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女神殺しの銃槍士  作者: カブメント
3話 ポンコツハザード
13/43

3-4_おばけより怖いやつ

不気味な洋館を背景に、生成したアウトドアテーブルの上で簡単な煮込み料理を作った。


 まずは安価な長毛牛の干し肉を鍋の上で千切り落とし、少し表面に焼き目をつける。

 それから、タルコンウリという樽型の瓜のような外見で、癖の少ない大根に近い味わいの野菜を雑に切って鍋に入れる。


 タルコンウリに塩を振って火に掛けると大量の水が出てくるので、水を加える必要はない。

 そこにスープの味を調える、シソ科と思われるニクケシの葉を干して刻んだものを一摘み。これは肉の旨味を引き立て、ほのかに燻製の風味を与える。


 少し冷えるので、体温を上げる効果のあるラーヴァウムの真っ赤な葉っぱを浮かべた。見た目は辛そうだが、結構甘い。なので、飴やガムのような嗜好品としても使われる。


 干し肉屋のお姉さんに教わった組み合わせを試したが、とてもいい香りが漂っている。これは相当美味くなるぞ。


 完成を楽しみに待っていると、向かいに座っているシャルが携帯コンロを覗き込み、その瞳に火を灯した。


「ノギさんの世界の道具って便利ですね。魔法を使わなくても小さな火を維持できるなんて。魔力の気配もしないから、そういうのに敏感なモンスターも集まってこないですし」


「ん? これの燃料は、一応俺のMPから来てるはずだが」


 くろすけは俺をじっと見て、何かを探っている様子。


「うーん。スキルボードから切り離され、何か別の領域からエネルギーを取り出しているのかもしれませんね。スキルボードが存在する前から、別のエネルギーを使った魔法はあったので、それかもしれませんし。魔術や錬金術の場合、魔法使いには検知できないこともあります」


「お前ホント詳しいよな」


「複数人の集合体みたいなものですから、オレは。――ご主人の場合、錬金術が一番近いかもしれません。精神的なものを、ここまではっきりとした物体に書き出しているわけですから」


 錬金術と言われてもいまいちピンとこなかった。化学の基礎だったとか、そういう知識しかない。それを察してくろすけが簡単に教えてくれる。


「魔法は精神力から力を取り出し、魔術は集積回路のようなもので動作している数学的なもの。錬金術は――まぁ何でもありと思って下さい。使えるものは全て使って、欲しい結果を得る。欲深く卑しいご主人に相応しい領域の業です」


