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女神殺しの銃槍士  作者: カブメント
0話 まだ現実
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0-2_FANTASY FIGHTER

 目の前に立つのはあのガネシ。ワイルドオプスでは、この男に滅多に勝てていない。

 彼は戦闘行為がもたらした快楽の濃度を薄めるよう、深く息を吸って吐いた。

 そして、俺が槍をアイテムウィンドウから取り出す時間を与えるため、彼はほんの少し後ろに下がる。


 お望み通り槍に持ち替え、頭上で軽く回し、全身に力を入れてから脱力。十分にリラックスする。

 俺の身長を超える得物は彼のハルバードとは違い、先端部分が両刃の剣の様になっている。普通の槍に比べて刀身は長く、ショートソード程度の長さがあり、切断と刺突両方が可能だ。

 重量が軽い分こちらが有利に思えるが、相手はトップクラスの怪物。得物の相性は関係ない。


「わざわざ仕事が終わるまで待っててくれたのか。優しいな」


「お荷物が居たんじゃ、お前の本気を引き出せない。だから、待っていたんだ。こっちじゃ負けが多いし、それを帳消しにさせてもらう」


「待っていた? まさか、あの二人の会話を盗み聞きして、仕事終わりのタイミングを知ったのか?」


 返事はなく、薄っすらと微笑む……ということは肯定。そこまでしてヤリたいとは、つくづく好戦的なやつだ。

 しかしそれはこちらも同じ。向こうで負け越して、こちらでも負けたら気分が悪い。


 それ以上言葉を交わすことはなく、ガネシは脚に力を入れ、前進しながら武器を横に振り回した。

 これはコイツの常套手段。上下に避ければ強烈な回し蹴りが飛んできて、後ろに避ければ器用に武器を引っ込めて突きに変える。対人戦ばかりやっているヤツらしい、いやらしい攻撃手段だ。


 だからといって、こちらが飛び道具を使えば、何事も無かったように回避されてしまう。

 なので、この攻撃は避けてはいけない。真正面から突っ込むべきだ。


 高速で振り回されるハルバードの引っ掛けられそうな場所を見つけ、槍をねじ込んで動きを止める。しかし、こちらがナイフを抜く前に彼は武器から手を離し、拳を突き出してきた。

