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女神殺しの銃槍士  作者: カブメント
6話 ラブコメ路線は続かない
32/43

6-1_犬だワン

俺は犬だ。


レンカ達の部屋で、その任を全うしていた。


「ハイヨー、シルバーっス!」


「それは馬に言うセリフだワン。てか、そんな言葉どこで覚えてきたんだワン」


 彼女は、俺に馬乗りならぬ犬乗りになって部屋を歩かせる。首輪に付いたリードを手綱代わりにして、右へ左へ自由自在だ。


「シャルも乗ったらどうっスか? 楽しいっすよぉ」


「わ、私は……」


 拒否しつつも、彼女はどこか乗りたそうな感じだった。ルファは既に十分ほど乗り回した後だ。


「遠慮することないワン。悪いのは俺だワン」


 くろすけは頭を抱え、部屋の隅を飛んでいる。


 ――なぜこんなことになったかというと、寝起きにレンカ達とどういう手順で槍を回収するかという打ち合わせをしているときのことだった。


「そのディーロウだっけ? あの神聖な感じの攻撃が俺にも扱えたら結構便利だと思うんだけど……」


 レンカの腰のそれを指差すと、折り畳まれた弓を革ベルトから外して俺に手渡した。


「たぶん大丈夫っスよ」


 くろすけがひょいと出てきて、手元を覗き込む。


「エウターテスの剣の欠片を腹に刺していたせいで、耐性が強まっています。少し使うくらいなら、軽いしもやけ程度で済みそうですね」


 彼の言う通り、ディーロウを手にするとほんの少しピリピリと痛む。氷を握っているのに少し近い感触だ。


「そこのグリップを握ってから、ここを強く引っ張ると開くっス。結構勢い強いんで、脚とかにぶつけるとめちゃくちゃ痛いから、斜めにしてから開くのがオススメっス」


 彼女の言う通りグリップを握り、斜めにしてからツマミを引っ張る。すると、金属が弾けるような音が部屋に鳴り響き、腕を持ってかれそうな勢いで弓の形に変形した。

 光の弦が生成され、そこに指で触れると光の矢が現れる。光に直接触れると、少しばかり痛いが問題ない。


 やはり、矢は俺の力でこの世の物となってしまう。それは力が減衰して消滅するまで、テーブルの上に置いておくことにした。


 改めて弓本体の形状を確認するため、可動部なんかに目を凝らす。ネジなは一切使われておらず、どうやって組み立てられたのか見当もつかなかった。


「これは頑丈そうだな――」


 可動部を持って軽く引っ張ると、何かがポッキリ折れるような音。それが嘘だと信じたくて、慎重に力を加えて確かめる。


「あ……」


 グリップ部分を半分に折れるように繋いでいたバーツが外れてしまい、光の弦が途切れる。どう押し込んでもハマらず、額に冷や汗が浮かぶ。


 一部始終を目撃したレンカはサッと青くなり、ガタガタと震える。


 それからはあっという間だった。


 俺の移動式土下座(地面に頭を付けたまま、雑巾がけの要領で動くやつ)からの「何でも言うことを聞く」発言。それに対してレンカは、「一生犬として過ごすっス」という命令を下す。

