14話 キングスライム
「レオ、久しぶり!」
「ユウキ」
私を見て、レオは頬を緩める。
「変わらないな」
「そっちは、ちょっと背が高くなったわね」
「ちょっとじゃないだろ」
レオは私にデコピンをした。
「よし、全員揃ったな。早速、案内してくれ」
一斉に皆んなの目が琴音に集まった。びくりと震えた琴音の肩を、私はトントンと叩く。
「行きましょう。私が案内する」
「ふん。臆病者か」
カナが琴音から興味を無くしたみたいだ。
報道陣と観衆が集まる“Japan001”で、S級冒険者が六年ぶりに集まった。
そして、ライバーの琴音、吸血鬼の麗華、反転竜リヴァドラム。
「負ける気しないなぁ」
「で、でも百人で挑んだ相手ですよね?」
「大丈夫大丈夫。あの頃と違ってスキルも進化してるし」
「装備も強いしー」
リージェットがうんうんと頷く。
「それじゃ、行くぞ」
フィリップの声に皆んなが動き出した。
☆☆☆
キングスライムは扉の方を見た。
「懐かしい、光景ダナ」
「話せたのかよ………」
一番大きい人間が言った。
よく見ると、ザザバラの嫁もいる。どうやら、協力しているらしい。
「ようやく、ようやく逢える」
忘れられない、あの人に。
「そっか、罪人なんだ、堕天使っていうのは」
小さな教会に信託をしに行った時だった。彼女に会ったのは。
そこの一人のシスターは、司教もいないような小さな教会で一人で祈りを捧げていた。
村が疫病に合い、救いを求めていたので慈悲深いキングスライムの神が信託を下したのだ。
《堕天使を見たことが?》
「あるよ。遠くからだけど」
シスターは寂しげに笑った。
視線の先には、地面に寝かされ布をかけられた大量の村人がいた。
「願っても、祈っても、もう帰ってこないんだよね」
《残念だが》
「天使様が気にやむことじゃないわ。疫病を流したのは、悪魔だから」
天使も悪魔の仲間だと、誰が言えるだろうか。堕天使と天使に何の違いがあるのだろうか。
プロセルはシスターに告げる。
《疫病は時期に治まる。もう少しの辛抱だ》
「ありがとうございます、天使様」
シスターは静かに手を合わせた。
「嘘吐き!」
村は崩壊した。
疫病は蔓延し、村人は全滅。最後に残ったのは、神の加護を持つシスターだけだった。
神はそんな彼女を可哀想に思って新たな信託を下した。
《だから、神は慈悲深く、其方を天使に》
「同情なんていりません! 皆んなを返して!」
プロセルは目を伏せた。
どうして、自分は何もできないのだろうか。どうして、神は信託を誤ったのだろうか。
そうか、自分が、“繁栄の天使”だから。
病が、繁栄してしまったに違いない。
《スマナイ》
「天使さん?」
負の感情に染まった天使は悪魔と化す。そんな噂を、聞いたことがある。
《プロセルは優しいね。きっと、これから素晴らしい時間を長く長く、過ごすのだろうね》
天使は嘘吐きだ。
《い、いやだぁ、化け物になんか、ナリタクナイ!!》
同情なんて、しなければ。可哀想だなんて、思わなければ。淡々と仕事をこなせば。それは、どれだけ、楽で、幸せで、悲しいことだろうか。
「天使様! 私は大丈夫だから! だから、私に!」
「いやダァ、いやダァ、俺ハ化け物なんかニハナラナイぃい!」
翼がドロドロに溶ける。
体も、目も、耳も、全て溶けていく。
「大丈夫、大丈夫! ずっと、一緒だから。天使様は、天使様ですから!」
堕天使よりも酷く、醜い存在。
彼女も、溶けていく。
「ヤメロぉお、離せェエ!!」
ダメだ。触ってはダメだ。
ずっと一緒にいるのなら、決して自分に触れてはダメだ。
“繁栄の天使”のスキル【増殖】が発動する。
スライムになった彼女を【暴食】で取り込んだ。
今はどこにいるのだろう。
一人で彷徨い、そして、信託がおりた。
《“ダンジョン”に人を送り込む。それを阻止すれば、お前の願いを叶えてやろう》
神の声は完全にかつての下僕であったプロセルを見下していた。
それでも、彼女に会いたかった。
食べてしまった親切な人たちを、ちゃんと送ってやりたかった。
「優しいのね」
違うよ、リリスカルラ。
俺は卑怯な奴だ。綺麗事を並べて、満足しようとしているだけなんだ。
「一緒に食べるか?」
ありがとう、人は優しい。
かつての敵をこんなにも慈しんでくれるのだから。
「キングスライム、もう一度倒させてもらう!」
大きな人間が叫んだ。
そこにかつての殺意はない。無力化して、話を聞こうとしている。
「俺に、触れるナァ!」
キングスライムは【酸弾】を飛ばす。
計画通り、羽虫のような“ドローン”とやらを破壊した。
☆☆☆
ドローンがドロドロにされるまで、あっという間だった。やはり、“二周目のサバイバー”について知っている!?
