4-4_可愛けりゃそれでいい
信号弾で呼び寄せたパーティーを後方拠点へ送り届けるため、くろすけの刃を周囲に展開して小走りに進んだ。
まばらに生えた草を刈りながら進むので、今度草刈りの以来でも受けてみようかと思う。そんなにいい報酬ではないが、これなら一瞬で終わりそうだ。
「ミラナさん! こっちに後方拠点があるんだよな?」
「はい、負傷者の治療はそこで行っているので、彼を運びましょう」
彼は痛みを堪えながら、かすれた声で感謝の言葉を言う。
仕方ないとはいえ、俺の弾丸が原因となった傷。回復魔法のおかげで自分で歩けているが、早いところ連れていく必要があった。
中型ゴーレムと狼型モンスター相手に余裕で戦っているパーティーを迂回し、麻系の布に樹液を染み込ませた防風布で組まれた、大型のテントが目に入る。
ホッとしたいところだが、その入り口の百メートル程先には、特に大きい城壁のようなもので造られたゴーレムと、それを相手にするパーティーの姿があった。
なんだか見覚えのある風貌だったので、双眼鏡を取り出して見ると、この世界で始めて会った少年のパーティーがレンズに映る。
「あいつら、こんな場所で戦ってたのか」
ハルとアリシアは人間離れした跳躍でゴーレムの拳を躱し、カヤは周囲を取り囲む極彩色で筋肉質の鳥型モンスターを翻弄して安全を確保。ミリィはメンバー全員に強化魔法を施していた。
悔しいほどに理想的なパーティーは、俺が手を出すほどでもないように見える。しかし、双眼鏡を下ろそうとしたとき、ゴーレムは地面を殴り割った。
衝撃波はこちらまで届き、足場を崩されたパーティーは一瞬で連携を失う。
転んでしまったハルに振り上げられた右拳の影が映り、それが落ちてくるまでほんの数秒。
「ご主人、やりますか?」
くろすけが俺の考えを汲み取り、提案をした。
「影の充填は二十パーだ」
ミラナに目配せをし、護送中の彼らを守るように伝える。
そして、手に持った武器を脳内に隠し、影を手足に巡らせた。
筋肉が張る感触を確かめ、その場を飛び立つ。
無茶な強化をしていない分、神経が麻痺しておらず、痛みが脳にしっかりと届く。
しかし、すぐに治ることを知っている俺の脳はそれを無視して体を動かした。
一飛びで数十メートル進み、移動しながら左腕から爪を出す。最後の一飛びで錐揉み回転をし、これまでの戦闘で薄くなっていた魔法障壁を頭突きで叩き割った。
そのままの勢いで胴体を蹴って跳び上がり、振り下ろす途中だった石腕の一番細いところを斬り割る。
地面を滑るように着地して、ハルの上に落ちそうになった石の拳は、くろすけで殴り飛ばした。
右手で地面を掴んでブレーキを掛け、左腕の爪から血液弾を発射し、カヤを襲おうとしていた鳥のモンスターを仕留めていく。
どうやらそれは混沌種だったらしく、やがて黒く染まった。
滑り終わった俺はその場から切り返す。探るまでもないほど強烈な存在感を持つ依代目掛け、爪を突き出しながら再び飛ぶ。
胴体に深く食い込んだ爪を引っ掻き回し、石の腹を掘削。必死に腕を動かしても爪がわずかに届かず、剥離した岩の向こうに胎動する赤い宝石が健在していた。
だが、活路はいくつも残されている。
落ちながらビー玉ほどの大きさに砕けた石を右手で掴み取り、それを親指で弾き飛ばした。
石弾は狙い通り赤い宝石の依代に直撃し、破壊の力が流れ込む。
依代の内側から亀裂が広がり、飛び散る。その光景は中々美しかったが、それを堪能している余裕などなく、俺は背中から地面に落ちてしまう。
