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プロローグ

「え、いやマジで無理」


 そう言って、俺の目の前に立っている少女は顔をしかめた。


 黒い髪を背中まで伸ばし、スカートは短めで上着は胸元が見えそうなくらい開いている。

 つり目と高い鼻、かわいいというより美人という名前が似合う彼女の名前は我妻わがつま智美ともみ

 俺と同じ3年3組所属の女子で、見た目からもある程度推察される通り3組の女子カーストの頂点に君臨するイケイケ女子だ。

 そして学年屈指のモテ女子でもある。


 まあ、そうだろう。

 なんてったって彼女は人当りが良く、自分とよくつるむカースト上位集団だけではなくてそれ以外の生徒にも男女分け隔てなく接しているのだ。

 中学生といえば思春期にちょうど入った年頃で、男性と女性という性の別についてもっとも敏感になる時期である。そんな年頃に、こんなきれいな女の子にボディタッチつきで笑顔を向けられてもみよ。落ちない男なんていない。


 なぜ断言できるかといえば、俺もかく言うその男の一人だからね。

 そして今、告白してドン引きまじりにフラれたわけだけど。


 ……。

 おっかしいなあ。


「え、無理?」

「無理?」

「なんで? え? どうして」

「だってアタシ、進藤しんどうのことそういう目で見れないから」

「でも俺に話しかけてくれたじゃねえか。クラスでぼっち気味の俺に」

「気味、というかぼっちそのものなんだけど」


 そう言って、我妻はしかめていた顔を戻した。


「てかアタシがあんたに話しかけたのも、えーと、なんていうかその……慈悲みたいなもんだし」

「慈悲だって?」

「そ。あんたさ、皆仲がいいアタシらのクラスの中では唯一友達いないじゃん。で、モモカとかシュージとかから『アイツいつも孤立してるし、お前がなんとかしてくれないか?』って相談されたから、それで」

「いやお前ら、めっちゃ俺のこと見てるじゃん。ぼっちだってバレないようにしてきたのに」

「や、あんなんバレバレだから。だからアタシがあんたと会話したけだのは、お情けってことね。それで好きとかマジありえないから。一昨日来いっての」

「いやでもお前、俺のことを気にかけてくれるってことは悪い気持ちじゃなかったってことじゃないのか。そのシュージ?とかモモカ?とかが声かけたっていいはずなのにお前が俺に話しかけてきたってことは、つまりそういうことなんじゃねえの?」

「そういうことって?」

「つまりさ、俺のこと好きなんじゃねえのって」

「うわキモッ!」


 今度は自分の身を守るように両手で身体を抱きしめた。


「キモッってお前……」

「それストーカーの発想だから。マジでありえない」

「ありえないありえないって、別に俺が誰に好意を持とうが勝手だろ」

「それがアタシに向けられるってのがありえないっての。もういい? アタシこのあと皆と遊びに行くから」


 といって踵を返して帰ろうとする我妻の肩を俺はがっちりつかんだ。


「ちょ待てよ!」

「ヒィッ、触んな!」


 俺は今、人生で初めて女の子のガチの悲鳴を聞いた。

 それも、俺に向けての。


「フラれたのは受け入れるよ。ただ一つお願いを聞いてくれ」

「なに? 言っとくけど、告白のことは誰にも言わないから。てか言いたくないし。黒歴史だっての……」

「……連絡先、教えてくれ」

「は?」


 俺はポケットからスマホを取り出してラインを起動した。


「どうする? 俺がQRコード見せる? それともあのなんか振るやつ? フラれただけにってか」

「いや、なんで決定事項みたいに行動してんの? マジでキモいんだけど」

「いいだろ別に、連絡先くらい」

「やだ」

「オイ、なんでだよ」

「や、だってあんたに連絡先渡したら、なんかめっちゃ粘着されそうだし」

「しねーから! おはようとおやすみのメッセージ送るくらいだから! あ、あとなんか美味いもん食ったらシェアするよ」

「それもやだから。とにかくさ、あんたとは万に一つもないの。分かる?」


 そう言うと、さっき触んなとか叫んでおいて我妻は俺の両肩をがっしりつかみ、俺のことをにらんだ。

 彼女の長い睫毛に囲まれた目に正面から凝視される。

 オイオイ、キスか? チューするか? 結局口ではなんだかんだ言って好きだったんだなあ。

 いいぜ、俺も。受け止めてやっから!


「アタシがあんたのこと好きになる確率なんて、絶対にない。たとえ天が割れて大地が沈んで、男が女になって安倍晋三が増税取りやめたとしても、アタシは絶対にあんたのことなんて好きにならないから。覚えといて。いい?」

「…………………マジ?」

「マジ」


「じゃあ、そゆことだから」とつぶやいて、我妻は今度こそ俺に引き留められずに校舎へと戻っていった。


「……え?」


 残された俺のつぶやきは、松の梢から吹いた風にからめとられ、馬肥ゆる高き天へと消えていった。


 こうして俺は15歳の秋にして、はじめて失恋を味わったのだった。

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