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女神殺しの銃槍士  作者: カブメント
5.5話 アンダーグラウンド・キャメル
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5.5-2_一瘤駱駝

 カルロは金属製のカードを受け取って間もなく、赤猫商会のビルを後にする。


 小旅行の前に、コンビニでパンや飲み物を買い込み、唐揚げ弁当を温めて駐車場で貪った。

 高速道路をパトカーも追いつけないスピードでぶっ飛ばし、バイパスに乗り換える。


 そこから横道に入っていくと、両脇を背の高い木で囲まれた道を十五分程進む。すると、金属製の細いゲートのようなものを通り過ぎた。

 ノギの話によると、それは複数のセンサーやカメラが埋め込まれた装置で、癒風市に入ってほしくない「異物」を検知するものらしい。


 万が一カルロが異物だった場合、即座にあの手この手でミンチにされる。通り過ぎてから数分後も無事だったので、カルロは異物ではないということだ。


 バイパスを降りると、その先にはいかにもな地方都市が広がっていた。

 適当な場所を見つけて停車し、地図を広げる。そこには赤いマジックで番号が書き込んであり、まずは一番の無料駐車場に向かうことにした。


 この癒風市は、どこを走っても怪しい街に見えない。どっからどう見ても、ごく普通の街。

 ちょっとおかしいところがあるとすれば、高級車や防弾仕様の車が妙に多い程度。

 子供も普通に歩いているし、ヤク中が彷徨っていることもない。下手な所よりも健全な土地だ。


 街の中心部から少しズレた所にある地下の駐車場へ潜り、自慢の車を他の車から離して停める。

 それからエレベーターを使って地上に戻り、二番のビルを目指す。


 洒落た服屋から、古いおもちゃ屋まである癒風市の中央通り。そこを周りから浮くほどの巨体をカルロは揺り動かし、進んでいく。


 彼自身は、ここまで来たことがある。しかし、【蛇の巣】なんて呼ばれる地下街までは踏み込んだことがない。もっとも、その場所は大崩落で埋まってしまったのだが。


 蛇の巣は、ちょうどこの下辺りに存在していたという。かなり地下深くに掘られていたので、地表は陥没すること無く、この通りは昔のまま使われている。


「この下にノギが暮らしてた街があったんだな……」


 カルロは少し感傷にふける時間を作り、その足元を想像で見透かす。

 ノギの顔を思いかべると、彼を探し出そうという決意をさらに固まった。カルラのためにも見つけなければならない。


 地図にあった二番の雑居ビルに踏み込むと、突如として空気が変わる。

 受け付けの女性や壁に寄り掛かる男や、二人の警備兵もそこらの雑兵とは違う。

 その場にいる全てが独特の気配を持っていた。


 マフィアとかそういう領域を通り越して、裏を突っ走ってきた連中の妙な生命力と欲望が入り混じったもの。それは、ノギが時折見せるギラつきによく似ている。


 そして天井にはカメラ付き小銃がぶら下がっていて、遠隔操作で「余計なもの」が入ってきたときに撃ち殺せるようになっていた。


 カルロは「おっかねえなぁ」なんて思いつつも、自分もその一員だということを思い出す。

 彼はカードを財布から取り出し、受付に見せる。

 女性は手慣れた様子でカードを何かの機械に通し、すぐにそれを返した。


「暗証番号を願いします」


 テーブルに置かれていた端末に「4989」と打ち込むと小さな電子音が鳴り、それが正しかったらしく、女性はいくらか柔らかい表情になる。


「どうぞ、お通り下さい」


 彼女が手元の何かを操作すると、分厚い鉄の扉が横に動いて開く。

 カルロにはいささか小さなそれを潜ると、初めて見る光景だった。


 無数のビルの背を壁とした、一つの長方形の空間。そこは真上からの日光以外の明かりはあまり届かず、壁に埋め込まれた蛍光灯や街灯から明かりを確保していた。