依代からのエネルギーを失ったゴーレムは、パーティーを押し潰そうと崩れ始める。
くろすけで少し遠くのミリィを救出し、アリシアは転んでいたカヤを抱えて距離を取った。
ハル優先のアリシアでも、冷静さは欠いていない。それぞれが近くの人間を助けるべきだと彼女は判断する。
俺は爪をハルに引っ掛けないように抱き上げると、いわゆるお姫様抱っこの形になった。
軽く跳んで瓦礫の被害が及ばない場所まで移動する。
これ以上消耗しないように、爪の維持に使う影以外は抜き取った。
「間に合ったな」
「あ、ありがと……」
ハルを降ろそうとしたが、腰が抜けてしまったのか上手く立ってくれない。放心状態のまま俺に寄りかかる状態になったので、落ち着くまで身体を貸した。
思わぬところで思わぬ相手の好感度を上げていくのが実に俺だ。何かいい匂いがするし、悪い気がしない俺が憎らしい。
そうこうしているとアリシアが駆け寄ってきて、あたふたしながら俺からハルを引き離した。
「き、貴様! 何をいい雰囲気になろうとしているんだッ!」
「助けに来た相手への第一声がそれか。感謝の言葉を、一万文字手書きで提出してほしいくらいなのによ。もし面倒だったら『かっこいい!』とか『ステキッ!』でもいいぞ」
それを聞いていたカヤが立ち上がり、明らかな棒読みで「かっこいー、すてきー」なんて言うので、どうでもよくなった。
アリシアは俺の爪を見て少し身構えたが、見なかったことにした様子。スキルボードの欠損を補おうとして得た力は、人から見ると不気味なもの。どうしても他の冒険者や転生者とは距離を感じてしまう。
ミリィは完全に腰が抜けてしまい、カヤに支えられて立ち上がる。呼吸のリズムは乱れたままで、焦点が定まっていない。
ミラナが担架を担いだ男集と、治癒魔法を使える名も知らない受付嬢を引き連れ、駆け寄ってきた。
放心気味のミリィを担架に乗せ、ハルのパーティーをテントに送り届けつつ、受付嬢はハル達に回復魔法を施す。
テントにたどり着くと、数人の負傷者が上位の回復魔法の光りに包まれていて、信じられないほどの速度で回復していた。特にハンナの回復魔法は素晴らしく効くらしい。
先程助けたパーティーも治療を受けている。
食料棚にあった、糧食の塩辛くて固いパンを貪り、砂糖水で流し込む。爪を生やして消耗したタンパク質が欲しくて探していると、拳ほどの干し肉が残っていたのでそれも素早く腹に入れる。
外に出てからM4を再び生成し、立ち去ろうとするとハルに呼び止められた。
「待って」
彼の腰はまだ力を取り戻していないらしく、ふらつきながら歩み寄ってくる。
「どうした?」
そんな状態で歩くものだから、小石に躓いてしまう。なので、俺は彼を抱きとめた。
「すごくかっこよかったよ。子供の頃に見たヒーローみたいでさ。――その爪、痛くない?」
彼の見たヒーローとはどんなものかは知らないが、ぶった斬ったりするのが得意なヒーローというと、古いやつか際物だ。彼の父親の趣味だとすれば、ぜひ語ってみたい。
「正直めちゃくちゃ痛い。でも、治るからそんなに心配することでもない。俺は別件があるからもう行くぞ。調子が戻ったらでいいから、ここの守りは頼めるか?」
「うん。気をつけてね」
ハルは力ない精一杯の笑顔で言うものだから、思わず心打たれてしまった。
彼の頭を一撫でし、すぐに振り返ってくろすけの一部を脚に纏う。
急いでいたというより、彼の笑顔を見て緩んでしまった頬を隠すため、せかせかとその場を離れた。
「笑顔、可愛いなおい」
「ご主人、見境ないですね」
「うるせ」