 慌ててこちらも手を離し、距離を取る。この切り返しの早さが、ワイルドオプスで負け続けている理由だ。


 なんとか飛び退きながら右手でソードブレイカーを抜くが、相手は中段に拳を構えたまま隙きを作らない。

 槍を拾いに行こうものならその一瞬でタコ殴りにされ、確実に負ける。


「せっかくこっちで戦ってるのに、これしか使わせてくれないんじゃワイルドオプスやってるのと変わらな――」


 セリフを言い終わろうとした瞬間を狙ったように、ガネシは一回右側へ飛んでから右拳……と見せかけて左足でローキック。無茶苦茶な足捌きで、軌道を追わせてくれない。

自らの脚を諦め、出の早い左拳を振りかぶり、彼のこめかみを思いっきり殴った。


 お互いに痛み分け。とはいえ、このゲームでは衝撃を感じる程度。それに、頭部に食らったがネシの方が多くダメージを受けている。

 転倒したガネシの背中にナイフを突き立てようとしたが、彼は横に転がり、その勢いのまま立ち上がられてしまう。

 この程度のダメージ差では、仕切り直しになったに過ぎない。


「ふぅ、危なかった」


 彼の口角は大きく釣り上がり、この戦いを堪能している様子。ピンチを味わわせたことで、闘志に火を付けてしまった。


 ガネシは全身の体重が乗ったシンプルな右ストレートを繰り出す。それを受け流そうと側面から腕を掴んだのだが失敗だった。


 拳を突き出すパワーを利用して俺の腕を絡め取り、頭の側面に手を添えられ、軽い力で仰向けに引き倒される。

 俺が転倒時に追撃したのをやり返すようにみぞおちを殴ってきて、緩んだ拳のソードブレイカーは蹴り飛ばされた。


 ワイルドオプスでは痛みで動けなくなっていたところだが、こちらでは違う。ガネシはそれをすっかり忘れていたのだろう。

 僅かな油断を見逃さず、俺は両足を思いっきり持ち上げ、彼の首をカニバサミにして捻り折ろうと全身で左に回った。


「ぬぉっ!?」


 頭頂から落ちた彼はダメージを受けながらも、持ち前の腕力で俺の脚を振り払って持ち直す。上体を起こすのが遅れた俺の頭は、彼に思いっきり蹴飛ばされた。

 流石にここまでされると少しグロッキー気味になるが、それでも立ち上がる。なぜなら勝ちたいからだ。


 ここは剣と魔法の世界。それなのに、こんな泥仕合をしなければならないなんて、実に俺らしい。


「はぁ……はぁ……次で決着にしようか、ガネシさんよ。野郎に寝技かけ続けるのもいい気がしない」


「へっへ……望むところだ」


 お互い、武器のことは頭にない。武器を拾ったり出したりするのですら億劫に感じられる。

 知性を感じられない、獣の呻きのような声を漏らしながら拳を振りかぶって突撃。向こうも同じだ。


 ガネシの右拳が俺の右頬を抉るように殴り、鈍い音がする。俺はそれに耐えながら、右ストレートをラリアットに切り替え、首を捕らえた。


「グガッ!」


 絞り出すような呻き声に手応えを感じ、次へ繋げる。

 そのまま腕に体重を乗せ、後ろの地面へ全体重をかけて押し倒す。彼の後頭部を叩きつけると、仰向けに倒れ込んだ。


 それでもまだ殺しきれないが、彼のHPバーは残り僅か。彼より先に立ち上がり、トドメに肘からガネシの胸に飛び込む。

 心臓のあたりに俺の肘鉄が食い込み、彼のHPはゼロになる。


 ――勝った。そう思い笑おうとしたが、ガネシに先を越されてしまう。


「はははっ。まぁ引き分けならいいか」


 彼が握った拳を見せつけるように開くと、小指の長さ程度しかない小さなナイフが出てくる。その刃は薄っすらと紫に湿っていて、それを誇らしげに見つめながらガネシは砕け散った。


「――しまったッ!」


 俺の腕には、小さくゲーム的にデフォルメされた傷が残っている。目がかすみ始め、ステータスを確認すると猛毒の状態異常。

 急いでアイテムウィンドウから毒消しの丸薬を取り出すが、口に入れる前に力が入らなくなり、視界が暗くなる。


 ――。


 再び意識が戻ったときには、白く塗装された壁が目の前に現れた。

 三秒ほどでそれが開くと、いくつものゲーム機が騒がしく稼動していて、休憩用のベンチでは高校生ほどの男がコーラをがぶ飲みしている。いつものゲームセンターの風景だ。


「うぁぁぁ!! やりやがったなあいつぅ!!」


コーラを口いっぱいに含んでいた彼は俺の叫びに驚いてむせていたが、そんなのはお構いなし。


 このゲームは死亡時か、尿意に負けたときに交代が発生する。しかし、十二分に筐体が普及した今では、そのルールもあまり意味がない。


 再びゲームを始めて街にリスポーンしてもいいが、もう夕方の五時を過ぎている。今から再び始めるとなると、待ち合わせの時間に間に合わない。


 既に欲しいのは取り尽くしたはずのUFOキャッチャーを舐めるように確認し、女児向けカードゲームのカードだけを千円分買う。

 ちょうど友達が欲しがっていた妙にセクシーなゴスロリ衣装のカードが手に入ったので、負けの不快感は少し打ち消される。


 それが傷つかないようスリーブに入れて、カードケースに仕舞ってからゲームセンターを後にした。

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