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女神殺しの銃槍士  作者: カブメント
4話 ゴーレム戦線
20/43

4-5_放火マン

次々と迫る小型ゴーレムや狼系モンスターをM4で薙ぎ倒し、くろすけにも勝手にやらせた。


 周囲を見回せば、俺よりも一回り若い少年少女転生者が、今なおそこら中で戦い続けている。

 日本人はAO0プレイヤーが多く、モンスターの恐怖に慣れている。それが、この世界の戦いに適応できる理由の一つだろう。


 睡眠状態で入り込むVRゲームは、「脳を異常に興奮させ、人格を変えかねない」なんて黒い噂が流れたが、あながち間違いでもない。


 ふと爪の先に痛みとは違うピリリとした感覚。これは、強い魔力の放出源に近づいた証拠で、空間に漂う魔素を斬り裂いたときのもの。


「くろすけ、一旦引っ込め」


「はい」


 くろすけは神霊なので、魔法生物や探知系魔法に検知されやすい。俺の中に隠れていれば、魔力から引き離された身体がそれを遮断してくれる。


 記憶が正しければ、目の前にある丘を越えてすぐに、例の二人が陣取っている大穴があるはずだ。

 モンスターは強力な魔素に当てられたのか、大穴には近づこうとしない。


 ゆっくりと足音と気配を消して歩いていたが、ある瞬間を境目に、地面の土を盛り上げながら小型ゴーレムが這い出てきた。


「やっぱバレてるなこりゃ。正面突破するしかないか」


 M4を仕舞ってから、解体に使うような大ハンマーに持ち替え、一旦引っ込めていたくろすけも呼び出す。

 影で少しだけ右腕を強化して、片手でハンマーを扱えるようにし、軽く五十を超えるゴーレムの群れに突っ込んだ。


 他の小型ゴーレムと違い、古代文明を思わせる巨顔石を胴体に持ち、出力の高い魔法障壁を纏っている。

 その全てを相手にする余裕も時間もない。しかし、真っ直ぐに走り抜けるための道を作る必要があった。


 ゴーレムは学習しないので、ワンパターンの倒し方ができるのが救いだ。

 立ち塞がるそいつに爪を突き立て、障壁にヒビを入れて強度を落とす。続いて、くろすけの拳で殴って完全にそれを叩き壊して、本体を思いっきりハンマーでかち割る。依代が出てきたら、爪でトドメだ。

 このやり方が一番体力を無駄使いしない。


 こうも手早く倒されることは想定していなかったらしく、六体も倒せば丘の頂上にたどり着いた。


 穴を見下ろすと、身長を超えるほどの杖を持った厚手のローブの青年と、アクティブな魔法使いが好む軽装の魔法衣を纏った少女の姿がある。

 ローブの青年は俺の姿に驚いていたが、少女の方は生気が感じられず、虚空を眺めながら佇んでいた。


 再びカスタムM4に持ち替え、青年に銃口を向ける。


「このゴーレムはお前の仕業か?」


「転生者……ッ! もしそうだったらどうする? たった一人で二人とこのゴーレムをどうにかできると思うのか?」


「もちろん、どうにかできる」


 銃のセレクターをフルオートに合わせ、とりあえず撃ってみた。

 案の定、不可視化されていた分厚い魔法障壁に阻まれ、鉛玉がポップコーンのようにあしらわれる。


 彼らを中心にして直径二十メートルほどのドーム型障壁があるらしく、それの強度はディザ製のものを超えていた。


「うっわ硬い。流石女神の力。俺もああいうのが欲しかった」


 自虐を言ってみるが、俺には人間の英知と神霊の力が使えるのだから、戦術は無限大だ。特別欲しい力でもない。


「女神様の力を授かってそんなことしか出来ないとはなぁ!」


「言ってろ。そういうお前は何が出来るんだ?」


 劣勢のときに力を使われるより、身構えているときに使われたほうがマシ。

 どんな厄介な能力でも、物理的な手段で対抗できる可能性は十分にある。それが俺の素晴らしいところ。


「まあ、ちょどいいか。この戦いも、生き残った強力な転生者を駒にするのも目的なわけだし」


 彼が俺に杖を向けると、ステータス異常系の魔法に見られる、不規則に発光する霧状のものが俺を包み込もうと一直線に飛んでくる。


 爪の温度を少し上げ、軽く振り払うと、それは容易く斬り捨てることが可能だった。


「な、なんでだ。洗脳魔法が効かないだとッ!」


 何度か杖を振るって魔法を放つが、単純な攻撃魔法に比べたら余裕で破壊できる。わざと食らったりもしたが、ちょっと全身を気張るだけで払いのけることが出来た。


「そんなことしか出来ないのか。あぁ、でもちょっと運が良ければ、俺もお前みたいなことやってたよ。そこの女の子は魔法で操ってんの? 言いなりなのをいいことに、おっぱいとか触ったりした?」


