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不殺の構え

 何だそれは? やめてくれ。低レベルスキルが多いだけだ。

 僕は長剣はおろか、短剣を振り回すことしかできない。だからD級だったのだ。

 確かに器用さは自信がある。

 普通の探索者が何年かかっても片手ほどのスキルを得られないところを、僕は両手以上のスキルを持っている。

 だがしかし、千のスキルは言いすぎだ。

 ダルスの大げさな表現でピンチである。


「まさか、ギルド長たちと出会えるとは。今日は本当に運が良かった。ちょうど刺激が欲しいと思っていたんだ」

「うん、そうだね」


 間違いない。今日は厄日である。



 ***



 スキルとは数限りなく存在する。

 発見されているものの中では日常生活に関係するスキルが一番多く、それ以外に煮ても焼いても食えないスキル、つまりゴミスキルと、戦闘に向いたスキルが続く。

 成長と同時にひらめいて自然に身に付くパターンもあるし、欲しいスキル持ちの先生を探して教えを請い、そこでひらめくというパターンもある。まあ、なぜひらいめいたのかは、先生もよくわかっていないケースが多いので、弟子を取るケースは少ないが、一子相伝のように受け継がれているスキルもあるらしい。

 ちなみに、譲ることや、誰かに付与してもらうことはできない。

 そして、ひらめくスキルの数は人によって大きく差が出る。

 一生のうちで一つの人もいれば、僕の様にゴミも含めてたくさんひらめく人もいる。

 では、たくさんひらめけば良いのか。

 答えはノーである。

 一般的にスキルが少ない人ほど、そのスキルが強力になる傾向があるからだ。戦闘系スキルはリデッドやモンスターたちへの効き具合から、AからEのランクを与えられている。

 一方、日常系スキルにはそういった区分がないものの、はっきりと『腕の差』として現れる。《調理》や《陶芸》などがそれにあたる。


「僕はあんまり長剣の扱いが得意じゃないんだ」

「そうなのか? だがダルスは、『リーンの剣は湖を割る』と言っていたぞ」


 ガレックは不思議そうに見つめる。

 僕はあいまいな笑みを浮かべて「大げさだよ」と首を振った。

 背中に冷や汗が流れた。

 湖ではなく水たまりの聞き間違いだろう。


「仮にそんな技を持っていたら、余計にみんなと手合わせなんてできないって」


 僕の乾いた笑い声に、ガレックが笑みを深める。


「誰もそんな技を使えとは言わないさ。危険すぎる」

「そ……うだよねー」


 《剣術》スキルはメジャーである。所有者も多く僕も身につけている。が、スキルのランクは低い。なのでクリティカル発生確率は相当低い。

 覚えている技を使わなければ、被害もそこまで大したことにはならないはず。

 だが――

 だが――

 一つ間違ったら、騎士団員は真っ二つである。


「もちろん手加減はしてほしい。もし剣が苦手だというなら、他の訓練でもいいが……」

「いや、わかった……いいよ。とりあえず剣で」


 騎士団員と何を競ってもダメなのだ。

 どんな訓練でも、手合わせでも、僕が真正面から騎士団員と戦って勝てるとは思えない。

 それならもう剣でいい。受ければいいだけだ。

 細かい条件はわかっていないが、攻撃系のスキルは自分から攻撃を行った時に発動する。

 つまり――

 剣で攻撃しなければいいのだ。

 どうしよう、どうしようと悩んでいるうちに、第六騎士団のみなさんたちと共に、騎士団用の訓練場にたどり着いた。

 僕の足はすでに疲れ気味である。

 重い金属鎧を身につけて息を切らさない、みんなはすごい。

 ガレックが団員たちの視線を浴びる僕を前に押し出し、声を上げた。


「顔は知らないかもしれんが、彼はリーン=ナーグマン。北のギルド長だ」


 騎士団の中にざわりと喧騒が走った。

 驚きや興味、恐れや畏怖。様々な感情が駆け抜けて、一瞬で収まった。

 さすが騎士団である。気は緩んでいても、地力が違う。

 こっちはさっきからお腹が痛い。トイレから逃げようか。


「ちなみに、さきほど通りで出会った女性が、知っている者も多いだろうが、ギルドマスターのメイナ=ローエン、もう一人の大柄な男性が西のギルド長、ガンダリアン=ヘクトールだ」

