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女神殺しの銃槍士  作者: カブメント
3話 ポンコツハザード
12/43

3-3_モンスターより危険なポンコツ

 四人パーティーを結成し、正式にクエストを受注する。


 コンテナに必要な物資を詰め込み、デザートイーグルをホルスターでぶら下げて、ポケットにはフォールディングナイフを忍ばせた。

 長いこと歩くので、常備するのは最低限の武器で十分。必要になってから生成すればいい。


 荷物の中には、転生者の店で仕立ててもらった服があるので、これからは破れても大丈夫だ。

 こちらの世界の服は軽いものは触り心地が悪く、逆に触り心地が良いものは重く普段着には向かない。いい部分両方を満たした服は妙に値が張る。

 なので、転生者が持ち込んだ地球の技術で作られた、軽くてきめ細やかな安い生地の服が一番。もちろん、それなりに頑丈だ。


 いよいよ俺も、女の子に頼られて冒険に出ると思うと慨深さはあったが、そんなものは一瞬でぶっ飛ぶ。

 なぜなら、彼女達は鮮烈で苛烈なポンコツだったからだ。


 俺を先頭に他の三人は後ろで扇形に広がって、森の細道を進んでいたときのこと。


「あ、ドリュアスベビー! 触手がなんかエロいんで気をつけるっス!」


「それしか頭にないのかお前は」


 レンカに文句を垂れつつ、銃を引き抜いて、蕾から触手を生やしたモンスターへ銃口を向けた。


「うぉぉぉ! わたしの華麗なる弓さばきっ! 当たったら痛いっスよぉ」


 彼女が弓を引くと光の矢が生成される。彼女の持つ武器は魔法弓で、物理的な矢を必要としない。

 他の二人が持つ武器も一応伝説的なものらしい。


(ん? 待てよ。コイツ、俺の真後ろから弓引いてねえか?)


