3-6_股間晒してから報酬貰いに行く
――。
ふと目を覚ますと、暗闇。
焦げ臭かったので、たぶん天国でも地獄でもなく瓦礫の下敷きだ。
燃えカスとはいえ、建物が覆いかぶさっている状態。ちょっとやそっとでは立ち上がれない。
幸い、寝たおかげで身体は十分力を取り戻している。万が一動けなくても、爆弾を生成して瓦礫ごと自分を吹っ飛ばせば出てこられるだろう。
他に良さそうな策もなく、それを実行しようとしたとき、背骨を硬いもので突かれた。
「グエッ!」
「やべっ。おーい、埋まってたぞぉ!」
男の声で誰かを呼び、ざくりざくりと俺の周りの炭化した木材を崩していく。腕を引っ張られ、裏返されると、視界が真っ黒から真っ白になる。
明るさに慣れると、青空が見えるようになってきた。
「な……なんか腕に生えてるぞ……これも女神の力ってやつなのか?」
誰だか知らないが、腕の爪を見られてしまった。しかし、転生者が望んだ能力だと思いこんでいるようだ。実際女神の力でモンスターの能力を再現したものなので、女神由来と言える。
聞き覚えのある三人の声が「良かった良かった」などと繰り返しながら近づいてきた。
元気なのを見せるため、勢いをつけて飛び上がるように身を起こす。
「わざわざ探しに来てくれたのか、ありがとな。見ての通り元気だ」
「――ってぇ、うわぁ! ナニ見せてんスか! 言わなくても元気なのは分かるっス!」
レンカが真っ赤になった顔を手で隠し、指の隙間から見てくる。
シャルは「はわはわ」言いながら後ろを向き、ルファは石になった。
「何だお前ら? あぁそうか、この爪――」
爪は左右に一本ずつ……じゃない!
腕を見ようと視線を下げると、もう一本の爪がある。
そう、俺の身体と服は燃え、鎮火してから身体が再生。元気な状態で素っ裸の復活を遂げていた。
「こ、これはだな……」
なんとか弁解しようと歩み寄るが、それは逆効果だった。歩くたび三本の爪が揺れ、彼女達は後ずさる。
「まずい、このままではご主人の評判が!」
いつの間にか現れたくろすけが自分の影をちぎり、俺の股間を黒い丸で隠した。
「ぎゃぁ! 逆にヘンタイっぽくなったっスよぉ!」
「そ、そうだ。図鑑能力! シートか何かあったはずだ!」
咄嗟にキャンバスシートを生成し、身体を覆う。
シートで身体を隠したままコンテナを生成し、その中に入れてある服を慌てて身に着ける。
それが故意でないことを説明するため、十分は費やすことになった。
俺の発掘に参加してくれたギルドメンバーに礼を言うと、しばらく休憩してから次の仕事へと向かっていく。
俺は四人掛けの折りたたみ椅子と机を呼び出し、正面にシャルで、その隣がルファ。俺の隣にレンカが座る。もうこれが定位置だ。
ルファの腰には武器が戻っていて、くろすけがちゃんと渡してくれていたらしい。
「そういうことなら早く言うっスよぉ」
「服は燃えたけど、身体は再生したからだって最初から言ってただろ。でも、これがどうしても戻らないんだ」
今となっては強度が失われ、弱点でしかない赤黒い爪。風が当たるだけでもヒリヒリする。三人はそれを見て驚きつつも、嫌悪する様子はなかった。気遣っている感じもなく、驚きが興味へと変わっていく。
「ありゃ、意外とブヨブヨしてるんスね。もっと硬いかと――」
「いてっ、あんま強く触るな。ほとんど粘膜みたいなもんなんだから」
「ね、粘膜っ! なんか卑猥っスよ!」
そう言いつつも、つまんだりさすったり引っ張ったりするのをやめない。
「痛いって言ってるんだからその弄る手を止めろ」
「へーい」
それにしても、この爪をどうしたものか。もう一度影を取り込んで上手く引っ込めばいいけど、内側には骨が通っている。
「なぁくろすけ、これどうやって戻せばいいと思う?」
「そりゃぁ、引っこ抜くしかないでしょう。中途半端に切っても、痕が残りますし」
こんなに痛む体の一部を引っこ抜くなんて、想像しただけで股間がキュッとなった。しかし、後にすればするほど、苦痛は増える。
それをさっさと終わらせるため大きな木の陰へ行き、布を噛んでくろすけに引っ張らせた。
呻き声を布を噛んで殺し、ナイフを地面に深く突き立てて身体を固定できるようにする。そのまま勢いよく引っ張らせると、一瞬の刺すような痛みを二回耐えるだけで済んだので一安心。
穴が閉じるのを待っていると、シャルが駆け寄ってきて回復魔法を振りまく。
「あぁ、助かるよ。さっきもこの魔法がなかったら負けてたかも」
「いえ、これくらいしかできませんから。――私達のせいでこんな危険な目に」
「変な気配を感じた時点で引き返さなかった俺が悪い。それに、見てみろ」
討伐履歴を開くと、ディザ人形の項目が追加されていた。彼女の履歴にもあり、戦闘に貢献していたという証だ。
「本物じゃなかったみたいだけど、戦闘力から察するに結構な報酬になるはずだ。しばらくは生活費に困らないだろうし、骨折り損じゃなくてよかったな」
