6-5_たのしいキャンプ
とりあえずテントが必要だ。
それさえあれば横になれるし、急な雨で体力を奪われることもなくなる。
いつものようにテントを一つ……というわけにはいかないだろう。
「テントいくつ出すよ? ああでもできるだけ少ないほうがいいなぁ。あんまたくさん出してると疲れちゃうかも」
俺の下心丸出しな言い訳に、アリシアはビシッと言う。
「できれば三つ頼みたい。私は少し夜更かしするから一つ。カヤとレンカにもう一つ。そして、ノギの分だ」
「それなら俺も夜更かしするから二つ――」
「三つだ」
そんなに嫌か。まあ当然か。
「へいへい三つね」
とりあえずは一番大きい二人のテント。余裕を持って三人用のやつを生成する。
ちゃっちゃと広げてポールを通していると、俺の道具に慣れているレンカがそれを手伝い、カヤもやろうとしていることを汲み取って手伝ってくれた。
手持ち無沙汰になってしまったアリシアは、「薪を探してくる」と言って、俺から紐を受け取りどこかに行ってしまう。ぶっちゃけガスコンロやLEDランプで十分なのだが、MPの節約になるならと止めなかった。
続けてアリシアのテントと俺のテントを組み立てていく。慣れたもので、三人の手があれば一瞬だ。
次に寝袋や椅子なんかを片っ端から出していき、テントの内部にランプを吊るしておいた。
一通り出し切って椅子でくつろいでいると、アリシアが薪をたんまりと作り、引きずって帰ってきた。
カヤが立ち上がって手を振り、彼女の分の椅子を掴んで座るように促す。
「おかえりー、いっぱい持ってきたね」
「余ったらノギの倉庫に詰め込んでおけばいいだろう。次に乾燥した木が見つかるとは限らないし。ついでに食べられる果物も見つけた」
彼女の集めた薪を一つ解き、状態を確かめる。拾ったものにしたはそこそこ乾燥していて十分使える。
「じゃ、早速使わせてもらうよ」
一番使い慣れたフルタングのナイフを取り出し、腰に取り付ける。
薪を適当に並べ、その中から特に細い一本を探す。それの表面を薄く何回も削いで、フェザースティックを作った。
着火剤を使ってもいいのだが、少しくらいは手間を楽しむのも悪くない。
アリシアは俺とナイフを鋭く睨み、殺気を放つ。
「なんだよじっと見て……。俺に惚れたか?」
「天地がひっくり返ったら惚れてやろう」
「そりゃ大変だ。でも、そんな事言うと本当にひっくり返すぞ、俺は」
言質を取った所で、ライターで火を付けて薪の中に放り込む。ちゃんと火がつくように少し弄って、息を軽く吹き込むと徐々に燃え広がった。
「よおし、ちょっと早いがなんか作るか」
「今日もしっかり監視するっスよ。エッチな薬を混入させないために」
いつも通りレンカチェックが入りながらの料理。
生木がいくらか混じっているので、多少は爆ぜてしまう。なので、俺の肩越しに見るように言った。
生物を使い切るつもりなので、今日だけは少しいいものを作ってあげられる。
ガラルの街で多くの香辛料が手に入ったので、カレーにしよう。チーズやミルクなんかもあるので、バターチキンカレー風に仕上げてもいいかもしれない。
食材をテーブルの上に並べて、鶏肉が腐ってないか一応確認。どうも俺の中にしまっておくと時間が止まっているらしく、頻繁に出し入れしなければ物が腐ったりしない。
鍋を取り出して焚き火の上に吊るし、切った肉ときざんだ玉ねぎを炒めていく。
一部だが、地球と同じ食材が元々この世界にある。それはどんな理由かは知らないが、あるものは有り難く使わせてもらう。
ある程度火が通ったら、トマトと香辛料と塩を適当にぶち込んで、煮込む。
次の支度をしながらアリシアの採ってきた果物を口にしてみる。リンゴのような甘さに、マンゴーのような奥深さ。
「コレも入れてみるか」
少しだけ鍋にすり下ろし、後は時間の許す限り煮込む。