 振り返ろうとしたときには遅く、目をぎゅっと瞑ったまま弓を引いた彼女は、その指先から力を抜いた。


「ぎゃぁぁぁぁ!!」


 みぞおちからコンニチワする、聖なる光の矢尻。

 浄化されつつある俺の肉体は熱さに悶え、くろすけも苦しんでいた。


「ふへへ……せやぁっ!」


 今度はシャルの丸メガネがギラリと光り、杖は太陽のごとく赤熱し、熱線を解き放つ。

 もちろん、それは俺だけに当たった。

 魔法を放つ瞬間の彼女は、打って変わって不敵な笑みを浮かべている。


「やめっ、蒸発するッ! 熱すぎて冷たいやつだこれ!」


「わっ! ごめんなさいっ!」


 彼女は、はっとして正気に戻り、攻撃を中止。熱線からは開放されたものの、魔力の矢は突き刺さったままだ。


 まだ何もしていないのが一人。嫌な予感が――。


「えぇーい!」


 大きくメイスを振りかぶったルファは、やはり強く目を閉じている。そして、鉄の塊を悶え苦しむ俺の脳天に見事命中させた。ゴーレムに殴られたときより、芯に効く感じ。

 衝撃が俺を抜け、地面を少しくぼませる。一見物理攻撃だが、魔力が作用しているらしい。


「ウゴッ!」


「あぁっ! またやっちゃった!」


 今「また」と彼女は言った。もしかしなくても、これが原因でパーティーを組むのを敬遠されているのは明確だ。


 あまりに凄惨な状況に、ドリュアスベビーは恐れをなして逃げてしまう。


「お、お前ら……攻撃するときはちゃんと相手見ろ……」


「そうは言われても、このディーロウ扱うの怖いんスよぉ。目の前がバリバリーって。あぁ、抜かないと継続ダメージで大変なことになるっス」


 いつの間にかくろすけは俺を抜け出し、傍観者になっている。それでも精神的に繋がってはいるので、いくらかダメージを受けているようだ。


「ご主人、早く抜かないと最悪死にますよ。オレを取り込んで邪悪なものに染まりつつあるんですから、その矢は危険です」


 フォールディングナイフをポケットに入れておいて正解だった。サムスタッドをポケットの縁に引っ掛け、刃を展開する。

 そして、必要以上に痛まないよう、勢いよく光の矢を叩き切った。


 エネルギー体という不確かな存在は、俺の能力で物理的な領域で処理できるようになる。形状を捻じ曲げられたそれは徐々に力が弱まり、手で引っこ抜ける棒へと変化していた。


「いっつつつ!」


 魔力の矢のくせに、かえしと矢羽のようなものまであるのが厄介だ。矢羽が身体に食い込まないよう、後部へ引き抜いて投げ捨てた。


「不死身でよかったっス。わたし達、へたっぴすぎて耐久力が低い人と組めなくて」


「まず練習しろ。今すぐに。ここで」


 シャルが駆け寄り、俺に回復魔法を掛ける。霧状のそれを吸い込むと痛みが引き、それが傷口に集まると一瞬で閉じてしまった。


「あぅぅ。ごめんなさい」


「もしかして、戦闘中に性格変わるタイプ?」


「は、はいぃ。攻撃魔法を使うとき、なぜかああいうことに……」


 あまりにも落ち込むので、これ以上怒ることもできない。精一杯優しい声で、慰める。


「まぁそれならしょうがないな。魔法使うときに言ってくれれば勝手に避けるから」


「はい……」


 レンカが頬袋を膨らませつつ、文句を言ってきた。


「なーんかわたしと扱い違わないっスか? はっ、まさか! もうシャルとはデキてるから優しく接するように――」


「お前がそういうやつだから扱い変えてんだよ」


 ルファは腕組みをしてうんうん首を立てに振り、識者のような口ぶりで言う。


「そうそう。もっと落ち着くべきだよ。ぼくと違ってスタイルいいんだし、大人しくしてれば男の子はほっとかないよ?」


「思いっきりぶん殴っといて、常識人ポジションになろうとするな」


「わぁ、バレた。ごめんよ、ぼくもこの武器を扱うのは怖くて」


 言っちゃ悪いが、彼女達の実力に見合わない武器だ。俺にも分かるほど強力な力を秘めている。

 それこそ、女神製の武器に匹敵する何かを。


「その武器売っぱらって、もうちょっと使いやすいの買ったらどうだ?」


 どうもそれが失言だったらしく、それぞれは武器を抱き締めてそれを拒否した。


「これは、これだけはダメっス! 大事な人から預かったものだから……」


 その声には、脳天気なレンカからは想像できない神妙さが含まれていた。

 それに続いて、二人も言葉を絞り出す。


「私達と【ミソラ】お姉ちゃんとの思い出の品なんです。これを扱えるようになったら、また会いに来てくれるかなって……」


「得意な武器じゃないけど、ぼく達の宝物なんだ」


 彼女達の話を聞いてみると、俺と同じような転生者を姉のように慕っていたらしい。しかし、とある夜を境に姿を消してしまった。

 彼女が武器や生活費と一緒に残した手紙には「また会おうね」とだけ書かれていたという。