「っ!?」
【酸弾】が飛んでくる。
私達は四方八方に飛び散り、それらを回避する。
やはり、友好的ではない。
「触るナァ。触ると、またいなくなるンダ……。取り込んで、皆んな俺になるんダ」
「落ち着け、キングスライム!」
響木が叫ぶ。
そうだ、目的は殺すことじゃない。なんとかして、話せる状態まで。
「リヴァドラム! 【反転】!」
「キュイ?」
一回試してみよう。
キングスライムを【反転】させるとどうなるのか。
「キュイ!」
リヴァドラムはキングスライムに向かって突っ込む。
リージェット、レオ、響木、そして私が後に続く。
「サポートします! 【アップステータス】!」
「【神秘ノ光】!」
麗華と琴音のサポートスキルが私達にかかる。
【酸弾】でのダメージや状態異常を気にすることはなくなった。
というか、琴音は【死線】以外サポートスキルなんだな。どうにかしてスキルを増やせないだろうか。
「キャルルア!」
リヴァドラムがスピードを落とす。
このままだと、スライムに抵抗される可能性が高い。
私達で動きを止める!
「皆んな!」
「OK!」
「了解!」
「はい!」
私は【ヴィクトリム】を抜く。
「【聖剣】!」
キングスライムが【分裂】する。
キングスライムは攻撃により、【暴食】と【分裂】を繰り返す。
かなり厄介な相手だ。今は巨大なビッグスライムだから、【聖剣】でバラバラにするってわけ。
そして、本体に【反転】を打ち込む。
「馬鹿が」
何千ものスライムにわかれた。
そして、本体がわからなくなる。
本来なら、魔力が異常に高い本体を見つけ出すのは容易なことだ。
「【増殖】です! 本体を量産してんだ!」
響木が叫んだ。
『大丈夫ですか!?』
ドローンが復活した。
というか、新しいドローンが急いでやって来たっぽい。
どうしたら。
「リーダー、指示を!」
フィリップは難しい顔でキングスライムを見る。
「逃げろ」「触れるな」「やめろ」「化け物には」「死ね」「なりたくない」「助けて」
「っ!」
私は部屋を見回す。
明らかに、キングスライムの声ではない。
まさか。キングスライムの罪って。
「師匠!」
私は我にかえる。
後ろに一匹のスライムがいた。
「やばっ」
直後、視界が暗くなった。
「誰?」
一人の女性がいた。シスターみたいな格好をしている。
「助けて、あげて」
「スライムを? 殺してじゃなくて?」
「優しい天使様なの。私のために、同情してくれた、優しい天使様なんです」
キングスライムを【反転】させて、元に戻る保証はない。それに、天使にしたら、スライムのスキルが使えなくなる可能性だってある。
それは、“二周目のサバイバー”にとって痛手ではないのか?
「どうか、助けてあげて」
☆☆☆
奏は優希を呑み込んだスライムを無視してリヴァドラムに叫んだ。
「突っ込め!」
「ギャ!」
一人と一匹でスライムの群れの中心を目指す。
「俺に触れるんじゃネェ!」
「見つけた!」
【アイテムボックス】からマスケット銃を取り出す。
周りのスライムを撃ち抜き、視界を良好にした。
「今だ!」
「キュイ!」
スライムが【反転】する。
直後、周りのスライムに変化が起きた。




