表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神殺しの銃槍士  作者: カブメント
5話 裏と表
23/43

5-1_仕組まれたBlessing

 とりあえずは、俺の想定通りに事が進んだ。


 洗脳されていた少女を送り届けた【ガラル】の街にもギルドの支店があり、そこへ嘘っぱちの報告をする。

 獣に食われたという絵空事は面白いほど真実として扱われ、調査部隊が組まれてしまうほど。


 実質主犯格を葬ったということと、多くの負傷者を救ったことが評価され、たんまりと報酬を手に入れた。

 やはりどんな苦労も、十分な金が手に入ることで報われるというもの。


 事件当日夜に、ハルがギルドへイーチャ捜索願を出したところ、一時間後にザンヘルの街で食べ歩きしていたところを発見され、翌日にはイーチャから出向いてくるという。


 俺はハルが少女を匿った宿に滞在していて、彼を心配して駆けつけたパーティーも一緒だ。


 操られていた彼女の名は【マリ】という。そして、志半ばに消滅した彼は【ケンジ】という名前らしい。


 マリは最初落ち着いていたが、徐々に混濁していた記憶が蘇ってしまい錯乱。洗脳中のこともある程度覚えていた。

 彼女の乱雑な言葉を整理していくと、過去に何があったのか見えてくる。


 ケンジとマリは転生者。こちらの世界の夫婦に拾われ、仲の良い四人パーティーだったという。

 転生して孤独だったマリは、騎士の夫と、魔法使いの妻に大切にされ、もう一組の両親のように感じていた。

 そして、同じ境遇のケンジという友達。楽しい冒険の毎日。


 ケンジはあの杖でモンスター使いをやっていて、どういう訳か、それが人間にも効果があるものだとエウターテスに知られてしまう。


 最初は、あの女神に協力するように言われたが断った。転生者を洗脳し、兵隊にするなんて優しい彼にできるわけがない。

 ケンジはそのことを夫婦に打ち明け、助けを求める。結果、夫が殺され、次に妻。

 エウターテスは、「この世界を救う純粋な女神」であろうとしたが故に、目的を知り、敵対した夫婦を殺した。


 それを目の当たりにした彼は、復習を誓う。

 奴の目的に合致するよう、マリを洗脳。戦力として捧げたふりをして、生き残ったという。


 彼女は、ほんの数週間の間に全て奪われてしまった。


 俺はそのことを、何時間も掛けて宿屋の一室で聞き続けるだけ。

 どこかの主人公みたいに、気の利いたセリフと温かい抱擁で慰めることなんてできない。

 かといって、ハルや他の少女達に全て任せることもできなかった。


 今のマリに、暖かく優しい彼らは棘になりかねない。それに、重苦しい話は俺から軽く伝えてしまったほうが、他の面々へのダメージは少なくなる。


 とにかく今は時間が必要だ。ケンジを助けられなかった一種の敵でもある俺が、彼女のそれを進める。時間があれば腹も減るし、喉が渇く。悲しみが俺への怒りに変わって生きる気力になるかもしれない。

 それを待つように、マリの言葉に普通の相槌を返し、八つ当たりのような言葉は静かに受け止める。


 そのとき何度も俺を叩いた。しかしそれに力はなく、泣き崩れ、謝る。

 深夜になってもそれが続き、体力の限界が来てもすすり泣き続けた。手の施しようがなく、寝ていたミリィに頼んで眠らせる魔法を使ってもらう。


 水すら口に入れるのを拒否したので、応急処置として、回復魔法も施してくれた。最悪、水は俺が無理矢理にでも飲ませるしかない。

 ケンジが洗脳を解かなかったのも、こうなるのが分かっていたからだろう。


 ――次の日の夕方。


 二階から見る窓の外は、地球のそれよりも彩度の高い美しい夕暮れ時で、宿の前の通りでは買い物をする人達が行き交う。


 日中の気温は結構高いが、夜は上着が欲しくなるほどに冷える。今は一番過ごしやすい時間帯だ。

 大都会のザンヘルと比べると、ガラルは地方都市。物価や宿賃が安く、冒険者の一時拠点に最適。


 滞在している宿は【砂肝亭すなぎもてい】という。街の中心部にある割には、安くて質がいい。


 変な名前だったので、思わず女将に名前の由来を聞いてみたところ、「旦那が大砂鮫の砂肝を砂漏さろう質店で売ったときの金で建てたから」という、砂づくしの答えが返ってきて、思わず苦笑いした。

