$:暗い過去
ギシッ…ギシッ…ギシッ…。
部屋中に響いているのはベッドのきしむ音と母親のあえぎ声。
この光景を目の当たりしているのはもちろん俺、まだ5歳くらいだろうか。
「お母さん何してるの?」
「うるせーぞクソ餓鬼、殺されたくなかったら黙ってろ!」
ガシャン…
俺はいきなり酒瓶を投げられ頭からおびただしい血を流していた。
「痛いよ…」
「クソ餓鬼が…」
母親は何一つ俺には構わずただあえぎ声をあげていた。
ちなみに母親の相手をしているの親父ではない。
親父は知らないが母親は狂った売体だ。
俺も別に親父に言うつもりもない。
あんな奴を親父だなんて思いたくもない。金がないくせに、いつも飲み歩き泥酔いで夜中に帰ってくる。
極めつけは俺への虐待だ。
「なんだその目付きは!」
いつも俺を殴った
「お前まだ生きていたのか」いつも俺を蹴った
とどまる事を知らずエスカレートしていった。
「男の子ならこれくらい我慢出来て当たり前だよな」
スチールの灰皿で殴られた
「ほ〜ら今日はお前ためにオモチャを持ってきたぞ〜」
どこから拾ってきたのかバットでも殴り続けられた
「もうお前は面白くないから死んでも構わんぞ」
しまいには包丁で切りつけ肩を刺された。
本当に笑えるだろ?
俺の親父はこんな奴なんだ。母親と言えば虐待されてる俺を見ていつも…いつも…
「可愛い可愛い誠ちゃん、お父さんに遊んでもらって楽しそうだね〜はははは」
楽しそうに笑っていた…
最低だろ?
家族との団らんがあり、暖かい風が吹き抜け、笑顔があふれ、小学校での成績の話や将来の話…これを一般的な家庭と呼ぶのであるならば、俺の家はなんだ?地獄だろ…?
家庭なんてものは、最初っから存在しない。
暴力、セックスがとりまき支配する家。
ちなみに小学校を知ったのは10歳の時だ。
俺は義務教育すら受けてない。
だから礼儀なんてあったもんじゃない。
「誰か俺をここから救いだしてくれ…」
いつしかこの言葉が口癖になっていた。
この時俺は11歳だ。
そんなある日ついに事件は起きた。
忘れもしない悪夢の日、あれはまだ寒い2月の出来事。
「はあ…はあ…」
ギシッ…ギシッ…ギシッ…
「うっ」
相変わらず母親はあの時のチンピラとヤっていた。
「おい、早くしないともうすぐ親父が帰ってくるぞ!」
「またお前かクソ餓鬼、今度は本当に殺すぞ?」
バチンッ
チンピラに鼻を殴られた。
「勝手にしろよ」
この時俺には恐怖、痛みなんてものはなかった。
「このクソ餓鬼ぶっ殺してやる!!!」
ガタンッ
その時ドアが開いた…最悪の展開だ…。
「誰だお前?」
あきらかに親父はぶちギレている。
親父は正直いかつい。
「あなた…これには訳が」
「黙れ!!」
完全に我を失っていた…
気づいたら親父は母親達に向かって猛突進していた。
右手にはしっかりと包丁を握りしめて…
「ちょっ親父やめろ!」
叫んだ時には遅かった…
親父は2人をめった刺しにした。
グサッ…グサッ…
「死ねばいいんだ…俺を怒らせるやつは…死ねばいいんだ」
血が流れ続ける…
「誠…」
親父が初めて俺の名前を呼んだんだ…
確かに呼んだ…
「なんだよ…てか何してんだよ!仮にもあんたが愛した女だろうが!」
「もう俺は終わりだ…俺は最低な父親だったな…すまなかった」
自然と2人は涙を流していた。
「なにをっ…言って…今はそれどころじゃないだろうが…」
親父は部屋中にオイルをまきはじめた。
「なにしてんだよ?…親父まさか…」
親父はライターを投げた…
次の瞬間…
ボッ…
勢いよく家は燃え始めた。
煙が部屋を包んでいく…
煙を吸いすぎたか、意識が遠退く中…誰かが俺に近づいてきた。
「お…や…じ…?」
パリーンッ
親父が俺を外に放り投げた。
確かにその時俺は聞いたんだ
親父の声で
「お前は生きろ」と。
「うっ…」体のいたるところが痛い…
「そうだ、親父…」
目を覚まして俺は不思議な光景を見た。「家がない…」
燃え尽きたススの塊しかそこにはなかったのだ。
この場所は人里からかなり離れていて誰もこの火事には気づいていない。
あるのは焼け跡とギリギリ人の形をたもっている3つの焦げた死体。
「ははっ…本当に一人になっちまったよ…わかったよ親父…俺はどんな手段を使っても生き延びてやるよ!」
この日を境に俺は…
暴力、盗み、恐喝、売人、
を生活の土台とし生きていく…
季香と出会うあの日まで…
「誰か俺をここから救いだしてくれ…」