 壁沿いには屋台の様なものが出ていて、そこでは軍需品や薬品を扱っている。


 活気あふれるブラックマーケットは、これでも過去の数十分の一程度の規模になってしまったという。

 実物は置いていないが、戦闘車両の営業に来ている人間なんかもいて、色々とぶっ飛んでいる。


「――これはたまげた。世界を滅ぼすつもりか……?」


 カルロがそう呟くと、しゃがれながらも覇気のある声で、後ろから男に声を掛けられた。


「滅ぼす? そいつは間違いだ。むしろこの街が、世界の寿命を延ばしている」


 カルロが振り返ると、一際存在感を放つ七十歳程度の男が立っていた。カルロ程ではないが、その年齢にしては大柄で、しゃっきりしている。

 いきなりの事で言葉を失ったカルロに、その男は続けた。


「俺がお目当ての壱蔵だ。探してるんだろ? 一瘤駱駝ひとこぶらくだを」


 その「一瘤駱駝」の意味が一瞬分からなかったが、それはノギを指し示す単語だということを徐々に理解できた。

 ノギはラクダをトレードマークとして利用していて、SNSなんかのアイコンはほぼ確実にそれだ。


「どうも、カルロです」


「ああ、よろしくな」


 社長の言う感じからして、もっと偏屈な爺さんが出てくると思えば、妙に話が分かりやすそうな人物が出てきた。

 彼は作務衣を着ていて、どこか涼しげ。


「突っ立って話したくはないだろう? 元事務所の家があるからそこで話そうじゃないか。昔話をのんべんだらりと吐き出したい年頃なんだ。付き合ってくれよ?」


「ええもちろん」


 壱蔵の後ろを歩いて行くと、ほんの二分で目的の場所に着いた。


「ここだ。先に入ってくれ」


 ニヤニヤしながら客を先に入れようとするので「何かあるんじゃないか」とカルロは思い、少し戸惑う。


「昔の俺じゃないんだから、入った瞬間に蜂の巣にしたりはせんよ。ちょっと自慢したいものがあるだけだ」


 そんなことを言うせいで、カルロは余計に入りにくくなった。しかし、ここまで来て引き返すわけにもいかないので、渋々両開きの扉を押し開く。

 すると、息を呑むほどの珍妙な空間が広がっていた。


 和風だか中華風だか分からない室内庭園が現れ、なんと川が通っている。そこには車が買えそうなほどの鯉が優雅に泳いでいた。

 中央にはホログラムの芸者が三味線を掻き鳴らし、あちこちにネオンの装飾が施されている。


「うおっ、何かすごいなこれは……」


「その顔が見たかった。どうだ? 映画とかに出てくるアメリカ人が勘違いした日本みたいでいいだろ? これのせいで、今はちょっとばかし貧乏になってしまったがな。はははっ!」


 一歩踏み込むと、鳥居の間に「いらっしゃいませ」の文字が空中に表示され、カルロを招き入れた。


「なんかこう……入場料取れそうな感じですね」


「そう思って、建築費の元を取ろうと色々サービスを考えてるんだ」


 再び壱蔵がカルロの前に立ち、案内する側に戻る。

 中央にある田舎茶屋風の建物まで行き、腰を降ろすが、その場にある全てがメカメカしい。


 間もなく茶運び人形が「イラッシャイマセ! イラッシャイマセ!」と騒ぎながら茶碗を二人分持ってきて、それを受け取るとせかせかとどこかに帰っていく。


 とりあえず一口と思ったが、どうもそれはただのお茶ではない。


「緑茶ハイじゃないですかこれ」


「普通のお茶よりはいいかと思ってな」


 カルロも酒は嫌いではないので、戸惑いも程々に、すぐに口を付ける。使用しているお茶も酒も一級品で、ほのかに甘く、華やかな風味だった。


「早速なんですが、ノギの行方に心当たりはありませんかね?」


「ノギ? ああそうか、名前変えたんだったな。じゃあ、これからはラクダじゃなくてノギと呼んでやろう」


 壱蔵は作務衣の懐に入れていたスマートフォンで何かを操作して、すぐに話に戻った。


「正直、俺にもよく分からん。アイツの動向はちょくちょく聞いてたし、妙な事件に首突っ込んでたら話がこっちまで来るはずだ。でも、榊の野郎が言っていたことでちょっとばかしピンときた部分もある」