「あ、本当だ」
その後は軽く食事を取り、早速報酬を受け取るためにギルドに戻る。
住宅地を歩いていると、妙に忙しないギルド員達とすれ違う。彼らは揃いも揃ってゴーレムのことを話していた。
軽装の男剣士二人も同じようなことを話していたので、引き止めて話を聞く。
「なぁ、なんかあったのか?」
「ん? あぁ、あのゴーレム狩りの」
最近は、ハルとセットでこういう呼ばれ方をする。
本来戦闘用ゴーレムは、魔法使いと前衛が揃った五人以上のパーティーで戦う。魔法使いが連続攻撃で魔法障壁を消耗させ、障壁が消えた瞬間に前衛が攻撃を叩き込むのが基本だ。
男女二人で倒すと、その難易度や連携の必要性から、一生連れ添うパートナーになるなんて逸話もあったりする。
「あんたらの報告があって以来、あちこちで戦闘用ゴーレムの建造跡が見つかってる。そんでもって今回は、起動したゴーレムが物資輸送に使う道で通せんぼってわけだ」
何者かが、ギルドの戦力を削ぐためにゴーレムを配置した。ということは――。
「もう戦争は始まってるってことか」
「そういうことだ。人間と人間の戦争なんて今の世代は誰も知らないってのに、本当に勝てるんだろうか? まぁ、こっちには期待の転生者様がごまんといるから安心だけどな」
手持ち無沙汰なもう一人の剣士は、俺の後ろに居るパーティーメンバーをチラチラ見て、冷や汗を流した。
「バカ! 目合わせんじゃねえ! パーティーに誘われたらどうするんだ!」
俺と話していた方の剣士は小さな声で叱り、作り笑顔で迫って肩を掴んでくる。
「じゃあ俺達はこれで。その三人と、どうか末永くパーティー組んでやってくれ。てか、放流するのは勘弁してマジで。これ以上被害者増えないように」
そう言い残し、彼らは走り去っていった。
「なぁ、お前ら一体何をやらかしてきたんだ? いや、だいたい想像できるけど」
彼女達は眼をわざとらしく逸し、レンカは下手な口笛を吹いた。俺と組む前は何人を病院送りにしたのだろうか。想像したくもない。
そんなこんなでギルドまで戻ってきたので、いよいよお楽しみの報酬チェックの時間だ。今日はそれなりに建物内が賑わっている。
ディザ人形の報酬は、一体で八百万ポイントの儲け。彼女達は直接戦闘をしていないので、百万と少しずつ。
しかし、彼女達の功績はポイント以上にある。なので、俺の口座から二百万ずつ、三人に振り込んでおいた。
お礼というよりも、クエストを控えてもらうための投資なのは内緒だ。このまま一緒に冒険を続けるのは、ぶっちゃけ身がもたない気がする。死なないけどいつか死にそう。
最後に、ミラナにあの洋館は地球のものである可能性が高いと伝えるが、情報が皆無で正体不明に変わりはない。
建築系の能力を持っている人物は存在するというのだが、無数の地球製雑貨を揃えられるとは考えにくい。結局、俺のせいで真実は闇に葬られてしまった。
「うぉぉぉぉ! こんなに桁が多いの初めて見たっス! しかも、私達の取り分を増やしてくれるなんて、本当に助かるっス!」
「まぁ気にすんな。それで別の商売でもやったらどうだ? 道具屋とか始めるなら、俺が色々手伝うし」
「早速肉食いに行くっス! 一番高いやつ!」
走り出すレンカの首根っこを掴んで引き止める。
「おいこら。早速散財する気か」
「ほら、そこはまた稼げばいいじゃないっスか!」
他の二人も深く頷き、肉の味を想像してよだれを垂らしていた。シャルはとろけた顔で、その肉の味をぽつりぽつりと呟く。
「お肉なのに果物みたいにみずみずしくて、何枚でも食べられそうなステーキでした。あぁ、もう一度あれが食べられるなんて――」
ルファは想像の中で肉を貪り、自分の世界に浸ったまま微笑んでいる。
人間の顔をこれほどまで堕落させる肉。地球じゃ絶対味わえないものとなると、気になってしまう。
「き、気になるじゃねぇか。――そんなに旨いのか?」
「そりゃあもちろんっス。あの味が忘れられなくて冒険者続けてきた部分もあるんスから」
「くっ……。よし行くぞ!」
――。
それはそれは旨い肉だった。
ペルグランデ・タウルスから、ほんの少ししか取れない霜降り部分よりも希少なシャトーブリアンを使ったステーキ。
肉の旨味が口の中でとろけつつ、程よい歯ごたえがそれを長続きさせる。
一枚五万ポイント以上もするそれを一人で六枚も平らげ、一本十二万ポイントの酒も開けた。
これでもギルドのポイントを使用しているから安く済んでいるが、普通に生活をしていたんじゃ手は届かない。
しかも、この肉にはMPを少しだけ増やす効果があるらしく、成長手段が限らている俺には必要不可欠な存在だ。
(今度はディザの本体狩ろう……。それで、この肉を食いまくるんだ)
肉に対する感動の涙を流しながら、俺はそう思った。




