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女神殺しの銃槍士  作者: カブメント
7話 女神殺しの槍士
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7-2.群青の谷

 両脇の途方もなく巨大な結晶の壁は刺すような冷気を放ち、奥へ進めば進むほどそれが強まる。足元は土に砕けた結晶が混ざり、キラキラと光っていた。


 緩やかな下り道を進むと、足元から土が無くなり、不規則に抉れた結晶の足場で歩きにくい。

 上を見なければ、洞窟かと思うほど閉鎖的な空間だ。


「前来たときよりちょっと狭くなってるっスね。この先大丈夫かな?」


 レンカが不穏なことを言うので、俺もそれに釣られて悲観的なことを口にしてしまう。


「こんなカチカチの結晶で道を塞がれでもしたら、いくらなんでもキツイぞ」


 くろすけを使ってドリルで掘り進めばなんとかなるだろうが、体力は無限じゃない。


「ノギくん、そんなこと言うから……」


 カヤが指差した先に、見事なまでにピッチリと裂け目に挟まり、道を塞ぐ結晶の柱が現れる。高さは二十メートルあるかもしれない。


「俺のせいかよ」


 アリシアが「ふんす」と鼻息でも出しそうな表情をして、腕組みをしながら続けて俺のせいにした。


「そういうのを地球では『フラグ』と言うんだろう?」


「へいへい俺のせいですよ」


 厚みは分からないが、壁がそのまま崩れているわけではない。壊すか登るか判断するため、くろすけに偵察させる。


「くろすけ、厚みを見てきてくれ」


「はい」


 足元の影からすぅっと出てきて、あっという間に柱のてっぺんまで飛んでいった。


「だいたい八メートルくらいありますね。ここまで厚いと、登った方が早いかもしれません」


「そんなにあるのか……。とりあえず戻ってこい」


 くろすけは自由に飛べるから、俺を持たせて空を飛ぼう――。という訳にはいかない。

 彼は俺の影であり、俺の一部。自分の身体を掴んだり殴ったりはできても、持ち上げられないのと一緒の原理で、自身を持って飛ぶことはできない。

 皆はくろすけで運んで、俺は影で手脚を強化して登るのが一番楽だろう。


 早速くろすけを板状に変形させ、彼女達を乗っけて向こう側まで送り届け、戻ってきた彼で手脚に影の爪を形作る。

 四足歩行で壁を駆け上がり、柱のてっぺんを飛び越え、地面に飛び降りる。膝がちょっとひび割れた気がしたが、すぐに痛みは引いた。


「はー疲れた。お前の遠隔操作ってやっぱ心身に来るなぁ」


「じゃ、ご主人。もうワンセット行きましょうか」


「あ?」


 足元しか見ておらず、気づかなかったが、同じようなサイズの柱がもう一本道を塞いでいた。


「わぁ、素敵な結晶の柱」


 もう一本。それだけなら良かったが、結晶の土砂崩れや、地殻変動で閉じてしまった区域を三つ飛び越えた頃には、手脚はガクガク。普通だったら休憩が必要な程の疲労を、肉体の再生力で誤魔化して動かしていたので、結構なダメージになった。


 戦闘中は脳内麻薬でどうってことないが、日常生活ではこの身体を使いこなせていない。

 スポーツカーに三輪車のハンドルをくっつけて走っているような状態だ。しかし、裏を返せばまだ成長の余地があるということなのだろう。


 十秒ほど冷たい地面で居眠りをし、脳と肉体を回復させ、飛び起きる。


「お疲れの所悪いんスけど、こんどはめちゃくちゃ深い裂け目っス」


 レンカが俺の肩にポンと手を乗せ、同情する素振りを見せる。


「あ、ああ……。まぁ、伝説の武器の入手に試練はつきものだし……」


 アリシアは頷き、自らの剣を掲げた。


「私もこのルビラクスを手にすることができるまで、苦難の日々だった。どんなに素晴らしい剣だろうとも、振るう人間が劣っていては意味がないからな」


 アリシアのこういう真っ直ぐさは憧れすら感じる。俺じゃ絶対にたどり着けない。そこが好きな部分でもあり、苦手な部分だ。


 また彼女達をくろすけに乗せて運ぼうと思ったとき、妙案が浮かぶ。

 俺自身を飛ばすことはできないが、影をどっかに引っ掛けて持ち上げることはできるはず。とりあえずやってみよう。


 くろすけを板状に変形させ、その両脇から計八本の触手を伸ばす。彼は自発的にここまで複雑な形状になれないので、俺の脳を使っている。

 多少疲れるが、こんな場所を飛び降りていくよりは楽なはず。


 触手を両サイドの硬い壁に食い込ませ、彼の上に恐る恐る飛び乗った。


「お、イケそうな感じ」


 自分の手脚の感覚を忘れ、触手の制御に集中。一歩二歩というのは忘れて、自転車に初めて乗ったときのような、機械を自分の身体に馴染ませる作業をする。


 最低でも同時に四本の触手が壁に刺さった状態を維持し、五メートルほど動いてみた。

 思ったより安定して移動できる感じなので、皆を乗せて慎重に進む。


「それにしても本当に万能っスね、この人?」


 レンカに褒められ、くろすけは得意げな様子。


「でしょう? 曖昧な存在ゆえの利点です」


 俺は彼の板になった背中らしき部分をポンと軽く叩く。


「ああ、お前と偶然出会ってなかったら、俺はとっくに死んでたかもな」


「出会うっていうより、無理矢理でしたよねアレ。まぁ、なんか邪悪な気配がしたので、後をつけたオレの自業自得でもあるんですけど」


 カヤが俺の顔を覗き込み、何かのスキルを発動したらしく、目が少し光った。以前の光り方よりも少し強めだ。


「うーん、やっぱ分類は人間……あっ……」


「おい、俺の何を見た」


「べ、別にレンカちゃんのお尻とか見てないからっ!」


 俺がちょくちょく彼女の尻を見ている記憶でも探ったのだろうか?


「ぬぉぉぉぉ! やっぱり覚えてるんじゃないっスか!」


「あ、おい、やめろ!」


 レンカが俺の首を掴んで振り回す。そのせいでくろすけを制御する集中力を失い、伸ばした触手がもつれ、真っ逆さま。


 アリシアがカヤとレンカを空中で抱きかかえ、自らを下にして耐久力を上げる魔法を使った。助かる見込みがあるのか、どこか余裕な表情で言う。


「まったく、おふざけが過ぎるぞ」


 俺はくろすけの変形を解除し、自由に動けるようにする。


「行って来いっ!」


 彼は俺の意図を察し、影の腕を巨大化させて彼女達を受け止めた。


 とりあえずは大丈夫そうだ。俺は大丈夫じゃないけど。

 何にも遮られることなく、深い深い谷の底に落ちていく。

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