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11話 王と噂

タイタニックみたー?

「いらっしゃいませ」


 吸血王の従者がそう言う。

 この人達も天使なのだろうか。詳しいことはわからないが、敵でないことを祈ろう。


「会ってくれてありがとう」

「ふん。可愛い嫁の頼みは聞いてやらないとな」

「ありがとうございます、陛下」


 麗華(れいか)は吸血王ザザバラにそう言った。

 私ももう一度礼をする。


「キングスライムのことで、お聞きしたいことが」

「放っておけ。…………と言いたいところだが、貴様のペットの力が必要だな」

「リヴァドラムの?」


 ザザバラは迷うことなくそう言った。

 やはり、何かを知っているのか。


「教えて。どうして、キングスライムは復活したの?」

「………噂という名の真実がある」


 噂? 真実?

 王の発言とは思えない。


「あの“ダンジョン”の生き残りには、“二周目のサバイバー”がいた、と」


 私は目を見開く。

 しかし、それとこれとがどう関連するのかがわからない。隣の麗華は顔を伏せて黙っていた。

 もしかして、麗華は“二周目のサバイバー”について何か知っているの?


「奴は一周目の後の世界を、何年も過ごしたらしい」

「つまり、中身の年齢はものすごいことに」

「そうなるな」


 私は考える。

 頭の良さや言動で考えるのなら、第一候補はやはりレタンティオだろう。


「麗華は、知ってるの?」

「ええ、まあ。陛下に教えてもらって………」


 私は吸血王を見据える。


「奴は私に言った。最高の嫁をくれてやるから、協力しろとな」


 私は絶句する。

 そのために、麗華を売った愚か者がいるというのか。考えたくもない。


「誰、なの?」

「そんなつまらないことはどうでもいい。そもそも、貴様は奴のお陰で生き延びたのだから感謝するといい」


 それって、一周目の私は死んでるってこと?

 でも、“二周目のサバイバー”はどうして私を生かしたのよ?


「奴は神を拒み、裏と表の統一を望んだ。今頃、“向こう側”の協力者は涎を垂らして奴の出現を待っているだろうな」


 吸血王を鼻で笑う。

 全てを知る者の余裕が感じられた。


 一周目の世界は、“ダンジョン攻略”に失敗した世界は、一体どんな世界だったのだろう?


「どうして、仲間を裏切った愚か者の肩を持つの?」


 私は吸血王と麗華を見つめた。


「お姉ちゃんを、助けてくれたんだよ?」

「……………」

「私も、助けてくれたの。私だけじゃない。他の皆んなも、たくさん、たくさん………」


 麗華は顔を伏せた。

 その代わりに、失われた命もあるはずだ。


 私は【ヴィクトリム】にそっと触れる。

 もしかして、彼は生き残れていたんじゃないの? どうして、私が………私なんかが!


