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女神殺しの銃槍士  作者: カブメント
1話 俺は主人公じゃない
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1-3_よくあるパターンのギルドとスキル制

街に近づくと人とすれ違うようになり、田園風景はどこまでも広がっていた。服装や持っているものからして転生者と思われたのだろう。二人の農婦が何やら噂話をしている。


「さっき来たばっかりなのにまた転生者。助かるわねぇ」


「でも、女の子を連れてないわよ。普通の転生者って、すぐ女の子と仲良くなって何人も引き連れて歩くのに」


「なんか不気味で嫌ねぇ。怪我をしてないのに血だらけだし」


 耳と心が痛くなる噂話に、声を荒らげずにいられなかった。


「聞こえてるぞぉ! これから! これからモテるからなぁッ!」


 農婦達は「あらやだ」なんて言いながら、そそくさと逃げていく。


 少し進むと、まばらに住宅がある田舎風景に移り変わった。風車が粉を挽き、それを人が袋に詰めている様子は情緒的で、異世界に来たという実感が湧く。


 子供が走り回っていたり、釣りをする老人なんかとすれ違うと、いよいよ大きな石造りの街が眼の前に現れる。


 どことなく頁の街に似ていて、一人にしてしまったカルラの顔が過ぎった。

 それを思うと、やはり死んだことには変わりない。なのに、地面を踏みしめて歩み続ける俺。まるで、ゾンビになったような感覚。


 しかし、僅かな空腹感が俺に「生きている」実感を与え、底知れぬ恐怖に打ち勝つことができた。

 こうなってしまったからには、切り替えてやっていくしかない。少しでも異世界転生者らしいことをしてやる。

 それに、絶対に戻れないということもないだろう。


 そろそろ……そろそろだ。親切な先輩冒険者サブヒロインが、ギルドまで案内してくれる頃のはず……。


 ――。


 そう思いながらひたすら歩いていると、やがて市街地に入る。さらに水路が中央に通った活気ある商店街を抜け、異世界語で「冒険者ギルド」と書かれた看板がぶら下がった、大きなレンガ造りの建物まで着いてしまった。


 イスポアの言った通り、異世界語はスムーズに理解できる。この世界の文字は、例えるならキリル文字とアラビア文字を混ぜ合わせたような形をしていた。


「ああ分かってたよッ! 一波乱あって、ヒロイン登場とかのイベントなんかあるわけねーよなッ!」


 地団駄を踏んでいると、先程の少年がメインヒロインみたいな少女に加え、美人女剣士と盗賊少女を引き連れて歩いてくる。


 彼の服装は、いつの間にやらこちらの服装に変わっていた。きっと、彼女達の誰かに買ってもらったのだろう。俺は、血だらけのシャツにベストを羽織っているだけ。


 特に女剣士は一際美しく、かなり好みだ。というより一目惚れに近い。


「オァァァッ!!」


着実に主人公街道を進む姿を見て、思わずモンスターのような叫び声まで出してしまった。


「ひっ、さっきのモンスター」


 ヒロイン娘がそう言うと、女剣士が出てきて、俺に無言で剣を向ける。もう、モンスターとして生きていこうかな……。


「待って待って。そんな人じゃないと思うよ。たぶん……。怪我は、女神様から貰った能力で治したんだよね?」


 ハルの言葉に渋々剣を収め、後ろに引く。それがあと少し遅かったら、肉を切らせた隙きに狙撃銃で殴り掛かるところだった。


 異世界転生してことごとく定番の展開に遭遇せず、モンスター扱いされたら精神は荒んでいく。

 そのズタズタな精神に、僅かな光をハルが与えてくれた。


「ね、一緒にギルド登録へ行こうよ。そうすると、モンスター退治とかすると報酬が出るんだって。それに、スキルが使えるようになる処理もしてくれるとか。魔法とか使えたらいいなー」


