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女神殺しの銃槍士  作者: カブメント
7話 女神殺しの槍士
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7-3_神の大安売り

 さて、どうやって落ちようか。


 まさか頭から落ちるわけにはいかない。ならば足から落ちれば、それがクッションになって少しは被害が抑えられるはず。


 空中で背骨をバネにして頭を上に来るように藻掻いて、手脚の振りで脚が下に来るよう微調整していく。ほんの十秒に満たない間に、なんとかそれを成し遂げた。


 後は激痛への覚悟を――。


「ギャッ!!」


 自分に「よし痛いのが来るぞ」言い聞かせる前にカチカチの結晶に激突。

 足がぐしゃっとなって、次に膝。そのまま崩れるように顔も打った。


「ふんぬぬぉぉぉ! ぐぅぉぉぉ!」


 言葉にして「痛い」なんて言う余裕はない。全身が跳ねるように震え、アドレナリンが頭をカッとさせる。

 少しだけ理性を取り戻すと、前歯がぐらついて今にも落ちそうなことに気がついた。


「あちゃー、こんな形で連れてきちゃったかぁ」


 くろすけやパーティーメンバーのものではなく、子供の声がする。イーチャのようにどこかこなれていて、飄々とした感じ。


 しかし、こんな場所に子供なんているのか? きっとこれは幻聴かなんかだろう。

 奇妙な声には耳を貸さず、痛みを誤魔化すために転がるが、それはそれで余計に痛い。


 上を見るとチカチカと小さく光っていて、まだ昼なのだが、周囲にはほとんどそれが届かない。そのせいか、酷く冷える。


「あぁゴメンね、これじゃ見えないよね」


 また聞こえた。あまりの衝撃に、俺の頭がイカれてしまったらしい。

 それからすぐに、無数のグラスハープを鳴らしたような奇妙な音がすると、足元の結晶がぼうっと青白く光った。


 思ったよりも狭い空間で、息が詰まりそうだ。


 幻聴どころか幻視までするようになったと達観したつもりでいたが、一向にそれは消えない。目をこすったり、自分の頭を小突いても。


 脚は動かないし、背骨も痛い。首をなんとか動かして、声の主を探す。


「誰かいるのか――」


 声すら膝の神経を刺激して痛みを生むが、それどころじゃない光景が広がった。

 黒い縦長の切れ目のような模様がある、光を反射する巨大な球体。それを覆うように一枚一枚がマットレス以上の大きさがある土色の鱗。これは蛇の頭なのか?


(我は【ザンヘル】。山脈龍とも呼ばれていた)


「うおっ、これが『直接脳内に……!』ってやつか!?」


 脳内で独り言をするときと同じ感じ方。しかしそれは、全く聞き覚えがない威厳あるもので、奇妙な感覚だった。

 それとは別に、さっきの子供の声が耳を通って脳内に届く。


「あーダメだよ、自己紹介のためなんかに力使っちゃ」


 首をなんとか動かして、声のする方へ向くと、小柄な少年がザンヘルとやらの巨大な龍の瞳を見ていた。

 この龍があの街の由来となる生物なのだろうか?


 ハルよりも少し年下のようだが、どこかツンとした顔立ちで、少しだけ大人っぽい。


「え、こんな場所で迷子とかレベル高すぎない?」


 俺がそう言うと、少年はなんだか色気のある笑みを浮かべ、歩み寄ってくる。


「いやぁ、迷子なのはどっちかっていうときみじゃない?」


「たしかに!」


 彼が俺の頭をそっと撫でて、申し訳なさそうにした。


「ごめんね、僕がきみの運命を弄ったんだけど、力が弱ってしまったのと、きみの運命が強力すぎるのが合わさって上手にここまで誘導できなかったんだ」


「運命……だと……?」


 それが本当だとしたら、何かと都合よく力を得ていった俺は、女神の思惑だけでなく、彼の望む行動をするように仕向けられていたということになる。


 脳内で色々と思考していると、ザンヘルの声が混ざった。


(待っていたぞ、この世界の敵よ)


