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16話 トムとジェリーとオマケの配信

「と、いうわけで! やって来ました“Japan053”!」

「いやいやいや! “Japan008”はどうなったんだってばよ!」

「オタクは黙ってなさい」

「ひでぇ!」


 私はアナスタシアと配信をすることになった。どうやら、初の一人配信にて案件配信をすることになってしまったようなのだ。

 S級冒険者がせっかく集まったので、是非我が社の冒険道具を紹介してくれとアナスタシアから頼まれたのである。

 ちなみに、琴音(ことね)は来なかった。「恐れ多いです」なんて言ってたかな。


《チャンネルできたから見に来れば》《S級配信してて草》《他の配信の先を行く》《レオとかいう一流ライバーとコラボしていくスタイル》


「レオ? あぁ、いたね」

「『いたね』じゃねーよ! 誘って来たのそっちだろ!」

「まさかOKだとは思わなくて」

「悪かったなOKで! 断れば良かった!? 今すぐ断ってやろうか!?」


《レオがツッコミなのね》《ていうか、皆んなレオとコラボすると敬語なのに》《これがS級かぁ》


「ターシャもなんか言ってくれよ!」


 アナスタシアを愛称で呼ぶのはもっぱら男性陣である。お金持ちのお姫様ポジションなのよね。というか、長い名前が嫌なだけだと思う。


「レオ? あぁ、いましたね」

「俺、泣いていいよね?」

「泣くなら一人で。面倒なので」

「面倒な俺を誘ったのはそっちだろ!?」

「あなたが画面に映るとお金になるので」

「冗談でもそこは『レオと配信したかったので』って言ってくれよ!」


《完全に遊ばれてて草》《アナスタシアさん塩対応すぎ》

《メディア相手じゃ愛想振りまいてんのな》《ちょっと、口悪過ぎじゃね?》


 私はアナスタシアに集まる批判的なコメントに対して、やんわりと補足する。


「アナスタシアは慣れるとこうなの。いつも気を張ってるんだから、私達といる時くらい砕けてたっていいじゃない」

「そうだぞ。正直、俺も敬語使われるよりこれくらいテキトーに扱われた方が気が楽だ」


 アナスタシアはチラリと私とレオを見ると少しだけ微笑んだ。


「なら、もっと適当に扱いますね」

「うん。悪魔」



 “Japan053”は未だにボスが討伐されていない難易度お高めのダンジョンである。

 それをさくっと攻略するというのが、今回の配信のコンセプトだ。リヴァドラムもいるし、前衛後衛もしっかりしてるから大丈夫でしょ。

 他の皆んなは秋葉に行ったからなぁ。


「にしても、レオはよく来たね。皆んなと秋葉行きたくなかったの?」

「行きたかったけど……」


 レオはチラリと私を見る。そして、すぐに目を逸らした。アナスタシアは無言でARマシンをいじっていた。


「そういえば、そのマシンってバーベリ財閥が開発したんだよね?」

「ええ。便利でしょ?」

「確かに便利だが、こんなんでクールタイム測ってたらいざという時に死ぬぞ」

「そうね」


 ボス戦では何が起こるかわからない。もしARマシンが壊れてクールタイムがわからなくなった時。慣れていない冒険者は自分の可能性がわからなくなり、死ぬ。

 慣れていれば問題無いんだけどね。


「にしても、琴音も来ればなぁ」

「知らんかもだが、平日だからな?」

「でも、同接の数凄いよ?」

「そりゃ、S級配信だし……」

「キュア?」


 リヴァドラムも不思議そうに首を傾げる。リヴァドラム用のARマシンはなく、羨ましそうにしてるけど、心を鬼にするしかない。

 リヴァドラムがマシンを持ってたって猫に小判、馬の耳に念仏、豚に真珠、竜にARマシンになってしまうのだ。


「キュ?」


 また首を傾げる。あー、可愛い。


《てか、日本の冒険者が討伐できてないボスを、たった三人で突破できんの?》


 そんなコメントがきた。

 アナスタシアは無言でスナイパーライフルを撫でる。


「この配信は、いかに我々が最強かを教えるためのものです。指を咥えて見てなさい」

「もっとオブラートに包んで差し上げろ」


 私は微笑みながら、コメント欄を見る。


「ま、大丈夫大丈夫! 所詮、A+ランクが一体だけでしょ?」


《ところで、その大荷物はなんなの?》


 私達は顔を見合わせる。


「それはねー、内緒♪」


   ☆☆☆


 B級冒険者の琴音こと、琴村音々(ことむらねおん)は、その配信を観ながら弁当をつついていた。

 ライバーは顔も晒す。お陰で音々が冒険者だということは学校中にバレている。


 今までは陰キャとしてクラスの影に潜んでいたが、優希(ゆうき)とコラボしてからは下心丸出しの連中に絡まれるようになった。


(やっぱ、頭おかしいわこの人………)