「そんなことするわけ無いだろう。主人公の僕とヒロインは、ゆっくり時間を掛けて仲良くなっていくんだ。そんな無粋なことはするものか」


 意外と純情な男だ。


「はぁ、ご立派。よし決めた、その杖をいただこう。それで俺のエロエロハーレム国を建国する。千人くらいの美少女が半裸で俺と暮らす王宮とか作っちゃうぞぉ!」


「な、なんてクソ野郎だ。お前だけは生かしておけない。この場で始末してやる」


 くろすけが肺も無いくせに深い溜め息をつき、言った。


「ご主人、あっち側に付いていいですか? なんかこっち側にいるの恥ずかしくなってきたんですけど……」


「どっちが勝つと思う?」


「それ言われたらこっち側じゃないですか」


 爪の最大出力でも、そう簡単に壊せるとは思えない障壁。それでも、持久戦になれば当面食料の必要のない俺がどうしたって勝つ。意地と根気さえあれば、人間が相手で負けないようにこの能力を選んだのだから。


「さっさと勝ちたいなら、この中身を障壁の近くに撒き散らしてこい。片方は俺が『やれ』と言うまで使うなよ」


 オリーブドラブ色のジェリ缶を二個取り出して、くろすけに持たせた。中身は、MPと引き換えに生み出されたガソリンで満たされている。


 それだけでは全然足りないので、今度は同じくガソリンの入ったドラム缶を呼び出し、ナイフで側面に数か所穴を開け、蹴飛ばして転がした。

 イーチャの説明通り、同じ生成した道具同士なら普通に壊すことができるのは本当らしい。


 懐かしのガソリンスタンドの香り。いや、そこでもこんなにガソリン臭いことはなかった。息をするのを躊躇うほど、大気に混ざり始めている。


「正気かお前?」


 魔法障壁に引きこもったまま、氷魔法を連射して俺の動きを止めようとしてくる。練度自体は低く、偏差射撃もしてこないので、ひらりひらりと躱しながらガソリンを追加していく。