「売っぱらうなんて言って悪かった。――そういうことなら、さっさと練習始めるぞ。このまんまじゃクエストもこなせないしな」


 どうもこの手の話には弱かったらしい。この身を的にし、精神的な部分から伝えていくのだが――。

 ポンコツはポンコツ。狙った途端俺に攻撃が当たらない。

 どう教えてもルファとレンカは怖がって目を瞑るし、シャルは変な高笑いをしながら熱線魔法を放つ。


「おい、全部変な所に飛んでってるぞ。この一帯の環境変わり始めてるぞ。魔法は容赦なく顔面に当たってるけど」


 光の矢はあさっての方に飛んで木をなぎ倒し、メイスの一撃は周囲の地面を抉った。

 シャルは崩れた笑みを浮かべ、次の魔法を繰り出す。火球と氷球と電球を順番に撃ち出し、確実に顔面へ命中させてくる。

 一通り撃ち終えると、彼女は頬を紅潮させ、なんだか気持ちよさそう。


「だから目開けないと狙えないって言ってるだろ」


「やっぱ怖いっス! そんなふうに睨まれてたら余計狙えないぃ!」


「モンスターはどいつもこいつも殺意剥き出しだ。それに向けて弓を引けるようにならなきゃ、何も始まらない」


 それからも環境破壊が続き、メイスが偶然俺の脛にぶち当たったところで訓練を終えた。というか、激痛で俺がのたうち回って強制終了。


「うん。十年くらい練習すればなんとかなるんじゃないか?」


「手厳しいっスね」


「ぼくはそれでもどんとこいだよ」


 一人だけポンコツの症状が違うので、シャルは少し困った様子だ。


「シャルの攻撃自体は当たってたし、理性をどうにかすればいいだけ素質があると思う」


「ほ、本当ですか?」


「ド素人の俺が言っても説得力ないと思うけど、魔法の質はかなりいい。なんというか、エネルギーのロスがなくて、下級魔法でも結構痛かった」


 小さな彼女に目線を合わせ、俺の自信を少しでも分け与えるように振る舞う。

 それを見たレンカは俺の背中をつっつき、ニヤついた。


「んー? やっぱ二人ってデキてるんじゃないっスかぁ?」


「うっせぇ、俺がそう簡単に好かれるわけないだろ! ……なんか言ってて悲しくなってきたじゃねーか!」


 彼女達にとっての俺は、都合のいい協力者。変に下心を向けられるのも嫌だろう。


「勝手に落ち込んでキレないで下さいっスよぉ。世界中を探せば物好きはいるもんスよ」


 ルファは頭の後ろで手を組み、爽やかに微笑んで言う。


「その物好きにろくなのはいないけどね」


 ついでに、くろすけも毒を吐いた。


「ご主人、性根が腐ってますし。上っ面の振る舞いは上手でも、内心は料理下手が作った闇鍋のようですから。すぐにボロが出て人が離れていくんでしょうね」


「よかったなくろすけ。お前は、その腐った性根を存分に味わえるんだから」


 今日はナイフの気分。一度は仕舞ったそれを再び取り出す。

 手首のスナップを利かせて刃を出し、くろすけを制御下に置いて拘束した。


「ご、ご主人!? オレを殺したら、不便になるだけですよ? 考え直しましょうよ!」


 と、見せかけて油性マジックセットを生成する。


「俺って結構絵心あるんだよねぇ」


 くろすけの影の腹をキャンバスに、幼稚園児の女の子が描くような可愛らしい花を大きく描き込んでいった。


「うぅぅぅ。オレの腹にこんな可愛らしい絵を描くなんて、やはり外道……!」


 くろすけは影の存在。それに明るさや暖かさの象徴である花を描くことは、最高の苦痛となるのだ。


「オバケをいじめる人なんて始めて見るっス」


「ぼくもだよ」


 練習は後回しにして、館へと再び足を進める。今度は誤射されないよう、俺が最後尾を歩いた。

 しばらく進むとシャルが歩く速度を緩め、俺が二人から距離を取るように袖を引っ張って誘導する。


「どうした?」


「あの、私達の練習に付き合ってくれてありがとうございます。えと、あなたは優しくて素敵な人だから、さっきみたいに自分を悪く言わないで下さい」


「え、お、おう」


 そう言うと、二人の方へ逃げるように走っていった。


「お、ご主人照れてますねぇ。女の子に褒めてもらえるなんて人生初ですか? 気を遣って言っただけなんですから、惚れちゃダメですよ?」


「知ってる」


 とりあえずストレスを感じたので、デザートイーグルの弾丸をすべて影野郎にぶち込んで発散。一応、死なない程度にしておいた。


「何か出たんスかぁ!?」


先を歩くレンカが振り返って聞いてきたので、それに答える。


「気にするな! 質の悪いモンスターがいたけど、もう始末した!」


 そんなこんなしているうちに、俺達は巨大な洋館の前まで辿り着いた。

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