表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神殺しの銃槍士  作者: カブメント
3話 ポンコツハザード
14/43

3-5_混沌の女

 扉の先は薄暗くも、落ち着きと華やかさが混在したダンスホールのような場所。


 銃を持って飛び込んできた俺に対し、中に居た女はムッとした表情を見せ、それからにやりと笑う。

 青い肌に白目が黒く染まった瞳は、どこか魅力的だ。


「あら、その感じは転生者かしら。人の家に入りこんだうえに銃を向けるなんて不躾ね。タイプじゃないし、すぐに立ち去るなら見逃してあげるわ」


「俺はあんたが結構タイプだぞ。名前は? メアドとか教えてよ」


 三人がこちらを覗き込むと、ルファが何かに気づいて取り乱す。


「あぁーっ! ディザじゃないか。色々悪さをしているっていう」


 それなりに有名で、こっちに来てから日が浅い俺も名前だけは聞いたことがある。ここらの混沌種のボスみたいなやつだ。


 しかし、レンカはアホな発言をした。


「悪さってどんなことしたんスか? あんなハレンチな格好してるし、街中で露出でもしたんスかね? こわいなー」


 ディザは冷静なキャラを崩さないよう拳を必死に握り締め、それを無視して俺に語りかける。


「悪いけど、あなたに教えるものはこれっぽっちもないわ。そもそも、メアドって何よ?」


「何だよ知らないのかよおばあちゃんかよ」


 地球の人間が多く来ているとはいえ、知らなくて当然だ。半分挑発の意味を込めて言った。


「おばっ……! 見逃してあげようなんて思った私がバカだったわ……」


 彼女は竜の首をさらりと撫でると、その下に渦巻く闇が発生し、巨体は沈んで消えていく。


「ご主人、喧嘩なんて売ってやるつもりですか?」


「だって金になりそうだし。まぁ勝てるだろ」


コイツさえ倒せば、彼女達の報酬も良くなるはず。ちょうど洋館の主? が居るので、この建物の正体に探りを入れてみる。


「もう一つ聞きたいんだけど、この建物はお前が作ったのか?」


「私の趣味でこんな家作らないし。ちょうどいいところに空き家があったから使っただけ」


 彼女は「教えるものはこれっぽっちもない」と言いつつも、答えてしまう。


「お、何だよ教えないって言ってたくせに教えてくれるんだ。やっさしぃー!」


「こ、このっ!」


 再三挑発されたディザは魔力を集め、戦闘態勢に入った。


 ここを利用しているというなら、最高の嫌がらせがある。T3焼夷手榴弾を手の平に生み出してからピンを抜いて、すぐ遠くへ投げた。

 間もなく激しい閃光と白煙が吹き出し、木製の床に引火する。


「ちょ、あんた何してんのよ!」


 それを消火するため、手の先から氷魔法を放ち、氷柱でそれを包んだ。


 これは揺動。意識が俺から離れた瞬間を狙って銃弾を叩き込むが、すぐに反応して板状の魔法障壁を展開する。

 障壁はゴーレムのそれに匹敵する強度で、弾丸が潰れてしまった。


 撃ちながら前進し、フォールディングナイフを抜いて斬りつける。俺の能力は直接触れるようにすると効率が良いらしく、今度は表面に傷が入った。


「生身で魔力を砕く――。蛇蝎の如き忌まわしき能力ね。嫌な顔を思い出すわ」


 綺麗な顔を少し歪め、今度は俺に冷気を放つ。咄嗟に飛び退いたが、掠っただけでも左半身が凍ってしまう。


「あははっ『まぁ勝てるだろ』なんて言ったのは誰かしら?」


 後ろの方で三人娘が慌てる声が聞こえてきて、レンカの「とりあえず援護しないとまずいっス!」という言葉に嫌な予感。

 彼女がシャルに攻撃を促すと、あの愉快な笑い声が聞こえてきた。


「ふへつ! 今すぐ温めてあげますからね!」


「ヤメロォ!」


 巨大な火球を杖の先で生成し、それを俺に飛ばしてくる。凍った俺は上手く動けず、直撃した。


「ぎゃぁ! アツゥイ!」


「あぁもう! 人の家で火遊びするんじゃないわよっ!」


 炎上する俺をディザが凍らせ、シャルが再び燃やす。その繰り返しで俺の身体はどうにかなりそうだ。


 くろすけは上空でオロオロするだけで、役に立たない。そんな彼を操作して影のカーテンを作り、半分凍った状態で中に引きこもった。


「くそぉ、敵しかいねえ」


 あまり見られたくないが、こうなったら修行で習得した技を使うしかない。


 武器を全て消し、影を少しずつ体内に取り込み、それを全身の血管や筋肉に行き渡らせていく。

 そして、筋肉で発電した電気を脳から再び全身に送り、強制的に身体能力を上げた。

