カルロス・ゴーンをめぐるネット陰謀論
連日のニュースでみなさんご承知でしょうが、日産自動車のカルロス・ゴーン会長が税の申告漏れで東京地検に逮捕されました。
Q:ゴーン氏をどう思いますか?
A:悪玉だと思う
B:善玉だと思う
いかがでしょう。私の暫定的な”富士山”回答は、「C:この事件には裏があり、真相がわかるまで推移を見守るべきだ」というものです。
この事件によって得したのは誰かを考えるのが、真相を解く鍵になるでしょう。
今回、興味深いのは大手マスコミの記事まで、これは何かの「陰謀」の可能性がある、としていることです。「陰謀」の二文字が非陰謀論系ジャーナリズムにでかでかと載っているのです。
この事件には裏の裏のさらに裏があるのでは......。しかしながら、ズバリ何が真相かと問われるとよくわからない、というのが私の本音です。
みなさんはいかがでしょう。
1.ミスターV字回復のヒーロー
かつてカルロス・ゴーン氏が社長に就任し、またたく間に日産がV字回復したころ、ちょうど日経ビジネスを定期購読していました。20年くらい前のことでしょうか。
日経ビジネスでは毎号、ゴーン氏をスーパースター扱い。社長の鑑、理想の経営者と持ち上げました。ゴーン氏は何回か同紙の表紙のモデルになりました。まさに日経ビジネスはゴーンファンクラブの会報誌そのものでした。
そもそも「V字回復」という語がゴーン氏の経営手腕を賞賛するための造語でしょう。ミスター「V字回復」こそゴーン氏の代名詞なのです。
連日、テレビをつけるとゴーン氏の悪いニュースが流れてきますが、かつてビジネスマスコミはこぞってゴーン氏をほめたたえました。
ゴーン氏は悪玉か善玉か。私が言いたいのはマスコミの報道をうのみにせず、自分の頭でよく考えるべきだということです。
2.フランスで起きていること
ネットで見つけた大手マスコミ系の記事によれば、フランスの世論はゴーン氏の逮捕を陰謀と考えているとのこと。外国人の優秀な経営者を失うことによる日本企業の衰退と、日仏間の関係悪化が懸念される。このようなことが書いてありました。
しかしながら、今、フランスではそれどころではありません。
パリのシャンゼリゼ通りではデモ隊が警察と衝突し、さながら「プチ・フランス革命」の様相を呈しています。
マクロンが大統領選挙に当選したとき、ユーチューブでは不正選挙の証拠を撮影した動画が流れました。ベンジャミン・フルフォード氏によれば、これまでにもニュースにならないだけで、フランスでは市民の暴動はよく起きているようです。
ゴーン氏逮捕のニュースを意識しているフランス人はほとんどいない一方、フランスの低所得者層はマクロン大統領への不信感を高めており、自国のことにしか関心がないでしょう。
3.板垣氏の解釈
高失業率に悩むフランスのマクロン大統領が、自国の雇用拡大のため、ルノー、日産、三菱自動車の経営統合を企み、これをゴーン氏に打診した。ところが事情を知った日産のオーナー一族が三社の経営統合を阻むため、東京地検に内部告発してゴーンを逮捕させた......。
これは板垣英顕氏のブログ「マスコミに出ない政治経済の裏話」の無料版記事です。詳細は有料版を読まないとわからないでしょうが、いかがでしょう。詳しい内容をご存じの方がいたら、感想など書いていただけると幸いです。
4.植草氏の解釈
植草一秀氏のブログ「知らせざる真実」にも興味深い記述がありました。11月20日付の記事では、ゴーン氏逮捕をきっかけに企業の高額な役員報酬を見直すべきと教科書的な見解を述べていますが、11月20日付の記事では陰謀論的分析でゴーン氏逮捕の裏側を解説しています。
世論の関心をゴーン氏逮捕に向けさせる一方で、安倍政権は臨時国会で入管法改定など重要法案を審議している、とのことです。
スポーツ芸能人のニュースのおかげで政治の重要なニュースがマスコミから無視されることがあります。
スター選手が新記録を樹立した。有名女優が離婚した。あのタレントが麻薬を吸って逮捕された......。これの財界人バージョンがゴーン氏逮捕事件なのかもしれません。
それにせよ、安倍政権のモリカケ問題追及はどうなったのでしょうか。
5.反グローバリズムへの潮流
グローバリズムという言葉が浸透する以前、90年代ごろから世界の自動車業界ではグローバリズムが始まっていたかもしれません。
日産やトヨタは70年代は間違いなく日本の自動車メーカーでした。
同様にジャガーは英国、ベンツはドイツの自動車メーカーでした。
ところが80年代末くらいから自動車メーカーの国籍があやしくなります。多国籍企業という語は80年代からありますが、これは海外に現地法人を持った企業という意味です。この多国籍企業がさらに進展して、外国発の多国籍企業と資本提携が始まっていくのです。
現在、ジャガーは米国フォードの子会社です。ベンツは現在はブランド名で、米国クライスラーと合併後、メーカー名はダイムラー・クライスラーです。
日産がルノー傘下なのは言わずもがなですが、トヨタも日本の会社というより、日本に本社のある米国自動車メーカー的な性格を持っています。
たとえば主力製品レクサスは当初、米国市場で成功しました。日本では最初はブランド名、セルシオで販売し、その後、レクサスのブランド名になりましたが、見方によってはレクサスは海外より遅れて日本市場に投入されたのです。本社は日本、販売先のメインは米国市場。これが現在のトヨタの実態です。
こうしたことから今日、自動車メーカーは国籍を失いつつあります。
今回のゴーン氏逮捕事件は、日本から日産の資産や技術が海外に流出していくことに対する、日本人社員や日本人オーナーの懸念が生んだ社内クーデターのような気がします。グローバリズムを推し進め過ぎた結果でしょうか。
トランプ政権は反グローバリズムを展開し、この潮流は世界市場に影響を与えています。
反グローバリズムを自動車業界に当てはめてみると、自国の自動車は自国内で生産し、輸出入はあるにせよ、メインは自国で消費されるということです。
時代を逆行するように見えますが、行き過ぎたグローバリズムの弊害が、今、世界市場、国際金融市場で起きているのです。
世界の経済市場には適正なグローバリズムの度合いがあり、その度合いより少なすぎても多すぎてもよくないのではないでしょうか。
今回のゴーン氏逮捕事件が自動車業界の反グローバリズムに先鞭をつけることができたら、世界経済にとって望ましい変化が起きたと言うべきでしょう。
(了)