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女神殺しの銃槍士  作者: カブメント
4話 ゴーレム戦線
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4-6_誰も知らない女神

 燃えるガソリンに、砕けた氷柱。魔法で作られたせいか普通の氷より溶けにくかったが、炎の熱で溶かされ始め、蒸し風呂のよう。

 酸素も薄く、青年と少女は汗を浮かべ、苦しそうだった。


 銃を消し、身体に溜め込んだ熱を放出して、ぐずぐずになった顔を再生させる。


 大きな隙きを作ることになるが、必要以上に恐怖を与えると、意図せずとも嘘をつくかもしれない。少しは安心させる必要があった。


 それに、反撃の素振りを見せたらそれよりも早くに仕留められる距離まで近づいたので、問題ない。


 ぽつりぽつりと青年が紡ぐ言葉は、俺を底知れぬ不安感で満たすことになる。


「この世界は元々、永遠の命を持つ魔王と勇者が戦うような世界だった――」


 長くなりそうな語り始めだったが、時間稼ぎという感じもなく、残ったゴーレムは微動だにしない。なので、そのまま聞くことにした。


「女神は複数存在して、それぞれが何かしらを司る存在なのは誰もが知っていること。でも以前は違ったらしい。たった一人の全知全能の女神【エウターテス】が、人々と共に魔王と戦っていた」


「そんなことが。いいね王道で」


「ここまでは普通の話。その女神はある日突然、自らの力を与えた勇者でも及ばない魔王を倒すため、僕達の世界から想像を絶するほど強い人間を連れてきたという。狙い通り彼は魔王を倒し、世界に平和が訪れた」


 彼はその女神の名を出すと顔をしかめ、言葉に怒りがこもる。


「しかし、その人間は何故か女神をも殺してしまう。いや、女神を殺したのは正常な判断だったと思う。なぜなら、その女神は地球を自らの信仰を高めるためだけに存在する、植民地にしようとしたからだ」


 一通りこの世界の神話を調べたこともあるが、そんな話は微塵も聞いたことが無い。女神というシステムは、転生者同士が牽制しあっているのと同じで、力が分散しているから成り立っている。それがこの世界の仕組みだ。


「これはたった数年前の話。人々からは全知全能の女神の記憶は消され、書物や壁画なんかの痕跡すらない」


「そんなバカな。もしそれが本当だってんなら、なんでお前が知っている?」


「本人に聞いたからだよッ! 全知全能の女神はどういうわけか蘇った。力の大半を失ったアイツは、僕の授かった能力に目をつけ、転生者の選別と洗脳を命じた。再び地球へ侵略する兵士を手に入れるために」


 話せば話すほど青年は震え、冷静さを失っていく。


「僕はもちろん断ったし、他の女神様に話しもした。でも、誰も信じない。だから、僕はアイツの言う通りにした。転生者を選別して、洗脳して兵士にする。怪しまれないように力を蓄え、エウターテスを殺すために利用するッ!」


