4-1_YASAGURE
あれから三人娘とパーティーを組むことは何度かあったが、期待したラブコメ的な展開もなく、完全に友達感覚だった。
俺一人で危険地帯に踏み込むような依頼も増え、彼女達との時間も徐々に減っていく。
街で唐突にトラブルに巻き込まれ、ヒロインと出会うイベントも発生せず、パーティーを募集しても集まるのは男集だけ。
肉体を強制強化した戦闘スタイルを隠すのにも限界が来て、それが知れ渡った結果、余計にモテなくなった。
魔法とか伝説の剣で格好良くスマートに戦う転生者がこの世界のトレンド。
銃はまだしも、鈍器に近いマチェットを振り回し、敵に飛びついて首の骨を折ったりするのがよろしくなかった。
しかし、それは人並み以上の強さを発揮するための必死の足掻き。なので今更変えられない。
ゴーレム使いとの戦争が始まってそろそろ三時間。俺は我関せずと、隠れ家的な和風居酒屋で飲んだくれていた。
転生者の持ち込んだ文化は少しずつ浸透し、こういったところで堪能できるのは結構気に入っている。
こちらの世界の酒はアルコールは程々に、気分が良くなる薬草のエキスを使用したものがほとんど。
アルコールの場合、急な戦闘で力が出なくなるので、専用の解毒剤のある薬草酒が基本だ。
「お客さん、転生者でしょ? 戦争行かなくていいの?」
味のある顔の男店主はそう言いながらも、次々と焼き鳥を作っていく。
「ダメダメ。俺の戦闘スタイルはウケが悪いの。それに、金儲けしたいなら別のクエストのほうが効率いいし」
「だろうね。他の転生者が噂してたけど、お客さん『地上波に出られないタイプの特撮怪人』って言われてたよ」
「怪人? まぁ、そういうのを参考にして戦ってるからしょうがないか……。てぇ、おっちゃん地上波とか特撮の意味分かるの?」
酔って重くなった頭を上げ、彼の方を見ると薄っすらと笑っていた。
「もちろん。こんなでも、転生者さ」
「へぇ。嫌じゃなかったら、どんな経緯でこっちに来たか聞かせてよ。女神の内情も知りたいし、そろそろ話すネタに困ってた頃だからさ」
焼き上がりを俺に差し出し、特に嫌がる素振りを見せず話し始めた。
「別に他の人と一緒だよ。こういう夢のある世界で暮らしたいなって思ったまま死んだら、女神たちに拾われたってわけだ。実際来てみれば、奥さんと娘はいないし、死後の世界で寂しくやってるようなもんだから、そこまでいいものじゃなかった。でも今はこうして店もあるし、死んでそれっきりじゃなくて少し安心してる」
「そうだよなぁ。死んで終わりのはずが、こうしてうまいもん食えるんだ。それだけで結構満足してる」
塩味の焼き鳥。湯気にいい香りを乗せて漂い、油が光を反射している。
熱いうちに一口。味わいつつ、鳥肉と相性のいい酒で流し込んだ。
「うん、ウマイ!」
自分では再現が難しい焼き加減に、こちらの特殊な木を使った炭の香り。唯一無二の極上焼き鳥を味わえるのなら、死んだ甲斐がある。
「もうちょっとカッチョいい能力選んどけば、俺にとっては間違いなく天国だよこの世界は。勝ちにこだわった結果、変なトラブルに巻き込まれてスキルボードは無くなるし」
「おや、ご主人はオレが不満で?」
にゅっとくろすけが背中から出てきて耳元で言う。声色は不服というより、どこか楽しそうだ。
「もうちょっとキュートな感じに変形できたら満足してやる」
「はぁ……。練習してみますけど……」
彼の姿は絵に描いたような悪魔の姿。早いところ、美少女型神霊や、マスコット系を探しに行こう。
焼き鳥が酒を進ませ、酒が焼き鳥を進ませる。今日はとても気分良く酒が回り、このまましばらくしたら、いい宿のベッドに倒れ込むのも悪くない。
上機嫌で最後の一本に手を伸ばしたとき、店のドアを誰かが騒がしく開く。思わず拳銃に触れつつ振り返ったが、その正体はギルドの受付のミラナだった。
銃の扱いに慣れてくると小口径のものも使うようになり、今は9ミリのUSPをぶら下げている。元々、VRゲームではこういう銃を好んで使っていたからだ。
それでも頑丈な生物は多いので、デザートイーグルも現役なのだが。
俺を見つけた彼女は肩を怒らせ、酔いどれの腕を引っ張って無理やり立たせようとした。
「どしたのミラナさん? 俺酔っ払うので忙しいの」
「それどころじゃありませんっ! 今の戦況は最悪です!」
「じゃー女神にでも任せとけよぉ。転生者より強いっしょ」
防御の硬い単体の敵や工作活動の場合に、俺の強みが発揮される。無数のゴーレムや、刺激されて出てきたモンスターだらけの場所は俺に不向きだ。広範囲を攻撃できる剣も魔法もない。
「女神様は基本的に戦闘禁止です。お怪我でもされたらどうするんですか。それに、もしこの街まで進行されたら、酔っ払ってる暇もないんですよ」
「そりゃ困った。――よし、基本報酬は五倍で、モンスターの討伐報酬は二倍でどうだ?」
「そ、そんな額、独断で出せませんよ」
「じゃあ、基本二倍で討伐は一・五倍ならどうだ?」
超古典的な交渉方法。先にありえないほど大きな数字を出して、次にこちらの妥協点を出す。使い古されたその策にあっさりと乗ってきた。
「そ、それなら……。外に馬車が用意してあります。詳しい戦況はその中で」
残りの焼き鳥を詰め込み、酒を流し込む。そして、ポケットの銀貨をちょうどの金額より少し多く置いてから、すでに何杯も飲んで千鳥足になった脚を使ってなんとか店を出る。
用意されていた馬車は屋根だけの簡素なものだが、その分空気抵抗が減り、馬の負担も少ない。客車というより、荷物を運ぶのに使うものだ。
荷台に寝っ転がると、俺の口へミラナが丸薬を数粒雑に投げ入れ、顎を無理やり閉じてくる。そして彼女は二頭の馬の手綱を握った。
口に入ったそれを噛み締めると、しょっぱいような甘いような奇妙な味がしたが、不味いというほどでもない。
十秒と経たず酔いが冷め始め、意識がはっきりしてくる。ここまで極端な効き方をする薬は、怖さすら感じた。
「飛ばしますよ!」
彼女がそう言って手綱で軽く合図をすると、ムチを使ったわけでもないのに急発進。俺は荷台の縁を掴み、バランスを取る。
石畳で尻が痺れるほど揺られ、風を切った。




