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女神殺しの銃槍士  作者: カブメント
6話 ラブコメ路線は続かない
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6-7_キャメル・リザレクション

「リザードマンは必ず群れで狩りを行い、冒険者の持つ貴金属を集める習性がある。奴らは日々鍛錬し、使用する武器の質や知能も高い。気をつけるんだ」


 怪我人のくせしてアリシアは、スラスラとリザードマンの特徴を述べていく。


 M4を消し、ナイフとMP-443だけにして、仁王立ちで待ち構えた。


 ――ディザやエウターテスと戦うとき、もちろん本気だったが、今日は少し違う。蓋をしてきた苛烈さと冷淡さを解き放ち、ノギを塗り潰す。


 弓兵は攻撃を取り止め、濁った甲高い声で叫ぶと、川向うの森から複数の影が飛び出してくる。

 それは水しぶきを纏ってこちらへ突進。数は三。まだだ。もっと引きつける。

 リザードマン達は水面を蹴り、身長の三倍は飛び上がった。そして、ただ待っているだけの俺へ急降下。緑色で頑丈そうな身体の割に、身軽らしい。


「俺の前で、制御を失う空中に逃げるとは」


 ズボンに挟んだ拳銃を引き抜き、横倒しに構え、引き金を引いた。反動を利用して次のターゲットに銃口を向け、弾丸を放っていく。

 本来は重量のあるマシンピストルでやる技だが、反動制御を極めればどんな銃でだってやれる。


 三発の弾丸は、奴らの長い首に全て命中。赤い血を撒き散らしながら、地面に落ちた。

 だが、手応えはない。

 リザードマンの前面は白っぽく、背面の鱗に比べたら柔らかい表皮だが、人間と比べればかなりの強度がある。重要な血管や神経を傷つける前に、弾丸は止まったらしい。


 ナイフに持ち替えると、奴らは短くて湾曲した脚で地面を叩き、跳ねるように立ち上がる。

 三匹の装備は、片手剣と盾、シミターの二刀流、戦斧。

 それには豪華な装飾が施され、大粒の宝石が埋め込まれていた。恐らく、狩った得物の数や強さを示すために身に着けているのだろう。


 とりあえず、動きの早そうな二刀流からだ。盾持ちは処理に時間がかかるし、斧の攻撃は回避しやすいはず。

 リザードマンは俺が突っ込んでくる速度と間合いを把握し、精確に右手のシミターを振り下ろしてくる。

 その側面に俺の左腕を叩きつけ、軌道をそらし、右膝で腹を蹴った。間髪入れずナイフを強く突き出し、強く引き抜く。筋肉の収縮で刃がたまに抜けなくなるので、突くときよりも力いっぱい捻りながらやる必要がある。

