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ロードショー「カルロス・ゴーン日本脱出大作戦!」 

初出:令和2年1月3日


 さて、このほど日産自動車の元社長カルロス・ゴーン氏が日本からレバノンへ国外逃亡しました。

 ゴーン氏は保釈中のため、日本政府はレバノン政府に身柄引き渡しを要求しましたがレバノン政府はこれを拒否。その一方、レバノン側はゴーン氏が過去にイスラエルに入国した件で訴追する可能性もあるとのこと。レバノンでは敵対国イスラエルへの国民の入国を法的に禁止しているからです。ゴーン氏はレバノンの国籍も持っているようです。


 自ら雇った私立工作部隊がクリスマスの音楽隊に扮してゴーン氏に接触。ゴーン氏は楽器箱の中に身を隠し、彼らとともにプライベートジェットで密出国......。ミッション・インポッシブルか、007か、スパイ映画のワンシーンのような鮮やかな脱出工作です。

 映画と言えばゴーン氏は太ったミスタービーンそっくり。極東ブログでは一連の顛末を「面白すぎる」と評していますが、不謹慎ながらこれには同意します。


 日本のマスコミは概してゴーン氏を悪者扱いしていますが、海外メディアは少しトーンが違います。

 この件に関するCNNのウェブニュースを見てみると、ゴーン氏を英雄扱いまではしていないものの、国外逃亡したゴーン氏にも”言い分あり”、といったニュアンスになっている感じです。

 今回のゴーン氏の脱出劇を、「映画『大脱走』の制作スタッフ顔負けの大作戦」と評価しているあたり、ゴーン氏が日本脱出前に映画プロデューサー、ジョン・レッシャー氏と面会していたことを踏まえた上での気の利いた文章だったのでしょうか。ゴーン氏は自身の無罪と日本の司法制度の問題点を主張し、これを映画化できないかレッシャー氏に打診していたようです。

 実はゴーン氏は日産幹部の陰謀で背任罪にされたと主張しており、日本海外特派員協会の記者会見でこれを述べるところ、別件で司法当局に逮捕され、まだマスコミに自分の言い分を聞いてもらったことがないとのこと。

 CNNはトランプ大統領公認の本家本元”フェイクニュース”メディア。だとしたら書かれた内容はすべて信頼できないと思うかもしれませんが、日本のメディアもまた由緒正しき”大本営発表”の伝統を受け継いでいることを思い出してください。

 すべてのマスコミのニュースは妄信するのでなく、自分の頭で疑いながら考えることが重要です。

 

 お待たせしました。ここでクイズです。

Q:カルロス・ゴーン氏の一連の事件をどう思いますか?

A:国内マスコミが報道する通り、ゴーン氏は悪玉、日本の司法当局は善玉

B:海外マスコミが報道する通り、ゴーン氏は善玉、日本の司法当局は悪玉


 いかがでしょうか。


1.グローバリズム vs ナショナリズム vs ローカリズム


 グローバリズムという言葉がまだ浸透していない80年代末から90年代初において、世界の自動車業界は、他の業界に先駆けてグローバリズムの波に飲み込まれました。

 世界各国の大手自動車メーカーは国内市場だけに車を生産、販売するのでなく、世界市場を睨んで車を生産、販売するようになりました。

 70年代、日産、トヨタは日本の自動車メーカーでした。同様に、ベンツはドイツ、ジャガーは英国の自動車メーカーでした。この時代、自動車業界は多少の輸出入はあるにせよ、メーカー各社は自国内をメインに車を生産、販売するナショナリズムの時代でした。

 ところが現在はどうでしょう。主な株主が外資になり、車の販売先が自国より外国の方が多くなると、メーカーの国籍が曖昧になります。社長が外国人になることもあります。

 グローバリズムとナショナリズム。どちらが望ましいのでしょうか。


 グローバリズムとナショナリズムを今度は政治組織に当てはめてみましょう。グローバリズムを推進するのは、陰謀論ジャーナリズムたちに言わせれば悪名高いディープ・ステートです。一方、ナショナリズムは各国政府です。今回の事件で言えば、日本政府または日本の司法当局がナショナリズムの推進母体です。

