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魔王は勇者の心を虜にする。  作者: mayme
1、魔王と勇者
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ナーガと内緒の時間

 塔の窓から見えるのは、日中も太陽が上がらない薄気味悪い紫色の空に真っ黒い雲。外はカラスが不気味にうろちょろと飛んだり餌を探していた。いくら毎日掃除しても、床には枯れ葉が舞い散っているし、塔は広いのでいつまで経っても掃除しきれない。ナーガは午後の休憩中、テーブルで本を読んでいた。


 窓の隙間から一匹の蝙蝠が飛んできて、ナーガに耳打ちをする。久しぶりに「敵」がやってくるようだ……と。ナーガはティーポットからカップに紅茶を注ぎ、ゆっくりと呑んだ。



 ガタガタと塔が少し揺れ、書物が棚から落ちる。ナーガは急いで部屋から出て、階段の隅の方で頭をかばいその場に小さく縮こまった。揺れが収まると胸を撫で下ろす。するとなにやら、人の話声が聞こえてくる。二階から一階を見下ろすが誰もいなかった。


 ナーガの姿を見つけた魔獣は慌てて駆け寄る。


「敵です! 敵が塔のすぐ外にいます!


 手強い敵かもしれません。先に、私達が出ますから、隠れていて下さい!」



 ーー目の前の世界が本当の世界だと思うーー……?


 ナーガは300年前に姿を消した魔王様の肖像画に手をあて、身を寄せた。反対の手は怖くてずっと硬く握りしめている。



 ーー目をつむって手に触れたものが本物だなんて思わない。私は本物を探しているのーー……。


 めったに開かない塔の中央の重いドアがゆっくりと開き、二人と一匹の鳥が中に入ってくる。


「すぐ捕らえます!」


 真っ黒いローブを着た魔獣達が頭上から、今か今かとチャンスを狙っていた。


 先に入ってきた男はその姿服装身なりから、敵に見えるけれども……もう一人の女の子はーー……。


「まって……」


 漆黒の髪に、上下黒い衣装、その色は心臓から配給される闇属性の魔力(けつえき)の強さを現していた。黒い衣装を着れるのは、闇属性である、私達闇獣もそうだけれど、どこかしら混沌とした不純物(いろ)が混ざっているのだ。


「あれは魔王様だわ……。魔王様が帰ってきてくださったのだわーー……!!」


 ナーガは目をつむり、少女の声に耳をすませた。


 ーーやっと本物を見つけたーー……。


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