 確かにここから西にはがラル砂漠が広がっているのだが、いくらなんでも砂が多すぎだ。


 厨房では夕飯の準備が始まり、煮焼きする香りが鼻に届く。それが食欲をくすぐり、晩飯を楽しみにさせる。


 この建物は古いが小奇麗。むしろその古さが趣を醸し出していた。部屋も花が飾ってあったり、落ち着きつつも洒落た良い家具を置いてある。

 俺は待ち合わせの時間になるまで、部屋に引きこもって影の扱い方を練習していた。


「いいぞ! そうそうそうそうっ! おっぱいはもうちょっと小さく重力に逆らう感じで!」


 くろすけの見た目は恐ろしいので、可愛らしい見た目に変身できないかと実験していたら、いつの間にか理想の美少女作りに熱中していた。

 漆黒の肌に、メリハリのある身体と切れ長の瞳はなんとも蠱惑的で、俺は力強いガッツポーズを繰り返す。


「ご、ご主人。なんかものすごく恥ずかしいんですけど」


「声はまだ無理か。練習しておくように」


「はぃぃ!」


 野太い声を必死に裏返して、可愛い声を目指すくろすけ。これはこれでアリな気がしてきた。


 そんなことをしていたら、部屋の近くを通る足音や扉をノックする音には気づけず、二人が入ってきた。

 困った顔をしたハルと、拳に血管を浮かべたアリシアだ。


「うおっ、部屋に入ってくるときはノックしろよぉ!」


「散々ノックした! まったく、少し見直したと思えばこれか……」


 アリシアは、鬼の形相で「俺と変なコトがなかったか」とハルに問い詰め、全て喋ってしまったので、ある程度のことを知っている。

 その過程で、他のパーティーメンバーもエウターテスの襲撃を認知してしまった。なので、そのことを口外しないように厳しく言っておく。


「あの女神の話、他所で喋ってないだろうな?」


「心得ているつもりだ。もし何かあれば、私もマリの味方となる」


 とりあえずは大丈夫そうだ。俺が相手以外のときは、正義感の塊のような人物。特に不安要素はない。


「しかし……」


 彼女は表情を曇らせ、言葉を詰まらせる。


「なぜ女神様はあんなことを……」


 彼女は女神に仕えることを信条とした家の出身。最も信頼する者の行動に、困惑しているのだろう。

 マリの境遇を事細かに話したら、気絶するかもしれない。


「それはこれからハッキリさせることだ。俺達の知っている女神が敵となるか味方となるか。楽しみだよ」


 ここまで来ると、既に開き直っている。最近はむしろ、VR世界での戦闘のほうが緊張感あるものだったとすら感じている。


 敵が増える恐怖より、勝利する数が増えることに期待してしまう。

 内なる何かが、次の敵を貪欲に求めていた。それはまるで食欲のようで、当たり前に忍び寄ってくる。

 とりあえずはそれを払い除け、服の下にある腹に刺したままにした刃の欠片を撫でた。


 セクシーだったくろすけの姿を元に戻し、精神を改める。


「そろそろイーチャが来る頃か」


「ちょうどそのことで私達は呼びに来たんだ。これ以上待たせるんじゃないぞ」


「分かってるって。さっさと答えが知りたいしな」


 俺は二人に案内されるまま、宿の細い廊下を進み、一番奥にある角部屋へ向かう。女神は角部屋が好きらしい。


 扉の前まで来るとアリシアが「ここだ。失礼のないように」とだけ言い、部屋に入るよう視線で促す。

 適当にノックしてから、嫌味のない上品なドアノブに手をかけ、押し開けると彼女は座ることなく待っていた。

 向こうはどういう目的で俺が会いに来たのかは知らずに、表情の選択に困っていたが、俺らしからぬ神妙な雰囲気に表情筋を固める。


「最近ぶりだな」


「な、なにか能力に不具合があったの……かな?」


「いやいや、能力はすくすく成長中だ」


 そう言っている間に彼女は察したらしく、腹のあたりを凝視した。


「これが分かるなら話は早い。耐性をつけようと腹に刺してあるんだ」


 服の中に手を突っ込んで、腹に巻いた包帯の隙間から剣の欠片を取り出す。

 こびり付いた血は瞬く間に蒸発してしまい、それに触れた指はチリチリと痛む。


 彼女は瞳孔を開き、それを確認するように顔を近づける。まもなく青ざめ、恐怖した。それが最初の返事として機能する。


「単刀直入に聞きたい。この剣を生成した主は、お前達の敵か? 味方か?」


 その言葉に彼女はうつむき、拳をわずかに震わせた。


「私はこの女神、エウターテスの敵だ。それだけは信じて欲しい。でも、アイツを信仰する女神も複数存在しているのも事実だ……」


 意外な答え。いや、そうでもない。

 彼女と話しているうち、女神は普通の人間と何ら変わらない思考を持ち、感情豊かだと知る。強力な力を持つ以外、ただの人間にすぎない。考えの違いが生まれるのは当然だ。


「それなら良かった。その女神を信仰する女神ってのはどいつなのか分かるか?」


「すまない……それは私にも……。いわば邪教。表立ってそのことを公言する女神はいない。でも、他の女神が復活させようと、人間には知りえない儀式を行っていた形跡は見つかっている。それでも、向こう百年は復活できない状態まで追い込んだはずなのに……」


