ナーガと内緒の時間
塔の窓から見えるのは、日中も太陽が上がらない薄気味悪い紫色の空に真っ黒い雲。外はカラスが不気味にうろちょろと飛んだり餌を探していた。いくら毎日掃除しても、床には枯れ葉が舞い散っているし、塔は広いのでいつまで経っても掃除しきれない。ナーガは午後の休憩中、テーブルで本を読んでいた。
窓の隙間から一匹の蝙蝠が飛んできて、ナーガに耳打ちをする。久しぶりに「敵」がやってくるようだ……と。ナーガはティーポットからカップに紅茶を注ぎ、ゆっくりと呑んだ。
ガタガタと塔が少し揺れ、書物が棚から落ちる。ナーガは急いで部屋から出て、階段の隅の方で頭をかばいその場に小さく縮こまった。揺れが収まると胸を撫で下ろす。するとなにやら、人の話声が聞こえてくる。二階から一階を見下ろすが誰もいなかった。
ナーガの姿を見つけた魔獣は慌てて駆け寄る。
「敵です! 敵が塔のすぐ外にいます!
手強い敵かもしれません。先に、私達が出ますから、隠れていて下さい!」
ーー目の前の世界が本当の世界だと思うーー……?
ナーガは300年前に姿を消した魔王様の肖像画に手をあて、身を寄せた。反対の手は怖くてずっと硬く握りしめている。
ーー目をつむって手に触れたものが本物だなんて思わない。私は本物を探しているのーー……。
めったに開かない塔の中央の重いドアがゆっくりと開き、二人と一匹の鳥が中に入ってくる。
「すぐ捕らえます!」
真っ黒いローブを着た魔獣達が頭上から、今か今かとチャンスを狙っていた。
先に入ってきた男はその姿服装身なりから、敵に見えるけれども……もう一人の女の子はーー……。
「まって……」
漆黒の髪に、上下黒い衣装、その色は心臓から配給される闇属性の魔力の強さを現していた。黒い衣装を着れるのは、闇属性である、私達闇獣もそうだけれど、どこかしら混沌とした不純物が混ざっているのだ。
「あれは魔王様だわ……。魔王様が帰ってきてくださったのだわーー……!!」
ナーガは目をつむり、少女の声に耳をすませた。
ーーやっと本物を見つけたーー……。