 いよいよ大量生成でMPが失われ、気力が下がってきたので、これくらいで勘弁してやる。

 撒き散らしたそれに確実に引火させるため、ナイフに布切れを巻きつけ、少しだけドラム缶に残したガソリンを軽く掛けてからライターで着火する。


「あっちちっ!」


 思ったより火が強くて、手が少し焦げてしまう。

 いよいよ青年が焦りを覚えたのか、声を荒げて少女に命令した。


「あいつを君のバリアで閉じ込めてくれ! 早くッ!!」


彼女は腰にぶら下げた小型のワンドを手に取り、俺に向ける。その先が光ったと思えば、一瞬で小さなドームに閉じ込められてしまった。


「ぬおっ。なるほど、障壁はあの子がやっていたのか」


「ゴーレム達よ、あの男を取り囲め!」


 やはり、この爪ではまともに傷つけることは出来ない。影の充填率も低いし、運動エネルギーも熱エネルギーも足りない。

 そう、熱エネルギー。今手元にはメラメラと燃えるナイフに、底の方にガソリンが残ったドラム缶があった。


 やることは一つ。


「敵より先に自分を焼くことになるとはな。これでハマグリの気持ちも少しは分かる」


 ちょっと熱いかもしれないが、足元にこぼれたガソリンに燃えるナイフを落とした。

 地表に停滞していたガソリンと酸素の混合気体に引火し、小爆発を起こしながら炎が広がり、ガソリン自体にも燃え移る。


 やがてドラム缶にも炎が吸い込まれ、障壁内は炎の海と化した。


 俺の肉体は燃焼と再生を繰り返し、急速な代謝は凄まじい熱を生み、肉体と炎の境界線は消えていく。

 自らの肉を燃料に熱量を上げていき、それを爪に集める。僅かな影を充填しておけば、この程度の肉体制御は容易い。


 酸素が薄くなり、炎が弱まってきた頃には自らが炎のエネルギー量を超えていた。

 爆熱と膨張した空気で障壁は大きく消耗し、強化された俺の爪が触れただけで弾け飛ぶ。

 バックドラフト現象で再び爆煙が発生し、瞬く間に延焼していく。


 予定は少し狂ったが、結果オーライというやつだ。ついでに近場のゴレームも吹き飛び、残りも高熱で強化された俺の敵ではなくなっている。


 こんな感じでしょっちゅう焼け焦げたりするので、耐火繊維の服に変えて正解だった。今の俺は、服が燃えて素っ裸になる方がダメージが大きい。肉体より、精神や評判の心配のほうが増えた。


「くろすけ、やつらの障壁に火が行くようにガソリンを撒け!」


 空高くに避難したアイツには、青年の下手な魔法では当たりもしないと踏んでいたがちょっとばかし予想外の事態が起こった。


 青年はこの穴を覆うほどの巨大氷柱魔法を一瞬で発動させ、纏めて叩き潰そうとしてくる。

 転生者のスキルボードを舐めていた。自分に無いものだから、どれほど人間を強くするものなのかよく分かっちゃいなかったが、何度も格差を感じると嫌気が差す。


 魔力で生成された氷はやや紫色を帯びていて、ただの質量弾とは違う。魔法での攻撃は、肉体と同時に精神も削る効果があるので、こればかりは無事ではいられないかもしれない。


 くろすけはジェリ缶を殴り飛ばしてガソリンを適当に撒き散らし、俺のところまで戻ってくる

 今の二人にできる、巨大な物体を打ち砕く技といえば、アレしかない。言葉を交わす必要なんてなかった。


 彼はドリルに変形して右腕に取り憑き、ジャンプ用に少しだけ切り取った影で脚をコーティングする。

 俺の魂を少しだけ多く送って、いつもより影の出力を底上げした。


「そんなに魂に隙間を作ると、オレが乗っ取っちゃいますよ」


「お前をねじ伏せるには、魂が一割残ってれば十分だ」


 お喋りもほどほどに、地面を蹴って飛び上がる。

 腕が千切れそうなほどの回転によるブレを無理やり押さえ、ひたすら真っすぐ天を目指す。膨大な魔力を秘めた氷とて、ドリルはいとも容易くそれを抉り割った。


 砕けた氷が地面や障壁に堕ちる最中、影のドリルを右腕から右脚に移動させ、二人めがけて蹴り落ちる。

 あれほど硬かった障壁も、やっと破壊が可能なものだという手応えを感じた。ドリルの先端が食い込み、徐々に掘り進んでいく。


 しかし、少女がそれに抵抗するため杖に力を込めると、押し返されそうになる。


「クソッ、抵抗しやがって!」


 脚に力を込めて、捻るように動かしてもこれ以上は削れそうにない。

 障壁を砕くには、影を全て取り込んで爪で引っ掻くのが確実。しかし、そこそこ消耗してる状態でそれをするのは、危険を招く可能性がある。


 俺の破壊能力を効率的に影へ送る方法。それは前から考えていたが、実行するときがもう来てしまうとは。


 左腕の爪で、直下にドリルが回転している右足を掻っ捌いた。血管を損傷させつつ、身体を支えられる程度のダメージになるように気を遣う。


 溢れ出た血は脚を伝わり、高速で回転する影に一瞬で混ざっていった。赤黒く染まったドリルの貫通力は劇的に上がり、無敵に思えた障壁も果物の様に柔いものとなる。


 一点を貫くと、たちまち全てが砕けた。それの維持に全力を投じていた少女は脱力し、膝を突く。


 このままの勢いで殺すことも出来たが、地面に落ちる前にドリル解除し、M4に持ち替えて脅すように聞いた。

 熱を帯び、銃を構えている人間。それと、鉤爪をチラつかせた怪物が首を狙っていたら嫌でも語りたくなるだろう。


「なぜ転生者の駒が欲しいんだ? 真実を語らないのなら今すぐ殺す」


 その洗脳魔法が使える杖さえあれば、こんなリスクの塊みたいな立ち回りをする必要がない。

 俺が思うに、これは彼だけの思惑ではないような気がした。


 話せば助かるかもしれないという希望からか、彼は杖を下ろして静かに語り始める。

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