 オマケに両腕の骨肉を影で押し上げ、一本の赤黒い爪を生やす。


 コレをやると全身がめちゃくちゃ痛いし、最悪ちぎれたりする。特に爪での攻撃は想像を絶する痛さ。肉と骨にむき出しの神経。それらを武器にしている弊害だ。

 しかし、物理エネルギーと神霊と女神の力全てが合わさるので、攻撃力も桁違いになる。

 生やした爪へ通電すると高温になり、熱エネルギーの恩恵も受けられるのだが、苦痛も倍増だ。


 今まで狩ったモンスターが見せた技を組み合わせ、自分のものとした結果この姿が答えとなった。

 俺にしかできない、醜くも強力な技。彼女達はそれを見て俺を敬遠するかもしれない。

 しかし、勝つためならその程度仕方がなかった。


 影を全て取り込み、カーテンが消える。外は炎と氷魔法の温度差による水蒸気で少し視界が悪い。

 爪に通電する量を増やし、熱量を高めて振るうと、それは全て吹き飛ぶ。ついでに凍りついた身体も溶けた。

 複数種のエネルギーが合わさった爪は、空間をねじ切ってしまうのではないかと思うほど、凶悪な武器となる。


「これで勝てる」


「あなた、人間のあり方を否定してしまったのね」


「あり方なんて、後から好きに決めれば済む。俺が俺であるなら、それでいい」


 彼女は何を思ったか知らないが、それが許せない言葉だったらしい。モンスターとしての彼女は「あり方」という言葉に強い嫌悪感を感じているようだった。


「そう……あり方……ね」


 氷魔法使いだと勝手に思い込んでいたが、一瞬の詠唱で強烈な炎の渦を繰り出してくる。今までの氷魔法は、建物へのダメージを考慮したものだったらしい。


 後ろに彼女達がいるので避けることもできず、右の爪を振り下ろすしかなかった。

 魔力が含まれた炎は破壊能力の対象内。食い込むような手応えと激痛を感じ、それは真っ二つになり、斜め後ろに飛んでいった。


「うそっ!」


「こういうのもキレイに斬れるのか、初めて知った」


 相手も自分も驚き、戦闘が一瞬止まる。お互いがその隙きを狙ったので、ほぼ同時に攻撃を再開することとなった。


 ディザは広範囲に冷気を振り撒き、爪で切断しきれない状況を作る。

 風圧でも全てを振り払うこともできず、低温で鈍った俺は、追撃の炎の弾丸を数十食らってしまう。一瞬膝を突きそうになったが、意地で持ちこたえた。


 俺は反撃のため、爪の先に細かな穴を開け、表面を凝固させた血液を高圧ガスで乱射。

 矢のように飛翔した血液はディザの障壁で砕け、こびりついて視界を奪う。影と交わり、不浄の性質が高まったそれは劇物のように作用し、魔法の壁を徐々に溶かした。


 彼女は汚れた障壁の内側に薄い障壁を張ってから、侵食が進んだ外側の障壁を消す。再び厚い障壁を繰り出し、防御が途切れることなく、汚れを取り除いた。

 その合間に、三人娘を逃がそうと叫ぶ。壁に当たった炎の渦が燃え広がり、いよいよ大きな火事になるので、そうする必要があった。


「逃げろッ! 必ず勝って戻ってくるからッ!」


 ポンコツだが、揃いも揃って優しい子達。爪が生え、血管は浮き、肌の色が変色しつつある俺の姿を目の当たりにしても心配している。勝てるからと宣言しても、俺を放ったらかして逃げるようなことはしなかった。

 苦痛ともどかしさに歪んだ顔で睨むと、始めて後ずさる。


 報酬のためとは言え、彼女達が巻き込まれる事も考えず、俺の抑えきれない闘争心が引き起こしたもの。これ以上迷惑をかけられない。


「さっさと行け!」


 せめてもの手助けとして、レンカの光の矢にシャルが回復魔法を付与して放った。

 相変わらず目をつぶったままで俺には当たらなかったが、なんとか飛び込んでそれを腹で受ける。刺さってもちくっとする程度で、全身の痛みが軽くなり、矢はすぐに消えてダメージにはならない。


 そして、ルファが自分のエフスを投げてきた。それは俺の目の前に落ちて、木の床に突き刺さる。

 あんなにも大切にしていたメイスを貸してくれるというのだから、使わない手はない。

 受け取ったのを確認すると、彼女達は振り返りながらも逃げていく。


「さて、これでもっと本気を出せる」


 筋肉に通す電圧と電流を増やし、血管を押し広げ、心拍数も上げる。精密な影の操作が要求され、一歩間違えれば自分を傷つけるだけの過剰強化。

 ここまでやると、俺の姿は一層醜いものとなった。流石に、これは仲間に見られたくない。


「グッ……ギッ……」


 反動は凄まじく、今にも身体が千切れそうだ。血管は肥大化し、無茶な通電を行っている筋肉は異常に痙攣。さらに巨大になった爪に相応しい、怪物性をさらけ出した姿へと変わった。


