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20話 案内の猫又

夏休み満喫してましたー!

 三毛猫は体を膨らませた。

 緊張で毛が逆立っている。


「アンタ、緊張してるの?」


 同僚の黒猫が近づいて来た。

 そんな彼女も、尻尾がパンパンに膨らんでいる。


「来るだろうか」

「大ボスが“来る”って言ったんでしょ」

「そうだが」


 足音が近づいて来る。

 二匹は立ち上がった。


「「ようこそ、終焉の森へ」」


   ☆☆☆


 私は“Japan008”のある田舎へやって来た。

 小さな女の子が「ゆっこゆっこ」と泣きながら歩いて来た。

 女の子が持っていた写真の猫に見覚えがあった。


「その猫……」


 いつぞや、挑発に来た三毛猫だ。


「ゆっこ、ダンジョンのおばけになっちゃった……」


 花鹿が進化させた可能性が高い。

 そして、敵対する可能性も、高い。


「ごめんね。私、ゆっこを連れて帰れる自信ないの」

「う?」

「ごめんね」


 私達はダンジョンへ向かう。

 これから、一体誰が死ぬというのだろうか。



 “Japan008”は静まり返っていた。

 どういうわけか、モンスターも全然いない。


「森が進化したタイプのダンジョンだと聞いていたが……広いだけで階層はないようだな」

「そうね………」


 ブライトの発言にアナスタシアが頷く。


「っ!」


 誰かの足音が近づいてくる。

 まさか、敵!?



「「ようこそ、終焉の森へ」」



 猫又だった。

 ゆっこと、黒猫。こっちは知らない。


「我が主の元へ案内しよう」

「それは、“二周目のサバイバー”?」

「違う。それは、ボスだ」


 三毛猫は尻尾をユラユラと揺らす。

 余裕たっぷりに見えて、彼らは私達よりも弱い。


「ちなみに、ここで私達を殺すとダンジョンから出られない仕組みになってるわ」


 黒猫はこちらの考えを先回りして言った。

 ブライトが舌打ちする。


「君たちが敵ではないという保証は?」

「敵よ。ただ、攻撃しないってだけ」


 黒猫は冷静だ。

 おそらく、足は私達より速いのだろう。

 耳も警戒したようにピクピクと動いている。


「案内してもらいましょう」


 私は意を決して言う。


 どちらにしろ、ダンジョンは1階層しかなく、とても広くて、迷路みたいになっている。

 もしかしたら、ボス部屋らしいボス部屋もないのかもしれない。


「いい判断ね。助かるわ」


   ☆☆☆


 “Japan008”の入り口には多くの記者達がカメラを向けていた。

 聞こえるのは、森の中にいる鳥のさえずりだけだ。



「あ、ここか」



 黒い翼を隠す気の無い“異形”がやって来た。


 そのモンスターを彼らは知っている。


 “ダンジョン”第六十六層ボス、堕天使ルシファー。



「うわぁ、どうして、私がこの人の引率に………」



 隣で死んだ魚の目をしている人物は、元“ダンジョン”冒険者、工藤麗華(くどうれいか)

 今は、吸血王ザザバラの嫁として、危険視されている“モンスター”だ。



「い、いやぁあああああああ!!!!!」



 記者の一人が発狂した。


 ダンジョンの外に、“ダンジョン”のボスがいるという事実。

 しかもそれが、最凶のボスだということ。



 しかし。



「やめなよ、みっともない」

「全部アンタのせい!」


 緊張感の無い二人はごく自然体だ。


「い、ああ、う、ぁ」

「もう、うるさいなぁ。三頭犬(ケルベロス)