 それを何度も繰り返す。


 仲間を助けるため、盾持ちのトカゲが大きな赤い宝石の埋め込まれたそれで殴りかかってくる。

 転ぶように座って躱し、左手を軸に回転して足払い。


 めった刺しにされた奴はまだまだ生きていて、二本の剣を俺の腹に突き立てようと飛び込んできた。

 座った状態では打開策が無いように見えたが、こんなのは茶飯事。あえて寝そべり、剣よりは長い自慢の足を高く上げて後ろに蹴り飛ばした。


 すかさず斧のトカゲが胴を真っ二つにしようとしてきたので、横に転がりつつ、低い姿勢のまま左手で銃を持って、斧を支える右腕に一発。これで更にのろくなる。


 俺に蹴り飛ばされて仰向けになったトカゲに、今度は俺が飛び込む。執念深くシミターを突き出してきたが、空中で身体をひねると、首の横を刃が通り過ぎた。


 一方、俺の刃は幅広の下顎を貫き、上顎にまで到達。ほんの数秒藻掻いたが、すぐに息絶えた。

 足で押さえつけなからそれを引き抜き、次の獲物を見定める。


 斧持ちは銃で腕を撃たれたことで武器をうまく持ち上げられず、左手で引きずりながら迫ってくる。となると、次は剣と盾のトカゲだ。


 もう既に立ち上がっていて、俺に突進してくる。

 振り下ろされた片手剣を、両手で持ったナイフで受け止め、盾に蹴りをお見舞いしてやった。

 脚を振り子のように振り回して蹴り、何度も何度も盾を揺さぶり、次の攻撃をさせない。


 このまま押しに押して、パターン化した直後に脚でも斬りつけるつもりだったが、予想は外れた。

 盾を手放し、俺の蹴りが空振りした所で水平斬りを繰り出してくる。


「なにッ!?」


 かつてガネシがやったように、武器を離してでもチャンスを作るというやり方。並の戦士では、それをやろうなんて思わない。

 後ろに飛び退いたが、追撃は止まない。辛うじてナイフで弾き返している状態。

 背後には斧を引きずる奴が迫り、流石に状況が悪い。


「こなくそぉッ!!」


 もう一度後ろに思いっきり飛んで、刃の打ち合いを中断。空振りさせたところに、ナイフを左目に投げつけ、怯ませる。

 後ろに飛ぶ勢いはそのまま、斧を振りかぶったトカゲの胴体に背中から突っ込み、銃口は生臭そうな口に突っ込む。

 引き金を引けば、口の中から大量の血が吹き出し、俺を汚した。


 そして、残りの弾丸を正面のトカゲに叩き込み、最後の一発で剣も弾き落とす。


 後ろの死体を蹴って加速し、思いっきり拳を突き出した。一発で留まらず、何発も何発も何発も。

 銃槍を執拗に殴り、弱らせ、最後に上段回し蹴り。モンスターとはいえ、脳みそを思いっきり揺らされたらひとたまりもない。


 地面に伸びたそいつはまだ生きているので、トドメの踵落としを食らわせ、頭蓋骨を砕く。


 勝ち誇りたいところだが、視界の端に再びキラリと光るものが映る。俺の近くに仲間がいなくなったことで、さっきの射手が弓を射るチャンスを得た。


 ここからじゃ流石に拳銃弾は届かない。MSRを生成し、少し横に走って相手の照準を狂わせ、膝撃ちの姿勢でその場所を狙う。


 リザードマンのおおよその大きさが解ったので、矢の位置から自ずと頭の位置は割り出せる。

 呼吸を止め、引き金を穏やかに引くと、矢尻の煌めきは消えた。


 最後の銃声を境に、再び静けさを取り戻す。


「洗濯物……。増えちゃったな」


 返り血は人間のものよりも酷いニオイ。手持ちの石鹸で取れるだろうか?


「まるで賊の技を極めたような戦い……。私の剣が及ばなかったことも少し理解できた。しかし、参考にできそうにない。あえて窮地を利用するような危うい戦いなど。――どんな生き方をしてきた?」


「もっと仲良くなったら教えてやるよ」


「それは難しいな」


 可愛げのないやつ。そう言う代わりに鼻で笑って返す。


 全てを見届け、俺を少し見透かしたアリシアは何事も無かったように立ち上がった。


「怪我はどうした?」


「こちらの人間は、少し休めば捻挫も治る」


「ウソつけ」


 スキルボードで自己再生系のものを習得していればあながち嘘でもないが、結構レアなスキルで、彼女はそれを習得していないはず。


 血を洗い流すため、川に飛び込んで大まかな汚れを落とす。それから全身に石鹸を塗りたくって擦ってみたものの、茶色っぽいシミは落ちなかった。人間の血ならすぐに洗えば落ちるのに。


「今度は汚れが落ちやすい、ワングレード上の生地で作ってもらうか。これだと逆に高くつきそうだ」


 ニオイ自体は取れたので、一応予備として持っていく。テントに戻ったら干すため、コンテナに詰め込んで、着替え始めた。


「こっち見んなよー。見てもいいけど」


「誰がお前の裸なんて見るか。ハル以外の男の裸を見たら目が潰れてしまう」


「なんだよ見ろよ……ってうわぁッ!」


 銃声を聞きつけて来たのか、パンツを下ろした絶妙なタイミングでレンカとカヤがやってくる。後ろにはくろすけもいた。


「またっスか! もう数え切れないくらいこのパターン経験したっスよもうっ!」


「八回目だ。覚えておけ」


 指で数字の八を示す。

 カヤは目を指で隠しつつも。隙間からバッチリ見ている。


「八回もこんなことしてるの!? ノギくん絶対わざとでしょっ!」


「どういうわけかいつも偶然なんだ! 信じてくれ!」


 冷たい夜風に晒され、マイサンが縮みそうだったので、見栄を張りたい俺は早急に衣服を身に着けて隠す。

 カヤが周囲をキョロキョロと見回し、「わっ」と声を上げた。


「リザードマン! しかもこんなに!」


「川向うにも一匹いた。てか、今気付いたのか? 俺の股間しか見てなかったのかよ」


「べ、別にそんなんじゃないからっ!」


 レンカはやれやれという様子で、カヤをなだめる。


「慣れちゃえば自然と周りも見えるようになるっスよ」


「慣れたくないよっ!」


 戦利品であるリザードマンの武器から小さな宝石をいくつも抜き取り、ボコボコに蹴った盾の宝石はノミなどを使って慎重に外していく。蹴るとき、これを傷つけてしまわないかとヒヤヒヤしたもんだ。

 深みのある真紅の宝石は、ルビーやガーネットとは一味違う。価値は分からないが、拳ほどの宝石なんて、滅多にお目にかかれない。


「ちょっと見せて。鑑定してみるから」


 盗賊のカヤが言うとちょっと身構えるが、ぶんどって逃げたりはしないだろう。宝石を広げた布の前に屈むと、目が一瞬だけ光ったような気がした。これがスキルの発動というやつなんだろうか?


「うーん、全部合わせても、最低で金貨二百枚くらいかぁ。頑張れば二百五十枚くらいで売れるかも。ちょっと残念な結果かなぁ」


「これで残念なのか?」


 確かにこのレベルの宝石にしては安い気もするが、さっきの十倍は大変な仕事をしても五十万円行かない事もザラだった。十分満足できる。


「そうだもう一匹殺したんだ。そっちを見てくる」


 パンツ一丁になって再び川に飛び込んで全速力で泳ぐ。そして、弓に埋まっていた、キレイな緑の宝石を引っ剥がし、持って帰ってカヤに見せる。


「金貨一枚」


「安っす……」


「地球と違って、魔法効果なんかが付与されてないと、あんまり値段つかないんだよねぇ」


 宝石を貴重品バッグに入れ、脳内に仕舞う。撤収しようとしたとき、ふとリザードマンの死体が目に入った。


「これ、食えるのかな……」


 混沌種と違い、原生種だったリザードマンはいつまでも死体が残っていた。カヤが嫌そうな顔でそれを止める。


「絶対不味いって。皮膚に変なブツブツ出ちゃうよ?」


「まぁ食い物に困ってないしやめとくか」


 血は結構臭かったので、相当下処理をしないと食えたもんじゃないかもしれない。これは、野生動物のメシになるか、植物の肥料になるかのどちらかだろう。


 騒がしくしたので、他のモンスターが集まってこないか警戒しつつ、キャンプに戻った。

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