「おおっ」


 明らかに熱が上がった。

 どうやら二人は僕より有名のようだ。確かに四エリアの中で一番印象が薄いのは北だと思う。実際に何もしてないので当然だ。

 この一年、僕は畑仕事にせいを出していた。


「『夢読み』と『巨人タイタン』のお二人ですか?」

「その通りだ。活躍はみなも知ってのとおりだ」

「おぉっ!」


 まるでアイドルのような扱いの二人である。

 騎士団の中にも元探索者はいる。日銭稼ぎの探索者ではなく、安定志向で騎士団に入隊するケースもあるのだ。

 そもそも伝説に等しいメイナや、元A級の『巨人タイタン』、そして東と南の才色兼備の二人は誰もが憧れるだろう。

 特に後者二人は、名声、強さ、容姿の三つが揃ったスターだ。

 と、そんなことを考えていた僕の肘をガレックが慌てた様子でつついて、小声で尋ねた。


「リーン、そう言えば、お前の二つ名は?」

「……まだ無いんだ」

「え? そうなのか?」


 元D級探索者に二つ名なんてあるはずがない。ギルド長になった際につけられたものはあるが、メイナが酒に酔ってからかい半分でつけた名前だ。ギルドが公式に発表したものじゃない。

 何より、誤解をたくさん招きそうなので名乗りたくない。

 ガレックが困惑顔で咳払いを一つする。


「その二人と並ぶ強者がここにいる北のギルド長だ。最近の我々の行き詰まりを知って、剣で稽古をつけてくれることになった。では、最初の挑戦者だが――」

「ぜひ私が」


 団員の中で最も体の大きな男性が進み出た。『巨人タイタン』ほどじゃないが、かなり大きい。圧迫感もある。

 稽古だと言っているのに、木剣の素振りがやばい。早すぎて音がない。

 胃がねじれてきた。


「ぜひ、ギルド長のお力を見せていただきたい」


 やや見下ろすような視線。二つに割れたあごが強調されていて、ついその隙間に指が挟まるかなどと、どうでもいい考えが浮かんだ。


「バルマンか、いいだろう」


 ガレックが深く頷いて、「うちで一番、剣の得意な者です」と僕に捕捉説明する。

 その一言一句が精神的なプレッシャーだ。

 本当に胃酸が上がってきた。

 始まってしまえば割と開き直れるのだが、この前哨戦みたいな時間が僕はとても苦手なのだ。

 こういう時は《散策》クリティカルでも起こって事件になるか、都合よくダルスやシンあたりが歩いていないかと、ちらちら左右を盗み見し、『滑る箱』から北のパーティの誰かが窮地を救うために降りてこないかと上空を見上げたりしてしまう。

 まあ、いないけど。


「リーン?」

「あっ、ごめん。彼……結構強い?」

「もちろんだ。ダルスほどじゃないが、剣の冴えは私も認める」

「そ、そうなんだ」

「これがリーンの木剣だ。そろそろ始めて構わないか?」

「ど、どうぞ」


 バルマンと呼ばれた男が、僕と十メートルほどの距離をとって相対する。

 騎士団の面々が見やすい場に陣取り、真剣な表情で見つめる中、バルマンの姿勢は変わらない。

 どうやら見下すような顔の角度がナチュラルらしい。

 僕の被害妄想だったわけだ。


「では、バルマン=ゼッド対、北のギルド長リーン=ナーグマン、試合開始!」


 ガレックの高らかな宣言で、試練が始まった。

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