 今、巨龍は俺を敵と言った。迷わず腰のMP-443を引き抜いて、その眼球に向ける。もう吹っ切れたから、以前使っていた銃を握ることに抵抗はない。


「だぁー! ストップ! ザンヘルくん、喋るなら喋るでもうちょっと順を追って話して!」


 少年が俺にのしかかって、腕をつかんで銃口を上に向ける。その衝撃のせいで、膝関節に神経が挟まってとんでもないことになった。


「あばばばばば」


 視界にレインボーのノイズが現れ、痛みを超えて快感すら感じる。


「あ、やばっ。なんかバグらせたっぽい」


(そういうときは、叩くと治る)


 なんか龍が余計なことを言ったぞと思ったときには遅く、少年がごちんと俺の頭をグーで殴りやがった。

 つい最近も意識が飛んだっけなそういえば。


 ――。


 意識が戻ると、まず後頭部にふにふにとした感触。それから目を開けると、あの切れ長で色気のある少年の顔が視界いっぱいに広がった。


「お、天国に来ちゃった感じ?」


 彼は苦笑いでそれに返す。


「幸福なことにまだこの世にいるよ」


「果たしてそれは幸福と言えるのだろうか?」


「変なこと言わないでよ……」


 脚はしっかりと治っていたが、まだ治ってないふりをしてその感触を楽しむ。


「お前ら、エウターテスの味方ってわけじゃなさそうだな。もしそうだったら、気絶している間にどうにでもできた」


 とっさに武器を抜いてしまったが、敵扱いされてる割に待遇が良い。

 立ち上がろうとするも、脚が動かなくて転んだ風を装って、謎の少年の太ももにうつ伏せに顔を埋めた。


「あーやばいわー、脚動かねーわー」


「神様にウソ言っても無駄だよ。マニアックな趣味してるね、きみ」


「げ、バレた。――ってまぁーた神か。安売りしすぎだろ、神」


 嘘だからといって、特に振り払われることはない。神の太ももとか運気が上がりそうなので、たっぷり摂取しておこう。


「きみは、男の神様をこの世界で見るのは初めてだろう? なんか珍しいと思わないかい?」


「おお、確かに。突然変異?」


「そんなんじゃないよ。人間の信仰心なんて必要ない、エウターテスよりもーっとすごい神様」


 そんなどえらいもんが最初に「こんな形で連れてきた」なんて言ってた気がする。それが俺を必要としてたとすると、とてもいい気分。しかし、どうも胡散臭い気もする。


「うーん、じゃあ俺の名前は? それと、今、家の机の上に置いてあるものは? もちろん、地球にある俺の家だ」


「ふーん、神様試しちゃうんだ。――君の名前はノギ。昔の名前は聞くのもゴメンだって感じ。机の上は、パソコンのディスプレイを中心に、色々なものが散らかっている。残しておいても意味がない領収書や、漫画本やら。最近はきみの友人カルロが毎日弁当やお菓子を置いて、綺麗にしてくれているようだね。天板の裏には物騒なものがテープで貼り付けられてる。引き出しの中には……ありゃ、なんか僕に似たキャラクターのエッチな本があるね。うわぁ、ちょっと怖いなぁ。その本の下には――」


「もういい! 分かった! お前神! 信じる!」


「ならよろしい」


 彼は満足すると、すっと脚を引き抜いて俺から遠ざかる。


「あ、せっかくいい気持ちだったのになんで逃げるんだよ」


「いやだって、なんかされそうだし……」


「そんなことしないって」


「ふーん」


 少年はじっとりした目で俺を睨みつつ、さらに遠ざかる。脳内を覗きやがったな。

 仕方なく立ち上がると、その拍子に前歯がポロッと落ちた。その下から、小さな新しい歯が頭を覗かせている。


「サメか俺は」


 新しいそれをコリコリと弄りながら、少し胡散臭い神の瞳と、巨大な龍の瞳を交互に見た。

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