 音々は唐揚げを口の中に放り込む。


『琴音も来ればなぁ』


 クラスの視線がチラリとこちらを向くのがわかった。音々は後ろを軽く睨んで再び視線を戻す。

 サポート職のくせに単独でライバーをしている琴音は、正直いつ死んでもおかしくないとまで言われてきた。


 かつて所属していたパーティーは、サポート職なんかいても金の無駄だと言って琴音を追い出した。

 数ヶ月後にダンジョンで全滅したと聞いたときは、流石に同情した。馬鹿が無理するからだ、と。

 金をケチって、命を落としたのなら意味がない。


 その分、音々は賢く生きてきた。

 今だってそう。S級冒険者に取り入ってチャンネル登録者を増やして、お金を稼いで……。悪いことをしているはずなのに、息が詰まるようだった毎日が、こんなにも楽しくなるなんて。


《琴音:今度は配信行きます》


 コメントを見つけてくれたのか、優希の表情が明るくなる。


『ありがとう琴音! 勉強ガンバ!』


 琴音は微笑む。

 政府の依頼を気まぐれで受けたのは、正解だった。


   ☆☆☆


 ボス部屋まで来た。


 中にいたのは、ミノタウロスとその子分と思われる牛達だ。


「ミノタウロスA5和牛」

「周りの牛、国産和牛」

「了解。脳を狙う」


《おい》《参考にならねぇw》《もう食うことしか考えてないやん》《一度言ってみたいわ、こんなボス戦のときに》


 私達はそこでARマシンを取る。

 コメント欄が見えなくなるが、今頃大慌てでしょうね。

 牛が突進して来る。


「リヴァドラム!」

「キュウ!」


 リヴァドラムが【ブレス】を吐く。

 牛の前方にクレーターができて、そこに牛達が滑るように集まった。そこにレオが突っ込む。


「【連撃】!」


 【連撃】は剣術スキルで、本人の度量と体力の限り、強化された剣技が連続で打てるというもの。

 レオの場合、ほぼ無限に続く。


 牛はいい感じに、解体されていた。

 戦闘用の剣で解体するあたり、さすがだわ。


「サポート!」

「了解」


 私はミノタウロスに突撃する。

 肉をできるだけ傷つけないよう、剣を振るう。


「【威圧】!」


 【威圧】は珍しいスキルではない。自分よりも弱い相手を威圧して、動きを止める。実力差が開けば開くほど拘束時間は長くなる。

 自分より強い相手に打つと怒らせることがある。スキルアップをすると、ある程度強い相手もビビらせることができる。


「【流星弾】」


 巨大な光の弾がミノタウロスの頭を撃ち抜く。

 勝負あり。




「いっただっきまーす!」


 あらかじめ用意していた荷物から、机と椅子、料理道具を取り出して料理をした。

 ステーキ、ハンバーグ、牛丼、ハンバーガーなどなど。


「キュア!」

「いただきます」

「いただきまーす」


 アナスタシアは優雅に、リヴァドラムとレオは豪快に食べる。

 私はハンバーガーを口に含む。レタスやチーズとよく合う。さすがA5わぎ……ミノタウロスだ。


「日本に来たからには、A5和牛を食べてみたかったのです」

「いやー、琴音にミノタウロスのダンジョン教えてもらえてよかったよー」

「ついて来てよかったー」


《美味そう》《まさか、ここに来たのって》《準備よすぎ》

《完全に確信犯じゃねぇか!》《確信犯で草》

《琴音:ちょっ、聞いてないです! お土産を所望します》


「仕方ないなー」

「手伝います」

「俺味見係ー」

「駄目、味見はリヴァドラム」

「キュー」

「お前は雑用です」

「もう名前すら呼んでもらえない……」


   ☆☆☆


 音々はお土産にもらったメンチカツを見る。

 わざわざS級冒険者三人がうちに来て、お礼を言って帰って行った。


 一口かじる。


「美味しい………」


 音々は目を細める。

 今度は別のダンジョンを教えてあげよう。今度こそ、一緒に連れて行ってもらうのだ。

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