5-2_さらなる力はどこに
なんとかイーチャに「俺は結構楽しんでいる」ということを理解してもらい、次の話に移る。
アリシアは席を外すことすら諦め、抜刀の構えをしたまま待機。ハルは次にどう押さえるかと素振りをしていた。
「それで、俺はどう動いたらいいんだ? 七つの神殿を巡って手に入るアイテムを使うと――みたいな目的があると助かるんだけど」
「そんな手間をかける必要はないよ。かつて全知全能を超えた人間が作った武器があるんだ。それを回収しに行ってほしい」
伝説の武器とやらを手に入れる展開は中々にロマンがあって燃える展開。しかし、人間が作った武器ならば俺だっていくつも扱える。
彼女はそれを知っているはずだし、残した武器は戦闘車両のような兵器なのだろうか? その疑問を見越したように、言葉は続いた。
「一見何の変哲もない全鉄製の槍。でも、大事なのは素材じゃない。彼が女神に対しての悪意を込めて鍛えた武器は、どんな伝説級の武器よりも女神の弱点となる。キミの能力と合わさることで、女神殺しの性質を格段に上昇させられるはずだよ」
今までの話から察するに、彼は今世紀と前世紀の裏側に登場する、【強化兵】と呼ばれる生体兵器だと思われる。そもそも、俺は彼らの存在を知っていたから不死身の肉体を選んだ。
圧倒的な身体能力や再生能力を持っているが、思考回路は人間とほぼ同じ。そんな男が作った槍は、どんな形状をしているのか楽しみだ。
「じゃ、俺は明日の朝にでも出発するか。――で、どこに行けばいいんだ?」
「そこは【群青の谷】っていう、モンスターも住み着かない場所だよ。本当は私も行きたいんだけど、想定より早く復活されちゃったからね。色々準備とか話し合いがしたいんだ。そこで、彼女達に案内を頼んである」
そう言ってからドヤ顔で指パッチンをするが、音量がどうも足りていない。指先の皮膚がシュッと音を立てるだけで、額に汗を浮かべながら何度も繰り返した。
「あれっ、おかしいな。さっきはできたのにっ!」
場に気まずい空気が流れ、人間達は「誰かなんとかしろ」というアイコンタクトをぶつけ合う。
ちびっこ女神は諦めたらしく、頬を染めながら手を叩いた。
すると、ベッドの下から何かがニュッと飛び出し、反対側の壁にぶつかってうめき声を上げる。
「ぐえっ!」
その正体は、共にディザの潜む館へ乗り込んだルファだった。台車で滑り出てきたが、勢いが強すぎたらしい。
ということは――
大きなクローゼットが開き、中から服に絡みつかれたシャルが出てきて、当たり前のようにすっ転ぶ。
「ぶにゃっ!」
次はどこだ? 天井か?
俺の予想は外れ、レンカが窓の外からひょっこりと顔を出す。こいつは何事もなく入ってくるかと思いきや、窓は押しても引いても開かない。
なぜなら、鍵が掛かっているからだ。誰かが無意識に戸締まりをして、そのままになったのだろう。
「うわー、誰か開けてくれっス!」
窓を叩いて開けるように求めるレンカ。
イーチャが慌てて開けようとしたので、俺はその手を掴んで止める。代わりに、カーテンをぴしゃりと閉めた。
「よし。俺は一人で行くから、槍がある場所を教えてくれ」
能力で生成した地図を取り出し、ちびっこ女神に見せる。
「あ、うん。そっちのほうがいいような気がしてきた……」
ぐだぐだがぐだぐだを引き起こし、呆れるしかない彼女は、諦めて地図を覗き込む。
ルファは頭頂に、シャルは額にたんこぶを作っている。涙目になりながら杖を振るい、回復魔法を浴びていた。
レンカは仕方なくバルコニーから飛び降りて、ここまでダッシュで来たので息切れを起こしている。
「ひぃ……ひぃ……。そりゃないっスよぉ……」
普段の探索程度ならともかく、二つの世界を揺るがす問題に彼女達は連れて行きにくい。
単純に誤射されそうで嫌なのが一つ。もう一つは、自らの判断違いで死なせたら毎晩うなされそうだという理由。
「女神様よぉ、絶対チョイスミスだろ」
くろすけは後ろに現れ、それに同意するよう腕組みして頷く。
「そ、それでもっ! 他の人間よりはずっと役に立ってくれるはずだよ! この子達は、全知全能を超えた人間と旅した娘と仲が良かった!」
「友達の友達という、一番微妙なポジションのやつじゃ……」
げんなりする俺を納得させるため、目の前の女神様はせかせかと言葉を被せてくる。