「本当ですかそれは?」


「俺は嘘つきが嫌いでね。気に入らない相手以外には絶対に嘘を言わない。今資料を用意してるから、少しばかり昔話に付き合ってくれや」


 彼の過去はカルロも結構興味がある。本人も色々と昔話を聞かせてくれたが、他人から見た「ノギ」という人物も見てみたい。


「ところで、アイツのことをどこまで知ってる? あまり本人から聞かされていないようなら、俺は口をつぐむつもりなんだが」


「どこまでと言われましても……。谷神で運び屋やってて、美人の姉ちゃんと一緒に仕事してたって自慢とか。子供達を見殺しにした後悔や、大崩落で生き残った話とかも」


「そこまで知ってるってことは結構信頼されてるんだな、お前は。なんだ、昔話するネタが尽きそうだぞこの様子だと。アイツが恥ずかしがりそうな話くらいしか思いつかない」


壱蔵はニッカリと笑ったと思えば、次の瞬間にどこか下卑た笑みを浮かべる。


「でも親友だってんなら、これは聞かされたことないだろ? うちで雇ってた【八倉星やくらしょう】を撃ち殺したって話をよ」


 カルロでもそれは聞いたことがなかった。しかし、過去にノギが言った「俺はカルロを不幸にするかもしれない」という言葉の意味を、今この瞬間はっきりと理解する。


「聞いたことはありません……。でも、あいつの言っていた言葉の意味が今分かりましたよ。なんというか、出会ったばかりの頃は友人というものを少し遠ざけているような感じで――」


「そうか。気に病んでるんだな、やっぱ。長く続くはずだった苦しみを断ち切ったと俺は考えている。ショウは両親を殺せと命じた俺を憎まず、自分を憎んだ。俺が半端なことをすれば、他の部下の仕事がやりにくくなることを知ってたからな。我ながら嫌になるときがあるよ、この生き方は――」


 先程の茶運び人形が今度はファイルを乗せて運んできたので、壱像はそれを受け取りつつ言う。


「ま、ノギはそこらの強化兵よりもしぶとい男だ。転んだら何度でも勝手に起き上がってくる。だから、俺はアイツが死んだとは微塵も思っちゃいない」


 壱蔵はファイルをカルロに手渡し、捲るように促した。


「こいつは『死亡や事故の証拠が残っているにもかかわらず、遺体が発見されていない人物のリスト』だ。監視カメラに映っていたはずの死体がヒョイと消えた事件なんかを集めてある。ノギが失踪した日に近いやつだと、ガキがトラックに引かれたのに、死体が見つかっていないってのがあった。それ一回きりで続報はない。警察が死体を見つけられず、無能晒さないように圧力を掛けたらしい」


 ノギも血痕だけを残し、忽然と姿を消した。その事件と似通った部分がある。


「いわゆる、神隠しってやつだな」


「神隠し……?」


 オカルトな話をどうも信じられないカルロは、壱蔵の考えに賛同しかねている。


「やっぱそういう顔するよな。俺も最初聞いたときはそうだった。だけどな【ブルズアイ】が徹底的に調べ上げた結果の結論だ」


 ブルズアイは、谷神の更に上の組織。民兵組織のバカでかいやつだ。そこらの軍警察よりも優秀な組織発のものとなると、信じざるを得なくなってくる。


「ノギが、このファイルの人物と同じようなものに巻き込まれたとは言い切れない。だが、それ以外の理由で行方不明になると思うか?」


「アイツゲームとかものすごく好きだし、それをほっぽりだしていなくなるなんてありえない。どっかの国で拘束されてるんだとしたら、仕返ししつつ戻ってくるために、国家転覆を企てている頃のはずですね」


「はっはっは! やりかねん!」


 壱蔵が大笑いしていると、不意に何かに気づく素振りをした。どうやら、スマートフォンのバイブレーションが着信を知らせていたらしい。


「悪い、電話だ」


 一言断ってから電話に出ると、何の音かは分からないが妙に騒がしかった。


「ただ事じゃないのは分かるが、どうした?」


 動きは伝わりもしないのに、軽く頷きながら「ああ」と何度か返事をする。

 電話を切ってから画面を数回弄ると、壱蔵は勢いよく立ち上がった。


「空飛ぶ人間が出たとよ。一目見に行こうと思うがどうする?」


 オカルトな話をしていたせいで、別のオカルトを呼び寄せてしまったのだろうか。カルロは思いっきり首をかしげたい気分だった。


「え、ええ……。行きます」


 空飛ぶ人間を見れば、神隠しも少しは信じられるかもしれない。

 カルロも立ち上がって壱蔵の後を追ってその場を後にしようとすると、先程の茶運び人形よりいかついヤツが立ちはだかった。


 そいつは「ドウゾドウゾ」といかにも機械的な声で繰り返し、手に持ったM60汎用機関銃とAK74を差し出した。

 壱蔵はM60を「よっこらせ」と言いながら抱え上げる。


「AKの使い方くらい分かるだろ? 外はドンパチパーティーだ。一旦そのファイルを預けて持っていけ」


「はい」


 銃と二本のマガジンを引き換えに、ファイルを機械の腕に持たせると、モーター音を響かせながらどこかへ消えていった。

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