 これはややこしい事態になってきた。眼前のちびっこ女神は可愛いから信じたいとして、この先出会う可能性のある女神は、必ず警戒する必要がある。


「キミが私の言葉を信じてくれるというのなら、力を授けた道具と武器の女神、破壊の女神。その三人は私達の味方だよ。それと、あのイスポアもエウターテスを嫌っている。彼女はあんなでも、地球人含めて人間が好きだからね。今はお仕置き部屋だけど」


「そりゃ良かった。気が楽になったし気分も良くなった」


 もし全員が敵だったら、最悪能力を奪われ、生身で戦うことになりかねない。


「――そのことで、重ね重ねキミに謝らないといけないんだ。人間が選んだ能力を女神が授けるという仕組みを隠れ蓑にし、全知全能を超えた人物を模倣した能力である『人類の武装』と『女神の破壊』と『魔法に頼らない再生能力』を望む偶然を待ち続けた」


 俺の違和感は間違いではなかった。イーチャ達の望む存在だった俺は、彼女達の用意した脚本に沿って踊る傀儡。


「そして、それを見事選んでくれたキミに、力を授けたんだ。精神的にも彼に近く、十分すぎるほど条件を満たしていたからね。他の女神に悟られないよう、他の転生者を招くときと同じように送り込み、何十年も掛けて成長させるつもりで……」


「その人間の話は俺も聞いたことがある。それでなんとかアイツと戦えたのか」


「私達には到底敵わない敵を倒すため、多くの人間を守るため……。一つの命ならと考えてしまった……」


 この世界でモンスター退治させる代わりに、強力な力を授け、優遇する。その規定から少しばかりズレた行為。俺からしたら、なかなか面白くて有難いこと。


 それに、あんな女神に地球をどうにかされてしまうくらいなら、俺は喜んで戦う。

 ただ単純に地球が好きというより、楽しくて愛おしいVR世界や、カルラを生み出した場所だからという理由なのだが。


 しかし、彼女からすると、力を授けて戦わせる行為自体残酷なことかもしれない。

 女神を殺すことに特化している、『思惑ある能力で送り出した』という負い目の表情をしていた。


 イーチャは感極まったのか、口をへの字にしてついには泣き出してしまう。


「貴様ぁっ! 女神様を泣かせるとは何事かぁっ!」


 泣き声を察知したアリシアが抜刀して、ドアを蹴破り入ってくる。

 容赦なく脳天をかち割ろうとしてきたので、なんとか白刃取りで受け止めた。


「てめぇ! 女神様が作った希望の星様になんてことしやがんだぁ!」


「星は星でも死兆星かデス・スターの類であろう!」


 ファンタジー丸出しな女剣士の口から出るとは思えない単語。


「お前、地球の文化に詳しいのな……」


「べ、別にいいだろう! 転生者が持ち込む書物や映像は面白いんだぞ! 私は勉強熱心なんだ!」


 そう言いながら、さらに剣に力を込める。

 イーチャは目の前で起ころうとしている刀傷沙汰を止めるため、刃の下に来て彼女をたしなめた。


「彼は悪くない。どうかその剣を収めてくれ」


 彼女の言葉はてきめんに効果を発揮し、腰の鞘に剣を戻してから速やかに部屋から退散する。


「ふぅ、危うく三枚おろしにされるところだった」


「あの、その……」


 イーチャは自然を司る偉大な女神。しかし、俺には見た目相応の少女のようにも思える。そんな彼女に気負わせることはしない。


「スキルボードをうっかり壊したってのは嘘で、全知全能を超えた人間の力を詰め込むためなんだろ? あの女神に対抗できるってんなら、利用したとかそういうのは気にしない」


「ごめんうっかり壊したのは事実」


「ぬぅわんだってぇッ!!」


 全てが計画的に設計された能力だと早合点していた俺は、思わず吠えた。そのせいで、引っ込み始めたちびっこ女神の涙が滝のように流れる。


「ふぇぇっ!」


「また泣かせるのか貴様ぁッ!」


 再び抜刀しながら飛び込んでくるアリシア。今度は、ハルが後ろ抱きつくようにガッチリホールドしているが、鍛錬の日々を送った彼女を止めることはできない。

 ぶった切られると思いきや、俺に剣が届きそうなところで動きが止まり、刃が行ったり来たりする。


「このぉ、外道めぇ。うぇへへ」


 アリシアは酷く顔を緩ませ、ハルに抱きつかれる感触を楽しんでいた。


「うーんこの堕落具合。女神より私欲か」


 こんなダメな奴を、一目惚れのごとく綺麗だと感じた過去の俺に、 デイビー・クロケットをぶち込んでやりたい。

 そう思いつつ、抱きつかれているのが何だか羨ましい俺だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