 グローバリズムが”悪”ならば、その反対のナショナリズムは”善”なのでしょうか。

 私はそうは思いません。グローバリズムもナショナリズムも”悪”。そして、私が考える”善”はローカリズム、またはウルトラローカリズムだと思うのです。

 ありていの言葉でいえば、ローカリズムは地方自治といったところでしょうか。


 グローバリズムもナショナリズムも巨大な資本が動きます。その資本を動かせるのは一部のエリートだけです。そしてそれを背任するからゴーン氏の一連の事件が起きるのです。

 ローカリズムであれば、資本は小さくなり、しかもその資本を動かせる人数が増えます。またそれを背任しても被害金額は小さくてすみます。



2.あなたの街の自動車メーカー


 話を自動車メーカーに戻しましょう。

 かつて国鉄は分割民営化がなされ、JR東日本、JR東海など複数の私鉄が誕生しました。ここで提案ですが、大手自動車メーカーを分割し、都道府県に一つ、または市町村に一つずつの小さい自動車メーカーを作ってはどうでしょうか。これらの自動車メーカーは地産地消で、自分の都道府県、または市町村のローカル市場をメインに車を生産、販売します。消費者の方でも多数派が地元のローカル自動車メーカーの車を購入するのです。

 これらのローカル自動車メーカーはすべて未上場企業です。誰をオーナーにするかが問題になりますが、上場すれば企業は株主の所有になります。これはとりもなおさず大手金融業界の所有ということになり、金融資本主義――グローバリズムに戻ってしまいます。


 京都のベンチャー企業が、日産の新潟の工場を下請けにして自社ブランドのEV車をOEM生産しました。工場を持たずとも、ファブレスで自動車メーカーを起業することはできます。


 エレクトロニクスの専門誌『トランジスタ技術』で、かつて自作EV車の特集をやりました。

 自作パソコンを趣味にする人がいますが、EV車の誕生で自動車はエレクトロニクス製品になりました。だとしたら自作EV車も可能とのこと。

 趣味はともかくプロであれば、大企業でなくベンチャー企業でもEV車は製造できます(事実、いくつか起業しています)。

 自動車産業というGDPの大きな割合を占める一大産業が、大企業でなく、街の自転車屋さんのような小規模の零細企業が主体になったらどうでしょう。

 これまで自動車メーカーは大企業で、部材を作る中小企業が下請けでしたが、これからは工場を持つ大企業がファンドリーとなり、ファブレスのベンチャーEVメーカーの下請けになるのです。



3.大企業優先主義からの脱却を


 ”自動運転”という言葉がマスコミで話題になっています。

 大企業である自動車メーカーがこれからもさらに大きくなるために、新技術を開発して需要を喚起させるべく、行政が支援していると思われます。

 しかしながら私は”自動運転”よりも、前述の自動車業界のダウンサイジングに興味があります。

 街の自転車屋さんに近い規模の自動車メーカー。

 私たち消費者の多数派は地元の自動車メーカーの車に乗るのです。

 スイス国民の間では国産製品が輸入製品より高額でも、国内産業を応援するため、無理に国産を買う、というナショナリズムの”モラル”があるようです。

 これを応用して、地元の地場産業を応援するため、少し高くても自分が住んでいる市町村のメーカーの車を買う、という”モラル”があってもいいと思います。これはローカリズム、ウルトラローカリズムが”善”である、という思想から来ています。


 高度経済成長期から日本の行政が無理に推進してきた大企業優先主義。これを方向転換し、中小零細企業を応援すれは、自動車業界のダウンサイジングも夢ではありません。『トランジスタ技術』を確認すれはわかるように、技術的には現実的にかなり可能なところまできているのです。



4.結論として


 カルロス・ゴーン氏の国外逃亡事件からかなり脱線してしまいましたが、これが私の今回の「富士山回答」です。

 実際、ゴーン氏の国外逃亡は悪いことは悪いですが、それは三億円事件の犯人が悪いのと同じです。犯罪を犯して捕まらない犯人は悪人ですが、ゴーン氏も三億円事件の犯人も逮捕されようが、逃げおおせようが私たちの生活に影響はありません。

 そんなことより、自動車業界がグローバリズムからウルトラローカリズムへ転換するとしたら、私たちのライフスタイルは根底から変わると思われます。


 ここでは詳細に説明しませんが、パーソナルファブリケーションという工業製品の生産方式に、今、技術的に大いなる産業革命が起きており、ウルトラローカリズムの話は自動車産業だけでなく工業製品全体に当てはまるのです。

 その結果、労働人口の多くが70年代以前のように、個人商店主、自営業に移行し、会社勤めの人は減り、また企業規模も小さくなります。

(よろしければ拙作SF『近未来ユートピア』をお読みください)


                                (続く)


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― 新着の感想 ―
[一言] 実際にそんなに単純な話ではないのでしょうがグローバル企業やグローバリストは結果的にどこの国の国民も幸福にしない存在だとわたしは思います。
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