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アイドル系美少女ヒロインとのファーストコンタクト

「……なんかちがくない?」

「何がかしら?」


 結局アイリさんに沈められた三人の不良は警察に引き渡され、俺たちは軽く事情聴取を受けた後に解放された。詳しいことは佐伯先生から伺うということだ。


 佐伯先生は泣きながら俺に謝罪と感謝の言葉を述べ、あまつさえ怪我の手当てもすると言ってきたが流石に辞退した。勝手にとびこんで勝手に怪我をしたのだから、迷惑をかけるわけにはいかない。


 すぐに病院に行ったのだが、打撲が少々あるだけで大きな怪我をしていなかった。チンピラ連中があれでも手加減をしていたのだろうか。いずれにせよ、思ったより人の身体は頑丈だった。



 今はその翌日。

 念のため俺は学校を休んだ。同じく看病のためと学校を休んでくれたアイリさんは、俺の絆創膏や湿布を貼り替えてくれている。頭が上がらない。


 腕のガーゼを替えてもらっている最中にうっかり口から漏らした言葉に、アイリさんは不思議そうな顔をして反応した。


「いや、俺昨日不良に襲われている先生を助けたじゃん?」

「ええ、そうね。返り討ちにされてたけど」

「普通さ、あの時に助けられるのって、同級生の女の子じゃない? それもかわいい子」

「フィクションではそうなってるわね」

「だよな? しかも彼氏のフリして助け出すとか、実は俺が古武術の達人でチンピラをボコボコにして助け出すとか、そういう展開じゃん大体」

「フィクションではそうなってるわね」

「なのになんで俺はいきなり不良に跳びかかっちゃってしかもボコられてんの? おかしくない?」

「それはここがフィクションではないからよ」


 アイリさんは救急箱を閉じて立ち上がった。


「なあ、アイリさん」

「何?」

「これ、もしかして俺先生とのフラグ立ったかな?」

「何を根拠にそう言っているの?」

「や、だって俺吉沢亮に似てるし、多分そんな俺に助けられちゃあ惚れないほうがおかしいだろ」


 罪な男だなあ、俺も。


 アイリさんは冷ややかに俺を一瞥したのみで何も言わず、部屋を出て行った。


   *  *  *


 次の日には登校にも差し支えない程度に回復したので、俺は学校に来た。


 教室に入った瞬間、クラスメイトから視線を向けられた。が、すぐに各人の作業に戻る。

 多分俺が入学式翌日に早くも欠席したことが原因だろう。別に不良にボコられたのがたまたま入学式の日だったってだけだ。今日ボコられていたっておかしくはない。が、めぐりあわせがどうやら不幸に転んだらしい。


 ただでさえスタートダッシュでエンストしたのに次の日にはレースにすら参加していない。マリオカートなら引退宣言ものだ。


 重い足取りで教卓の前の席に座る。

 今日から俺にとっての高校の授業が始まる。

 カバンから教科書類を出して机にしまっていると、隣から声をかけられた。


「おはよっ、進藤くん」

「あ?」


 思わず隣にメンチを切ると、茶髪ポニーテールのアイドル系美少女が微笑みながら俺を見ていた。

 誰だっけ、この人。


「えーっと……弓月、さん?」

「うん、そうだよ。わたしは弓月さん」

「何の用?」

「え? あいさつしただけだけど?」

「え、ああ……すまん」


 弓月さんはふっと笑うと、肘を立てて頬杖をついた。


「ねえ、昨日なんで休んだの?」

「いや……ちょっとバイクで事故ダンスっちまったんだよ」

「うっそ、それ無免許運転じゃない?」

「冗談だよ。理由については勘弁してくれ」

「えー、なんで?」


 二人で会話していると、女子生徒が一人やって来た。

 弓月さんと手を振りあっているので、彼女の友達であろう。


「ねえねえ、何の話してるの?」とご友人。

「進藤くんがなんで昨日休んだのか聞いたんだけど、教えてくれなくてさ」

「ああ、そういえば休んでたよね」

「えへへ……」


 俺はドジっ子っぽく照れ笑いした。

 

 そういえば、か。

 高校生活二日目で一回休みをする生徒は珍しいと思うが、彼女に関してはそうでもないようだ。


 俺は名前も知らない女子生徒を見る。


 黒髪のボブカットで、これまた弓月さんと同じ系統のかわいい系美少女である。いや、背の高い弓月さんよりも小動物に近い分、かわいらしさが純化されているといった趣だ。


 俺が彼女を観察していると、向こうは誰何すいかされていると思ったのか、


「あ、あたし? あたしは茜坂あかねざかめぐみっていうんだ。けいちゃんって呼んでね!」


 ご友人a.k.a.けいちゃんはそう言うと、俺に向かって右手を差し出してきた。それを「お、おう……よろしく」と言いながら握る。いきなりのふれあい。なにこれ、俺のこと好きなの? 