 死んだ魚のような目で言われて、少しドキッとしたのは内緒だ。


 ――そんなこんなで俺の人生は幕を閉じ、犬としての生活が始まった。


「そろそろ出発の準備がしたいワン。二足歩行を許可して欲しいワン」


「頑張って四足歩行でやらなきゃ駄目っス。外に出るまでは、二本脚で歩いたらお仕置きっスよ」


「お仕置きも悪い気がしないワン」


 レンカを乗せたまま、持ち歩くポーションの選別などに取り掛かろうとしたとき、部屋の戸がノックされたので、シャルが「どうぞ」と言って招き入れた。

 どう考えても「どうぞ」な状況ではない。


 入ってきたのはハルとアリシア。二人は目ををギョッとさせ、ハルは頬を赤らめ、アリシアは苦い顔をした。


「二人も乗っていくかワン?」


 俺がそう問いかけると、後ろからひょっこりマリが出てくる。


「こ、こんな変人の言葉で立ち直りそうだったの私……」


 彼女の表情はいくらか晴れやかだったが、それが再び曇る。


「ち、違うワン! これにはブラックホールより深いワケがあるワン!」


 あゝ、マリのじっとりした視線がなぜだか心地よい。


 そうこうしていると、今度はイーチャが部屋に入ってくる。三人部屋に人が集まりすぎて中々に窮屈だ。


「あの、そろそろ……」


 イーチャは犬にまで堕ちた俺から視線をそらしつつ、出発を促そうとしている。


「そうだ、イーチャ。エポンに会って、あのディーロウを直せないか聞いて欲しいワン」


「直す? アレが壊れるなんてそんな……」


 レンカは慌てて俺の口を思いっきり塞ぐが、全て言い終わった後。

 背中の上でガタガタ震えるレンカを不審に感じつつ、テーブルに置かれたディーロウをイーチャは見た。


「なんだ。壊れてないよこれは。レンカは、分解して双剣にできる機能忘れちゃったの?」


「は? 壊れてない?」


 立ち上がった拍子にレンカは後ろにひっくり返り、頭を打つ。


「あだっ!」


 折れて取れてしまったと思い込んでいたパーツを持つと、イーチャが横から装飾のエンブレムを押してくる。

 すると、弦とグリップ部分を繋ぐリムがまばゆく発光。それが落ち着くと、剣で例えると刃の部分に光が集まる。というより、剣そのものになった。


「そんでもって、ここを押さえながらちょっと強めに押し込むと――」


 再び彼女はエンブレムを押し込み、電源? を落とす。

 そして、別の装飾を押さえながら、接続金具がある方をそうでない方へ押し込むよう手を添えて誘導すると、先程の折れたような音と共にくっついた。


「――おい」


「いやーっはっは! すっかり忘れてたっス!」


 レンカの目は、大陸間を横断できそうなほど泳いでいる。

 そんな瞳を睨んでいると、シャルが頭を下げた。


「ごめんなさいっ! 言うタイミング逃しちゃって……」


 続いてルファも。


「ご、ごめんよ。ちょっとからかうつもりで、レンカの言葉に乗っちゃったんだ」


 この二人はすぐに謝ったし、シャルに関しては俺に乗ってすらいない。


「いいのいいの。別に怒ったりはしないから」


 以前もこんなやり取りがあって、レンカも同じように謝ったが、今回は違う。


「ありゃー? さっき頭打ったせいっスかね。剣に変形するなんて忘れてたっスよぉ」


「おお、ごめんな。俺が立ち上がったせいで。痛かっただろう?」


 レンカの後頭部をそっと撫でると、にへらと笑って頭を預けてくる。


「ってことは、頭打つ前は覚えてたんだよなぁ?」


「あ、しまった」


 しらばっくれればいいものを、あっさり自白してしまう。

 逃さないよう、彼女の後頭部をガッチリホールドした。


「こんな首輪までつけやがって。ちょっと楽しかったけどぉ……」


 マリの「うわぁ……」なんて声が聞こえてきたが、気にしない。


「ひぇぇ、いつものエッチなオシオキっスか!? そうなんスねっ! お嫁に行けなくそれなんスね!」


「いつものとか言うな! 勘違いされるだろ!」


 これ以上ややこしくなるのも面倒なので、軽く頭突きしておしまいにした。


「いったぁ……。一瞬、公衆の面前でキスされるのかと思って焦ったっスよもう……」


 レンカが妙なことを言うので、これ以上つっかかりにくくなる。それをはぐらかすため、アリシアの耳元に近づき、マリの様子を窺うように小声で聞いた。


「結構調子良さそうだが、どうだ?」


「あの後、人が変わったように腹いっぱい食べてたよ。あんな無茶苦茶なやり方が通じる相手で良かったな」


「そうか」


 自らの行為が一人の未来を創ってしまう。それが吉と出るか凶と出るかは分からない。でも、少しでも良い方へ導く責任が俺にはあった。

 その会話がマリに聞こえたのか、一歩前に出てきて俺に言う。


「死にたくないって思わせてくれて、ありがとう」


 どう返したらいいか分からずに困っていると、彼女は目尻を尖らせて更に詰め寄った。


「でも、すんごく怖かった! 今でも、ちょっと怖い……」


「す、すまん……」


 気まずい感じになっていると、レンカが背伸びして俺の右肩に顎を乗せ、ぶら下がる。


「そうなんスよぉ。いっつも女の子の全身を舐めるように見てるんで、気をつけたほうがいいっスよ。二人っきりになるとお酒勧めてきたり、触ったりしてくるんで要注意っス」


「ホント俺の所業を捏造するの好きだな。前半部分は事実だけど」


 マリがまたまた表情を曇らせた。


 不意にハルの視線に気がついて目を合わせると、彼はハッとした表情になってハキハキと言う。


「ああ、それで! レンカさんってノギのこと好きだからこういうことを。今だってべったりだし、他の子を遠ざけたくて――」


「ちちち、違う! 違うっスよ! ただの友達っスから!」


 ハルにしてはやたらグイグイ来る。もしこれが彼の嫉妬だとしたら、超嬉しい。


 指摘されたレンカは、慌てて俺から降りた。


「でも、友達にしては近すぎるような……。男同士のボクより距離が近いし……」


「そりゃあ、ハルは可愛すぎてなんか初恋みたいな気分になるし。なあ、分かるだろアリシア!」


 アリシアは俺をよろしく思っていないが、ハルに対するそれでは意気投合できる。


「う、うむ。まぁ、そうだな。ハルきゅんの可愛さは、性別と種族を超えると私も常々感じている」


 唐突に飛び出した「ハルきゅん」に、当の本人は驚きを隠せない。


「は、ハルきゅん!?」


「おっと、口が滑った」


 彼女は問題を起こした口を押さえつつ、部屋からフェードアウト。


 レンカは俺の背中をノックするように叩き、早口でまくし立てる。


「わ、わたしじゃ初恋みたいなドキドキ感はないんスか!? 可愛いとか思わないんスか!?」


「え? んまぁ、可愛いけどさ。なんかこう、やんちゃな親戚の子を預かってるみたいな?」


「嬉しいようなショックなようなっ!」


 弾けるような笑顔に、沈むような顔。こういう移り変わりの激しい表情が特に可愛らしい。

 レンカのすがるような瞳は子犬のよう。俺の首輪とリードを彼女につけると、愛玩動物感が高まる。


「おーよしよし。お手」


「ワンっス!」


 頭をわしゃわしゃ撫で、干し肉を一切れ与える。


「いい子いい子」


「くぅーん。なんか……楽しいワン……っス」


 干し肉を咀嚼するレンカ。これ以上続けると、本当にペットにしたくなる。


 マリは変人達の毒気に当てられ、グロッキー状態。


 俺はレンカ犬をしばらく楽しんでから、すし詰め状態の部屋からイーチャを連れ出した。

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