お次は米だ。転生者のやっている店から白米を買ってきたので、それを使う。
こちらの米も使ってみたかったが、水加減が分からないので、それはまた別の機会に。
シュジンダマシという、黄色い花を乾燥させたものを飯盒の中へ米と一緒に投入。
これは、ズボラなメイドが愛用していたというもの。これを使えば主人は手抜き料理に気づかず、騙されてしまうからこの名前になったらしい。
しかし、多くの調味料の発見や開発により、今となっては永遠の中堅というポジション。でも、カレーには合うはずだ。
最後にアヒージョ。オリーブオイルは手に入らなかったが、ジョッキで飲んでも胃もたれしないフォレストポット油を使う。
これは、油分の多い種を持つ大型で翡翠色の木の実が原料だ。実は塩漬けなどで食され、種からは油を絞り出せる。
酸化しにくく、染料などの溶剤として使われたり、種を割って着火するとランプ代わりにもなるので、「旅人のランプ」とも呼ばれている。
アヒージョは多めに作って、俺の夜食にしよう。
マッシュルーム系のキノコを大小バラバラに切って、食感を変える。乾燥ベーコンと干し肉の余りをぶちこみ、香辛料で味を整えた。
そして、一緒に食べるための硬いパンを切って並べておく。
これだけ作っておけば、とりあえずは文句無しだろう。何かリクエストがあったときに、追加で作ればいい。
忘れずに、バターチキンカレーのバター要素。ペルグランデタウルスの濃厚バターを溶かし、香り付けした米にかけて完成だ。
「ほらー、お楽しみのメシだぞー。さっさと食えー。そして褒めろー」
机と椅子に呼び寄せると、レンカがいつものように隣に陣取った。俺の目の前にはカヤで、その隣にアリシアが腰掛ける。
素早さの数値が高い盗賊娘が真っ先にカレーを一口。
「んー。やっぱノギくんの料理って美味しいね」
「だろう? 俺に教えてくれた人が上手だったからな」
「へー、どんな人?」
優しかった彼女を思うだけで、俺まで優しい気落ちになれる。
それ故、背負うものを勝手に膨らませていく、放っておけない人。
「そうだな、俺の根っこまで受け入れてくれた人って感じかな?」
「へー、昔の彼女とか?」
「軽く言っちゃうなら、それかもな」
アリシアが火星人と初めて遭遇したような顔で、口をパクパクさせた。
「なぜ、ノギに恋人が……?」
アリシアの「ありえない」という感情を理解できないこともない。なぜなら、今の俺と過去の俺は似て非なるもの。自らを構成するものを、ポロッと落としてきたので、ほぼ別人だ。
「やっぱ、恋人って話本当だったんスね……」
レンカは俺が遠ざからないよう、すがるように袖を引く。カルラの話だと思いこんでいるらしいが、さっきの話は別人だ。
「もう恋人は懲り懲りだ。みんな死ぬし遠ざかっていく。やっぱ作るなら友達だな」
「それなら……とりあえずは安心っス。ノギは恋人を作るよりも、無理やり女の子を屈服させることばかり企んでるド変態っスもんね」
否定はできなかった。誤魔化すためにアヒージョにパンをひたし、具を乗っけて口に放り込む。美味い。
無言の肯定に耐えられなくなったカヤは、俺の肩を激しく揺すって言った。
「ノギくん、否定してくれないと怖いよっ!」
「……?」
揺さぶられながらカレーを口に入れてみると、これまた美味い。バターの風味が生きている。
「ノギくーん!」
彼女の問いかけには答えない。だって否定出来ないんだもの。
アリシアは、そんなことをしようものなら返り討ちにしてやろうと言わんばかり。しかし、俺の出した食事をためらいなく口にしてくれる程度には、認められているらしい。
バターチキンカレーが異世界人の口に合うか分からなかったが、レンカも幸せそうな顔で頬張ってくれている。
――あの人の思い出は、大雑把料理の技術や、なけなしの優しさとして心の中で生きていた。それは俺がノギになる前の、素敵な記憶の一つ。