 そう言うと俺の左腕に抱き付き、建物の中に引っ張っていく。


 内部は広く、木のテーブルと椅子は数え切れないほど並んでいる。飲食店や道具屋のようなものも併設されていて、この建物だけで一通り用事が済ませられそうだ。

 四方に出入り口があり、その中央に受付がある。


「さっきはごめんね。思わず逃げちゃって。あ、あれみたいだよ。行こう」


「ああ、まぁ俺も悪かったし」


 逃げてしまった負い目なのか分からないが、妙に気を遣われてしまう。

 腕を組んだまま離さないので、周囲からはそういう系統のヒロインと思われているかもしれない。いっそのこと、そういう方向性でやっていこうとすら思い始めた。


「おぉ! 新しい転生者様が二人も。今日はいい日だからもう一杯飲んじゃうぞぉー」


 酒に酔って真っ赤になったいかつい男が手を振ってきたので、それに返す。転生者は結構歓迎されるらしい。


 細身の男が「今度のはそういうカップルで来たか……」なんて言うので、恥ずかしがってハルは腕を組むのをやめてしまった。


 ソッチ方面に一瞬揺らいでいたので、バランスを取るため、受付嬢は胸の大きい方を選んだ。彼女は【ミラナ】という名前で、ショートボブの髪型に、オレンジに近い茶髪。敬語で話しているが、活発な印象。


 一方隣の胸も身長も小さな方が【ハンナ】という。夜空のように深い紺色の長髪は少し幻想的。ミラナとは打って変わって大人しい印象で、感情が読みにくい。


 なんとこの見た目で、ミラナが妹でハンナが姉だという。やはり、人は見かけによらない。

 他にも受付の人はいるが、この姉妹がリーダー的な役割を担っているとのこと。


 ミラナの説明を聞いていくと、転生者特権でギルド登録料が無料だったり、一部宿屋を無料で利用できるなど至れり尽くせり。

 受付嬢は、女神の気配というものを嗅ぎ分けられるという。なので、スムーズに転生者特権での手続きが始まった。


 ギルド加入で何よりも重要なのは、経験値を消費して、魔法や技能を習得できる【スキルボード】が利用可能になること。

 元来誰しも秘めているものだが、活性化してやらないと使えないらしい。コレを成長させていくことで、モンスターとまともに渡り合えるようになるという。


 多少こちらの勝手が分かっているハルが先に登録を始めた。


 ミラナが彼の左手の甲に判子を押すと光る印が刻まれ、そこからホログラムのように青白い画面が浮かび出る。いわゆる、ステータス画面というやつだ。

 才能あふれる基本値らしく、集まってきた受付嬢達に褒められ、彼は照れていた。


 続いて俺の番。邪魔になる武器を消し、判子を同じように押されるのだが――。


「あれっ? あれれっ?」


 何度押しても印は肌に残らない。ミラナは困惑し、だんだん乱暴な押し方になってくる。


「ちょ、ちょっと!? 痛い痛い痛いっ!」


「おっかしぃですねぇ。モンスターですらスキルボードの確認は可能なはずなのに……」


 後ろでさっきのヒロイン娘が他の二人にヒソヒソと話しかける。


「やっぱ危険よあの人ぉ……。きっと、私達には理解できない高次元のモンスターに違いないわ」


 いよいよ俺の存在が擁護できないものとなって、ハルはあたふたとしている。


「ちょーっと彼を預かっていいかな?」


 不意に後ろから声がする。振り返っても誰もおらず、気味が悪かった。


「下だよ下。そうそう、ここ」


 視線を下ろすと、妙に露出の高い格好のちびっ子が太陽のような笑顔でそこにいる。


「ミラナさん。どっか落ち着いて話せる部屋を貸してほしいんだけど――」


「あ、あなたは!?」


驚きの声で視線が集まり、ざわつき始める。彼らの話から察するに、彼女は自然の女神イーチャ。そう、彼女こそが、俺の不死を作り上げた人物。


「はい! すぐに用意しますのでこちらに!」


 ミラナは慌てて受付台を飛び出し、建物の出口まで来るように案内する。

 それを見たハルのパーティーは、あんぐり口を開けたまま動かなくなってしまった。


 俺は何が何だかよく分からず、早足の彼女に付いていくのに精一杯。


 ギルド施設の隣りにある、これまた大きな宿屋の角部屋に案内された。恐らく、一番いい部屋。

 あれよあれよと事が進み、ちびっこ女神と二人きりになる。


 部屋の奥まで彼女が行くと、振り返って手を合わせながら頭を下げてきた。女神にも手を合わせるという文化があるのだろうか?


