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魔王は勇者の心を虜にする。  作者: mayme
1、魔王と勇者
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魔王と勇者の遊戯

 

 勇者(レイヴン)の後ろを水が滴る制服の裾を持ちながら、凛は付いて行った。重い錆びれた鉄の門を手で押すと、二人と一羽は魔王がいる塔の正面のドアを開ける。

 物騒なことに、ドアには鍵もかかっていなく、それは容易く開いてしまった。


「勇者様こんなに、簡単に開いてしまうなんて、何かの罠かもしれませんよ? 例えば、床がいきなり落ちたり……」


 床を見てみると綺麗な紅色の赤い絨毯が引かれている。勇者が足をそろっと踏み入れても、指先で押しても床が抜けることはなかった。

 勇者がコックルを不安そうな目で見つめる。


「ドアがいきなり閉まって、もう来た道を引き返せない……! とかね!?」


 水で濡れた制服重かったので、凛は先程のドアを開け、スカートの裾を絞った。もちろん、ローファーもずぶ濡れなので、手に持って素足で歩く。 


「おい! 大瀬凛! そんな素足でペタペタと……!! 下からトゲが出てきたらどうするつもりだ……! 足は裂け、骨まで粉々に砕け散るぞ……!?」


 凛は慌ててコックルのくちばしをふさいだ。

 勇者は腕を組むと、コックルを上から見下し鋭い眼孔で睨み付けた。


「だって、コッコちゃん? このお城は不気味な魔王の塔というよりーー……」


 凛は奥の部屋に何かを見つけたらしく、足取りを軽くして、明かりのついた部屋まで足早に歩く。


「罠だーー!!!」


 コックルは顔を真っ青にして、凛に抱かれながら悲鳴をあげた。凛は叫ぶコックルを胸に押さえつけ、ドアの前で立ち止まる待と、軽く三回ノックをしてから部屋の中に入って行った。


 そこには、綺麗に陳列された沢山の靴と、クローゼットにはレースがこれでもかとばかりに盛られているドレスが置いてあった。


「やっぱり……!! お姫様のお城だわ……!」


 凛は見たこともない細やかなレースのドレスに目を輝かせる。まるで、高級なブランド店に入ったかのような品揃えに胸がどきどきした。


「……でも、どうして黒いドレスに黒い靴しか色がないのかしら……?」


 黒いワンピースに、黒いドレス。天井高く積まれた箱を開けても、黒のパンプスに黒のミュール……黒いヘッドドレスにカチューシャ。どれも黒ばかりだ。


 凛は背丈にあった一枚のワンピースを手に持つとそれを鏡の前で合わせる。

 黒だが細かいチェックの模様で胸元もそんなに強調されてなく、背中には小さなリボンが着いていたので、とても気に入りこれを借りることにした。

 タンスの中から黒いレースのタイツと靴箱から一番シンプルな靴を選ぶ。ずぶ濡れだったので、黒いリボンで髪を結んだ。


 それを唖然としながら傍観していたコックルに気がつく。


 カタカタと震えるコックルの首にリボンの蝶ネクタイをつけようとしたが、触れようとしても静電気が走って全く触れることが出来ない。


 ドアを叩く音が聞こえる。廊下で大人しく待っていた勇者は、凛の姿に驚いていた。


「レイヴンさん、コートを貸してくれてありがとうございます」


 そこには漆黒の衣装に身を(まと)い微笑む凛の姿があった。



「凛、黒の衣装はね。この世界では()()()()()唯一許された色なのだよ。低俗な人間には手に持つことも、着ること出来ない。触れただけで皮膚がただれしまうからね」


 勇者(レイヴン)は腰から短剣を取りだし、凛に向ける。


「俺が倒すべき人は、凛。凛がこの世界の()()だったようだ」


 凛は驚いて、向けられている剣を避けて、壁へと逃げ込んだ。


「違う、()()だなんて、何かの間違いです。だって私は()()()()()()()()()()()のですもの。いきなり、魔王だったと言われたって、そんなはず ない……!」


()()()()()()()()()()()だと…?」


 凛の着ているワンピースがレイヴンの素早い剣 (さば)きで裂けてしまう。摩れた腕にいくつもの傷ができ、一番深い手の甲から真っ赤な血が流れる。



「魔王様の血の匂いがする……」


 レイヴンはどこからか現れた黒い手に口を塞がれた。


「魔王様を傷つけたか……勇者よ。新しい魔王様がお見栄になられ、人間と戯れていると思い大人しく見守っていたが、傷つけてはもう許せん……」


 その血の匂いを嗅いだ野獣たちがどこからともなく集まってきた。凛の腕からはどんどん血が溢れてくる。


「遊びは終わりだ……八つ裂きにしてくれよう……」


 野獣が手から黒い影を出すと、それらは勇者の身動きを仕留める。口から勇者の体内に入り息も出来ぬほど苦しめた。


「だめ……! 待って……!」


 凛が叫ぶと、黒い霧は一気に晴れる。

 勇者は琥珀色の髪色とエメラルドの瞳を失い、だんだんと体が黒く侵食されていくのがわかった。それと同時にそばにいたコックルの羽も一枚一枚黒色に変わる。


「残念なことに色を失ってしまっては、もう二度と今までのような力は使えません」


 野獣たちが横たわる勇者を囲んだ。


「レイヴンさん……! レイヴンさん……!」


「魔王様に血の一滴まで捧げるのです。

 それが魔王様に傷をつけた罪」



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