勇者vs闇騎士
鋭く磨き研がれた刃が迷いもなく勇者の顔の真横を突き抜ける。ドアの向こうから勢いよく投げられた刃は確実に勇者の顔を狙っていた。反射的に避けたのだろう。短剣は勇者が立っている壁に真っ直ぐに突き刺さった。
「ちっ……」
凛の立つ後ろで誰かが舌打ちをしたような気がする。
凛はびっくりして後ろを振り向こうとすると、後ろで舌打ちをした本人が苛立ちながらツカツカとこちらへ歩いてきた。
「怖え~〜……」
勇者は降参とばかりに両手のひらをこちらに向ける。
「悪い、ちょっと魔王が予想以上に可愛いかったから悪戯をしただけ! 他は何もしていない! 以上!! 退散!!!!」
勇者は目の前に現れたレイヴンの姿を見て後退りする。しかし、レイヴンは凛の頬の傷、破れた洋服を見るとさらに腹を立てて、自身の鋭い爪で勇者の顔を引っ裂こうとした。
「だ、だめ……!」
その様子を後ろで見ていた凛が止めに入る。レイヴンの背中から大きなぬいぐるみを抱き締めるように、体全体で抱きつく。
「レイヴンさん! もうやめてあげて。それより早く火を消さないと、火が燃え広がっちゃう……!」
レイヴンはとても不満げな顔をしていたが、凛が全然離そうとしないので、仕方なく勇者の両手をそこらへんにあるロープで縛り、凛に見られないように肉球で静かにタコ殴りにした後、逃げられないように地下の牢屋に閉じ込めた。
敵がいなくなって安全に塔の外に出られることを確認した、ナーガが魔獣たちを引き連れ、外に避難する。
凛が火の手が酷い一階の玄関の前まで行くとキッチンの水道からホースを繋ぎ火を消そうとするが炎が強く全然歯が立たない。その炎は中央階段の肖像画まで焼きつきそうになっていた。
「魔王様……!」
煙が酷く充満している中、ナーガが走って魔王様の肖像画を取りに行く。
「ナーガ……!」
ナーガは何とかして肖像画を壁から取り外そうとしていた。
しかし、煙を吸ってしまったのか意識がなくなりその場に倒れた。凛はナーガの体を担ぎ上げ階段を降りようとしていた。しかし、凛もまた煙に負け、二人は力尽きた……。
「凛……!」
大きな手が軽々と自分たちの体を持ち上げ外に運ばれているのがわかる。
先程傷つけられた頬の傷を指でそっと触られる。
「……すまない、悪いが魔獣たちも、手伝ってくれないかーー……?」
意識が遠退く間、微かに黒い人影が何かに深々と頭を下げているのが分かった。
ゆっくりとそれは確実に。魔獣たちが自身の技を使い、冷たい冷気と冷たい水が塔全体を包み込み静かに炎が鎮火していくようだったーー……。




