇行種扱いしやがって。
「はぁああ!!?? 所詮、スキル補正だろ!? 十二勇者のスキルが【必中】とかマジウケる!」
「はぁ?」
何言ってんの、コイツら?
【必中】は弓使いが憧れるスキルのひとつだが、最前線においては歓迎されないスキルでもある。
私は持ってない。
「弓使いの皆さんに謝れ!」
「そっちかよ」
私は弓の弦を鳴らしながらおじさん達を見る。
「私のスキルは七つ! これは、工藤優希七不思議の一つだから、あえて全ては教えないけど」
「そんな不思議があってたまるか」
「今使ったのは【念動力】のスキルだから! 【必中】なんてヤバいスキル、持ってないから!」
「「……………はぁ?」」
【念動力】は物を浮かせたり、動かすだけのスキルだ。
上位者になると、物を高速で飛ばしたり、圧力をかけたりできる。
しかし、基本的に自分の体重の半分以下の重さしか浮かせられず、モンスター相手には雑魚スキルとして有名だ。
私はそんな【念動力】で矢の威力をそのままに少し操作して的の真ん中を射抜いた。
【必中】なんて持ってたら、私はもっと自信を持てたのに。
「てか、スキル七つ? 間違いなく、十二勇者最多じゃねぇか………」
「【念動力】? 使ったスキルが………?」
他の冒険者もざわついている。
「さて、喧嘩はどうする?」
「返して! 俺らの喧嘩返して!」
「よろしい。次は貰うから」
「喧嘩って返せるの?」
響木がポツリと呟いた。
政府のお偉いさんが来るまでの少しの間で、エゴサをすることにした。
やっぱり気になるもんね。
トレンドには、“最凶冒険者爆誕”、“喧嘩返してください”、“工藤優希”、“七不思議”、“小竜”、“最後の一人”などが入っていた。
「てか、“喧嘩返してください”って何?」
「いろんな人が、遅刻した優希のことビビりだって煽ってましたからね」
そしたら、集合時間ギリギリに来たあげく、スキルが【念動力】だったという………。
「ガッカリしたわよね、スキルが【念動力】じゃ」
「いや、寧ろ想像の斜め上に行ったと思うけど」
「キュルー」
次は呟きを見てみよう。
まずは、私が喧嘩を買ったシーン。
《え、ちょっとw》《ヤクザなんだが》
《スキル【念動力】マ?》《やってることがプロw》
《これは雑魚スキル持ちとして勇気貰える!》
《工藤さん、マジぱねぇ!》《コイツが最凶w》
《“なんでダンジョン攻略してなかったのか”を七不思議に追加してくれ》
「なるほどなるほど」
続きまして、リヴァドラム。
《マジかわよ》《あの後ろの子が気になって気になって》
《というか、行きの電車で触った》《可愛かったー》
《工藤さんより推せる》《羽根あるの可愛い》
《てか、ドラゴン系統連れてる時点で最凶》
《あのドラゴン、光の属性っぽい》《みたことない》
「キュル!」
リヴァドラムも話題にされて嬉しそうだった。
ちなみに、電車で撮られた写真は凄い勢いでバズっていた。
最後に全体の反応。
《可愛いからライバーになってくれ》
《これからのクエスト観戦、工藤さんから目が離せんw》
《他の冒険者が影過ぎるw》《周りがただの雑魚だった》
《デブスかもとか言ってごめん。喧嘩返してくださいw》
《ディスってた奴ら、見ろ、この可愛いご尊顔を》
《小竜と英雄って、未だかつてこんなコンビがあっただろうか》
「ま、最後の一人なら皆んな注目して当然よね」
「そっすね」
響木がめっちゃ棒読みだけど、この際ツッコむのはやめよう。私の仕事じゃないし。
「皆さん! 今回は集まっていただきありがとうございます! これより、ミーティングを始めますので、ご清聴のほどよろしくお願いします」
政府の人が来たみたいね。