「私は、頼んでないわ」

「ふん。ならば、勝手に死ね。全ての願いを無駄にしてな」


 吸血王は止めなかった。

 けれど、そこには明らかな怒気が含まれていた。


「アレは私にこう言ったぞ。『天使に戻るのも、戻らないのも自由だが、望むものは叶えてやる』とな」


 そんなこと。あり得ない。それこそ、スキルがないと。


「キングスライムは序章だ。アレはおそらく、リヴァドラムを利用し奴を本来の姿に戻す」


 じゃあ、“二周目のサバイバー”の正体が……。


 いや、無理だ。

 既にS級冒険者は移動を始めている。

 皆んな集まれば、誰がサバイバーかわからない。


「アレは賢いからな。尻尾は掴ませないだろう」


 吸血王は面白そうに言う。


「そうだ。元に戻ったらキングスライムも結婚式に招待してやろう」


   ☆☆☆


 響木奏(ひびきかなで)はゆっくりとため息をついた。

 小さな公園のベンチで、コーヒー缶のプルタブを開ける。


「美味そうダナ」

「お前の分は無いぞ」


 ベンチの下からぬるりと出てきたのは、一匹のスライムである。

 繁栄の天使、プロセルである。

 またの名を、キングスライム。

 どうやら、本体が分身を残してダンジョンから出てきたらしい。


「てか、何でここに……」

「話せたんだナお前ってイウくだりを期待してたのダガ」

「天使なら話せて当然だろ」

「………コーヒー………」


 キングスライムはベンチから出てこない。

 おそらく、公園で遊んでいる親子に配慮しているのだろう。


「てか、何で来たんだよ。配信でかなりやばいことになってるのに」

「………“二周目のサバイバー”を探してル」

「は?」

「会えバ、元に戻レル」


 キングスライムに、瞳はない。

 故に、二周目のサバイバーの顔は知らない。

 更に言うなら、一周目で彼に接触したのはリリスカルラなので、キングスライムはその声も知らない。


「お前、違ウ」

「その心は?」

「“二周目”、もっと強イ。【ループ】使ウから」


 奏はコーヒーを飲み干してその空き缶をスライムの前に落とす。

 スライムは嬉しそうにそれを食べた。


「コーヒー、美味い」

「キングスライムのスキルは、【増殖】、【分裂】、【酸弾】、【巨大化】、【縮小化】そして、【暴食】」

「うむ」


 警戒すべきは、【酸弾】と【暴食】だけ。

 今の奏達の敵ではない。


「何故、“二周目のサバイバー”が弱いお前を味方にしようとした?」

「それは、知らない」


 奏は顔を顰める。


「ただ、リリスカルラは友達ダ。だから、協力スル。そもそも、ボスは堕天使と立場は変わらなイ。だから、神にだって反逆スル」

「リリスカルラの入れ知恵か?」

「そうとも言うナ」


 キングスライムは遠くで無邪気な笑い声を上げる子供達の方に顔?を向けた。

 もし彼に顔があったのなら、微笑んで、いるのだろうか。


「いいものダナ」

「は?」

「ああヤッテ、笑顔で生きられるノハ」


 キングスライムはふうとため息をつく。


「お前は知らないカモだが、一周目は暗く、荒れ果てていたのサ。“サバイバー”はそれを憂いたのかもしれないな」

「違うだろ」


 奏は断言する。


「その“サバイバー”って奴は、自分の欲望を叶えるために天使を利用したクズ野郎だ」

「………私は、気にしてない。罪を犯して長い時間が経つが、今もあの日のことを夢に見る」


 奏はキングスライム………いや、プロセルが何をしたのかを知らない。

 しかし、神に断罪されるほどの罪を犯したはずだ。


「ゲームをクリアさせないこと。そうすれば、解放されると、元に戻れて“彼女”に会えると思ってタ」


 キングスライムが怒りに震えた。


「神は嘘吐きダ」


 奏は立ち上がる。


「そうかよ。勝手に言っとけ」

「モウ行くのか」

「夕飯の買い出ししないとだからな」


 奏はキングスライムを見下ろす。


「夕飯………一緒に食うか?」

「お前、お人好しダロ」

「うっせぇな。やっぱ今のなしで」

「エー」


   ☆☆☆


 私は玄関のドアを開ける。


「キュア!」


 いつものように、リヴァドラムが抱きついて来る。

 そして、鼻をすんすんさせると、不安そうに私を見上げてきた。

 どうやら、吸血王の匂いに反応したらしい。

 可愛い子だよ。


「大丈夫ー。ご飯にしようねー」

「キュ!」


 私はテレビをつける。


『次のニュースです。

 “First001”のボスモンスター、キングスライムの復活に伴い、S級冒険者の来日(らいにち)の日程が決まりました。

 キングスライムの討伐の難易度はかなり低く、ドローンでの撮影もあるとのことで、注目度が高まっています』


 まずい。

 リヴァドラムの【反転】の本当の力がバレてしまう。

 何とかしてドローンを破壊しなければ……。


「キュ?」

「ん?」


 部屋の真ん中に、二本の尻尾を持つ三毛猫がいた。


「っ!」


 私は【ヴィクトリム】を掴む。


「抜くな、小娘」


 三毛猫はそっと腰を下ろす。


「S級冒険者共に伝えろ。キングスライム討伐後、“Japan006”で待つと」




 私は急いで“Japan006”について調べる。

 そして、SNSでの投稿を見つけた。


《最近、“Japan006”に行った冒険者が帰って来ないらしいんだけど?》

《“Japan006”注意です。新しいボスが発生している模様》

《どうやら、皆んな返り討ちらしいですな》

《俺はパス。情報無いのに戦えないって》


 まさか、まさか!


「復活したのは、キングスライムだけじゃ……!」


 キングスライムの被害は、第一発見者である私達が抑えた。

 もし、他のボスが復活していたなら。それを、私達以外の誰かが見つけたのだとしたら。

 生きて帰れるわけがない。



 そして、もう一つ。


 “Japan001”で出たボスが第一層のボスなら。もし、数字が連動しているのなら。

 “Japan006”にいるボスは。


 信じたく無い。


 けれど、その可能性が高い。



「花鹿」



 あのボスは友好的だと、一方的に勘違いしていた。

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