「彼女達は人間でありながら、エウターテスに関する記憶の消去を受けていない。だから、アレに対して一際悪いイメージを持っている。それこそ、キミの悪意に匹敵するほど、あの女神を傷付ける力があるんだ」
なるほどと思いつつも、レンカの頬をつねりながら反論した。
「ほーう。そりゃ悪くなさそうだ。でも、攻撃が全部俺に当たるんじゃダメだろ」
「ふぁにすりゅんスかっ!(なにするんスかっ!)」
イーチャは目を細めて頭を指先で掻き、自分の判断ミスを自覚し始める。
「それにしても、なんでヤツは自分の痕跡を消したんだ? 信仰心とやらも消えてマズいんじゃ――」
俺の話にシャルが反応し、少し溜めを作ってから口を開く。
「それは、人間と彼女の考えに大きな溝があったからなんです」
「溝?」
「はい。この世界の人間は、意思疎通が出来る混沌種と友好関係を結ぼうとしていました。ディザのように会話ができて、戦争を望まない相手とです。でも、この世界の人間だけを愛し、この世界の人間だけを守る全知全能の女神はそれを望みませんでした」
どこからともなく取り出した紙芝居を使って、昔話を始めるシャル。ルファはそれを聞きながら、水飴をねりねりしていた。
「それだけではなく、転生者と呼ばれる人達が生まれる地球を、奇跡を起こすためのエネルギー源にしようとしたことも原因だと思います。一つの世界の人間を犠牲にすることで、私達の世界は飢えも苦痛もない世界になろうとしていたんです」
それ以降はなんとなく想像ができる。その女神を受け入れる人間と、そうでないもの。仲間内での戦争は望まないから、一旦リセットしたという感じか。植民地やエネルギー源と言われるほどなのだから、地球人に相当無様な生き方をさせる予定だったのだろう。
「そこで疑問なんだが、どういうタイミングでちびっこ女神みたいなのは登場したんだ?」
目の前の安全な方の女神は、びくっと小さく怒ってから語り始める。
「ちびッ……! 私達は、エウターテスが創った急場しのぎだよ。人間に殺されたことと、記憶や痕跡の削除をするために起こした奇跡。それらで消耗した力の復活に時間がかかることを見越して、私達を創った。その辺の少女を突っ捕まえてね。――この世界を守ろうとする気持ちは、エウターテスと一緒だなんて皮肉なものだよ」
女神達は、人間を強制的に進化させた存在。俺が彼女に感じた人間味の正体はあまりにも残酷で、そのことを語る彼女は悲しげだった。
「ここは、女神が不在になったくらいで滅びるほど脆い世界ってことなのか?」
「この世界の人間はほとんど温厚で闘争心が低いから、女神無しではその辺の魔物にすら滅ぼされかねない。一方、地球に住む人間の闘争心は、他のどの世界から見ても恐ろしい。特に、覚悟の質が違う。だからこそ、全知全能ですら化学的に強化された人間に負けたんだろうね」
「その女神殺しの人間に会ってみたいなぁ。ぜひ稽古をつけて欲しいし、一緒に戦ってくれればいいんだけど」
ちょっとした希望は、容易く否定される。
「彼はそう簡単には死なないから、連れてこれないと思うよ。急造の女神程度じゃ、どうやっても安全に生きた人間をこっちに引っ張ってくることは出来ないんだ」
「じゃ、俺がそいつの代わりになるしかないか」
本心では「代わり」どころか「超える」つもりだ。そいつが完全に破壊できなかった女神を、俺が破壊してみたいという好奇心。覚悟も人間の強さだが、好奇心はそれを上回ることがあるのを知っていた。
ふと邪悪で頼もしい気配を感じて、一度は発した言葉を訂正する。
「いや、俺達だったな」
くろすけは小さく頷き、俺の中へ消えた。
大まかな状況を理解したので、誰かが次の話題を繰り出す前に、最重要事項を伝える。
「とりあえず、槍の回収をすりゃあいいんだな? もう腹減ったからメシ食おうぜメシ!」
真面目な話で陳腐な脳みそを酷使したので、余計に腹が減った。
空腹で思い出したのだが、両指の先に美味しそうなもちもち感。これは、レンカの頬をつねったままの感触。
あまりにも落ち着く感触だったので、無意識に身体が手放すことを惜しんでいたようだ。
「ふぁなしてくりゃさいっしゅよー(はなしてくださいっスよー)」
「あ、忘れてた」
畏まった話の最中に、頬をつねられてアホ面晒してたと思うと面白かったので良しとする。
期待に胸を膨らませ、腹を凹ませた夕飯の時間が始まった。