 なれ果てた俺にディザは恐怖を感じている。精一杯の強がりか、悪態をつく。


「女神の力をこんなことに使うなんて。ここまでなれ果ててしまったら、人間にもモンスターにも受け入れられない。居場所なんてどこにも無くなる」


「あり方と一緒で、居場所は後から決めればいい。自分の気の持ちようでそれは変わる。そんなものを他人に委ねてたら、息苦しいだけだ。今はこの姿が『あり方』で『居場所』って感じかな?」


 この姿を見せまいとした俺は、十分あり方や居場所に怯えている。だが、勝利という大前提があれば、その怯えも消え失せた。何よりも負けてしまったら気分が悪い。

 自分の言葉は相手の気力を削ぐと思い込んでいた彼女は、俺の態度に腹を立てる。


「いいえ、あなたには最初から決まっている素敵な居場所があったわね……。それは、冷たく寂しい死の世界よッ!」


 冷気や火炎ではなく、自然界に存在しない力をディザは行使した。くろすけに近い負の感情のうねり。

 蛇のように俺を追い回し、床や天井を抉り、炎をも飲み込む。


 電力と影の力で強制的に筋肉を動かしている俺は、それを避けて飛び回るのも容易。わざと追い込まれるように逃げ回り、相手の気分を良くする。


「ふふふっ、バッカみたい。カッコつけて女の子逃したのに、そんな醜い姿になった挙句負けるなんて」


 邪悪なうねりが壁を登り、天井を這い回って建材を剥離させる。

 落ちてきた瓦礫の特に大きいものに向かって俺は飛び、それを足場にしてディザへ突っ込んだ。


 メイスを左手で持ち、分厚い魔法障壁をぶっ叩く。衝撃が床を広範囲に渡って砕き、窓は全て割れ、炎も俺を中心に一瞬遠ざかる。

 この武器をルファが使ったときもそれなりの威力だったが、俺が全力で使うと凄まじい威力を発揮した。


 それでも障壁は壊れなかったので、何度も何度も叩く。亀裂が広がってきたら、右腕の爪を突っ込んでほじくる。穴が空いていくのを見たディザは焦りを覚え、正面に二重三重の障壁を作った。

 それに加え、彼女は壁の内側から炎と氷にかまいたちを乱れ撃って、俺を引き剥がそうと藻掻く。

 その全ての痛みを耐え抜き、メイスを大きく振り上た。


「俺の一番の欲望は、勝って生き残ることッ!! そう簡単に負けるかッ!!」


 力一杯メイスを振り下ろすと、一番外側の障壁が割れ、ディザに困惑と畏怖が訪れる。渾身の一撃が生んだ衝撃は、俺自身の内臓をも傷つけてしまう。


 その一瞬で後ろに回り込み、メイスを置いてから両腕の爪を交差させ、ハサミのように構えた。

 防御を前に集中したディザは背中を疎かにしている。

 それに彼女が気づいたときにはもう遅い。細く色っぽい背中を中心にハサミを入れ、上下に分断した。


 全ての障壁と魔力の気配が消え、ディザはマネキンのように崩れ落ちる。いや、手応えがマネキンそのものだった。

 青い肉体の切断面からは黒い泥のようなものを垂れ流し、息も絶え絶えに笑って言う。


「あははっ、残念。これは私そっくりに作った操り人形。なかなか強いみたいだけど、遠くにいる本物の私よりは弱くて安心したわ」


 俺の殺した獲物は模造品。本物は俺を上回る強さだという。それがひたすらに悔しかった。

 そんな精神を逆撫でするように、ディザ人形は最後の高笑いをしてから動かなくなる。


 ボロの塊を眺めながら、俺は更に強くなることを誓う。

 取り込んだくろすけが抜けると立っているのすら辛く、力が抜けてしまった。


「やはり、ご主人に使役されて正解。改めてそう思いました」


「ああ、いくらでも戦いに使ってやるよ。でも、しばらく休むぞ。動けねえし、爪も引っ込まねえ。このメイスが汚れないよう、外に持って行ってくれ」


 かなり頑丈な作りをしているとはいえ、これから火事で崩れる場所に放置するのも心が痛む。それを持たせると、くろすけはすぅっと飛んで割れた窓から出ていく。


 俺は歩く気力も失っていて、今すぐにでもこの場で寝たい。それを分かっていた彼は、特に脱出を促そうともしなかった。


 ディザ人形の尻を枕に、崩れるように横になる。意外といい匂いがしたのが、ちょっと腹立たしい。

 燃える館のおかげで暖かく、ぐっすり眠れそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