6-4_おアツい道中
ガラル砂漠を大きく迂回した道とはいえ、草木は少なく、気温も高い。日本のように湿度が高くないのが救いだ。
乾燥してゴツゴツした地面なので、普通の道より疲れやすいはず。
街と街の移動なら馬車の定期便で気軽に移動できるが、そうでないと金貨が十枚以上必要になる。どうせすぐに馬車が入れない場所を進むことになるので、馬車を借りる意味がない。
俺が車でも余裕で出せればいいのだが、MPの多用は何かと戦闘に響く。
「レンカ、そろそろ休んだほうがいいか? 俺の身体だと、どの程度体力使ったか分からないんだ」
「うーん、二割くらい疲れたって感じっスね」
「じゃあちょっとだけ休むか。水分と肉を腹に入れておこう」
本当だったらソファでも出してやりたいところだが、重量があるのでその分MPを多く使う。なので、簡単な折りたたみ椅子に留めておく。
それを四人分取り出し、コンテナから目当てのものを取り出してから早々にしまう。
くろすけは俺の中で話しかけてくることもなく、寝ている様子。脳みそを休める必要はないが、一応人間の集合体なので、人間らしいことをたまにしている。
塩辛くて硬い干し肉を歯でむしり、味わってから水筒の中身で流し込む。
水には、それを長期保存するための香草と、サトウキビのようなものを絞ってある。用途こそはスポーツドリンクだが、味はスッキリとして後味が残るような感じがない。旅先の飲み物と言ったらほとんどこれ。
「ノギくんってなんか旅馴れしてるよね」
カヤが俺の持っている干し肉入れからもう一切れ取りつつ言った。
「ああ。移動と調査ばっかりの生活だったからな。それに、レンカ達とそこそこ野宿を繰り返してたし」
アリシアは二回り大きな干し肉をつまんで続ける。
「冒険を初めて数日のハルは可愛かったなぁ。夜中に物音がするたび、ビクッとしながら私に抱きついてきた」
「なにそれ羨ましい」
彼女は鼻をフフンとさせ、優越感に浸った。
それからしばらく、他愛もない話をしてから再び歩き出す。
(このまま大人しくしてれば、ラブコメの主人公みたいになれるのでは?)
くろすけが俺の考えたことのせいで目が冷めたのか、背中から出てきた。
「ご主人また余計なコト考えませんでした?」
「一々声に出して言うな」
アリシアが「やっぱりな」と言いつつ、肩をすくめる。
「き、きっと今晩襲う相手を選んでたんっスね! 私の脚ばっかり見てたの気づいてたんスから!」
「残念尻だ。レンカの尻を見ていると、何か大切なことを思い出しそうで……」
「だぁーっ! それは思い出さなくていいっス! 奥深くに大切にしまっとくっス!」
何かが俺の脳みそに隠されているのは間違いないが、それが突っかかって出てこない。それが下らないことだとしても、思い出せないくなった途端、やたら気になる。
それから三時間、休憩を挟みつつひたすら歩いた。しかし、風景はずっと同じ。モンスターすらわざわざ寝床にしない土地なので、暇でしょうがない。
ミュージックプレイヤーを生成してみたものの、中身はよく知らないサンプル曲だけ。
「レンカぁ。こっちで本当に合ってんの?」
「もう、そんなに心配しなくても大丈夫っスよ。あのでっかい岩山が見えてるってことは、ちゃんと予定通りに進めてる証拠っス」
彼女は俺の前を歩くことを警戒してか、横に張り付いている。カヤはちゃかり俺を日陰にして、アリシアは涼しい顔でその横を歩いた。
足元の草の密度が増えてきていて、気温が少し下がった代わりに湿度は高まりつつある様子。そのずっと先には森があり、ザンヘル寄りの気候に傾いてきた証拠だ。
「あとちょっと歩けば野宿にちょうどいい場所があるんで、今日は早めにそこで寝るっス」
異世界人のあとちょっとがよく分からない。ちょっとと言いつつ、何時間歩かされるのやら。
しかし、拍子抜けするほど「ちょっと」だった。レンカのそれは信じることにしよう。
三メートルほどの岩を囲むように原っぱがあり、背の低い木がちらほら。三百メートル程先には川が通っていて、その向こう側に明日踏み込みたい森がある。
日の傾き具合からして、今は午後三時くらい。
今日はここがキャンプ地だ。




