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息も凍る寒々しい夜道を、三人組の男が走っていた。
「後ろはァ!」
「大丈夫だ。誰も居ねぇよ」
「全く、だから僕は手を出さない方がいいって...」
「何を言ってんだァ、このボストンバッグ一つで五十万ドルだぜェ、...へへ、危ない橋は覚悟の上さァ」
「...正気じゃねぇよ」
愛おしそうにバッグを撫でる男を見、二人目の男が呆れる。
「ほんとだよ」
三人目の批判も浴びた所で、
「アホ、今までも散々こんな事はあっただろうがァ。だがな、そん中でも此奴は別格も別格、スペシャルさァ。だからこそ、だからこそだァ。俺らの命を賭ける価値が有らァ」
「スペシャルねぇ...」
再び呆れる二人に、最初の男は続けた。
「ま、終わりよければすべてよし、だァ。後は此奴を依頼主へ届けて、暫くはアドリアの海でバカンスとでも洒落こもうじャねェか」
「まあそれはいいけどよ、中身は何なんだ?このバッグ。ただのこそ泥三人相手にRPGなんて、幾ら何でも大袈裟過ぎる、そうは思わねえか」
「バッグ一つにしては、妙に必死だよね」
「そりャ当然、必死さァ。何があッてもバラされちャいけねェ書類が外部に漏れたとあッちャァな。しかもこんなこそ泥―」
「......?」
何かが落ちた音がした。足を止めて振り向けば、バッグに覆い被さるようにして男が倒れ込んでいる。
二人目の男は気づいた。
「...走れ!狙撃だっ!」
その声と同時に、彼もその場に倒れ込んだ。
「...っ!」
三人目の男は走り出す。然し。
「...がぁっ!!」
左足に鈍い痛み。同時に、身体がバランスを崩す。同じく路上に倒れ込んだ彼は苦痛に歪んだ顔を上げ、刹那。
「......!!」
眉間を抉られる感覚と共に、意識が遠のくのを感じる。
「...い、嫌だぁ、死ぬな、ん、っ、死に、たく...なぁ...」
身体に雪の感触と、赤い血潮。彼は静かに、その命を冷やしていった。