 お偉い立場の彼女が俺に頭を下げるので、少し身構えてしまう。


「ほんっ……とうにごめん!! キミのスキルボード、私達が壊しちゃったみたいなんだ」


「は?」


 人間だけでなく、モンスターにも必ず存在しているはずのスキルボード。この世界では、それがないと戦闘力に限界が来る。

 それが事実なら、俺は数値化された明確な強さを失ってしまう。


「壊したって、どういう意味だ?」


「久しぶりに変わった能力の要望があったから、それに喜んだ私とエポンがちょーっと気合い入れすぎて。二人で実験を兼ねてイジっているうちに戻せなく……」


「え? 何それ怖い。俺はアレか? 調子乗って分解した機械が戻せなくなるみたいな、最悪のパターンのやつか?」


 イーチャは、申し訳なさそうに小さく頷いた。


「お、俺。どんなに戦っても、魔法とか便利スキル習得できなかったり?」


「うぅ……。そういうことになる」


 終わった。異世界で冒険して、なんやかんや女の子にモテるという単純かつ素晴らしい計画が。

 俺は、絶望という絵画にされてしまったようだ。きっとその瞬間のまま、永遠に遺されてしまうに違いない。


「そ、そこで。私達もなんとかしようといろいろやったんだ。授けた能力を変えることはできないから、拡張という形で大幅に強化してある。とりあえず、このチケットを千切ってみてよ」


 少しでも今の状況を良くするため、彼女が持った紙切れを乱雑に引き千切る。切れ端は青く燃え上がり、ほのかに温かった。


 それが燃え尽きた瞬間、頭の中に無数の情景が浮かぶ。戦争――いや、武器の歴史。拳銃に小銃に大砲。人に撃ち、獣に撃ち、物にも撃つ。

 武器だけでなく、人の営みに欠かせない道具の記憶も渦巻いている。

 それらの姿形が瞬間的に頭へ流れ込み、記憶の奥底に蓄積された。


「記憶に格納された武器の概念を、現世に書き出す能力。それを拡張して『図鑑具現化』能力へと進化させたよ。武器や道具と定義されるものなら、それに触れて登録することができる。そして、MPが尽きるまで生成して使用できるんだ」


「爆弾が使えれば、魔法の代わりくらいにはなりそうだけど――」


 俺の記憶には、なんと戦車や核弾頭まで存在しているが、今のMPでは到底吐き出せそうにない。


「それに、生成したものは表面的な意識に収納することもできるし、そこからの出し入れにはMPを使わない。もちろん、取り出した物は滅多なことじゃ壊れないのはそのまま。エポンの姉でもある道具の女神に協力してもらって、キミの世界の道具を入れてもらったそうだよ」


 どんな巨大なものでも、MPさえどうにかなれば瞬時に出し入れ。それを上手く使えば、ただの木箱も無敵の盾や武器になる。


「うーん。なんか複雑だけど、俺の脳みそがコンピューターで、身体がプリンター。図鑑能力は大容量記の録媒体って感じか?」


「そう考えると分かりやすいかもしれないね」


 イーチャは俺の出した地球的な考えをあっさりと理解してしまう。その疑問を投げ掛ける前に、彼女は続けて喋る。


「そうそう。覚えておいて欲しい特性があるんだ。図鑑は上書きすることもできて、例えば文字を書き込んだ地図の保存なんかにも使える。それと、同じ生成した物同士なら、本物と同じように壊したりできる。それ以外は基本的に、エポンの説明にあったものと同じルールで動作しているよ」


 能力は便利になった反面複雑化。しかし、使いこなせば俺の力となってくれるだろう。

 試しに、記憶に浮かんだ汎用機関銃のMG42に出てこいと念じる。顕現すると同時にガクンと何かが抜け落ち、かなりのMPを消費したようだ。


「これは結構MP持ってかれるな」


 それを消滅させ、今度は俺の世界で馴染みのある道具を探す。すると、脳内にオイルライターのヴィジョンが浮かんだので出してみた。

 こちらは大した負荷はない。どうやら構造の複雑さや大きさなどが影響して、MPの消費量が変わるようだ。


 蓋を開け、フリントを削って火花を起こすとしっかりと火が点く。蓋を閉じてから脳内に隠してみると、思考の片隅にライターが残ったまま。それに消えろと念じれば、跡形も無く消滅した。