「お、撃ち足りなかったか?」


「嘘ですよ嘘! もう消滅寸前です! 錬金術は全ての上位互換! サイコーッ!」


 ルファはそんな中のんきに昼寝中。鼻提灯を浮かべていた。

 シートを引いただけの地面で、あれほど幸せそうな寝顔ができるのも珍しい。


 こうしている間、洋館から無数の視線を感じている。それに気付いているのは俺とくろすけだけ。


「で、お前は何を見ているんだ? すっごいやりにくいんだけど」


 隣に座るレンカは、俺の手元から片時も目を離さない。


「いえね、いつエッチな薬を混入させるのかと見張ってるんスよ。分量間違えたら大変っスから、ちゃんとストップって言わないと」


「俺も食うのに入れるわけねえだろっ!」


「なんだ……」


 露骨に落ち込んだ彼女は放置。

 完成した煮込みを、取っ手の付いた鉄の食器へ均等に分けていく。


「さ、できたぞ」


 こちらの食材は質がよく、塩を振って煮焼きすればだいたい美味く仕上がる。

 特に、長毛牛の干し肉は出汁として優秀な万能食材。その上位互換にペルグランデ・タウルスがあるのだが、少々高いので毎日は食えない。


 ルファの鼻提灯を指で割ると目を覚ましたので、シャルの隣に座らせる。


 スープを軽く一口。結構歩いたので、塩加減は少し濃い目にして正解だった。

 タルコンウリは水分を多く含んでいて、長期保存できるので水筒代わりにも使われるほど。しかし、強い旨味とほのかな甘味があるので、塩味が薄まりにくい性質がある。


 ニクケシの葉っぱは干し肉の燻製感を強め、旨味を引き出す。名前の由来は、「肉の臭みを消すから」や「肉が旨くなりすぎて、消えるようになくなるから」とも言われている。


 ラーヴァウムは体温の上昇のために入れたのだが、これまた肉と相性のいい甘み。始めての香りがする香辛料だが、とても好みだ。


 移動しながらの食事が多かった俺は、どうも食べるのが早い。

 一足先に平らげたので、狙撃銃を生成して洋館の窓を覗く。窓の数から察するに、三階建て。側面に回ってみると、かなり向こうまで建物が続いていて、その広さを伺える。


 よく見ると増築の形跡なんかがあり、ウィンチェスターハウスを彷彿とさせた。

 眼には見えないものの、やはり何かが潜んでいる。閉じているはずの窓のカーテンが揺れたり、窓がガタついたり。


 未知な部分も多いので俺一人で入った方がいい気もする。だが、近くで行動しないとポイントが加算されず、彼女達の報酬が減ってしまう。

 回復や囮でもそれなりに加算されるので、金が目的なら一緒に攻略するしかない。


全員の腹が落ち着いた頃を見計らって、いよいよ洋館に踏み込むときが来た。


 狙撃銃を消して、デザートイーグルを引き抜き、フォールディングナイフの位置を確認してから、分厚い木製のドアの前に立つ。

 この手の洋館にしてはかなり巨大で威圧感がある。今日一日で、隅々まで探索できないかもしれない。


 レバー型のドアノブに手を掛け、開けようとするがびくともしない。報告ではここから出入りが可能で、鍵は開放した状態で先駆者は立ち去ったという。

 何者かがわざわざ鍵をかけたとは考えにくく、実に心霊物件らしい展開だ。

 シャルに服の端を引っ張られ、振り返ると涙目になっていた。近づいたことで、何かを感じ取ったらしい。


「す、すごく嫌な感じがします……」


 彼女の言う通り、無数の悪意のようなものが蠢いている。しかしそれも、くろすけを構成する怨み辛みに比べたらたかが知れていた。


「大丈夫大丈夫。コイツに比べたら、雑魚みたいな悪意しか感じないから」


 まだ弱ったままのくろすけを影から出して見せ、説得材料にする。

 魔力の低い他の二人は感じ取れていない様子だが、俺達の会話でいよいよ肝が冷えてきたようだ。


「や、やっぱやめないっスか?」


「ぼくもお腹いっぱいで、なんか眠くなってきたし」


 彼女達に分かりやすく簡潔に言う。


「カネ手に入る。メシいっぱい食える。おーけー?」


 そう言われると、彼女達は冷や汗を滴らせながらも自信なさげに頷いた。

 それぞれの覚悟が少しでもあるうちに何とかドアを開けようとしたとき、内部からガラスの割れるような音がする。


「誰だ?」


 上品に開ける方法を探すのもじれったいし、怖がらせようとしているヤツが気に入らない。

 銃を一時ホルスターに戻して、フォールディングナイフを手早く展開する。それを逆手に持ち直して、ドアノブ周りを滅多打ちにして、くり抜いてやった。


 扉が開かないようにする機構は失われ、脚で蹴っ飛ばす。蝶番が女の悲鳴のように鳴き、扉はあっさり開く。


 広々としたエントランスは、見ただけで分かるほど高級な造り。昔やったゾンビゲームの洋館もこんな感じだった。

 昼間なのに薄暗く、蝋燭の明かりが必要とされるほど。無人の館でいつから灯っているのか知らないが、極太のそれはかなり溶け進んでいた。


 花瓶を置くためだけに設置したと思われる台座からはそれが落ちていて、枯れて茶色くなった草花と、陶器の破片が散らばっている。

 三人娘は硬直したまま、外でその様子をうかがっていた。


「くそっ、やっぱり見えないか。――そうだ、アレをやってみよう」


 サバイバル生活の最中、破壊能力の質を上げようと色々試している間に習得していた技。

 ナイフを左手に持ち替えてから、右拳に力を練り上げ、刃物のように鋭く、鈍器のように力強いものを集めていく。一定以上の力を貯めると、薄っすらと紫の炎のようなものが宿り、準備は完了だ。