「それで、進藤くんに質問なのですが!」


 けいちゃんが俺の机に手を置いて顔を近づけてくる。


「あの謎の銀髪美少女とはどういったご関係で? 初日に一緒に帰ってた人!」

「あ、わたしもそれめっちゃ気になるー!」

「あァ?」


 ここぞとばかりに弓月さんも同調する。


 身の回りの銀ぱっつぁんってーと……アイリさんか。どんな関係って? 男と女の関係に首突っ込むのはご法度アルヨ!


「どういう関係って言われてもな……使用人だぞ」

「使用人?」

「もしかして進藤くんってめっちゃ金持ちなの!?」とけいちゃん。


「金持ちかっつうと、まあ、他の家庭の世帯年収は上回ってるな」

「マジかー。あたしを養って!」

「え? あ? え?」


 え、はじめましてから一秒でプロポーズ? い、意外と情熱的なところあるじゃない!


 でもなあ、お互いあんまよく知らないし、すぐ結婚するのは俺としてもなんだかなあって思う。


 それにお金目的の人は信用しちゃダメってパパから言われてるし……よし、断ろう。


「ちょっと、進藤くん困ってるでしょ~」

「あ、マジ? ごめんね!」


 そんな弓月さんとけいちゃんのやり取りで、ようやく俺はからかわれていたことに気がついた。


「急に言われたから俺も戸惑ったよ。すまん」

「いやいや、悪いのはこっちだからさ、たかちゃん?」


 けいちゃんが、聞き覚えのない単語を口にする。


「え、たかちゃん?」

「うん。敬くんだから、たかちゃん」

「おお……」


 うっかり感動してしまった。


 今まで仲の良い友達を持ったことのなかった俺にとって、ニックネームというのは一つの憧れのようなものである。


 小中時代ニックネームで呼びあっているクラスメイトを、俺は教室の隅で折り紙を折ったりしながら羨望の目で見つめていたものだ。俺はクラスメイトから「ねえ」としか呼ばれなかったからな。俺はねえじゃねえですよ、進藤敬ですよ、と言えたらどれだけよかったことか。


 そんな甘酸っぱい過去もあり、ニックネームで呼ばれた俺は幽霊トンネルを抜け出た生存者のような喜びを覚えた。しかも、呼んだ本人は女子である。それも相当かわいい。


 ……コイツ俺のこと好きなんじゃね?


「なあ、けいちゃん。せっかくだしラインでも交換しねえか?」

「お、いいよ、おっけー」

 

 結構勇気を出して言ったのだが、けいちゃんは二つ返事で了承する。少なくとも悪くは思われていないようだ。


「んじゃQRコード表示すっから、読み取ってくれ」

「おっけー」


 とんとん拍子で連絡先を交換することができた。


 いや、それにしてもすごいな。

 我妻には連絡先の交換すら拒まれたのに、けいちゃんは何の躊躇もなく俺を受け入れてくれた。

 マジでコイツ、俺のこと好きだろ。


 これでアオバシティの「人と会話するジム」のジムバッジを手に入れたことになり、俺は人間マスターに向けてさらなる前進を遂げた。あとは七つのジムを倒して8つバッジを揃え、人間リーグを制覇してチャンピオンになるだけだ。そして一人前の人間となってサヨナラバイバイしたマサラタウンに帰るんだ!


「……ねえ」

「お?」


 ふと横を見ると、頬杖をついた弓月さんが俺をジトーっと見ている。気のせいか、その表情は不満げだ。


「えーっと、どうした?」

「別にぃ? ただ進藤くんはけいちゃんとばっかりライン交換して、わたしには教えてくれないんだなあって」


 なんだこの分かりやすいすね方。


「……えーっと、交換するか?」


 恐る恐る尋ねてみると、一転して弓月さんは顔を明るくし、「うんっ!」と満面の笑顔で頷く。


 改めて見ると、やっぱりすげえかわいいな。


 連絡先交換を終えると、心なしか嬉しそうに画面を眺め、「これからよろしくね」と小声でささやいてきた。


 ……もしかして、コイツも俺のことが好きなんじゃないの?


 来ちゃったかあ、モテ期。吉沢亮似の俺だからいずれは来るものと思っていたが、今来ちゃったか。

 でもいざとなると一人を選ばないといけないから、なんだか心苦しいな。いくら俺が魅力的だとはいえ、無数の女子を虜にしてしまうのはなんだか罪深い気がする。彼女は欲しいけど女を泣かせたいわけじゃない。


 そんなことを思いながら、友達数が「4」から「6」に増えたラインのホーム画面を見て、俺もひとしきり頷いていた。

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