「どうかな? 気に入ったかな?」


 上目遣いで俺の顔色をうかがってくる。女神ともあろう存在が、俺に負い目を感じているのが愉快になってきたので、ちょっとからかった。


「うん……まぁいいんじゃないの? ほら、セラミックフライパンもある。これ、餃子とか焼くときに便利なんだよね……」


 露骨に落ち込んで見せ、LEDランタンとかナイロンロープも取り出してため息混じりの返答。そんな俺を見て、彼女は両手の先から優しい光を放った。


「もう一つあるんだ! 普通の転生者には絶対にしない、特別サービス! 神の御業をキミにっ!」


 その光は特別暖かく、冬場のコタツのような心地よさ。


「これは……?」


「私は自然の女神。この世の現象を司る。全てに宿る神霊と心通わせ、力を借りることすら容易なんだ。これは本来人間に持たてはいけない、原理に踏み込める力」


 少し心身がシャッキリした感覚はあるが、そこまで強くなった自覚はない。


「あんまり、変わらない気がするんだけど」


「とりあえず山とかに出かけて、穏やかな心を持った神霊と仲良くなるといいよ。あの子達なら、私の気配を感じ取れば協力してくれるはず。この力は神のもの。人間のキミは、MPではなく魂を焼却して行使する。加減して使っていけば何も問題はないけど、扱いには気をつけるように」


 なんだか嫌なワードが聞こえた。俺の魂が燃料ということは、魂の寿命が来るというのだろうか?


「焼却するって、大丈夫なのか?」


「誰しも生きている限り、常に魂を焼却しているんだ。本来現世に影響を与えられない神霊は、その焼却エネルギーを使って事象を起こす。キミは魂も特別製とはいえ、無茶な焼却は精神を疲弊させ、回復が追いつかなければ最悪消滅する。それだけは気をつけてね」


 回復するということは、消滅するギリギリまで焼却したとしても、肉体側の強さで精神をなんとかすればいいということになる。


「それと、邪悪な神霊は絶対に使役しちゃだめだよ? やつらは乗っ取ろうとしてくるからね。破壊の女神の能力を使って、払い除けてやればいい」


 邪悪な神霊。それって、もしかして――。


「俺の後ろで囁いてるコイツとか?」


「げぇっ! そいつだ! 早くはたき落とせ!」


 暗く、陰鬱な声で囁く黒い影。


「オレと……世界を壊さないか? 感じる、お前のドス黒い劣等感を。その身体を貸してくれるなら、代わりに何もかも終わらせてやる」


 ――劣等感。黒い影が囁く言葉は、ぐさりと刺さる。同じタイミングでこちらに来たあの少年は、まるで物語の主人公のように愛され、成長していくのだろう。

 一方の俺には、主人公らしさの欠片もない。出来の悪い人間であることが、彼と比べることで色濃く映し出された。


「そうだな。それも悪くない。――でも、てめぇに乗っ取られるのは気分が悪い!」


 破壊の女神の説明の通り、俺はあらゆるものに触れることが可能になっている。影の怪物をゴブリンと同じく引きずり倒し、顔面を拳で何発も殴った。


「な、何をする!」


「俺に使役されろッ! その気がねえってんなら、このまま消滅するまで殴り続けてやる」


「このオレが使役される? バカな!」


 これだけでは屈しないなら考えがある。握った拳から、人差指と中指を立て、赤く爛々と光る瞳に向けた。


「お、おい。正気かお前?」


「お前……? 他の呼び方が好きだなぁ、俺は」


 影は俺に勝てないことを悟ったのか、強気な口調をやめる。


「くっ……分かった。ここで消えるなんてゴメンだ! 頼むからやめてくれご主人!」


 そいつは抵抗するのを止め、大人しくなった。そして、押さえ付けた手の平から影が俺に流れ込んでくる。


「キ、キミィ! そんな邪悪を団子にしたような神霊、取り込んだらどんな悪さをするか分からないよ! 私にも理解できない、複雑に絡み合った『何か』だそれは!」


「悪さしようとしたら、目玉をほじくってやるから大丈夫。そうだ【くろすけ】って名前はどうだ? お前まっくろけだし」


 俺のくろすけはこの身から再び現れ、目の前に立つ。獣のような人間のようなシルエット。もやもやしていて表情は分かりにくいが、嫌そうな顔をしてからその名前を受け入れた。


 イーチャのドン引きする顔を見て、こういうことをするからモテないんだなと学習する。しかし、情けや容赦が弱みになることを考えると、こういうやり方しか俺にはできない。


「ちょっと具合を確かめるぞ」


 くろすけに意識を向けると、もう一つの身体のように感じられ、自由に動かせそうだ。

 彼? の全身を使って巨大な拳にしたり、槍状に変形させて頭上で回してみる。これは結構使えるかもしれない。

 影を少しだけ貰って拳に纏わせ、それを爪に変形させたりもできる。


「これ、持ってみろ」


「へ、へい……」


 人型に戻らせ、生成した先端の広がったマチェットを投げ渡すと器用に受け取った。くろすけの身体は、前からあった腕のように簡単に操れる。

 それを投げ返させ、受け取るのも容易。身体にも妙な力が入り、ブロック塀程度なら殴り壊せそう。


「これなら、スキルボードの件はチャラどころか感謝したいくらいだ。ありがとうな」


「は、ははは……それならよかったよ。おいくろすけ! そいつに変なことするんじゃないぞっ! それとキミ、絶対そいつに身体を貸さないように。乗っ取られたら、途端に主従関係が崩れる」


