表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

1-1

エスタランド共和国。人口一万五千人、面積二・五平方キロメートルの小国で、ヨーロッパの何処かに存在する。とある事情から人口減少が留まることを知らない事以外は、至って普通の国である。


そんな日常の最中から、この物語は始まる。


物語は何時だって、日常から始まるのだ。



























「いらっしゃい」

エスタランドの郊外に位置する小さな酒場、『J&D』。がらんどうの店内に入れば、即座にそんな声が男を迎える。

「相変わらずね、安心したわ」

カウンターの向こうからする声は、歌手かと思える程のテノール・ボイス。中性的な顔立ちにイメージ通りの制服を着こなし、優雅にシェイカーを振る様子は実に芸術的だが、無論男である。

そんな声にも一切反応せず、カウンターに一直線に向かった男は丸椅子に腰掛け、

「...グリューワイン」

と無愛想に言った。


「そう言えばごめんなさいね、この間の仕事。急な上に試射もしないでいきなり、なんて」

出されたカップを一息で空け、「それはいい」と、少しばかり酔いの回った口調で、男は言った。

「払いはまだか」

そう言うと、バーテンダーは懐から厚めの封筒を取り出すと、男の方へ寄越した。

「米ドルで十万ドル、確かめて頂戴」

「...確かに」

僅かな物音を耳にしながら、器用に札束を数えた男は、唐突に空のカップを突き出した。

「そろそろ、店じまいにした方がいい」

「どうしてよ、アラン。バーはこれからが稼ぎ時なのよ」

アラン、と呼ばれた男は顔を渋くする。

「...今夜、団体の予約は?」

「無いけど?」

「じゃあ尚更だ、グレイク。この店の飛び入り客には、ろくな奴は一人も居ないからな」

「...ああ、そういう事」

いそいそとカウンターを片付け始める背中に、「あと一つ」とアランは話しかける。

「どうしたのよ」

「いや、何...飛び入りのお客様へのサービスもいるかと思って、な」

その顔には、僅かに笑みが浮かんでいた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