凛と内緒の時間
夕食を済ませた凛はナーガに塔の中を案内される。
「一階が玄関、最初に入ったお部屋(左)が靴収納部屋ですね。右はキッチンへと繋がっています。客間、キッチン、冷蔵室等。奥の部屋がお食事の広間です」
一階中央の階段を上ると階段の真ん中の壁には歴代の魔王様の肖像画が飾ってあった。
(確かに魔王らしい風格の方もいるけど……この人なんてとても綺麗な……私と同じ人間にも見えるわ……)
「右奥は書庫。左は客室。食事をする広間とは違って大事なお客様をもてなすお部屋です。その奥には脱衣場に大浴場」
両脇の階段を上って三階に上がる。二階とは違って個別の部屋が並んでいた。
「この可愛らしいドアのお部屋はなに?」
一番奥に他の部屋とは装飾が違う、一つだけ特別なお部屋があった。
「魔王様、こちらが魔王様のお部屋です」
凛が両手でドアを開けると、学校の教室くらいある広い空間が目の前に広がる。真ん中にテーブルと奥には天蓋付のベッドが置いてある。フリルが沢山ついてある枕と毛布、ベッドの隅にはクマのぬいぐるみか置いてあった。
「広すぎて落ち着かないよ……」
ベッドに腰を下ろす。クローゼットを開けると、ふわふわもこもこのパジャマから総レースのワンピースまで揃っている。家具や衣類、小物、どれも黒ばかりだった。
「魔王様、もうお休みになられますか?」
凛は、窓に手をあて、遠くの空を見つめる。木が生い茂った不気味な森に天候が荒れるのか黒い雲がうねっている。紅い月が流れる雲の隙間から見え隠れしていた。包帯が巻かれた手の甲を見つめる。
(私は夢でも見ているのかしら)
「そうですわ。魔王様、まだご案内していないお部屋がありましたわ!」
ナーガは人差し指を立て、自分の頬に人差し指をあてる。ふと思い出したかのように、そのまま凛の側に寄って頬にあてた人差し指を口元に移し、内緒話をするようにそっと呟いた。
「このお部屋を出て突き当たりのお部屋は、レイヴン様のお部屋ですわ。レイヴン様は昼間の件でとてもお疲れのようで、ご夕食を取らないでお部屋に戻られました。今は、もしかしたらお部屋でのんびり過ごしていらっしゃるかもしれませんし……」
ベットの一番上にかけてある、ふわふわのブランケットを一枚とって、凛の姿を隠すように頭からふわりとかぶせた。
「……お休みになる前のお散歩は一時間だけですよ?」
ナーガは、にっこりと凛に微笑んだ。