 腰に手を当て、指差しながらイーチャは言った。


「も、もちろん! ご主人に逆らったら何をされるか分からないですし」


「使わせてやる気はそもそもないしな」


 図鑑具現化能力に、自由自在な新たな腕。チート相手にトリッキーな戦いをするには、十分過ぎる能力だった。


 女神様は不服そうな表情を引っ込め、くろすけを指していた指を俺の左手に向けて言う。


「最後に、キミのスキルボードの代わりになるものを設置しておいたよ。機能は限定的だけど、それがないとギルドで活動できないしね」


 左手の甲を意識すると、赤く光る印が浮かぶ。それを意識する気が緩むと、消えて何も見えなくなる。


「ギルドだけでなく、私の息がかかった場所ではそれが役に立つはず。私ができる償いはこれくらいしかない。エポンは、別件が片付けば謝りに来ると言っていた。彼女からは、お詫びの品として女神まんじゅうを預かっているよ」


「まんじゅうって……。女神にはジャパンブームでも来てるのか?」


「一部の女神は地球でも結構遊ぶから、向こうのことには詳しいんだ」


 俺の頭上にビニール袋が現れ、ゆっくり落ちてきたので掴み取る。中身はどっからどう見ても、日本の観光地の土産品だ。


「さっきの受付にその印を見せて、事情を話せばギルドに加入させてもらえるはずだよ。スキルボードは、キミが思っている以上にこの世界で大切なものだったんだ。本当にごめん……」


「そんな気にしないでくれよ。スキルボードなんかよりよっぽど便利そうな能力だ」


 指定したものより便利なものを授かったので、これ以上強く言えない。


 ――俺は喜んでいたが、真相を知っているイーチャからするとそうは思えなかった。


(実は、最強クラスのスキルボードだったなんて言えないよなぁ。序盤からMP消費一とか、上級魔法の詠唱時間がほぼゼロになるやつを習得できたなんて。スキル解放したときのステータス補正もすごかったし……)


 最後に、とても大事なことを思い出す。


「あっ、そうだ。イスポアとやらの能力授かろうとしたんだけど、拒否されたんだっけ。ダメなんだろ、そういうの? 自分の管轄内の能力だからって、黙ってればバレないみたいなこと言われたぞ。しかも、常習犯らしい」


「なにぃ!? それはルール違反だ。私達が理想を叶えるのは、命懸けで戦ってもらう対価。それを拒否するとは許せないね。調べれば余罪が出てきそうだし、調査してみるよ」


 やってやったぞ。あのクソ女神の悪行をチクってやった。これからどうなるか楽しみだ。


 俺は上機嫌でイーチャに手を振って別れを告げ、くろすけと共に部屋を出た。


「なぁくろすけ。お前さ、時間止めたりできないの?」


「そんなこと出来ませんよっ!」


 彼は斜め後ろを滑るように移動する。脚はなく、幽霊のようだ。


「えー。背後霊的なやつって、時間止めたり壊れたものを直せるぞ。俺の世界じゃそれがデフォだ」


「オレはただ何もかも憎いんですよ。だから、壊すだけしかできません」


 壊すだけ。特殊で複雑な能力に固執し、それが弱点にならないと考えれば強みになるのかもしれない。

 俺は今度こそギルドの一員になるため、先程の建物に戻る。


――イスポアに能力を授かったときに感じた奇妙な違和感は、さらに膨らんでいた。

 くろすけというイレギュラー以外、予め用意されていた出来事のような感覚すらある。現に、、どこか淡々とした立ち振舞をしていた。


 それは、子供が無理をして大人に合わせ、顔色を伺うようなものにも似ている。

 なぜこう感じているかというと、過去に経験した「俺を騙すために都合のいい事態が連続する」という状況に酷似していたからだ。

 トントン拍子で事が進み、それに乗っかり続けているとやがて痛い目を見る。


 それに、何か問題があったのなら、目を覚ました時点で彼女から話があってもいいはず。

 しかし、イーチャの感じている負い目は本物で俺に悪意はない。


 それでも「何か」に誘導されている感覚は拭えなかった。

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