 この熱気か恐怖か定かではないが、彼は呼吸を荒くして視線を泳がせた。

 恐れと自分のやろうとしていることの大きさ。両方の凄まじいストレスのせいか、挙動不審になっている。


 もしこれが全て作り話で演技なら、ぜひ脚本家と俳優を兼任して欲しい。


 青年は俺の後ろを見上げ、頬肉を痙攣させながら少しずつ笑い声を漏らし、後ずさり。

 困惑する俺を他所に、安らぐようで棘のある声に貫かれた。


「観測妨害の障壁を使っていたので、もしやと思って来てみたら――。そんなことを考えていたとは残念です」


 声のする方に振り向くと、光を纏った女神の姿が目に入る。それは彫刻のように美しく、包容力があり、思わず眠りにつきたくなるほど穏やかな微笑み。


「やはり、その杖は私が持つべき。人間を信じてみようとした私が愚かでした」


 彼女の手の平から凄まじい速度で何かが撃ち出され、頭の横を掠めて後ろの青年に当たった。

 それを受けた彼の腹はぽっかり穴が空き、酷く藻掻き苦しむ。穴からは血肉を撒き散らすことなく、着弾点を中心に光が肉体を侵食していく。


「たすけっ……助けて……」


 死を悟った彼は、涙をこらえて最後にこう言った。


「僕は、彼女を……。それと、家族と生まれ育った街くらいは守りたかった――」


 俺は何も出来ず、青年はただ光に飲み込まれ消滅。

 女神がそっと上品に手を差し出すと、杖がそこに吸い寄せられる。

 それを使って俺を操ろうと洗脳魔法を放ってきたので、爪で払い除けた。


「退けた……。そうですか。では、浄化するしかありませんね。聞かれてしまったことですし――」


 さっきまでの話は、嘘ではなかったことを今彼女が証明している。とにかく、俺の敵であることは間違いない。


 くろすけを近くに待機させ戦闘態勢を取る。


「ご主人、アレが近くにいるだけでオレの力が弱まっていきます。あんま役に立てないかもしれません」


「俺の身体に入れば少しはマシになるはず。全力でやるぞ」


 半分この世のものではなくなっている爪は、くろすけを取り込むときの効率がいい。そこから取り込もうとしたときには、左腕の肘から先からが無くなっていた。


「腕がッ……」


 くろすけがそう言うまで気づかないほど、一瞬の出来事。腕の断面が光り始め、神経を鷲掴みにされたような激痛が走る。


 俺は影の制御を奪い、その鉤爪で肩を切り落とす。すんでの判断が功を奏し、侵食をそこで食い止めた。


 次の攻撃を回避できる保証はないので、腰ほどの高さの木箱を生成して、それに身を隠す。

 だが、相手は全知全能の女神。それよりも下位の女神の力では、ただの木箱としてしか機能しなかった。


 見えない何かを数発受けると、秒を数える前に殆どが消滅してしまう。影を取り込んでいる余裕もなく、作戦変更を余儀なくされた。


 デザートイーグルを生成し、木箱を侵食する閃光に紛れて飛び出してから、残った右手で乱射する。

 そのうちの二発が女神の腹に食い込み、血の代わりに光が腹からこぼれた。

 苦しむような素振りを見せたし、血? が出るなら殺せると聞いたことがある。


「女神を殺したのは人間。なら、俺にだって!」


 M4に持ち替えて、脇で押さえ込んで出鱈目に撃つ。

 今度は上手く行かず、弾丸は女神が生み出した光の霧の中で蒸発してしまう。


「くそったれ!!」


 そっちが光を使うなら、こっちも光。マグネシウムなどを燃焼させることで、強烈な光と音を生み出すスタングレネードを目立たないように落とし、爆発する直前に自分の顔を覆う。


 一応目と耳がある相手なので、効果はあるらしい。女神が顔を覆った瞬間、ズボンに挟んでいたフォールディングナイフを腰の位置に構えて飛び込んだ。


 霧を避けて接近したが、近づくだけで女神の光に身体と魂を灼かれ、意識が遠のく。

 それでも精一杯腕を突き出し、心臓を狙う。


 ――。


「少し、危なかったですね」


 人類の刃は一歩届かず、女神が一瞬で生成した光の剣が俺の心臓を貫いた。

 激痛でナイフを手放してしまったが、剣を筋肉の収縮で押さえつけ、それを握る女神の手を思いっきり掴む。


「――クッ。捕まえたぁッ!」


 その柔肌は人類の穢れに侵され、赤く爛れた。それと相反する人類の肌も、浄化の光に耐えられず爛れ始める。


「離しなさいッ! 私の身体が穢れる!」


「俺はキレイなものを汚すのが好きなんでね。白米に野菜炒めを乗っける瞬間なんかは最高だ」


 俺の言葉で注意を逸らし、後ろに回り込ませたくろすけが心臓を狙う。

 しかし、勝ちを確信したほくそ笑みも、一瞬で無駄になった。


 エウターテスの背から鮮烈な後光が吹き出す。そこから、千を超えるのではないかと思う程重なり合った大きな羽が生えてきた。

 そのせいでくろすけはかき消されそうになり、慌てて距離を取る。


 炎に焼かれる程度なら、こんなに苦しくはない。魂をも直接灼く光は、みるみるうちに俺の体力と精神力を奪っていく。


 意地と執念で魂をこの大地に磔にし、次の策を練る。今の俺は、どうしたらこれを殺せるか。それだけに頭をフル回転させた。


 手当たり次第に手榴弾やマチェットを生成するが、形作る前に消滅していく。

 腕を掴む握力も弱まってきて、女神は俺の心臓に突き刺さったままの剣を捻るように力を加えてきた。

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