7-1_珍しく穏やかな朝
起床。古びた蛍光灯のような曖昧な目覚めではなく、はっきりとしたものだった。
とりあえず、出しっぱなしにしていたナイフと拳銃を身に着け、テントの外に出る。
夜の紺色がまだ残っていて、起きるには少し早かったようだ。他のテントはピッタリと閉じていて、まだ寝ているらしい。
今更二度寝する気にもなれないので、パンを切ってトーストの下準備をし、ジャムの瓶を並べ、ハムを焼く。
そうこうしていると、カヤが目をこすりながら出てきた。
「うぁー、あんまり眠れなかったぁ」
「だろうな」
きっとレンカの寝相の悪さに悩まされたはず。顔に青タンを作っていないだけ、まだマシ。
続いて、アリシアが出てくる。
「二人とも早いな」
三人で席に着くと、レンカはテントから転がって出てきた。カヤは俺と同じく、彼女をグルグル巻きに縛って夜を乗り越えたらしい。
「なんでわたしを縛るんスかぁ!」
「寝相が悪いからに決まってるだろ」
トーストしたパンにペルグランデタウルスのバターを塗り、ハムを乗せつつ俺は言った。
「とにかく解いてほしいっス!」
そう懇願する彼女の瞳を数秒見てから、パンを齧った。
「むっ、『放置するのも面白そうだなー』って思ってるのはお見通しっス!」
「よく分かったな」
パンを口に詰め込んでから、仕方なく紐を解く。
――食事を終えた俺達は、引き続きレンカの案内で進む。
リザードマン達が潜んでいた森に入るため、人間が川に設置した大きな石を橋代わりにして渡っていく。
場所によって間隔が二メートルはあるので、油断したら足を滑らせ、びしょ濡れになってしまいそうだ。
俺だって身体能力は悪くないが、少しばかり気が引ける距離。だが、彼女達は何の気なしに石の上をぴょんぴょん飛んでいく。それを見ると、こんな俺でも現代っ子だなと実感した。
森の中は打って変わってひんやりと涼しく、まだまだガラル気候が感じられた場所の近くとは思えない。
ただ単純に涼しいというより、冷たい空気がどこからか流れ込んできているといった感じ。
獣道を進む最中は比較的穏やかで、植物系の小型原生モンスターと数匹遭遇したのみ。薬品として需要のあるものは採取してコンテナに詰め込んだ。売れる部位のあるモンスターを狩る場合、銃というものはとても重宝する。
更に奥へ三時間程進むと、羽虫すら飛ばないほど静かな森へと切り替わった。ツンと冷える風に妙な感じが合わさり、思わず身が引き締まる。
「そろそろっスよ」
レンカがそう言ったのだから、そろそろだ。木を十本程通り過ぎると、青っぽい何かが幹の隙間にチラつく。
それはキラキラしていて、人間の数倍はある結晶の柱で構成された塊。
突如現れたそれに、どう反応していいか分からなかった。
異世界人にはありふれた出来事かと思えば、アリシアとカヤも戸惑っている。
その塊は、森をいきなりぶった切る形で存在していて、どこまでも続いていた。
正に群青色という色合いの結晶に手を触れてみると、氷ほどではないがひんやりと冷たく、ナイフで強めに切りつけても、薄っすらと傷が付く程度で済む強度がある。
「あー、ちょっと入れる場所からズレたみたいっスね。森の形が少し変わったせいだ」
レンカが左右を見ると、進むべき方向が分かったのか、右の方を指差して「こっちっス!」と言った。
五分ほどその方へ進むと結晶の壁に裂け目があり、そこからとんでもなく冷たい空気が流れ出ている。
カヤがそれに吹かれ、全身をゾワゾワと震わせた。
「ノギくん、あたしのケープ出して。めちゃくちゃ寒いよぉ」
そこそこ厚着の俺でも冷えるのだから、へそ出し服のカヤには酷だろう。服用コンテナから深緑色のケープを取り出して渡すと、素早くすっぽり被り、温かい布を愛おしそうに抱き締めた。
「みんな、ラーヴァウムの葉っぱいるか?」
「うん」
カヤが返事をし、他の二人も頷く。
葉っぱの束を皆の前に出すと、そこから一枚ずつ引き抜き、数回噛んでから口の奥に入れた。
俺も一枚……と思ったが、残り六枚。生命線でもあるので、我慢することにする。どうせ死なないんだから、寒いくらいどうってことない。
間もなく彼女達にラーヴァウムの効果が出始め、血行が良くなり頬が赤くなってくる。
そして、結晶の裂け目から群青の谷に足を踏み入れた。