 空気ではなく、空間を抉り取るイメージで拳を思い切り突き出す。

 集めたエネルギーは空間を走り、これが届く範囲の「何か」を物理領域に引きずり堕とす。


 俺の狙い通り、花瓶を叩き落とした犯人が目に見えるようになった。

 その中年の男は少し古い型の背広を着ていて、階段の上から見下ろしている。


「お前は何者だ」


 そう語りかけてしばらく待っても返事はなく、悪意を感じたのでさっさと消すことにする。

 再び拳に力を練り上げ、階段を駆け上がり、腹を全力で殴った。


「除霊ッ!!」


その男は一言も発することなく俺の力に砕かれ、完全消滅する。

 左拳の印から討伐履歴を開いてみるが何か加算されている様子はなく、それがモンスターではないことを物語っていた。


 こうも容易く滅することができるなら、とりあえずは安心だ。いつまでも固まっている彼女達を呼び寄せるため、大げさに手を降った。


「おーい、早く来いよぉ! ちゃんと幽霊も倒せるの確認したからぁ!」


 恐る恐る入ってくるが、三人はピッタリとくっついて団子になったままでいる。

 銃を抜き、左手に力を集めた状態にして探索を開始。すぐにリロードできるように、マガジンを二本生成してベルトに挟んでおく。


 マップは一定範囲内かつ視界に入る場所なら、自動的に書き記されていく魔法道具。一枚あれば、地図アプリのように機能するのでかなり便利だ。

 それを頼りに、順番に部屋を巡っていった。


 部屋に入るたび力を解き放ち、霊体を見つけたら射殺? していく。あまりに淡々としたその作業は彼女達の恐怖を取り除き、徐々に調子を取り戻していった。


「なんか、慣れたね」


 ルファは頭を掻きながらクローゼットを漁り、金目の物を探していく。


「ていうか、ノギの方が怖いっス」


 シャルはまだそわそわしていて周囲を気にしているが、最初の頃よりはマシだ。


 今までで見つけたのは真珠のネックレスのみ。恐らく本物で、上々の光沢。粒の大きさも揃っていたので価値はそれなりにあるはず。

 それをレンカが首にかけて見せてきたが、日本のよく出来たことわざの「豚に真珠」が脳裏をよぎっただけだった。豚にしては少々可愛すぎるが。


 この階は探索済みということもあり、お宝の数も少ない様子。

 早いところ次の部屋に行こうとしたとき、レンカがまじまじとベッドを見てから赤くなっていた。


「今しょうもないこと考えただろ」


「しょうもなくないっスよ! こんな場所に男女でいるなんて、間違いでも起こされたら大変っス。三人まとめて乙女のピンチっス」


 この脳みそピンクを放置していったら、いずれ洋館がピンクに染まって幽霊なんて出てこなくなりそうだ。


「こんな場所じゃそんな気も起きねえよ」


「そんなこと言って、本当はエッチなこと考えてるのはお見通しっス!」


 無視して部屋を出ようとした瞬間、くろすけが大声を出して飛び出してきた。そのせいで全員が驚く。


「ふっかぁぁつッ!! 急に強烈な劣情を感じたので、それを糧に一瞬で回復できました。ご主人、なんかエロいこと考えました?」


 せっかく誤魔化したのに、そういうことを考えていたのがバレてしまう。


「やーっぱエロいこと考えてるんじゃないっスかぁ! どうせ三人まとめて押し倒そうなんて思ってたんスよね?」


「いや、違う。お前がシャルとルファに襲われる展開って悪くないなとか考えただけで、俺は何もする気はなかった。でもどうやったらそういう展開に――」


「うわぁ!? それ以上言わなくていいっス! とんでもないコト聞いちゃったっスよもう!」


 開き直って内容を伝えたせいで、三人は幽霊以上に俺を怖がり始めた。廊下を進むときも妙な距離感がある。


「くろすけのせいで嫌われちゃったじゃねーか」


「勝手に性癖を晒したご主人のせいでしょ」


「だって友情が愛情に変わる瞬間の女の子同士っていいじゃん」


 弾丸のみを生成し、残弾が二発になっていたデザートイーグルのマガジンに指で押し込んでいく。

 今度こそ次の部屋に移ろうとしていると、シャルが漁っていた棚の上にあるランプに頭をぶつけ、落としてしまう。


「あいたっ!」


 しかし、ランプが床に到達することはなく、紐のようなものでぶら下がった状態になる。


「おっ、大丈夫か?」


 頭を抱える彼女の近くに行くと、その紐の正体に驚愕した。


「これは、電源コードじゃ……」


 ランプの中身を見てみると、オイル式に見せかけた電気式。

 急いで棚をどかすと、アメリカなんかでよく見る三つの穴が空いたコンセントが出てきた。それが、この建物は古い洋館に見せかけた、比較的新しいものだという可能性を生む。


 しかし年代なんて些細なもの。俺は今異世界にいるはずで、コンセントがあるなんておかしい。


 俺が見逃した雑貨を改めて見ていくと、生産国表示のある物はもれなく地球製。

 棚の中にあった鉛筆にはドイツ製の表記があり、万年筆はなんと日本製。ナイフは錆びていたが、BUCK社製のものまで見つかった。


 ここは、転生者の能力で生み出された建物。もしくは、何らかの理由で地球からまるごと漂流してきたとしか考えられない。


「なぁ、これ知ってるか?」


 コンセントを指差し、三人に語りかける。それにはルファが答えた。


「これと機械を作れる兄弟転生者がよく売り込んでるね。明かりを灯す機械とか、お湯を沸かす機械は結構人気だよ。どこにでもこの穴を設置できて、無限に電気の力が使えるとか。でも、ちょっと形が違うかな?」


 それを聞いて、俺は扇風機を生成する。三つの穴があるが、一応日本の二穴タイプのプラグも使えたはず。どうせ壊れないし変圧器も不要だ。


 それをコンセントに繋いで電源を入れるが、うんともすんとも言わなかった。他の家電で試しても動かなかったので、これはその転生者が作ったものではない。


 謎は深まるばかり。考えてもどうしようもなく、ギルドや転生者コミュニティで聞くしかなかった。


 それ以降目ぼしいものは見つからず、一際大きな扉の前までたどり着く。この先はマップが作成されていないので、完全に未知のエリア。


 扉を開けようと手を触れるが、強烈なプレッシャーに身を貫かれた。この先に他とは格が違う何かが居る。


 三人に扉から離れた場所で待つように小声で言い、ノブに脚を引っ掛け、そのまま蹴り開ける。

 銃を構えながら飛び込む。扉の先には黒く禍々しい竜と、それを慈しむように撫でる青い肌の女が居た。

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