「な!?」


 記者が凝視する。


 “ダンジョン”第三層ボス、ケルベロス。


「不思議? ねぇ、ボク、気になるんだけどさぁ」


 ルシファーがニヤリと笑う。


「子供達が帰って来たら、君たち皆んな、死んでるの。どんな顔するかなぁ?」


 ケルベロスは唸り声と共に、涎を垂らしている。

 その様子を、麗華は静かに見つめていた。


「いやぁ! たすけ、」


 ケルベロスが頭を砕いた。


 記者達が一斉に走り出す。


「ほら、レイカ」

「…………【不滅牢獄(ダークプリズン)】」


 知らないスキルだった。

 工藤麗華は、そんなスキルを持ってはいなかった。


 記者達は、一定の空間から逃げ切れなくなる。

 辛うじて範囲外だった者達は、後ろを振り向かずに走って去って行く。

 怒号と悲鳴が飛び交う中、ケルベロスが一人ずつ丸呑みにしていく。



「スキルの再取得なんか、できるわけ………」


 一人の記者が泣きながら呟く。


「できますよ」


 麗華が記者に答える。


「私達は、()()()もかけて見つけましたけどね」

「は?」


 麗華は倒れていたカメラを起こす。

 今頃、配信が行われているのだろう。


「これです、ルシファー」

「ふぅん、その黒いのが?」


 ルシファーはカメラを立てると、レンズを覗き込んだ。


「ボクらは神を認めない。ボクらはただ、あるべき世界を創り出す」


   ☆☆☆


 三毛猫と黒猫は仲良しらしい。

 今も、和気藹々とお喋りしながら案内してくれている。


「それで、鰹節は手に入ったの?」

「この森、そんなんいないんだよ、シチューの鶏肉はあるのに」


 ツッコミ所満載過ぎて会話にはついていけないんですけどね。


「ねえ、花鹿のいる場所って遠いの?」

「「…………………」」

「あの」

「先に言うけど、怒らないでね」

「うん」

「迷った」

「は?」


 案内役、間違えてませんか?




 その日は野宿することになった。

 緊張感がない。

 夜の間に、黒猫が知っている道を探して来るらしい。


 黒猫が迷子にならないことを、祈るばかりである。


「ごめんな、飯はこれでいいか?」


 ウサギ系のモンスターを十匹匹程と、近くの野草、それから野生のカレールーを持ってきてもらった。


「いや! 野生のカレールーって何だよ!!」


 今まで緊張した様子で黙りこくっていた琴音(ことね)がようやく口を開いた。


「“Japan008”は食材ダンジョンとも呼ばれていて、モンスターも弱いことから、キャンプ地としても人気だったんです」

「けれど、花鹿の出現で一気に広さが増加して……。さっきの猫又みたいな野生動物が進化した強いモンスターも現れてですね」


 森がダンジョン化したというよりかは、近くのダンジョンに飲み込まれた、ということか。


「というか、君だれ?」


 琴音の隣にいた目つきの悪い少年は、鉄パイプを背中に背負って、不良少年みたいになっている。

 愛想も悪そうだし、隣にはダイアウルフの子供が寝そべっていた。


「B級冒険者のオルトです。今回は、琴音に誘われました」

「友達?」

「まあ、学校の同級生です」

「仲良いの?」

「仕事柄、放課後とか都合つくので活動してるだけです。学生冒険者ではあるあるだと思います」


 琴音と初めて会ったあの政府のクエストにはいなかったけどな。


 オルトは心を読んだように言う。


「あの時は、コイツの健康診断があって」

「わふ」


 ダイアウルフは尻尾を振る。


 氷を操るフェンリルとは違い、ダイアウルフは進化によって派生する狼モンスターだ。

 基本的に、人の手で進化先をいじることはできない。


 ダイアウルフは魔力を捨てて身体能力を底上げしたパワー系も存在する。

 ゴブリンライダーが乗っているダイアウルフだね。


「珍しいね、テイムだなんて」

「話せば長いんですけどね」




 美雨(メイユイ)の声が響く。


「ご飯できたヨ!」


 皆んな重い腰を上げてカレーを注ぎに行った。



 カレーを食べていると、黒猫が戻って来た。


「どうだった?」

「見つかったわ。今度は迷わない」

「ふう、これ、怒られるよな?」

「主は怒らないわ。怒るとしたら、ボスね」


 怖いのかな。


 オルトは食器を置いて私を見た。


「ぶっちゃけ、今回の攻略ってキツいんですか」

「………さあ、花鹿の考えていることがわからない」


 間引きなら、生き残る人は最初から決まっている。

 花鹿が無差別に人を殺すとは考えられない。

 つまり。


「あなた達は生き残れる………と、思う」

「なぜ?」

「花鹿の狙いは、外国なんじゃないかな」



 花鹿は、無意味なことはしない。

 プロセルは言った。“二周目のサバイバー”は、私を助けたかった。否、取り戻したかったのだと。

 つまり、私は死なない。


 そして、フェンリルがアナスタシアを殺さなかったことから、アナスタシアも除外。

 フランソワ、謎の透明人間、そして、麗華。

 彼らの目的も不明だ。


「響木が、わからない」


 ノーマーク、という言葉があっている。

 いや、アナスタシア以外も似たようなものか。


 もしくは、私との親密度が関係するのか?

 だとすれば……。


 私はとある方向を見る。


 林小龍(リンシャオロン)

 彼は確実に殺される。

お陰様で20話を待たずして1万PV達成しました!

いつも読んでくださる読者の方々、ありがとうございます!

これからもよろしくお願いします!

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